転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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お久しぶりです。リハビリを兼ねて久々に筆をとっています。至らぬ点がありましたら、申し訳ないです。


鼓動

 バケモノが強くなってきているというのは薄々感づいていたから、それほど驚きではなかった。問題は、私が弱くなってきていることだ。今日の戦闘での被弾は、決して油断が原因じゃなかった。ましてや、その直前にあった謎の人物のせいにもできない。

 

 仕留めたと思った。手応えも感じた。戦った感じだとバケモノの強さはいつもどおりだった。

 なのに、私の渾身の拳を受けてなおバケモノは立ち、反撃へと転じた。攻撃のために無防備になっていた私は初撃で吹き飛び、追加の二撃目で穴が空いた。普通なら即死だろう。魔法少女というだけでも生死は怪しい。私がその後にバケモノを倒すまで戦えたのは、あちら側の世界とこちら側の世界の狭間に自分を置いたからだ。そのせいで、こちら側に戻ってきても消えぬ傷跡がお兄さんに見つかった。

 

「どうして……」

 

 疑問を口に出しても、出てくる答えは唯一つ。お兄さんの存在だ。不具合なのか、それとも予定調和なのか。怖くて神の使いさんには聞けない。

 

 もし、自分が魔法少女の力を失ったらどうなるのだろうか。もし一般人のような生活に戻れるというのなら、それも良いかもしれない。けれどそうなった場合、お兄さんや神の使いさんとはお別れになってしまうのだろうか。

 

「おーい、晩ごはんだぞ~!」

 

 考えていても仕方がないのかもしれない。部屋まで届く匂いを感じ、私は食卓まで急いだ。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「この世の理、か」

 

 誰もいない公園で、少女はほくそ笑む。

 

「まったく、嫌な役回りだよ。でも、仕方のないことなんだ」

 

 少女が地面に手をかざせば、土の下からバケモノが出てくる。バケモノは犬のように少女の手に顔をこすりつけた。

 

「ほら、お食べ。君も、歯車の仲間入りさ」

 

 そういってバケモノに差し出したのは、未だ動き続ける心臓である。否、未だ動き続けているのではなく、動かし続けさせられているという表現が適切だ。

 

「自分の作ったシステムを忘れるだなんて、神様も随分と馬鹿なのかな。それとも、ただ単純に昔すぎて覚えていないのか」

 

 心臓を喰らいつくしたバケモノは、空高くへと飛び上がっていく。

 

「まったく、なにが『自浄作用』だ。魔法少女の手がないと成り立たない、不完全なシステムじゃないか」

 

 愚痴を漏らす少女の目の前に、突如として別の少女が現れる。

 

「……何のつもり?」

 

「いえ、知り合いにちょっかいをかけてる人がいるって聞いたので」

 

「へぇ、破壊特化の珍しい能力持ちか。しかも神の使いを連れていないときた」

 

「……っ。やはり危険ですね。あなたはここで私が——」

 

「いい餌が自ら来てくれて感心だよ」

 

 一面が血飛沫で染まるのに、それほど時間はかからなかった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「うおっびっくりした」

 

 魔法少女を見送った後の訪問者に、俺は思わず声を上げてしまった。いつぞやの魔法少女さんである。

 

「あの、お兄さん。実は……」

 

「……長くなりそうなら家の中でどうだ?」

 

「お邪魔します」

 

 最近は嫌な予感があたりすぎており、そろそろ占い師にでもなろうかと思ってきたところである。まあ冗談だが。

 

「それで、どうして学校サボってまでうちに?」

 

「実は……先日、変な少女が訪ねてきてましたよね」

 

「ああ、たしかに。ただ危害は加えられなかったぞ?」

 

「ええ。ですが、明らかに怪しかったので後をつけていたところ……」

 

「どうした?言いにくいことか」

 

 突然言葉が詰まった彼女が心配になり、顔を覗き込む。明らかに様子がおかしい。

 

「触らせたほうが早いですかね」

 

「ん?な、なにを」

 

 彼女はおもむろに俺の手を握ると、自分の胸に押し当てた。しかし、柔らかい反発を堪能するまもなく、背筋に冷たいものが走る。

 

「心臓が?」

 

「はい……やられちゃいました」

 

 軽く笑う彼女の話によれば、一瞬で心臓をえぐり取られたらしい。いそいでこちら側の世界に戻り逃げることで難を逃れたものの、敵に心臓を取られたままということらしい。

 

「……これからどうするんだ?」

 

「ははっどうしましょうか。そもそも私って、死人なんでしょうか」

 

「まあ待て」

 

 落ち着かせるために、俺は彼女の肩に手を置く。

 

「どういう原理かは俺はわからんが、まだこちら側ではちゃんとお前は生きてる。だからそんなことを考えるな」

 

「だって私……私ぃ……」

 

 こっちの胸に顔を埋めて静かに泣く彼女は、普段とは全く違う。まあそれも当然か。あまりの出来事で俺に至っては状況がいまいち飲み込めてない。

 

 

ガチャリ

 

「すみませんお兄さん、忘れ物を——失礼、すぐに出ていきます」

 

「待て魔法少女!絶対誤解してる!」

 

「お邪魔しました。あれ、私の家ですよねここ」

 

「そうだ、だから何の問題もないぞ!」

 

「では同居人が女を連れ込んで泣かせていたとしても……?」

 

「じ、事情が事情だから問題はないぞ!だからまずは話を聞け!」

 

「でも遅刻しちゃいますし……、わかりました」

 

 かばんを置いた魔法少女は、俺たちの対面のソファに座りこむ。どうやら、並ならぬ事情だと察してくれたらしい。

 

「……もう一度話せるか?」

 

「はい……実は」

 

 魔法少女は頻繁に相槌をうっていたが、俺は二回目だというのにさっぱりだったのであった。

 

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