憤怒を持てなかったXについて   作:藤猫

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荷物を整理してたらUSBを見つけて発掘した話を整えたものになります。懐かしい。


憤怒と傲慢の日々

その少女は肥溜めに等しいような場所で生まれた。

女は身を売り、男は奪うことを是とした、言ってしまえば早い話糞のような場所だった。

そんなところに、少女は生まれた。

真っ黒な髪に、真っ赤な瞳。目つきが鋭すぎることを除けばまるで宝石のように美しい見目の子どもだった。

だからと言って、少女が幸福であったかと言われれば違う。

場末の娼婦であった彼女の母は生活に疲れ切り、少女を厭うた。周りの人間は、その見目に価値を見出し、商品として扱おうとすいたるものも。

少女にとって幸運であったのは、彼女自身が賢しく、そうして逃げ回れるだけの頑丈な体を持っていたことだろう。

少女は人の悪意と、醜さを見続けた。

けれど、少女は、何の皮肉なのだろう。

少女は、当たり前のような善性を持っていた。

 

母を愛していた。自分を見れば、罵るか、それともひどく胡乱な目ぐらいしかしてくれない。家にだってほとんどいない。自分の名前さえも呼ぶことも無い。

それでも、子として保護者に愛されたいという本能であったのか、それとも純粋に自分の親であるそれを慕っていたのか。

疎まれても、無視されても、それでもなお、少女は母を愛していた。

それ故に、良い子であろうとした。

母を煩わせぬように、少しでも家を掃除して、食事を作る真似事をした。

いつか、望まれた子どもであれば、母は自分を愛してくれると信じていた。

 

全ての転機は、少女が人さらいから逃げることに失敗したことだった。

殴られた、押さえつけられた。

幾ら賢しい少女でも、大人に押さえつけられることは恐怖であった。

母を呼んだ、助けを呼んだ。

それでも、誰も助けには来てくれない。

いやだ、気持ち悪い、怖い、助けて。

 

・・・・・私に、触れるな!!

 

恐怖が積もり積もった果てに吹き上がったのは、防衛本能のような怒りだった。

吹き上がって来る、炎のような怒り。

自分に触れて来るそれ、理不尽への怒り。

そうして、どこからか、ごおおと、炎の音がした。

視界が、赤く染まる。何かが焦げた匂いと、不快ではない熱。

そうして、自分を押さえつけていた大人の絶叫。

燃えていた。その大人は、まるで地獄の業火にでも焼かれるように燃えていた。

大人の下から這い出し、そうして逃げ出す。

 

(・・・・私だ。)

 

自分を助けた、自分を燃やさなかった炎。

それは確かに自分の手からあふれ出していた。

 

 

飛び込むように少女は自分の家に入った。

ばくばくとなる胸を抱えて、理解の出来ない自分の炎に怯えた。

分からない、それゆえに恐ろしかった。初めて、慣れ親しんだ己の体に未知を感じた。

そうして、少女は家の中に気配を感じる。

彼女はそれに走り出した。

 

「お母さん!」

 

恐怖におびえた彼女は、くすみ、汚れた母に飛びついた。母親は彼女のことを疎ましそうに視線を投げ、振り払おうと手を上げた。

それよりも早く、少女は叫ぶ。

 

「炎が、手から炎が出て。私の手から、それで、人が焼けたの!!」

 

絶叫に等しい少女の声に、母親の体が固まる。少女は自分の異常さに気づいてほしいと、母親から離れて、自分の手を捧げた。

こおおおと、彼女の手から熱と光が溢れる。

母の眼の色が、変わった。

母親は歓喜に満ちた表情で、少女を目いっぱいに抱きしめた。

 

「ああ、あなたはボンゴレ九代目の子よ!」

 

その言葉の意味は分からなかった。それよりも、この手から溢れ出た炎が何かを知りたかった。

けれど、それ以上に自分がようやく母に望まれた子になれたことが嬉しかったのだ。

 

 

 

 

