転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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久しぶりの更新だったのにたくさんの方に見てもらえたようでなによりです。感想評価もありがとうございます。


神に一つ

「このくそったれ……」

 

 俺は一重にバケモノをにらみつける。しかしバケモノは何の感情も浮かべぬ瞳のまま、再び俺へと口を開く。

 

 息を呑む音が聞こえた。

 

「避けろって……言っただろ」

 

 涙の流れる顔を、そっと撫でる。

 

「%△#?%◎&@□!」

 

 どうやら、さっきのブレスで耳までやられちまったらしい。

 

「そう喚くな。どうせ聞こえねえしな」

 

 俺は構えたまま静止してるバケモノから、その近くに浮かぶ謎の少女へと目線を移す。

 

「まるで理解できねえって顔してんな。でも、お前には一生をかけても理解できないさ」

 

 俺は残った腕で体を起こして口を開く。

 

「お前の負けさ、謎の少女。お前が信じる神にでも祈りな」

 

 ああ、痛みという概念がこの世界になくて良かった。さもなくば俺はとっくにショック死していただろうから。

 

「□&○%$■☆♭*」

 

「だから今、俺耳聞こえないんだって」

 

 瀕死の状態で俺は、目の前に立つ背中にそう返す。

 どこかで戦ってきた後なのだろう。あちこちに傷が見える。そこからここまで来るのにどれほどのスピードで飛んだのか、服はボロボロだ。しかし、ただの少女であるはずの背中は随分と大きく見えた。

 

「ったく、正義ってのはこういうのでいいんだよこういうので」

 

 俺は、その背中にすべてを預けて目を閉じた。聞こえるのは殺戮の音。大きな獣の叫ぶ声。そして……甲高い子供の声で叫ぶ誰かだ。

 

 そして数分もすれば、静けさがおとずれる。

 

「いますぐ神の使いさんを呼びますからね、待っててください」

 

「あれ、聞こえるようになってきたや」

 

「というか、よく意識を保てますね、お兄さん」

 

「そりゃもう、見ない感じないように心がけてるからな」

 

 この世界での怪我は現実世界に持ち越されない。そのセオリーを知ってるからこそ、下半身が吹き飛んでいても会話ができる。

 

「遅くなってすみません」

 

「なに、間に合ったから良いさ。世の中結果論だ」

 

 もう少し遅れていたら……なんて考えたくもない。決死の思いで一度、元魔法少女ちゃんを救ったってのに、二度目でもろとも消し飛ばされるところだった。

 

「というか、なーにが弱くなってるじゃ。圧倒してたじゃねえか」

 

「それが……私にもよくわからないんです。でもなんだか、力が自分のものになったような感覚がします」

 

 うちの魔法少女弱体しまくってるとか聞いたから、俺めっちゃ焦ってたんだぞ。俺を守ってくれるのは魔法少女だけなんだからな。

 

「まあ、よくわからん覚醒イベントが起きたってなら、それでいいや」

 

「お兄さんは相変わらずですね」

 

「そりゃもう、俺は思うがままに生きてるからな」

 

 大穴が開いた家で、俺と魔法少女はそう笑いあった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ってことがあったんだよ。なあ、どう思うよ」

 

【……】

 

「なあなあ、黙ってないでよ~なんとか言おうぜ神の使いさんよぉ~」

 

 グリグリとしてみても、何の反応もない。もしやただのぬいぐるみに成り果ててしまったのか……?

 

【失礼な。僕は至って真剣だよ】

 

「真剣ねぇ。まあ治療してくれた恩くらいは返すけどよ」

 

【今日の晩ごはんも美味しいね。さすがだよ】

 

 今日の献立は焼き鮭と味噌汁。心と体に沁み入るTHE和食ってやつだ。小鉢にほうれん草のおひたしも忘れていない。

 

「お口にあったようで何より。それはそうとだな……」

 

 俺は、思いに思っていたことを話す。

 

【神に会いたい?】

 

「ああ、そろそろ流石にな」

 

【まったく、会いたいって言って会える存在だと思うのかい?】

 

「まあ、そりゃそうだよな。確かにそうだ」

 

 少し考えてみればわかることだ。もともとダメもとの相談だしな。

 

【と僕も言いたいんだけどね。実は呼び出しがかかってるんだ】

 

「呼び出し?俺に?神の野郎から?」

 

【僕は反対だったんだけどね。でも僕には拒否権はないからね】

 

 そういうと神の使いは箸を置き、俺の腕に手を置く。

 

【ちょっと痛いかもだけど、我慢してね】

 

「えっ?」

 

 そう疑問の声を上げたが最後、俺の脳みそはまるで荒波に揺られているかのようにぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「うっ……おぇぇぇ」

 

【大丈夫かい?】

 

「これが大丈夫に見えるか?なんだよ今のは」

 

「それが人間の限界を超えたときの感覚だよ」

 

「ん、誰だ?」

 

 そう言ってえづいていた顔をあげると、そこにはいかにもな服を着た一人の女性が立っていた。しかし、理解できたのは目の前の存在が神らしき女性というところまでで、顔の造形や細かなボディラインなど、その他全くのことは脳が拒否して理解することができなかった。

