貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士   作:道造

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第二王女ヴァリエール初陣編
第1話 プロローグ


チンコ痛いねん。

中世――ではない。

中世を模した、何か。

奇跡も魔法もあるんだよ。

現に奇跡というか、私、地球からこの異世界に転生してるし。

そんな世界に転生したファウスト・フォン・ポリドロは考えていた。

その男の今の思考はこうであった。

――チンコ痛いねん。

いっぱいいっぱいであった。

彼は金属製の貞操帯を身に着けていた。

決して誰かに強いられてではない。

自分の意志で着けたのだ。

そうでなければ――やってられない。

やっていけないのだ。

 

「ファウスト?」

 

隣席に座るヴァリエールが訝し気な声を挙げる。

シルクのドレスで身を包んだ様相であった。

コイツはまあいい。

第二王女ヴァリエールはまあいい。

 

「どうやら相談役であるポリドロ卿には不満があるようだが? 遠慮なく申せ。発言を許す」

 

この国の女王リーゼンロッテ様。

お前なんやねん。

なんでシルクのうっすいヴェール一枚で裸体やねん。

まだ歳も確か32だろう。

そりゃチンコも勃起しようとするわ。

金属製の貞操帯も乗り越えて。

結論。

チンコ痛いねん。

この世界は狂っている。

改めて私――こと、ファウスト・フォン・ポリドロは考えていた。

貞操価値観逆転世界。

男が10人に1人しか産まれない。

そんな世界。

それゆえ、女性が表舞台に立ち、男性が日陰に追いやられる。

いや、強固に守られる。

よくチンコ奴隷として戦場で捕らえられたりもするが。

そんな世界。

嗚呼、そんな頭の悪い世界だ。この異世界は。

 

「ヴァリエール第二王女の初陣であるというのに、親衛隊と私の手札だけというのは?」

「先にも申したでしょう。山賊相手にそれほど武力は必要ない」

 

私はこの世界で異常者である。

女性の裸体モドキ相手に勃起する異常者である。

どうせ転生するなら常識もこの世界に合わせて欲しかったものだが。

神はそれを私に与えて下さらなかったようだ。

出会ってもいない神に愚痴っても仕方ないが。

 

「第一王女殿下、アナスタシア様はかの敵国――ヴィレンドルフ相手に、初陣にて侵攻してきた蛮族1000人を相手どり、彼等を血の海に沈め、逆侵攻を行ったというのに」

 

チンコ痛いねん。

凄いチンコ痛いねん。

ほぼ裸体の女王様から視線を逸らし、第一王女アナスタシアに眼を向ける。

アナスタシアはじっと私の目を見つめ返してきた。

……第一王女は怖い。

私はそう思いながら、仕方なくほぼ裸体の女王へと視線を戻す。

女王は身体を僅かに揺するとともに、その巨乳を揺らした。

エロイ。

 

「第二王女殿下、ヴァリエール様の初陣は山賊退治で御座いますか」

 

顔に朱色が差す。

もはや冷静ではいられない。

チンコ痛いねん。

ほぼ裸同然の女王を言い負かすのが。

それが唯一、この場を乗り越えられる手だ。

感情で痛みを誤魔化すのだ。

 

「……状況が違い過ぎる。山賊を打ち負かすのも重要な務めだ」

「敵国、ヴィレンドルフに攻め込めばよい」

「冗談をぬかすな。ファウスト・フォン・ポリドロ。あの蛮族どもを相手にまた大戦を巻き起こすつもりか」

 

チンコ痛いねん。

テーブルを強く殴打する。

その音は大きく響き渡り、全員が黙る。

女王、リーゼンロッテも。

第一王女、アナスタシアも。

そして私が相談役を務める、第二王女ヴァリエールもだ。

 

「私の力不足とでも?」

 

顔の朱色がいよいよ強くなっていく。

チンコ痛いねん。

充血した血の気が、顔に集まっていく。

これはチンコが痛いわけではない。

怒りの余りに顔が充血しているのだ。

そう言い訳するために。

 

「……そうではない、ファウスト・フォン・ポリドロ」

 