「・・・・ちっ。」

銀髪の少年が道を歩く。

校舎の中を歩き続けているが、目当ての人間が全くと言っていいほど見つからない。

銀の髪に、銀の瞳。鋭利な容姿をした少年に近寄ろうとする者はいない。

銀の瞳は、まるで炎の様に揺らめき、それと同時に剣のように鋭く輝いている。

「あそこか・・・」

少年は、最後に目星をつけていた場所に向けて荒々しい足音を立てて向かった。

着いた先は、校舎の中でも端にある、滅多に読まれない本が置かれた第二書庫だ。銀髪の少年は、鍵のかかっているはずの扉に手をかける。

ドアノブを、回し、癖の付いた扉を押し上げるように開けばもう壊れかけているらしいそれはあっさりと開かれる。

「う゛お゛お゛お゛お゛お゛い!ザンザス!」

扉が開かれた先、ぎっちりと本棚が詰め込まれた狭い部屋には申し訳程度の机と椅子が二脚置かれていた。そこには、金髪の情けない表情をした少年と、黒い髪の少女がいた。

大声を上げた存在に、二人は驚いた顔で扉の方を向く。そうして、入ってきたのが馴染み深いそれだと知って、黒髪の少女は穏やかに微笑んだ。

「ああ、スクアーロか。どうかしたのかい?」

ザンザスと呼ばれた彼女は、そういって銀髪の少年、スペルビ・スクアーロにのんびりと微笑んだ。

 

 

静まり返った書庫の中で、カリカリと何かを書きつける音と、ひそひそとした少女と少年の声だけが響いている。

スクアーロは不機嫌そうに顔をしかめて目の前の光景を睨み付けた。

そこには、狭い書庫に置かれた、これまた小さな机に身を寄せ合っている少年少女がいた。

少年は淡い金髪の人目を引く美少年だった。ただ、その容姿の良さに反して浮かべる表情は非常に情けない。鼻水やら涙やらと、それこそ顔から出せるものの殆どが流れている。少年は、それこそ目の前の課題を必死に解いていた。

少年の名前はディーノ。こんなにも情けない顔をしているが、かの有名なキャバッローネファミリーの十代目に当たるのだから世も末なのかもしれないとスクアーロは軽くため息を吐いた。

そうして、彼は忌々しいと顔に書いてあるようなそれで次に少女を見た。

少年へ課題について教えてやってるらしい少女の名は、ザンザス。忌々しいことに、今のところはスクアーロの雇い主に当たる存在だった。

真っ黒な髪は背中程度まで伸ばされており、緩くまとめられている。真っ白な肌に、少々鋭い印象を受ける怜悧な顔立ちをしていた。そうして、何よりも印象的なのは、その瞳だろう。切れ長の、血のような、ルビーのような、紅い瞳はまるでいっそのこと悪魔のような色合いではないか。

けれど、そんなまがまがしい印象を受ける容姿全てが、彼女の浮かべるのんびりとした笑みによって消し去られている。

薄く笑みをたたえた口元だとか、緩く下がった目元だとか。全てが、まるで陽だまりのような微笑みによって少女のマフィアとしての寒々しさが消えてしまっている。

彼女が、いつかはボスになるはずのボンゴレでは父親にそっくりだと評判だった。けれど、スクアーロは、そんな善性の塊のような笑みを浮かべる彼女が嫌いだった。

 

「う゛う゛う゛う゛!ごめんなあ、ザンザス。リボーンの課題、手伝ってもらって。」

「うーん。別にいいよ。リボーンの課題って的確で私も復習になるから。」

 

少年の情けない声と少女ののんびりとした声音が響く。

スクアーロはぶすりとした顔でそれを眺める。椅子の背凭れの上に手を置き、顎を乗せた。

ぎーぎーと椅子をこぐ音がする。それだけが部屋の中に広がった。

 

 

「ありがと!リボーンに提出してくるな!」

「別にいいよ。」

 

課題を抱えたディーノはそう言って、たったと廊下を駆けていく。それをザンザスは手を振って見送った。とっくに書庫から出たザンザスとスクアーロはそのまま廊下を歩きだした。

 

「そう言えば、私を見つけに来たんでしょう。スクアーロ?」

「・・・・・てめえんとこの教師が、探して来いとよ。」

「ああ。そうか、すいません。欠席の届を出し忘れていましたね。気を付けないと。」

 

のんびりとした声でザンザスは返事をする。そうして、スクアーロに背を向けてそのまま歩き続ける。

その後ろ姿を見て、スクアーロは無言で腰に手を伸ばした。そのまま音も無く床を踏みしめて、そのままにザンザスへ剣を突き立てようとした。

が!!

