転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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夢オチってさいてーー、夢オチならね

ガチャリと玄関が開く音がして、俺は目を覚ます。届いたばかりのソファは格別の寝心地だった。スマホで時間を見れば、もう晩飯の準備を始めなきゃいけない頃合いだった。

 

「ただいまです。……あっ起こしちゃいましたか?」

 

「おかえり。ちょうど起きなきゃいけない時間だったからいいよ」

 

「そうですか」

 

 彼女はふと部屋を見回して、首を傾げた。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、なんだか目に優しくなったような気がして」

 

「まあ、ちょこちょこ変えたからな。このソファだって新しいものだし」

 

「そうなんですね。どおりで見覚えがないわけです」

 

「晩飯は何時ごろがいいとかあるか?」

 

「いえ、お兄さんの都合のいい時間で大丈夫ですよ」

 

「了解」

 

 じゃあのんびり作り始めますかね。

 

「あ、あの……」

 

「ん?まだ何か?」

 

「これ、美味しかったです。ごちそうさまです」

 

 そういって差し出してきたのは、朝に持たせた弁当箱が入ったランチバッグだった。

 

「ああ、口にあったようでなによりだよ。苦手な食べ物とかも聞いてなかったし」

 

「基本的になんでも食べるので……」

 

 嫌いな食べ物が弁当に入ってると午後のやる気が削がれるからな。わりと重要な問題だ。

 

「じゃあ逆に好きな食べ物はなんだ?」

 

「えっと……とくには……」

 

「えっじゃあ……ハンバーグとかカレーとか」

 

 ない?嘘だろ?

 

「美味しいとは思いますけど……とくに好きというほどでは」

 

「……まじか」

 

 嫌いなものがないというのは良いことだが、好きなものもないってどうなんだ?ちなみに俺は野菜全般が嫌いだし、牛肉が大好物である。まあそんなことはおいておいて、だ。

 

「今度からもっといろいろ作ってみるか」

 

「はい、楽しみにしてます。……お兄さんの料理はおいしいので」

 

「ん?なんだって?」

 

「いえ、なんでも」

 

 コホンと咳をしながらすました顔しているが、聞き間違えじゃなければ今俺の料理をおいしいと言ったか?まったくもうそんなこと言っても何もでないぞ。……今晩はデザートも追加しとくか。

 

「ちなみに辛いものは?」

 

「○極ラーメンまでは余裕です」

 

「甘いものは?」

 

「砂糖をたまに舐めてました」

 

「そのまま?」

 

「はい」

 

 うーん。思ってた数十倍は食生活がひどそうである。これはもう俺が正しい食生活をわからせてやるしかねえなぁ。くくく、見ていろよ。すぐにその顔をメシ顔にとろけさせてやるぜ。

 

「先に着替えてきますね」

 

「もう少し時間かかるからゆっくりしててもいいぞ」

 

「それじゃあ先に課題を済ませてきます」

 

 そういって自室に戻っていく姿は、まるで機械のようだった。課題を帰ってすぐにやるなんて……えらすぎんだろ。ったくなにから何まで俺とは違うんだな。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 晩飯時、見計らったかのようなタイミングで帰ってきた神の使い野郎も含めて三人で食卓を囲むことになった。ここ数年、一緒のタイミングで集まって晩飯を食うなんて実家に帰ったときくらいだったからしみじみと心に沁みるものがある気がする。

 

 晩飯が終わった後もしばらく自称神の使いの話を聞かされていた。本当によく口の回るやつだ。喉がカラッカラにならねえのかなと思いつつ俺と少女だけお茶を飲んでいた。

 

「あっそういえば風呂はもう洗ってるから入ってきてもいいぞ」

 

「いえ、まだ課題が残ってるので。お兄さんからどうぞ」

 

「ああ、わかったよ」

 

 じゃあせっかくだし先に入るか。風呂すきなんだよなぁ俺。こうお湯に浸かってると安心する。前の職場じゃ温泉に行く余裕すらなかったし、魔法少女をなんとか説得して行けないかな。

 

「んじゃ先に入ってくるな」

 

 着替えを持って脱衣所に行く。今日は外に出てないので楽な服装だった。ガバっと脱いでしまえば、発育が悪いとも言えない絶妙な少女の体が脱衣所の鏡に映る。

 

「……、悪くはないと思うんだけどな」

 

 少女の裸体を見ても何も思わないのは、俺自身だからなのかそれとも別の理由か……。

 

「まあ、気にしても仕方ねえか」

 

 風呂場に入って蛇口をひねる。いい感じの温度に手で調節してから、栓をする。お湯が溜まっていく間にシャワーで髪を洗えば時短になるだろうという魂胆である。普段ならゆっくりお湯に入ってから洗うんだが、さすがに後に待ってる人がいるとそうしようとは思わない。

 

「あの……」

 

 扉の外で声が聞こえる。魔法少女の声だ。

 

「ん?なんだ?」

 

 ちょうど髪を洗ってるところだった俺は手が離せず、ついでに扉の方に目をむけることもできなかった。

 

「ちょっと失礼しますね」

 

 ガラガラと扉が開く音がする。

 

「ん?おいおい待て待て!」

 

「はぁやっぱり……」

 

「いやため息つくなや。なに入ってきてんだよ濡れるぞ」

 

「私も脱いでるので大丈夫です」

 

「だ、大丈夫じゃねえだろ!?えっなんで?」

 

「昨夜に一緒に寝たときに気になったんですが、もしかしてちゃんと洗えてないんじゃないかと思いまして」

 

「そんな理由で?」

 

「ええ。どうせ同じ体ですし、気にすることもないでしょう?女の子はお風呂にはいろいろ手間かけるんです。お兄さんは知らないでしょうから私が教えてあげますよ」

 

「えぇ……まあ助かるけど」

 

「じゃあまずですね――」

 

 

 

 

 

 

 

 という夢をみたのさ。ああ、夢だ、夢なんだよ。だからもう思い出させないでくれ。

 

 夢だったということにさせてくれ。

 




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