転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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おやすみ

 よし、BBQをしよう。

 

 なんだ唐突だなって?そりゃもう、決まってるだろ。なんか強そーな奴撃退した祝いをしなきゃなんねえだから。

 

 今日はもう奮発も奮発。今月の残りの食費予算を切り崩すレベルで食材を仕入れてきた。

 

「お、お兄さん……?こ、これって」

 

「ふふふ、見た目はエグみがあるが、まあ任せておけって」

 

 この日のために、俺は肉屋の店主と仲良くなっていたと言っても過言ではない。

 

「肉屋のオリジナルソーセージをカリッと焼いて、んでパンにレタスと一緒に挟んで……よしっ、特製ホットドッグの完成だ」

 

 研究を欠かさなかった俺と店主のおっちゃんの涙の結晶でもあるソーセージは、こりゃもう目から涙が溢れるほどのジューシーさで俺を圧倒する。

 

「い、いただきます」

 

 ちっさい口でもぐもぐとする魔法少女は、一口目ではソーセージにたどり着けずに必死にかぶりついている。口が止まらないところを見るに、お気に召したようだ。

 

「よーし、他もどんどん焼いてくぞ!」

 

 俺の目が黒いうちは好き嫌いなんて許さない。下拵えを済ませた肉とともに野菜も焼きまくる。

 

「あの……」

 

「なんだ?まさか好き嫌いか?」

 

 網奉行をしている俺に元魔法少女が話しかけてくる。残念ながら、彼女の能力が戻ってくることはなかった。

 

「いえ、その……本当に私もここにいて良かったのかなと」

 

「なんだ、そんなことか」

 

 深刻そうな顔をするもんだから、つい食えないものでもあるのかと思った。アレルギーのチェックも忘れていたな。

 

「おい元魔法少女」

 

「ひゃっ、はい!」

 

「アレルギーとかあるか?」

 

「ないです!」

 

「なら良し」

 

 俺はその答えを聞いて安堵しながら、元魔法少女の持つ皿に焼けたものをどんどん乗せていく。

 

「あ、あの……その……」

 

「たんと食えよ」

 

「ま、待ってください!」

 

「ん?どした?」

 

「い、いや何でもないです……体重オーバーしちゃいそう……」

 

 最後の方がボソボソと喋っててよく聞こえなかったが、まあ問題ないだろ。よく食う子は好きだ、おかわりもいいぞと言っておく。

 

【僕も貰ってもいいかな】

 

「おう、もちろんよ」

 

 そう答えると、神の使い野郎はグネグネと姿を変える。みるみるうちに成人男性の姿になった奴は、カシュっといい音を立てて銀色の缶を開けた。

 

「ぐっ……」

 

「おっと、君はダメだよ。まだ数年早い」

 

「わかってらぁ……」

 

 一度だけ、一度だけ試したことがある。そのあとめちゃくちゃ魔法少女に怒られたのだが、そんなのは些細なことだ。何ともまあこの体、アルコールに対して耐性が低すぎたのだ。

 

 俺は新しい皿を取り出して、だいたい全ての肉と野菜を取り分ける。他の奴らが自分の皿に夢中になっている中、家の門の方へと向かう。

 

「なに?」

 

「食わねえか?上手く焼けたんだ」

 

「慈悲のつもり?」

 

 謎の少女がそこには座り込んでいた。少女は俺から皿をぶんどると、ガツガツと食べ始めた。

 

「美味いか?」

 

「さあね。でも地獄への土産話にはちょうどいいかも」

 

 謎の少女は減らず口を叩きながらもモグモグ口を動かしている。どうやら舌までも、魔法少女と瓜二つらしい。

 

「まだ地獄に行くと決まったわけじゃないだろ?」

 

「それじゃあ、あなたが神さまに交渉してみれば?」

 

「うーん」

 

 俺は腕を組んで考え込む。

 

 この謎の少女はもうしばらくすれば自然に消える。そう答えてくれたのは神の使い野郎だった。奴がいうのなら、そうなのだろう。嘘をついている感じはしないし、つくメリットもない。

 

「所詮、私は神に仇なすために生まれてきた存在だもの」

 

 食べ終わった皿を俺に返しながら、少女はそう言う。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末さまでした。ああ、飲み物を持ってきてやるから待ってろ」

 

「いや、いらないよ」

 

 振り向くと、そこには既に体が透けかかってる少女がいた。魔法少女と瓜二つの容姿だからか、無性に心が痛い。いや、これは違うな。目の前の少女を救えない自分が情けないのだ。

 

「なに、仏さんも、一杯やるくらいは待ってくれるさ」

 

 俺は少女の方を向かないようにして、急いで庭へと戻った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「というわけだ。どうだ?」

 

「うんうん、それが本当に君の望むことなのならね」

 

 串に刺さった肉を頬張りながら、神の野郎はアウトドアチェアにもたれかかった。

 

「もちろんだ。だが、そんなに軽くできるものなのか?」

 

「私は神だからね。むしろ君には詫びたいところなんだよ。少し厄介ごとを抱えていたとはいえ、目を離している間に地球がこんなことになっていたなんてね」

 

 神は俺との対峙のあと、すぐに魔法少女に頼り切ったシステムを撤廃した。元々、地球が混沌に包まれていた時代に作ったシステムらしい。混沌ってなんだよ歴史で習ってねえぞと言ったら、これだから人間はという目で見られた、解せぬ。

 

「とにかく、その詫びとして俺の提案をのんでくれないか?」

 

「……まあ、君が望んでいるのなら、私はそれで構わないよ」

 

「ああ、頼むよ」

 

 決行は、今日の夜になった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「お兄さん?」

 

「ん?ああどうした?」

 

 ホットミルクを片手に少しぼーっとしていたみたいだ。気づけば、魔法少女が心配そうにこちらの顔を覗き込んできていた。

 

「いえ、ただなんだか、思いつめているような顔をしていたので……」

 

「大丈夫だ。それより、寝れそうか?」

 

「はい。お兄さんのおかげです。ちゃんと食べて寝る。前のように疎かにできなくなっちゃいました」

 

「そりゃ何よりってもんよ」

 

 人間、とりあえず寝て食ってりゃなんとかなる。

 

「お兄さん、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 笑顔を浮かべる魔法少女を前に、俺は言葉につまり、結局それだけしか言えなかった。

 

 

おやすみ

 

 

そしてさようなら、だ。

 




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