 

スクアーロの突き出した剣は、ザンザスの銃によって防がれる。スクアーロはその時、ザンザスが薄く笑みをたたえるのを見た。

目を見開いたその瞬間、ザンザスはするりと力を抜いてしまう。

 

「な!」

 

スクアーロは、剣に向けていた力のままに前に倒れ込む。跪いた瞬間、自分の頭に固いものが押し付けられた。

 

「ちっ!」

 

盛大に舌打ちをすれば、くすりとまた軽やかな声がする。スクアーロは頭に押し付けられたそれが頭から離れるのを理解した。

そうして、スクアーロは心の底から不機嫌そうな顔でザンザスに視線を向けた。

そこには、見目の良い少女には似合わない銃を持ったザンザスが微笑んでいた。

 

「今日も負けたね。」

「うお゛お゛お゛お゛いいいい!うるせえ、次は勝つ!」

 

耳をつんざくような大声にザンザスは苦笑して、今日も元気だねえと変わることなく微笑んだ。

 

 

スペルビ・スクアーロという少年がその少女に出会ったのはかれこれ一年前までさかのぼる。

スクアーロの父はどこかの弱小マフィアの構成員であった。スクアーロも碌に覚えてはいない。殆ど家にいなかったのだから当たり前だが。そうして、スクアーロが物心つく頃には何かしらの抗戦に巻き込まれて死んだ。

それにスクアーロは別段悲しいと思うことはなかった

愛のある育て方などされたことなどない。彼にとって父とはもっとも近しい他人であった。

けれど、幸いなことは、父親がスクアーロに剣術の基礎を手ほどきしたことだろう。

彼は、剣において極まった才を持っていた。

学校における初等部の卒業を控えていたスクアーロはその剣の腕だけで身を立てていた。けれど、事実として例え武器を持った大人でもスクアーロを屈服させられるものはいなかった。

スクアーロは己の剣の腕を磨くことに夢中だった。スクアーロにとって強くなるとは生きることと同義で在り、純粋に戦うことが楽しかったのだ。

己より強い存在と戦うことへの高揚感、刹那の中を生きる瞬間の沸騰するような興奮、溢れる様な充実感。

高みに手を伸ばすようなそれは、好戦的なスクアーロにとって居心地の良いものだった。

そうして、ザンザスと出会ったのは、あるマフィアの構成員を殺した帰りの事だった。

スクアーロは当時、強者を求めるあまり四方八方、あらゆる場所の人間を殺しまわって、喧嘩を売っていた。

おかげでイタリアという国を転々としていた。幸いなことに追ってを殺して金を奪っていたので生活には困っていなかったが。

スクアーロも、そんな相手を殺した帰りだったのが、お世辞にも歯ごたえのある存在ではなく、不完全燃焼と言って差し支えがなかった。

 

(・・・・くそが。追って出すなら歯ごたえのあるやつにしやがれ。)

 

苛々としながら街を徘徊していたのは、もしかすれば自分を満足させられる強者に会えるのではないかと思ったためだ。

そんな時、丁度道の角を曲がった時だ。

どんと誰かにぶつかったのだ。

スクアーロは自分が気配に気づかなかったことに驚いたが、ぶつかって来た存在の姿を見て納得した。

 

「わ、ごめんね!?」

 

軽やかな声を上げたのは、一人の少女だった。

スクアーロにぶつかり、よろけた少女はどこか慌てた表情でスクアーロを見た。

言っては何だが、人の美醜などに興味を持ったことの無いスクアーロでもその見目に感心してしまった。

艶のあるブルネットに、ルビーのような赤い瞳、怜悧な顔立ちの少女はスクアーロを気遣うように見た。

 

「怪我はないかな?」

「あ゛?うお゛お゛お゛お゛お゛い!この程度で怪我なんかするかよ!」

「ちょ、声大きいよ、君!?そんな声出したら・・・・」

「おい、あっちか!?」

「くそが、ちょこまかしやがって!?」

「あーばれちゃったか。ごめんね、私、行かないといけないから。」

 

そう言って少女は慌ただしくその場から駆けていく。スクアーロはそれを無言で見送りはしたが、じっとその背を見つめた。

 

