転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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本日2本目
評価や感想のおかげでここまでこれました。本当にありがとう。


変身ってもっとこうなんかあっただろ

「あーどれもこれも目移りしちゃうわ〜」

 

「随分と楽しそうだね」

 

「そりゃもちろん。買い物で散財する瞬間って気持ちよくねえか?」

 

「まあ、そこは僕としてはどうでもいいんだけどね?」

 

 どこにでもいそうな印象の薄い青年は苦笑する。

 

「どうして僕まで連れ出されているんだい?」

 

「そりゃ、荷物持ちだろ」

 

 人間形態となった自称神の使いさんを連れて、俺はホームセンターへと来ていた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「僕についてきて欲しい?」

 

 犬のデフォルメされたぬいぐるみのような姿でふよふよ浮かぶソイツを捕まえたのは、今の俺の姿じゃ色々と面倒なことがあるからだ。

 

「僕は神の使いだよ?君の指示を聞くわけがないだろう」

 

 すまし顔でそういうやつに、俺は3本の指を突きつける。

 

「なんだい?その指は」

 

「3つだ」

 

「3つ?」

 

「お菓子、3つ買うことを許そう」

 

「ふむ、この僕に交渉ごとか」

 

 ニタリと不気味な笑みを浮かべる。浮かべてはいるが今の姿がぬいぐるみだから怖くない。むしろ可愛い。

 

「僕は神の使いだよ?たかがお菓子3つくらいで——」

 

「値段制限なし」

 

「さぁ、早く行こう。お菓子が売り切れてしまうよ」

 

 随分と現金な神の使いもいたもんだ。

 

 

 こうして俺と自称神の使いの人間形態さんは、まるで仲の良い兄妹のように振る舞いながら買い物に来たのであった。

 

「ねえ、君」

 

「なんだよ、何か文句でもあんのか?」

 

「いつまでそうしているつもりだい?」

 

「……さぁな。もしかしたらもう2度と、元には戻れねえかもしれねえ」

 

「馬鹿なことを言わないでくれ。僕の魔法少女はどうするんだ」

 

「まあそうかっかせずに、まずは座れよ。ダメになるぞ」

 

「たかがクッションごときで何を言っているんだ。それより限定販売のお菓子が売り切れたらどうするんだい?」

 

 俺はすくっと立ち上がり、うるさい奴をクッションに押し倒す。

 

「所詮は人族。この程度の心地よさでダメになるだなんて弱い!」

 

 包み込まれるような柔らかさの中に確かな硬さを備えたそれは、神の使いをすっぽりとおおいこむ。

 

「くくく、くははは!」

 

「な、何がおかしい」

 

「顔、蕩けきってるぜ。自称神の使いさんよぉ〜!」

 

「ば、バカな。僕は神の使いだぞ!」

 

「口は回るようだが、体は正直だなぁ」

 

「くっ……」

 

 この寸劇はショップ店員から憐れみの目で見られるまで続いた。

 

 そんなこんなを乗り越えながら、俺たちは必要なものだったりそこまで必要ないかもしれないけど俺が欲しいものだったりをカートに乗せながら、ホームセンターを巡り巡った。

 いや、買いすぎたな。これじゃあ神の使いが3人いても厳しいレベルだ。

 

「い、いらっしゃいませ〜」

 

 やたら額に汗を浮かべた女性店員のレジに行くと、震える手でバーコードを通していく。

 なにかおかしい様子だったのでじっと目を見ると、目があった女性店員は取り繕うように営業スマイルを浮かべた。

 

 嫌な予感というのだろうか。背筋にゾクリと走る感覚が、俺の足を動かした。

 

「ケタ、ケタ、ケタケタケタケタケタ」

 

 営業スマイルを浮かべた頭がずるりと落ちる。

 

「なぁ神の使いさんや」

 

「ああ、そうだね」

 

 俺たちは2人揃ってゴクリと唾を飲み込む。

 

「俺、今日風呂一人で入れなさそう」

 

「そう、これは君を襲ったバケモノと……えっ?」

 

