転職先は正義の魔法少女の悪側面【完結】   作:畑渚

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説明すこし多めな回
感想読んでたらいつのまにか書いてた(早朝)


表裏と正義

 俺の目の前に現れた彼女は、フルオーケストラがバックで流れてそうなほど綺麗なヒーロー着地をキメた。膝に悪いからやめるように後で助言しておこう。

 

「待たせてごめん!正義の魔法少女ジュスティーヌ、悪い奴らは許さない!」

 

 ふりふりのスカートをはためかせながら、決めポーズをして彼女は叫ぶ。

 

「ジュスティーヌ!彼はヌメヌメしてるから気をつけて!」

 

「任せて神の使いさん!」

 

 今朝の丁寧な口調とはうってかわって、彼女は自信いっぱいの笑みを浮かべながらファイティングポーズをとる。それに応えるように、触手は俺をぺっとはじき出して戦闘態勢に入った。

 いや、俺が掴まれた意味よ。粘液みたいなのも触られた感触ものこってて最悪だ。しかも頭もぶつけてたんこぶができてる。許せねぇ。

 

「お兄さんは下がっててください!」

 

「言われなくてもそうするよ」

 

 まったくただの買い物にきただけってのに最悪な気分だ。年下の女の子にへこへこしながら距離をとる。あーもうヌメヌメがとれねえ。早く帰ってシャワーが浴びたい。

 

「なあ神の使いさんや」

 

「なんだい?」

 

「裏世界で起きたことって現実ではどうなるんだ?」

 

「ふむ、余裕もできたことだし説明しておこうか」

 

 俺たちは少女とバケモノの戦闘音をBGMにしながら、ホームセンターの展示のソファに腰掛ける。あ、座り心地いいな、これも買おう。なんなら俺のベッドとして内定をあげても良いくらいだ。

 

「裏世界は表と似て非なる世界。一枚のコインというのがわかりやすいたとえかな」

 

「じゃあ、裏世界でこんなことをしたらどうなるんだ?」

 

 俺は財布に入ってたレシートをちぎり捨てる。

 

「それはこうさ」

 

 天使の使い野郎の手元が歪む。そこには、ちぎったはずのレシートが映っている。

 

「干渉しない?」

 

「まあだいたいそんなところさ。でも2つの世界の歪みが大きすぎると……世界が修正しようと力を働きかける」

 

「大きすぎるってどんくらいだ?」

 

 ドゴンと大きな音をたてて壁が崩れる。みれば魔法少女がべとべとになりながらも、触手を投げ飛ばしたあとだった。

 

「あのくらいは大丈夫だよ。ただ建物全体が崩れるくらいだとダメだね」

 

「へぇ、都合がいいようにできてんだな」

 

「そりゃ僕は神の使いだからね。神なんてご都合主義の塊のもとでそれくらいの保証はされているさ」

 

「まあそれもそうか」

 

 しかし神か。行事ごとのみのエンジョイ勢だった俺にはよくわからないが、まあ魂のうんぬんカンヌンができるってんだから実在するのだろう。

 せめてこう、もっといい感じにして欲しかったけれど。主に変身周りとか変身のあたりとかそこらへんを。

 

「しっかし……ほんとに強いな」

 

「今回は彼女も苦戦しているほうだよ」

 

「へえ、あれでか?」

 

 先程からほぼ一方的にぶん殴ってるようにしか見えない。正義の魔法少女と聞いたときはニチアサの時間帯にありそうなアレを思い浮かべていたが、今は彼女が国旗の印刷されたマントを羽織っていてもおかしくないように見える。ていうか魔法要素はどこにいった。

 

「人間ってのは理解の範疇を超えたことを『魔法』って言葉で片付けてきたんだよ」

 

「人の思考をさも当然のように読むな。ていうかもっとこう、手からビームでたりなんだりあっただろ」

 

「僕も魔法少女をこのカタチに作った神様の思考はわからないんだ」

 

 ファンシーな戦闘を期待していたのに、いざ現実を見れば拳で敵を黙らせるだけ。がっかりしてしまった俺はどこかおかしいだろうか。

 

「……っ!?危ない!」

 

 突然神の使い野郎が叫ぶと、魔法少女が大きく横に飛ぶ。空振った敵の触手は、床にあたった部分を粉々にした。

 

「おいおい、大丈夫なのかよ!」

 

「おかしい……。やはり手遅れだったかな」

 

「手遅れって何が」

 

「彼女のことさ。魔法力がここ最近下がってきていてね。君の存在のおかげで回復は早まるはずだったんだが、時間が足りなかったみたいだ」

 

「俺の存在が?」

 

「コインの表と裏のように人間にも表と裏があるだろう?」

 

 神の使い野郎はどこからともなくコインを取り出し、手の上でくるくると回す。手先器用っすね自慢すか?おっ?

 

「君は彼女の裏の部分を抽出、具現化させた器なのさ。つまり今彼女に残っているのは――」

 

「表の部分のみってことか」

 

「そう。正義の心こそが彼女の魔法力の源だからね。純粋であればあるほど、力も強くなるという寸法さ」

 

「でも元は1人の人間だったのにそれを分けちまって壊れないものなのか?」

 

「一般人ならそうだろうね」

 

「それじゃあ――」

 

「違うさ」

 

 神の使い野郎の姿が変わっていく。最初に見たときのように、ぬいぐるみみたいな現実味のない姿だ。

 

【彼女は一般人とは違う。だから選ばれたのさ】

 

「ふーん」

 

 俺にはただの一生懸命な少女のようにしか見えないがな。

 

【人間に頼ることになるのは僕らだって想定外だったんだよ】

 

「そりゃどういう意味だ?」

 

【それは……っと、どうやら決着がつくようだよ】

 

 目を向けてみれば、完全にがら空きになったボディに魔法少女の拳が突き刺さっているところだった。完全に沈黙しているが、しかし魔法少女は念を入れるためか拳を振りかぶっている。

 

「おいおい、ありゃ敵が死んじまうぞ!」

 

【ん?】

 

 何を言っているんだという顔をしている神の使い野郎をおいて、俺は魔法少女に駆け寄る。

 

「待て!」

 

「お兄さん?下がっていてくださいって言いましたよね」

 

「なあもういいだろ。こいつはもう動けねえ」

 

「敵ですよ?」

 

「敵だからって殺していいわけじゃないだろ」

 

 魔法少女はパチパチとまばたきを二度三度繰り返した。

 

「何を言っているんですか。敵を完膚なきまでに倒し尽くすのが正義の魔法少女でしょう?」

 

 そういって首をかしげる少女の目には淀みは一切なく、まるで水源のすぐ近くの水のように透き通った純粋な光だけが宿っていた。

 






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