(さっきのやつ、明らかにいい服着てたな。)

 

それに加えて、肌艶も良く、明らかに裕福な家の子どもであるようだった。そうして、次には道の角から明らかに堅気ではない男が数人出てきた。

彼らはスクアーロのことなど目にもくれずに、遠目に見える少女のことを追いかけていく。それに、スクアーロはにんまりと笑ってその後を追いかけた。

 

 

 

「・・・・君たちもしつこいな。」

「は!ようやく諦めたか。」

「散々走らせやがって。」

 

袋小路に追い詰められた少女は面倒そうに顔をしかめていた。じりじりと近寄って来るそれらに、少女はため息を吐く。そうして、来ていた上着の内に手を伸ばす。

その時だ。

騒がしい、絶叫が聞こえた。

 

「うお゛お゛お゛お゛お゛お゛いいいいいいい!遊ぶなら俺と遊んでくれよおおおお!!」

 

声の方に振り返る前に、追っていた男の一人の腕が吹っ飛んだ。転がった腕と、吹き上がる血しぶきに紛れて、剣のような銀色が日の光に反射した。

男たちはすぐに少年に意識を向けるが、それよりも先に次々に切り伏せられていく。

そうして、残ったのは夥しい死体の山だ。

ぽかんと驚いた少女の姿に、スクアーロは視線を向ける。己と同い年で、どう見ても箱入りらしいそれが喚かないことを意外に思う。ただ、そんなことなどスクアーロにとってはどうでもいい。

 

「・・・歯ごたえはなかったが、まあ、いいか。」

 

スクアーロが立ち去ろうとした瞬間、がっと、彼の手を少女が掴んだ。

流石にそんなことなど予想していなかったスクアーロは反応が一瞬遅れた。

 

「君、スクアーロだろう?」

「あ゛?」

 

名前を呼ばれてスクアーロは目の前の存在をじっと見た。少女からは特別な敵意も殺意も感じられなかった。スクアーロは少女の手を乱雑に振り払った。

 

「てめえ、離しやがれ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!ともかく、一緒に来て!」

 

少女はなおもスクアーロの手を取ろうとしたが、苛立った彼は未だに血の滴る剣をぶんと振る。

 

「俺に指図してんじゃねえ!」

「だから、人の話を・・・・」

 

言葉を続けようとした少女にスクアーロは何の躊躇も無く、剣を横に一閃した。常人であるならば、切り捨てられていたはずだった。

けれど、少女はそれを姿勢を低くして避けた。空ぶった剣の後に、少女は立ち上がる勢いのままに少年の顎にアッパーカットを決めた。

頭に突き抜ける様な衝撃の後に、スクアーロは意識を失った。

 

 

そうして、目を覚めた先がフカフカとしたベッドの上であったのだから全て察せられるだろう。

そうして、にっこりと笑ってスクアーロを見下ろした少女、ザンザスの存在だってそうだった。

 

蓋を開ければ、何でもスクアーロはボンゴレに保護されることとなった。

スクアーロはさすがに暴れすぎたらしく、本格的に彼を捕まえる為に幾つかの組織が動き出していたらしい。

それでもザンザスと出会ったのは偶然で、スクアーロの保護については彼女が言い出したことらしい。

 

「丁度、専属の護衛が欲しかったんだよ。」

 

ニコニコと笑ったザンザスに、スクアーロは吠える様に否定の言葉を吐いた。ベッドの上に立ち上がり、まるで怒り狂う獣のように叫んだ。

けれど、ザンザスは変わることなくニコニコと笑った。そうして、こういったのだ。

なら、取引をしないかと。

スクアーロはそれに顔をしかめた。なんといっても、彼にはする理由などなかったのだ。

 

「私は、これでもボンゴレのボスの実子で、おまけに一人っ子だ。」

「だから何だ?」

 

彼女があの有名なボンゴレファミリーの、おまけにボスの子どもであることには驚いたが、そんなことは彼にとっては関係ない。

早くこの場を脱出しなくてはと思っているとさらに彼女は言葉を続けた。

 

「だから、命を狙われて刺客が来るのなんてよくある話なんだよ。」

 

ザンザスはにっこりと笑った。

 

「私の所にいれば、衣食住も保証するし、報酬だって出す。そうして、いっくらでも強者と戦い放題だよ?」

 

