転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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そんなことより

「あれ、桃木さん?」

 

「あっ先生。お手洗いに行ってきます」

 

「はーい」

 

 私は急ぎ足でトイレの方へと向かう。先生には悪いが、今日はこのまま戻ってこないかもしれないのでちゃっかり荷物も持ってきた。

 

「お兄さん……。急がなきゃ」

 

 手に握られたスマホには、お兄さんからのSOSが届いていた。まだ状況はわからないけれど、とにかく急ぐためにトイレに駆け込んだまま、世界を反転させる。

 

「変身……」

 

 神の使いさん曰く、あまり緊急時以外に変身するのはよくないらしい。この力はバケモノを倒す力であって、私利私欲のために使うのは悪だからだ。

 だけど、お兄さんがピンチというなら、緊急事態だろう。あとで説明すれば、神の使いさんも納得してくれるだろう。

 

 魔法少女の姿になれば、走るスピードも上がる。表の世界ではもやしっ子な私でも、裏の世界ならば陸上競技世界覇者にすらなれる。それが私の理想の自分。何にも、誰にも負けない体。この力があるからこそ、私は正義の魔法少女を堂々と名乗れる。

 

「……っ!バケモノの気配!?」

 

 先を急いでるときに限って、嫌に強い気配を感じる。仕方がない……か。

 私は街で一番高い建物を思い浮かべる。目を閉じ、開けば、次の瞬間には思い浮かべた光景が目の前に広がっていた。瞬間移動できる魔法は、変身解除したあとにひどく疲れるのであまり使いたくはない。

 

「よし……」

 

 魔法は願いを叶える万能の力だ。だから、自分の願いが叶うと強く信じることが大事である。でも、空を飛ぶときはいつも不安を心に抱いてしまう私は弱い。

 

「でもやるしかない」

 

 ビルの屋上から、街を見渡す。裏の世界は日中の表に比べて静かだ。だが一部だけ、やたら騒がしい場所がある。

 

 

「反撃する手段が俺にあるわけねぇだろ!ったく誰でもいい!早く助けてくれ!!!」

 

 

「見つけた」

 

 私は屋上から、飛び降りた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 なんやかんやあってバケモノを倒した私は、これまたなんやかんやあって自販機に向かうお兄さんを見送ることになった。

 

「それで……」

 

「ひっ」

 

「いや、そんなに怯えないでくださいよ」

 

 私より少し年上らしき女性は、その顔を真っ青にしていた。よくわからないけれど、この巫女服の女性は、魔法を使えるらしい。そして状況から察するに、お兄さんの腕をやったのもこの女性だろう。

 

「とりあえず落ち着いてください。神の使いさんが来るまではとりあえず何もしませんから」

 

 女性はコクコクと頷いている。

 

「一応、魔法少女なんですよね」

 

「え、ええ……そう聞いているわ」

 

「聞いている……?つまりはそっちにも神の使いさんみたいな存在が?」

 

「あなたにもいるの?」

 

 明らかにおかしい。しかし嘘をついているようにも見えない。

 もし本当に相手も神の使いならば、こちらの方の神の使いさんが把握しているはずだ。

 

「それにしても……あなたのその魔法はいったい何ですか」

 

「簡単に言うなら……破壊ね」

 

「破壊ですか?」

 

「ええ。存在の破壊。存在の否定。そういった魔法」

 

 こちらの神の使いさんが言っていた『破壊型』というのはあながち間違いでなかったようである。

 

「ジャスティーヌ様の魔法のように美しくはないですけれど」

 

「……そのジャスティーヌ様っていうの辞めてもらえません?それにあなた年上ですよね?」

 

「いえ、同い年ですわ。しかしジャスティーヌ様というのが嫌なら何とお呼びすれば?」

 

 同い年……?にしては大人びすぎている。中学生らしさをまったく感じさせないのは果たして魔法少女に変身しているからか、それとも元からなのか。

 

「桃木でいいです」

 

「わかりました、桃木さん」

 

 容姿だけでも年上な人からの敬語がはずれないのは、なんだかムズムズする。

 

「桃木さんだって敬語のままでしょう?」

 

 これは元からだ。誰に対しても敬語で接しているだけだ。

 

「桃木さんが敬語をやめるのでしたら、私もやめます」

 

「……我慢します」

 

 仕方ないから現状で妥協しよう。私がムズムズする他は被害ないわけだし。様づけが外れただけでマシと思うことにした。

 

 

 

「ほら、お茶買ってきたぞ」

 

 お兄さんが帰ってきた。右手にはよくみるお茶のペットボトルを三本抱えている。

 

「そういや大丈夫だったか。うっかり忘れて二人きりにしちまったが」

 

「特になにもしてませんよ」

 

 お兄さんがそう耳打ちしてきたので、私は少し呆れながら返す。少しは信頼してほしいものだ。私は一度言ったことは曲げない。彼女が誰であれ、今のところは危害を加える気はない。

 

「そりゃよかった。ったく、今日は早めに帰りたいんだがなぁ」

 

「今日もじゃないですか?」

 

「まあな。基本的に引きこもりたい性分なんでね」

 

 そういいながらもお兄さんは、ほぼ毎日のように買い物に出かけてくれている。お兄さんには感謝しかない。

 

「さてと、一つ聞かせてくれ。おまえさん、ストーカー?」

 

「えっ私?」

 

「だってこいつの名前を知ってるみたいだったし、容姿も把握してるようだったから」

 

「いやいや!違うわよ」

 

「違うのか、ほんとか?」

 

 お兄さんの問いに、謎の魔法少女はコクコクと首を縦にふる。

 

「なるほど……」

 

 お兄さんは右手で顎を触りながら考える素振りを見せる。

 

「……ならばヨシ!以上!」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 魔法少女と私は声が被る。

 

「お兄さん?良いんですかそれで」

 

「いいさ。どうせ悪意なんてあってなかったようなもんだろうし。別に待ってりゃ治るんだろ?じゃあ俺は別にいいわ」

 

 お兄さんは私が左腕を見たことに気づいたようで、ヘラヘラと笑ってそう言った。

 

「べつに”正義の”魔法少女が見逃さないって言うんだったらなんとでもしろよ。いや、俺は許すんだから俺のほうが悪なのかな?まあどっちが善か悪かなんてどうでもいい」

 

 お兄さんは一度言葉を区切る。

 

「そんなことより、今日の晩飯が遅くなることのほうが問題だ。今日の買い物は激戦だったから疲れてるんだ、早く寝たいんだよ俺は」

 

 いつものように、自分の都合を優先するように振る舞う。お兄さんはやはり、こんなときでもお兄さんだった。

 

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