転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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世界観の不一致

「いや……なんかこう、忘れてたといえば忘れてたよね」

 

【なにがだい?】

 

「そういえばこんな世界観だったなって」

 

 小声でそうつぶやくと、ため息をついた。

 俺は今、裏返った世界に今度はゲーセンでの戦利品を両手に持って立っていた。小声なのは、バケモノから逃げてる最中だからだ。

 

「なんか専業主夫してる気分だったから忘れてたぜ」

 

【まあ平和だったのはいいことだよ】

 

「しっかし……遅いな」

 

【遅いね】

 

 いままではすぐに来ていたジャスティーヌが、なぜかまだ助けに来てくれてない。一応連絡はいれたが、既読すらつかないからなにか立て込んでいるのかもしれない。

 

「……っ!足音だ」

 

 息を殺しつつも、物陰からそっと顔だけ路地にだす。のっそりのっそりと、バケモノがこちらへと歩いてきていた。

 

「なあ神の使いさんや」

 

【なんだい?あまり喋らない方がいいと思うけど】

 

「確認したいんだが、裏の世界に来れるのって魔法少女だけだよな?」

 

【いや、一般人でも巻き込まれてしまうことがあるよ】

 

「ちくしょう……」

 

 俺は再び路地に目を向ける。バケモノはたしかに歩いてきているのだが、さらにその間に、男二人組が這いつくばっていた。足は怪我しており、その獲物の無力化を確信しているバケモノが気色悪い笑みを浮かべている。

 

「モブ二人組……」

 

 都合の悪いことに、その男二人組とは先日麻雀卓を囲んだ二人だった。なんかこう、名前も知らないふたりだけれど、一度関わりを持ってしまうとただ見逃すわけにもいかないというものである。

 

「なあ、どうにかならないのか?」

 

【バケモノをどうこうする力は僕にはないよ。もちろん君にもね】

 

「使えねえ野郎だな……」

 

 まあ仕方ないか。こいつは後処理担当であって、現場は魔法少女の独壇場だ。ったく魔法少女はなに道草を食ってるんだ。

 

「なあ、確かバケモノにとっては俺のほうがうまそうなんだよな」

 

【魔法少女の特性も持ち合わせた君なら、そりゃ彼らにとっては美味しいだろうね】

 

「……仕方ねえか」

 

【まさか囮になるつもりかい!そんな関わりのないやつらのために?】

 

「ばかやろう……一度でも顔合わせた連中に目の前で死なれると、目覚めが悪くなんだよ」

 

 俺は静かに変身し、物陰から出ていく。

 

「おいバケモノ!そんな腐った生肉なんかより俺のほうが美味しそうだろ!」

 

「ぐるるぅぁ」

 

 正直いってかなり怖い。俺だってバケモノに対抗できる手段はないのだ。でもやらなきゃいけない。正義の魔法少女が来るまでの時間稼ぎしか、俺にできることはない。

 

「あのときの魔法少女!」

 

「いけない!俺らなんか気にせずに逃げろ!」

 

「あはは、てめえらは黙ってな。神の使い野郎、こいつらは任せたぜ」

 

【くれぐれも死なないでくれよ?君がいなきゃジャスティーヌが戦えなくなる】

 

 ふよふよと浮かんでいる神の使い野郎が、なんともまあ不思議な力でモブ二人組を浮かして路地裏へとひっぱっていく。それも魔法なのかなあとで教えてもらえないだろうか。移動が楽になりそうだ。

 

「さて、ようやく二人きりだな」

 

「ぐるるるる」

 

 バケモノがファイティングポーズをとる。俺もそれにつられて拳を構える。

 静寂が二人の間に流れる。

 

 でも、俺がとる戦法はただ一つである。

 

「ぐるる……ぐぁ?」

 

 ふふふ、困惑しているな。

 

「捕まえれるもんなら捕まえてみな!」

 

 今日も今日とて、いつもどおり逃げ一筋である。

 

 突然のことで困惑しているのか、バケモノは止まっている。今のうちに距離を稼げそうだと後ろを振り返り、俺は絶望する。

 

 バケモノは手を地面につけていた。否、それは手ではない。バケモノは元から、4足歩行の生物だったようだ。

 

「……っ!」

 

 よだれがダラダラと出ている口から、鋭く尖った牙が見える。

 さすがの俺も、やべえと冷や汗を流した。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……バケモノ?」

 

 いつもどおり保健室で自習していた私は、覚えのある気配にさっと身構える。どうやら街にまた、バケモノが出現したようだ。

 

「先生、お手洗いに行ってきます」

 

「は~い」

 

 私はトイレに駆け込み、そして世界を反転させた。そして学校の屋上へとすぐに上がる。

 

「よし、バケモノの気配が……3つ?多すぎる」

 

 普段は1つしか感じないバケモノが、今日は3体もいる。

 チャットアプリの通知で私は我に帰る。通知は2件だった。

 

 一つはいつぞやの破壊型魔法少女から。一体は引き受けるとのこと。そしてもう一通は……お兄さんからのSOSだった。

 

 またかと思った私を許してほしい。あの人は巻き込まれないと気がすまないのだろうか。

 

「急がないと……」

 

 テレポートの魔法を使うために意識を集中させて、そしてすぐにその場を飛び退く。

 

「ぐるるぅう」

 

「こんなときに!」

 

 バケモノの攻撃を避けて、カウンターで一発叩き込む。威力は十分のようで、バケモノの片腕が吹き飛んだ。

 

「……嘘でしょ」

 

 バケモノはニヤリと口を歪ませる。吹き飛んだはずの片腕が再生していくのを見ながら、私は唇を噛んだ。

 

 神の使いさんから聞いたことがある。魔法少女を喰らったバケモノが、新たな能力を身につけることがあると。

 

「手こずりそう……お兄さん、待ってて」

 

 無謀なことはしないでおいて欲しいと願いながら、私は拳を握り直した。

 




(^^)
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