転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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急に伸びて何事かと思えば、オリジナル日間の一桁ランクインや総合にも一時乗っていたみたいです。重ね重ね応援感謝です。

そして感謝感激の御礼回でございます。ご新規の方はよくよく小説情報からタグ蘭をご覧になってからお読み進めください。


そんなところ

 お兄さんがお風呂に行くのを見届けながら、私はお茶をちびちびと飲む。

 

 彼とそして神の使いさんの三人で食卓を囲むことになるなんて、数日前の私に言っても信じなかっただろう。そもそも神の使いさんとも食事のタイミングがあわないことが多かったし、神の使いさんと同じ食事をとることもほぼなかった。

 

「ねえ、ジャスティーヌ」

 

「……?何ですか」

 

「彼のことはどう思ってる?」

 

「えっ……?普通に良い人だと思いますけど。いろいろとやってくれていますし」

 

「だよね。じゃあさ、僕からお願いがあるんだ」

 

 神の使いさんは湯呑をコトリと置く。あらたまって何だろうか。

 

「彼のこと、任せても良いかい」

 

「任せるもなにも、お兄さんに私が頼ることはあってもその逆はないと思いますけどね」

 

「君は変に考えてるのかもしれないが、彼の中身は真っ当な成人男性さ。だから……多分お風呂でも……」

 

「別にいいんじゃないですか?もうお兄さんの体な訳ですし」

 

 神の使いさんはヤレヤレと眉尻を下げながら首を振る。

 

「君の貞操観念はまあこの際つっこまないけれど、そう例えば髪の洗い方一つまともにできないと言ってもいいんだよ、今の彼は」

 

「……。つまり教えてあげて欲しいということですか」

 

「彼は良くも悪くも成人男性だからね。思ってたよりも家事はできても、そこらへんの常識の下地は彼が男だったときのままなのさ」

 

 昨晩のお兄さんを思い出す。たしかに、髪はしっかりと乾ききっていなかったし、化粧水もしっかりと付けられていなかった気がする。

 

「わかりました。任せてください」

 

「この類のことに関して僕は無力だからね。頼んだよ」

 

 なるほど、そういう意味の頼んだでしたら、私が頑張るしかないわけですね。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「あの……」

 

 扉の外から声をかけてみる。

 

「ん?なんだ?」

 

 お兄さんは、まさか私がこうするだろうとは思っていないはずだ。きっとコロコロと表情を変える彼なら、今回も面白い表情を見せてくれるのだろう。

 

「ちょっと失礼しますね」

 

 ガラガラと扉を開く。

 

「ん?おいおい待て待て!」

 

 髪を洗っていた最中らしく、目をつむったままのお兄さんは慌ててこちらに振り返った。

 

「はぁやっぱり……」

 

「いやため息つくなや。なに入ってきてんだよ濡れるぞ」

 

 案の定、お兄さんの髪の洗い方は雑で、ダメダメであった。お兄さんがもともとお姉さんだった説なんて考えていた私がばかばかしく思えるほどである。

 

「私も脱いでるので大丈夫です」

 

「だ、大丈夫じゃねえだろ!?えっなんで?」

 

「昨夜に一緒に寝たときに気になったんですが、もしかしてちゃんと洗えてないんじゃないかと思いまして」

 

「そんな理由で?」

 

「ええ。どうせ同じ体ですし、気にすることもないでしょう?女の子はお風呂にはいろいろ手間かけるんです。お兄さんは知らないでしょうから私が教えてあげますよ」

 

「えぇ……まあ助かるけど」

 

「じゃあまずですね――」

 

 もうシャンプーをつけてしまっているので、途中からではあるがお兄さんの頭に手をのばす。

 

「ゴシゴシと洗っちゃダメです。しっかりと泡立ててから、頭皮をマッサージするように洗うんです」

 

「あぁぁ、いいな、気持ちいいわ」

 

 結構ぐいぐいと力をいれているのだが、現実世界で非力な私ではマッサージになるくらいしか力が出ていないようである。少し悲しくなってしまうのはなぜだろうか。

 

「髪の毛どうしが擦れてしまうと痛む原因になるんですよ。お兄さんも今はもう女の子なんですから、髪の毛は命だと思ってください」

 

「命ねぇ……」

 

 口ではなにかモゴモゴと言っているが、その顔は私のヘッドマッサージが心地よいのか少しとろけたような顔をしている。

 

「流しますよ」

 

「ああ、お願いするよ」

 

 シャワーを出せば、熱いお湯が出てくる。

 

「熱すぎるお湯もNGです。えっと……このくらいの温度で洗ってください」

 

「ええ……熱いシャワー好きなんだけどな……」

 

「せめて髪の毛を洗うときくらいは我慢してください」

 

「うう……はい」

 

 聞き分けがよくてなによりである。

 

「体は……特に言うことはないので自分で洗ってください」

 

「えっ」

 

「何ですか?もしかして洗ってほしいんですか」

 

「イエチガイマスジブンデアライマス」

 

「なんでカタコトなんですか」

 

 先程からお兄さんの動きが、壊れたロボットのようにギクシャクしていて面白い。容姿は私と瓜二つなのに、中身が違うだけでこうも印象が変わるのかと、自分の姿を風呂場の鏡で眺める。

 

 ん……んんっ……?

 

「お兄さん」

 

「ひゃ、ひゃい?」

 

「なんで目をつむってるんですか」

 

「いやだって……見ちゃだめかなって」

 

「自分の体と同じですよ。その体で欲情しないなら私を見ても大丈夫でしょう」

 

「ええ……そんなもんかな」

 

「まあそんなことよりですね」

 

 そう、お兄さんがずっと目をつむったままなんて、そんなことなのである。

 もっと重要なことがあるはずだ。

 

「もしかして、私よりあります……?」

 

「えっなにが……?」

 

 すっとぼけるお兄さんをみて、少しイラっとした。

 

「失礼しますね」

 

 私は思い切って、お兄さんの後ろから胸周りに手を回す。

 

「ちょっなにすんだ!」

 

「やっぱり……」

 

「てかあたってるあたってる!」

 

「なんで……」

 

 どうして……

 

「私より胸があるんですか……」

 

 少しの差ではあるかもしれない。しかし、お兄さんは話では私と同じ体のはずなのである。話しと違う。よりにもよって、その部分でお兄さんに負けるだなんて聞いていない。

 

「どうして……」

 

「わかんないけどさ、ほら、離してくれないか?その……さっきからお前の胸もあたってんぞ」

 

「そこは気にしないので大丈夫です」

 

「お、おお。そうか」

 

 この謎は持ち帰らせていただいて、あとで神の使いさんにご相談しなければいけないと私は決意した。

 




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