転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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祝、日刊連載2週間


戦闘中

 世界が裏返ったとはいえ、両手にいっぱいの戦利品を無造作に放り投げるわけにもいかずに俺はそっと路地の端に置く。割れないでくれよ卵ちゃん。

 

「まあ待て、そう早まるな」

 

「攻撃してみればあなたがどちらかわかるわ」

 

「どちらか?」

 

 どちらって何と何のどちらだよ。俺は根っからの人間だよ。

 

「簡単よ。バケモノなら私の攻撃でダメージを受けるでしょうし、ただの魔法に敏感な人間ならダメージはないはずよ」

 

 そういいながら少女は右手になにやら青白いモヤを集めていっている。いや、螺◯丸かなにかで?てか確実にあたっちゃまずいでしょ。

 と、とりあえず変身しておくか……?

 

「あら、変身もできるのね。ますます興味が出てきたわ」

 

 変身バンクなんて夢を見る間もなく、俺の衣装は普段着からやたら薄いものへと変わる。そんなに暑い季節でもないからもはや露出狂か痴女である。でもほら、こういう話ならば防御力と布面積では相関関係はないはずだから、きっとこの服にも意味があるかもしれないし?

 

「それじゃあ、試しちゃいましょうか」

 

 少女が手を前に伸ばすと、青い球がふよふよと動き始める。そしてその球体は俺の近くまでまっすぐ来て……

 

 そっと横に避けた俺の側を通り過ぎていった。

 

「あっ追尾とかじゃないんだ」

 

 後ろの壁へと青い球が着弾する。すると壁は大きな音をたてて崩れ去る。なるほどもしやこいつが正体不明の破壊型魔法少女か。

 となると厄介である。俺にはこの少女をしばく理由もなければ力もない。正義の魔法少女が来るまで待つしかないか?せめて話がわかる神の使い野郎が来てくれなきゃ困るんだが。

 

「どうして……」

 

「ん?」

 

「どうして避けるのよ……」

 

「いやそりゃ避けるでしょ」

 

 むしろ避けなきゃ失礼ってレベルの破壊力である。いやまじであれにあたったらシャレにならんぞ。正直自分が相手の魔法のダメージをくらうかなんてわかったもんじゃないし。

 

「避けないでよ!」

 

 こんどは両手で青い球を生成しはじめる少女を見て、俺は背中を見せる。さらば我の戦利品。貴様らはあとで表世界に戻れてから回収するぜ。

 

「避けるにきまってんだろ!流石に木っ端微塵になって死ぬのは勘弁だ!」

 

「あんたが人間側なら問題ないからさっさとあたりなさいよ!」

 

「俺もよくわかってねえんだよ!」

 

 またふよふよと飛んでくる青い球を、今度は走って逃げて避ける。

 

「避けるな逃げるな!」

 

「やだね!」

 

 唐突に始まった逃走劇に、俺は久々の運動だなぁなんて考えながら初めてこの体で全力疾走するのだった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 はぁ、はぁ。若さってしゅごい……。

 

 30分以上走りっぱなしなのにまだ疲れない。むしろ好調な気がするくらいである。これが若さか……ってそんなわけあるか!明らかに一般女子中学生の運動能力超えてるわこの体!

 

 どういうことだ?元から鍛えているというより、魔法少女としての力の一環なのか?もしくは変身したおかげか?とにかく今は助かった。

 今は近くの公園の遊具内に隠れているところだ。スマホを開けば、すぐに向かいますと即返信がきたチャットアプリの画面が見える。あれから10分、まだ助けはこない。

 

「みーつけた」

 

「ったく、マジかよ」

 

 完全に息を潜めていたというのに、なんでバレたんだ。

 

「鼻が利く子がいて助かったわ」

 

 そういって、少女は青い塊を撫でている。その塊は犬のような耳と鼻をもっていた。

 

「いや、ずるくない?」

 

「これも私の力の一部よ」

 

「式神召喚とか、いつからここは和風ファンタジーになったんだよ」

 

 急いで距離を取ろうとするが、青い犬に先回りされる。いや優秀だなおい!

 

「さて、もう今度は逃さないわよ」

 

 青い球が少女の右手に生成される。逃げ道を塞ぐように、俺の周りをワンコロがぐるぐると回っている。万事休すか……。

 

「はいはい、降参だ。痛いの嫌なんだよ」

 

「あら、潔いのね」

 

「無駄な苦労はしない主義なんでね」

 

 両手をあげれば、ニヤニヤとしながら少女は近づいてくる。

 あれ?待って?その青い球しまって?

 

「私は面倒なやりとりはしない主義なの」

 

 ちょっその青い球近づけないで!や、やめろぃ!

 

「安心して?さきっちょだけだから」

 

「どこで覚えた表現か知らんがその言い方は一番まずいやつぅぅ!」

 

 俺の左腕に青い球が触れる。

 

「いった……くはない……?」

 

 痛みはなかった。痛みはなかったのだが……

 

「えっ、どういうこと……なの?」

 

 俺の左腕は、まるでもとからそこになかったかのように消え去っていた。

 

「い、痛くはねぇけどなんだこれ……断面とかどうなってんだろ……うわグロッ」

 

 なんか綺麗に腕の断面図とか見えるとこう漫画っぽいななんて思ってしまう。俺の中にもちゃんと骨とかなんとかあったんだなと。

 

「なあ、どうしてくれんだこれ」

 

「そ、そんな……そんなつもりじゃ、私……」

 

「おい?大丈夫か?おーい」

 

「だって魔法少女ならダメージないはずでしょ、バケモノなら痛みでもがき苦しむはずなのに」

 

 なにやらブツブツといってる少女のほうが深刻そうである。

 

「おい、ほら、まあなんか痛みないし大丈夫だって」

 

「私、人の腕を……」

 

「……ダーメだこりゃ」

 

 お手上げである。俺にゃあどうしようもないです、これ。神の使いでもなんてもいいから早く来てくれねえかなぁ。

 

 そんなことを思っていると、公園の入り口のほうで足音がする。

 

「おっようやく来てくれたか魔法少女~!」

 

 そういって笑顔で振り向いた俺の表情は――

 

「グルルルル」

 

――バケモノのせいで一気に凍りついたのだった。

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