その効果は成し得たようだ。

私を落ち着かせるように、リーゼンロッテ女王は声を静かに、王宮の一室に響かせる。

 

「お前の力を侮っているわけではない。『憤怒の騎士』ファウストよ。貴殿がヴィレンドルフに攻め入れられた緊急時の際、我がアナスタシアの下に付き、獲った蛮族騎士の首は十を超え、騎士団長に一騎打ちの末に――その首を狩り取った。貴殿の力を決して侮っているわけではない」

 

チンコ痛いねん。

思わず絶叫を発したいほどに。

思わず立ち上がりたいほどに。

だが空気は読む。

もう限界点に達しつつあるが。

チンコが痛いんや。

 

「だから、落ち着け」

 

犯すぞお前。

お前のせいでチンコ痛いんやぞ。

なんでヴェール一つで裸体やねん。痴女か。

そう叫びたくなるが。

 

「……了解しました」

 

俺は女王から目を逸らす。

チンコの痛みを和らげるために。

そうして――退室を申し出ることにしよう。

 

「失礼。私の言いたいことは終わりました。これ以上は無用の長物でしょう。退室してもよろしいでしょうか」

 

女王様に許可を申し出る。

 

「許す。退室せよ」

「有難うございます」

 

私のチンコは守られた。

これ以上勃起し続けていたら壊死していたのではないかという私のチンコは守られた。

――それでよい。

私は王宮の間を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は間違えた。

 

「第二王女殿下、ヴァリエール様の初陣は山賊退治で御座いますか」

 

ファウスト・フォン・ポリドロは勿体なかった。

第二王女――スペアであるヴァリエールに付けるには。

ファウスト・フォン・ポリドロは勿体なかった。

 

「……状況が違い過ぎる。山賊を打ち負かすのも重要な務めだ」

 

私は言い訳を吐く。

いや、山賊討伐の軍を起こすのは間違いではない。

間違いではないが――

 

「敵国、ヴィレンドルフに攻め込めばよい」

「冗談をぬかすな。ファウスト・フォン・ポリドロ。あの蛮族ども相手にまた大戦を巻き起こすつもりか」

 

『憤怒の騎士』ファウスト相手には侮辱以外の何物でもないだろう。

すでに敵国――蛮族たるヴィレンドルフ相手に獲った蛮族騎士の首は十を超え、騎士団長を一騎打ちの末に――その首を狩り取った。

そのファウスト相手に山賊相手の小競り合いを要請するのは、侮辱以外の何物でもなかった。

ファウストが相談役を務める、第二王女ヴァリエールの初陣には、山賊風情が相応の相手である。

第二王女ヴァリエールは私にとって、第一王女アナスタシアのスペアでしかない。どうでもいい。

そうファウストは受け取ったのであろう。

拙い。

これは拙い。

ファウストの力量とその相談役としての立場、第二王女ヴァリエールへの卑下。

ファウストが顔色を朱に染め、怒りに身を染めるのも判る。

それが演技かどうかまでは判断がつかないが。

そう、私には判断がつかないのだ。

感情のままに荒れ狂う男性騎士。

戦場でもそうであるがゆえ、『憤怒の騎士』と吟遊詩人に謳われる男。

辺境であるポリドロ領の女領主騎士がもうけた一粒種。

ファウスト・フォン・ポリドロはもはや王家にとっては厄介種の一つであった。

優秀ではある。

現に実績も、先に言ったようにこなしている。

だからこそ厄介であった。

アナスタシアの下に付けるべきであった。

既に、アナスタシアの力量は蛮族ヴィレンドルフ相手に示し、アナスタシアが私の後を継ぐことは確定である。

今更、第二王女――ヴァリエールの派閥が力を強めてもらうのは、国力の無駄遣いだ。

我が国唯一の男性領主騎士……大人しく嫁でも探していれば良いものを。

ファウスト・フォン・ポリドロは既に第二王女の相談役として付けてしまった。

我が娘、ヴァリエールの望むがままに。

それが失敗であった。

ファウストは――アナスタシアの指揮下に与えるべきであった。

そう後悔する。

 