その言葉に、惹かれたのは事実だ。ザンザスはそのスクアーロの反応に苦笑して、提案をする。

 

「私の護衛になってくれれば君は刺客と戦い放題だ。ボンゴレのボスの子どもに贈られてくる奴なんだ。ある程度の実力は保証するよ。」

「・・・・なら、どうして俺を選んだ。護衛にするなら、親父に言えばいっくらでも用意してもらえただろうが。」

 

スクアーロの返答に、ザンザスは苦笑した。

 

「・・・・ただの気まぐれさ。」

 

その苦笑は、何となく、スクアーロが見てきた中でも知らない部類のものだった。どこか、苦みと、ほのかな甘さがある、笑みだった。

 

「君が欲しいと、そう思ったんだ。きっと、君は強くなるから。」

 

戯言のように、そういった。

 

 

そうして、スクアーロは結局ザンザスの元にこうやって留まっている。ザンザスの護衛なのだからと見た目を整えられ、それ相応の教育を受けさせられ、こうやってザンザスと同じ学校に通っている。

二歳上のザンザスに比べれば小柄でも、それ相応に実力は付けてきているとスクアーロは思う。彼女と過ごす中で、剣帝のテュールと接触が出来たのは僥倖であった。

少しだけ鍛練も受け、実力は上がっているはずだ。

けれど。

スクアーロは、廊下の先を歩く彼女に視線を向けた。

ザンザスは、お世辞にも好戦的な人間とは言えない。スクアーロが喧嘩を仕掛けるのをいなすぐらいで、マフィアの関係者が通う学校内でも穏健派として通っている。

その性質は、お世辞にも裏社会の人間からは程遠かった。

笑みを絶やさず、努力を重ね、温和な態度を取る彼女は穏健派の現ボスを慕う人間からは評判がよかった。

スクアーロは少しの間でも、ボンゴレの中での彼女の評判はよく聞いた。

 

ボスに似てお優しくて。そうね、努力家で。最初はどうしてあんな子を拾って来たのかと思ったが。ああ、どうせ偽りだろうと思ったが。あのお方はボスの子だ。笑い方がよく似ておられて。

 

(けっ。人を褒めるのに、馬鹿の一つ覚え見てえに、似てる似てるって言いやがって。)

 

皮肉を混ぜてザンザスにそう言えば、彼女はひどく驚いたような顔をした。

 

「・・・・まあ。彼らにとって、それは一番の褒め言葉だろうからね。」

「下らねえ、てめえとあの爺さんのどこが似てるんだが。」

「似てないかな?」

「似てる似てねえじゃなくて、てめえとあの爺さんは別もんだろうが。」

 

不機嫌そうにそう言えば、少女は、本当に一瞬だけれど、ふんわりと笑った。

いつもの、困り顔のような笑みではない、花のようにふんわりとした笑みだった。

 

「君も、おかしなことを言うね。」

 

楽しそうな声で、年相応の少女のように可憐な笑みを浮かべて。そう言った。

それに、スクアーロは一瞬だけ固まった。そんな風に笑うところなんて、初めて見たものだから。

 

スクアーロはザンザスのことが嫌いだった。

ボンゴレに連れていかれた時の傍若無人さで印象が下がりまくっていたのもあるが、その女の波風を立てない在り方が嫌いだった。

てめえの願いは何だと言えば、不思議そうに父に恥じない存在になることを言われて、何故かたまらなく腹立たしくなった。

こんなにもフニャフニャとした奴に自分は負けたのかと。

そうして、確実に強くなったスクアーロは今でもザンザスに勝てないままだ。

自分よりも華奢な癖に強いその女が嫌いだ。滅多に本音を言わない薄い自意識が嫌いだ。自分よりも歳が上で高い身長が嫌いだ。

負けた悔しさで、殺してやると喚いたスクアーロに嬉しそうに微笑むそいつが嫌いだ。

 

(・・・・そんなザンザスに、勝てねえ俺は何よりも嫌いだ。)

 

今日もスクアーロは、その少女の背中を睨むように見ていた。

 





ちなみに、現在書いてる蛸の見た夢のひな型がこれだったと思います。データが亡くなって諦めてたんですが、今になって出てきました。

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