転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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新たな気配

「おはようございます、お兄さん」

 

「ん、ああおはよう」

 

 ソファで死にかけていた。今日は昼寝が捗りそうだな、すごく眠いや。

 

「あのあと寝なかったんですか?」

 

「ああ、神の使い野郎と話し込んじまってな」

 

「何を話してたんですか?」

 

「んー、男同士の内緒話ってところかな」

 

「……?」

 

 魔法少女が首を傾げるので変なことを言ったかとつい顔が動く。

 

「神の使いさんは男なんでしょうか」

 

 言われてみれば、そうだ。

 たしかに人間形態は青年の見た目をしているが、果たしてオスメスのどちらかという区分ができるものなのだろうか。どちらでもない、もしくはどちらでもあるっていうのも考えられる。

 

「この謎を追求すべく、我々はアマゾンの奥地へと旅立った」

 

【待ちなよ、勝手に変なところまで行かないでくれ。安心してくれよ。僕は生物学上で言えば男だよ】

 

「ちぇっつまんねぇな」

 

【お望みなら女性の姿にも慣れるけど、女所帯のほうが良かったかい?】

 

「……イエイマノママデオネガイシマス」

 

 なんか気苦労が多くなりそうなので丁重に断っておいた。変なストレスをかけられてもこまるからな。

 

「ほら、遅れるぞ。はやく支度してこい」

 

「はい……」

 

 魔法少女は少し悩んだそぶりをみせたが、すぐに顔を洗いに洗面所へと向かっていった。

 まあ嘘は話していないしいいか。俺の朝ごはんの準備をしなければ。

 

 

「行ってきます」

 

「おう。気をつけてな」

 

 玄関で魔法少女を見送れば、俺の時間が始まる。と言っても今日は、睡眠不足の解消から始めなきゃいけないのでそれほど時間があるわけでもないけれどな。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 最近おかしい。とくにここ数日だ。バケモノが強くなっていたりお兄さんの様子がおかしかったりもあるけれど、一番おかしいのは私の体だ。

 

「桃木さん?具合でも悪いの?」

 

「いえ、お腹が空いてきただけです」

 

「あら、朝ごはんは?」

 

「ちゃんと食べました」

 

「育ちざかりだものねぇ~」

 

 お兄さんにこのことを言っても、同じ言葉が返ってきた。でも自分の体は私が一番知っている。もともと最低限しか食事をしない私の胃は、むしろ少食気味で、ましてやこんな腹ぺこキャラのようにすぐにお腹が空くような体ではないはずだ。

 

「空腹を感じるのは良いことよ。最近の若い子はダイエットだーって絶食しちゃうケースだってあるのよ」

 

「そうなんですか」

 

「今や大問題よ?中高の頃なんてそこまで気にしなくてもいいのにねぇ。むしろちゃんと食べないと育つところも育たなくなっちゃうわ」

 

「……?」

 

「身長とか……胸とかね?」

 

「なるほど」

 

 つまり空腹を感じている間は可能性があると。お兄さんも同じなのだろうか。いや、アレ以上育たないでもらいたい。別に嫉妬しているわけではないが、ずっと女として生きてきた手前、越され続けるのはなんだか気にかかる。

 

「でももちろん、食べすぎはダメよ。生活リズムもくずれるからね。夜食なんてもってのほかよ」

 

 ギクリとする。昨晩の出来事を思い出した。真夜中に二人で食べたカップ麺は、とても美味しく感じた。それこそ、夜食が常態化してしまう気持ちがわかるほどに。

 

「まあこんな言ってる私もたまにはするんだけどね。やっぱり美味しいものは美味しいし」

 

「美味しいですよね。でも私も強く言われてるのでたまにしかしません」

 

「あら、お姉さんに?本当に仲が良いのね」

 

「ええ、まぁ」

 

 良いといえば良い方なのだろう。少なくとも嫌われてはないと思う。じゃないとここまで世話してもらえないだろう。お兄さんには与えられてばかりだ。何か返せるものがあるといいのだが、『金もらってるからな』なんて言っていつも断られる。あれ、やっぱり嫌われているのだろうか。距離感がよくわからなくなってきた。

 

「……、お手洗いに行ってきます」

 

「はーい」

 

 保健室から出て廊下の空気を吸えば、少しは落ち着いてくる。

 しかし落ち着いている場合ではない。またバケモノの気配を感じたからだ。最近は頻度が高い気がする。バケモノ自体の強さもあり、油断はできない。

 

「変身……」

 

 世界が裏返る。気配は遠くはない。走っていけば間に合うだろう。幸い、巻き込まれたらしき気配はない。方向を見定めてあるき始めた私は、すぐに足を止めた。

 

「へぇ、君が正義の魔法少女か」

 

 廊下の先、そこには私と同じ学校の制服を着た少女が立っていた。

 

「あなた、何者?」

 

 気配が一切しない。まるでそこに存在しないかのように。しかし、たしかにそこにいる。視覚情報に嘘偽りがなければ、たしかに目の前にいるはずだ。

 

「まあまあ、今日は顔合わせのつもりだからさ。そう怖い顔しないでよね」

 

 ヘラヘラと笑う顔は、どこかお兄さんに似ていた。

 

「怪しい人に口で尋ねたのが間違いでした」

 

 私は拳を握り、構える。

 

「その体に直接聞くことにします」

 

 この拳が効かなければコッチ側、そうでなければアッチ側。

 

「怖いねぇ。ま、今日は立ち寄っただけだからさ。ここに長居しすぎても問題だし、ここらへんでお暇させてもらうとするよ」

 

 そういうと目の前の少女はかき消えた。まるで霧が晴れたかのように。

 

 そしてそれと同時に感じる圧。バケモノがすぐ近くまで来ていることをすぐに察知する。

 

「神の使いさんに報告しないと」

 

 心どこかここにあらずな状態のまま、私は引き寄せられるかのようにバケモノの方へと向かっていった。

 

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