 

「やあ。君にとっては初めましてだね。私が神だ」

 

「随分とおもしれえ自己紹介だな。まあ初めまして」

 

 挨拶だけは返しつつも、俺はここに来た目的を忘れずに頭で繰り返す。

 

「まあまあ。はやる気持ちもわからなくもないが、まずはお茶でも一杯どうだい?」

 

「あいにくとここに来たときの体調不良のせいで口にものを入れる気にはなれないんでな」

 

「そうか、実に残念だ」

 

 本当に目の前の存在が神なのか、今でも疑問である。しかし、脳みそのどこかが、ここに来てからずっと警鐘を鳴らしていた。自分がここにふさわしくない人物であると、頭の中に言葉が溢れる。

 

「そんで、そっちの呼び出しって神の使いの野郎に聞いたんだが、何用だ?」

 

「随分とマイペースな人間だね、君は」

 

「使い野郎に聞いてないのか?俺はこういう人間だって」

 

「まあいいさ。この際だから君の態度も赦そう」

 

 早く目の前の超常的存在から離れて家に帰りたいと叫ぶ足を抑えながら、俺はどこからともなく用意された椅子に座る。

 

「さて、本題に入ろうか」

 

「できるかぎり簡潔に頼むぜ」

 

「じゃあ直接的に言おう。君の役割は終わった。おめでとう、君は自由だ」

 

 パチパチと拍手する神の顔は、軽く笑っているようだった。

 

「随分と唐突じゃねえか」

 

「それはそう。だって私たちもこのタイミングとは思わなかったからね」

 

 神はどうして役目が終わるかを、つらつらと説明し始めた。

 

 つまりはこういうことらしい。

 魔法少女が不安定だからこそ俺の存在が必要とされていたが、ここ最近はより一層不安定に陥るばかりで廃棄する気でいた。しかし、先日突如として魔法少女は完全な安定状態へとなった。だからお役御免。そして原因不明ではあるものの安定状態になるまで支えた功績により、処分はやめて放流。

 

「まるで便利な道具かなにかみたいだな」

 

「私にとって、自らが創り出した君の存在は道具と同じさ」

 

「神らしいクソみたいな発言ありがとよ」

 

「感謝の言葉だけ受け取っておこう」

 

 神様というものは、どうやらこれくらいの罵倒では気にも留めないらしい。随分と寛容だこと。

 

「じゃあ俺からも一ついいかな」

 

 俺は椅子から立ち上がり、神の側へと歩いていく。持ってくれ、俺のガクガクブルブルの足よ。

 

「なんだい?急に近づいて」

 

 きょとんとする神に、俺は最大限の力で拳を叩き込む。ボディなんてヤワなことは言わず、顔面に、得意の右フックを叩き込む。

 

「すまねえ、一つじゃなくて一発の間違いだったわ」

 

「君ねぇ。あまりにも命知らずじゃないかい?私は神だよ」

 

 俺の拳は、たしかに神の頬を捉えていた。しかし、神にあたった瞬間、その勢いはどこかへと消え去ってしまった。今は、ただ俺が神のほっぺをグーの拳で押してるだけだった。

 

「いや、どうせこんなもんだと思ったし、いいんだよこれで」

 

 神なんて殴ったらどんな天罰があるかわかったもんじゃない。でも、一発でいいから俺は殴りつけてやりたかった。

 

「まあ、君が満足したのならそれで良いけど」

 

「むしろ、こんな無礼をしてもお赦しになる神に感謝ってやつだ」

 

「久々だね。その感謝という言葉を直接向けられたのは」

 

「かわいそうな職業だことで」

 

「君と私は似たもの同士だろう?」

 

「どういうことだ?」

 

「どちらも、生まれながらに存在の意味が用意された者同士ってことさ」

 

「確かに……そうかも知れねえな」

 

 今の俺の体は、目的のために用意されたただの器だ。

 

「でも、決定的に違う点がある」

 

「聞いてもいいかな」

 

「俺は、『俺』という意識は、けっして舞台のために用意された存在じゃないってことだ」

 

 それだけ言い残すと、俺は端の方に控えていた神の使いの方へと歩み寄る。

 はやく帰ろう。まだ夕食は途中なのだから。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「用意された存在じゃない……か」

 

 あの人間はやはり面白い。久々に覗く人間界で、こんなにも愉しい出来事に相まみえるとは嬉しい誤算だった。

 

「しかもあの男。神に殴りかかるとはね」

 

 私に攻撃をしようとする人間がいるなど、思ってもみなかった。

 

「しかし、どうして私は殴られたのだ?」

 

 ダメージこそなかったものの、私は頭を悩ませていた。そして、あの男がダメージがなかったことがわかっていても満足そうな笑みを浮かべている理由なぞ、私の頭脳をしても考えつかなかった。

 

「まったく、気まぐれで拾ってみれば、じつに興味深い人間だ。この人間が死ぬまで、地球を眺めてみてもいいかもしれない」

 

 そうして私は、久しぶりに地球へと目を向けたのだった。

 そこにある、壊れきった歯車で出来た自浄機関を見つけるまで、人間の感覚でもそう時間はかからなかった。

 

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