転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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楽しくなってまいりました。


表と裏

「なあおっちゃん、すこしまけてくれない?」

 

「いいやダメだね。今日ばっかしは1円も値引かねえぞ」

 

 くっ、いつもは優しいおっちゃんが今日はやたら手強い。うーん、いったい何が。

 

「嬢ちゃんに値引きしてたらロリコン疑惑が出たんだよ。まったくどうしてくれんだ」

 

「それは果たして俺のせいなのか?」

 

 俺にしか値引きしないおっちゃんのほうが問題な気がする。

 しかし困った。今日はぶ厚い豚肉をつかったトンカツと決めていたのに。予算をオーバーするのは俺の信条に反する。

 

「今日はトンカツだと思ったんだがなぁ」

 

「そりゃいいじゃないか。いい肉で作るトンカツは格別だよなぁ」

 

「そうそう。薄かったらなんだか残念感があるよな」

 

「ところでだな……」

 

 俺はカードを切り出す。

 

「同じ豚肉つながりで豚キムチでも作ろうと思うんだよ。いい肉はねえかな」

 

「それならコレがおすすめだな。値段は張るが美味しいぞ?」

 

「うーん高すぎるな。でも食べたいなぁ。うまい肉が食いてえよ。でも2つも買うと今月分超えちゃうんだな。どうにかならねえかなぁ」

 

「この格ならあるぞ?」

 

「それじゃあ物足りないんだよな。さて」

 

 仕方ないか。あのカードを切るしかなさそうだ。

 

「なあおっちゃん、これがわかるか?」

 

「なっ!そ、それは!」

 

「ああ、とうとうこいつを使うときが来ちまったようだ」

 

 俺がポケットから取り出したのは、この商店街共通クーポンである。商店街ヘビーユーザーにしか許されないその証は、俺の値引き交渉撤退宣言のようなものだった。

 

「ちっ、じゃあ3割引きな」

 

「あいよ。ちなみにな、おっちゃん」

 

「なんだまだあんのかよ」

 

 俺はポケットから更に別のカードを取り出す。黄色い紙は商店街のスタンプカードそのものである。

 

「おいおい、嘘だろ」

 

 中身をみたおっちゃんは、額に手を当てる。ふふふ、これが俺の特効コンボ――

 

「このカードは千円分の商品券となる!そしてこの効果は……他の割引券と併用不可と書かれていない!」

 

「くっ……お前がまさかここまでやるとはなぁ……!」

 

「いいや、俺の負けみたいなもんさ」

 

「ほら、新しいスタンプカードだぞ」

 

「あっ待ってくれ」

 

 俺はいそいそとスマホをとりだす。ロックを解除してとあるアプリを起動すれば、先程の黄色い紙と同じマークのついた画面が出てくる。

 

「スタンプはコレにしてくれ」

 

「で、電子スタンプだと……!まさか」

 

「ああ、これで……今回の買い物でもう一回分、千円券が貰える」

 

「き、貴様ぁ……!」

 

「ケッケッケッ、次の買い物が楽しみだなぁおっちゃん!じゃあな!」

 

 俺はそそくさとその場を後にする。途中から主婦の目をひいてたから恥ずかしくなったのである。

 

「やべえ……はっずかしいわ」

 

 肉屋のおっちゃんとは会話のテンポが合うのでたまにこうなる。あとで我に帰って恥ずかしくなるくらいならばやらなければいいだろうという話なのだが、こういざその場にいるとテンションがあがって後の祭りなのである。まあ話してる瞬間は楽しいのでヨシということで。

 

 ちなみに、おっちゃんは後日ロリコン疑惑ははれたものの、少女とやばいテンションで話す変な人として見られるようになったようである。R.I.P.

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ったく肉屋のおっちゃん以外は気前がよかったな今日は」

 

 買い物袋を両手に携えながら、俺は帰路についていた。

 ここの角を右そして次を左に曲がる。そして二回右にまがり道なりをいった後に左。

 

 そうすれば、普段とはまったく逆の路地へと出る。

 

「んで、こんないたいけな少女を追っかけまわしてどういう了見だ?」

 

「いたいけな少女は普通、私の尾行には気が付かないと思うけれどね」

 

 曲がり角から出てきたのは、長身の女性だった。いや、どうやらまだ少女の年頃らしいな。制服を着ている。

 

「学生はまだ学校の時間だと思うんだがな」

 

「残念ながら今日は午前までだったのよ。だから学校にはちゃんと通ってるわ」

 

 嘘をついているようには見えない。しかし、明らかにただの変質者ではなさそうだ。なにより、余裕がありすぎる。

 ここは住宅地だぞ?大声を出せば何事かと見る大人はいるだろうし、大通りも近い。なによりここまで誘い込んだのは俺の方だ。大通りにすぐに駆け込める位置に俺はいる。

 

「それで、あなた何者?」

 

「俺はただの主婦さ。こんな見てくれだけどな」

 

「ほんとね。まるで女子中学生みたい」

 

「そういうお前は何者なんだ。昼間っから見た目女子中学生を追っかけ回して」

 

「私ですか?ただかわいいものが好きな女子中学生ですよ。制服着てるでしょう?」

 

「コスプレの可能性もあるし」

 

「それってぇ私が老けて見えるってことですかぁ?」

 

「冗談だよ」

 

「しっかしどうしましょうか」

 

「何がだよ」

 

「バレないように魔法をつかって気配を消していたんですけれどね。どうしてバレちゃったんでしょう?」

 

 謎の少女の雰囲気がガラリと変わる。おしとやかさが消え、肌がひりつきそうなほどの視線を感じる。

 光が少女を包み、霧散する。出てきた姿は、魔法少女というよりは巫女のような格好をした少女だった。

 

「ジャスティーヌと同じ顔をしていながら真反対のような性格で、学校にも通ってなくて、でも魔法には耐性のあるあなたは一体何者?」

 

 世界が反転する。引きずり込まれると思ったが最後、世界は裏返った。

 




正義の魔法少女(今日の晩ごはんは何だろう……)
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