「私の力不足とでも?」

 

力不足ではない。

貴殿の力量は欠片も疑っていない、ファウスト。

だから困る。

何度もいうが、お前はアナスタシアの指揮下に与えるべきであった。

何よりも、アナスタシアがそれを望んでいる。

そう、今も渾身の力で睨みつけている。

アナスタシアが、私の瞳を。

もっとも、顔全体を朱色に染め、憤怒の瞳で私を睨みつけているお前は気づかないだろうがな。

ファウスト・フォン・ポリドロよ。

私はお前が厭わしい。

ヴィレンドルフ相手の闘いで死んでくれればよかったものを。

いや。

半心では、勿体ないという気持ちもあるがな。

そのお前の美丈夫さ故に。

今は亡くなった――我が夫の代わりとしたい。

その気持ちもある。

そうすれば、我が娘アナスタシアに我が首を跳ね飛ばされると判っているがな。

嗚呼。

何ともしがたい。

男の趣味は母娘で似通るものか。

それともアナスタシアは、ファウストに父性を求めているかもしれん。

ああ、ファウストよ。

 

「失礼。私の言いたいことは終わりました。これ以上は無用の長物でしょう。退室してもよろしいでしょうか」

 

お前からの助けの言葉。

それを、頂戴しよう。

 

「許す。退室せよ」

 

私は心のままにそれを命じた。

そうしなければ、心が狂ってしまう。

ファウストは私を魅了する。

あまりにも今は亡き我が夫に、心のそれが似ている。

だから、時々欲しくなってしまう。

だが、今はそれを忘れよう。

アナスタシアがファウストに望む、愛欲のそれ。

その欲望。

――私はそれを是認しよう。

 

「ヴァリエール」

「はい、お母様」

 

我が第二子、スペアである第二王女ヴァリエールは答える。

 

「お前が今回山賊退治に失敗した場合、ファウストはお前の相談役から解任する。そしてアナスタシアの下に付ける。良いな」

「はい?」

 

呆気にとられた顔で、ヴァリエールが口を丸くする。

それでよい。

ファウストをヴァリエールから――スペアから奪い取る。

それでよい。

尤も、ファウストが失敗などするわけあるまいが。

だが、この言葉でアナスタシアの私への信頼は幾ばくか回復しよう。

それでよい。

 

「お待ちください! ファウストは、私の相談役!!」

「あらあら、第二王女ともあろうものが、山賊退治ごときに怯えるとはね、我が妹、ヴァリエール」

 

アナスタシアが煽る。

それでよい。

現実は何も変わらないが。

ファウストを引き連れておいて、どんな盆暗でも山賊退治の失敗など有り得ない。

ヴァリエールの相談役はファウスト・フォン・ポリドロのまま。

アナスタシアの相談役は諸侯。

公爵家のまま。

それでよい。

それで国は回る。

もし、可能であれば、ファウストは我が亡き夫の代わりとして迎えたいが。

それは実務官僚が許さないし、何よりアナスタシアとヴァリエールが許さないであろう。

それでいい。

国は回る。

口を開く。

 

「ヴァリエール、貴女は山賊退治のそれもマトモに成し得ないのか。それを問うているのです」

「私は山賊退治が初陣なんぞ、そもそもお断りしたいところなのですが、それすら成し得ないと思っているのですか?」

「いえ、ファウストを引き連れておいてそれは有り得ませんね。勝利は確実でしょう。ですが、初陣もまだのままでは諸侯はそれすらも疑いますよ?」

 

ヴァリエールは沈黙する。

事実、生じた山賊に領民が困っているのは紛れもない事実なのだ。

ヴァリエールには選択肢が無い。

口をひきつらせて、応諾を返した。

 

「お母様、ヴァリエールは――初陣として、山賊退治の任務を全う致します」

「それでよい」

 

やっと解決の筋道が決定した。

リーゼンロッテ女王はほっと溜息をつき。

アナスタシア第一王女はちっ、と大きな舌打ちを付いた。

 


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