「ホラーとかお化け屋敷とか大の苦手なんだよ俺」

 

「待って?君もしかして」

 

「ああ、少し出た」

 

「ちがうそうじゃなーーい!」

 

 自称神の使いは俺を突き飛ばす。さっきまで俺がいたところは、頭の取れた胴体から伸びてきた触手のようなもので粉々に破壊された。

 

「そうだったまだ聞いてなかった!なんなんだよいったいこのバケモノは!」

 

 抜けかけた腰にしっかりと力を入れて、次撃はなんとか自分の力で避ける。

 

「そうだね、説明しよう」

 

「ばっかそんな暇あるか!3行で言え!」

 

「・表世界に出てこない裏の世界の住人

 ・表世界の人間好物、ニンゲンクウ

 ・たまに波長ずれて裏世界に行ってしまう人間がいる」

 

「簡潔でありがたいこったぁ!」

 

 てかやばい死ぬ死ぬ。こちとら元一般男性の現TS美少女やぞ。バケモノ相手に戦えるはずが……

 

……いや待て。俺が魔法少女と瓜二つということは、つまり変身できたりなんだりできるのでは?

 

「うぉぉ!やってやらぁ!」

 

「急にどうしたんだい!頭でも打ったのかい」

 

「知るかーー!うぉーーー!」

 

 なんか叫んだらいける気がしてきた。

 

「へん……しん!」

 

 そう叫ぶと、急に足元に魔法陣が生成される。次第に強くなる光に目を細めれば、体を覆っていくナニカを感じる。

 

 光が収まりようやく目を開ければ、ガラスに反射したそこには痴女がいた。

 

「……、お前らの神って変態?」

 

「そんなわけないだろう!変身は自らの理想の姿になる魔法さ!つまりはそのニチアサで敵の女幹部キャラで出てきそうな姿こそが君の理想ということさ!」

 

「馬鹿やろう!こんな姿でニチアサに出られるか!」

 

 いや、そういえばそんなのいた気もするけれど現実的に考えればやべえ格好だったんだなあれ。まあそれはともかく。

 

「これで対等に渡り合えるわけだ」

 

 ふふ、拳が鳴るぜ。前世の上司への恨みとともにぶち飛ばしてやる。

 

「喰らえ!必殺パンチ!」

 

 叫びながら助走をつけ、できるだけ高く飛び上がる。放物線の頂点に達し体重分を上乗せして拳を繰り出す。

 

「漏らした恨み!!!」

 

 

ペチン

 

 

「そしてこれは濡れたパンツの分!!!」

 

 

ペチン

 

 

「そしてこれは上司の……」

 

 振りかぶった拳を俺はスッと下げる。

 

「あのさ」

 

「なんだい?」

 

「もしかして俺って変身しただけか?」

 

「これは僕の推論だけどね?」

 

 自称神の使いはいつのまにかかけていたメガネの位置をなおす。きらりと光を反射するレンズがうざい。

 

「僕の魔法少女は裏世界の住人に特効のある力を持っている。そして君はその反転だ。つまりは君は表世界の住人に特効のある力を持っているのではないかな?」

 

「長い。簡潔に」

 

「君、裏世界ではただの中学生女子くらいの力しかないよ」

 

「最高だな」

 

 触手がずるりと腰のあたりに巻きついてくる。服という防備のないお腹は、そのヌメヌメしたようなそれでいて毛虫のようなイヤな感覚がダイレクトに伝わってくる。

 

「おいおい、死んだわ俺」

 

「何を言ってるんだい?」

 

 自称神の使いは余裕そうに笑ってやがる。後で表世界に帰ったら拳の実験台にしてやると心から誓う。

 

「僕の魔法少女は、正義のヒーローだよ」

 

 突如上から、とてつもないスピードで何かが落ちてくる。家具か?照明か?はたまた天井か?否、どれも違う。

 

 正義の魔法少女だ。

 




流石に1日2本投稿は今日か明日までが限界だと思われます。あしからず
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