お兄さん特製のトンカツを食べた夜、私は今日もお兄さんと一緒のベッドに寝ていた。私の寝具が酷すぎるからと、新しく買ってきた自分用のものを試せと言われたのである。
ならばお兄さんはどうするのかと言えば、ソファで寝るとか言うので無理やり一緒のベッドで寝てもらうことにした。強く頼み込めばお兄さんは断らないので、今回もそれを使った。
お兄さんが同じ布団にいると、寝心地が良い。腕を腰に回せばすっぽりと収まってしまうので、人間大の湯たんぽのようで冷えてきた最近の夜には快適なのだ。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「なんでしょうか」
「俺って中身は一応は成人男性なわけよ」
「はい、そうですね」
「そんなやつと一緒のベッドで寝てこうなんか嫌悪感とかないの?」
「いえ、特には」
変なことを聞く。それに中身はどうであれ、今は私と同じ中学生くらいの女子である。男性特有の匂いなどもないし、気にすることなんてない。
「いや、そうじゃなくてだな……。まあいいや、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
お兄さんは私に背中を向ける。そっと腰に手をまわせば、一度びくっとしたあと、すぐに規則的な呼吸に落ち着いた。
どうやら、眠ったようだ。
寝ているときのお兄さんは不用心だ。基本的には何をしても起きることはない。
だからギュッと腰に回した手に力をいれて、背中に顔を埋めても、お兄さんは気が付かない。
なんとなく思い出したのは、小さい頃にお気に入りだったうさぎのぬいぐるみだ。確か小学生低学年までは毎日一緒に寝ていた。たしか汚くなって……確か捨てたんだったっけ。いや、もしかしたらタンスの中にしまっているかもしれない。
「まったく……私のほうが不安になりますよ」
そっとお兄さんの左腕に手を添わせる。お兄さんは優しいし、自分に対してはわりと適当な部分がある。今回だって、勘違いのようなもので害されたというのに、治るとわかった瞬間にすぐに敵を許した。私なら絶対に敵を許さないだろう。やはり私とお兄さんは違うのかもしれない。
許すというのは良いことのように思うかもしれない。しかし、それは正義ではない。正義とは、この世を害する悪を許してはいけないのだ。
「絶対に私の手の届くところにいてくださいね。じゃないと……私はお兄さんを救えない」
普通の物語なら、きっと私のような立ち位置の少女が主人公になるのであろう。仲間や敵との交流を通して人間的に強くなっていく。そんなサクセスストーリーだって書ける。
だけど、それじゃ大事なものは守れない。
私は、私を守りたい。私の体を、精神を、そして正義を、守りたい。
「寝れないのか?」
「……っ!?お兄さん起きてたんですか?」
不覚だ。まさか起きているお兄さんに抱きついていたなんて。
「まあ、たぬきの寝入りは得意分野だからな」
「お兄さん……」
お兄さんはこちらに振り向く。顔と顔とが向かい合い、お兄さんの吐息を感じる。
「まあ俺をどうしようが、元はお前の体なわけだし、好きにするといいよ。俺は昼にでも寝れるからな」
「いえ、何もしませんよ。それに今日は慣れない魔法を使って疲れたのですぐに眠れそうです」
「ならいいや、おやすみ」
そういいながらお兄さんは、こちらを向いたまま寝息を立て始めた。さすがの私も、目の前に顔があって眠れる気はしなかった。
「……もう」
私はお兄さんの胸あたりに顔をうずめて、腰に抱きつく手に力を入れた。
しかし、その力はすぐに弱まった。その先を私は覚えていない。なぜなら、いつもとは違い、私もすぐに寝入ってしまったからだ。