貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士   作:道造

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第63話 婚姻成立

ざわめきは治まらぬ。

かくいう、私ことアスターテも興奮していた。

え、ファウストのそんなにデカイの?

私は尻派である。

尻派ではあるが、何も前の方には興味が無いとまでは言っていない。

ファウストの巨躯から大きいのは想像していた。

仮に小さくとも、それはそれでギャップにより私は興奮していたであろうと自信をもって言える。

私はファウストの事をその大きさに関わらず愛している。

だが、大きいに越したことはないであろう。

それはこのアンハルトの女性、全ての共通意見であった。

その代物の大きさは、アンハルトでは重要なセックスアピールであった。

故に、顔を赤らめながらも、ファウストの代物の大きさについて語り合う声が収まらぬ。

 

「静まりなさい! それでも騎士か、いや、それ以前に淑女でありなさい!!」

 

リーゼンロッテ女王の叫び。

さすがの掌握力で、瞬く間に辺りを静めた。

まあ、それはよいのであるが。

 

「ファウスト、その、何ですか。大きいというか、その」

 

リーゼンロッテ女王がファウストに投げかける声は、空中分解して一つにまとまらぬ。

こっからどーすりゃいいものか。

リーゼンロッテ女王陛下も、さぞお困りであろう。

公人としては見事な人物だが、私人としては結構初心なところが彼女にはある。

法衣貴族が幾ら後添えを勧めても、彼女は叔父であるロベルト以外の配偶者を望まなかった。

まあ、今はファウストにご執心のようだが。

ともあれ仕方ない、助け舟を出してやるか。

 

「リーゼンロッテ女王陛下、発言宜しいでしょうか」

「アスターテ公爵? 何か意見が」

「はい」

 

私は顔を真っ赤にしているアナスタシアを横目に――コイツ、しばらく使い物にならんな。

初心なのは母親似か。

そんな事を考えながらも、発言する。

 

「ポリドロ卿、卿の代物は尋常なる大きさではない。確かにそう言ったな」

「はい、そう言いました」

 

貞淑で無垢でいじらしい、朴訥で真面目な、童貞のファウストが顔も赤らめることなく自然と口にする。

恥ずかしくはないのだろうか。

この男の純情さからすると珍しい話だ。

 

「ヴァリエール第二王女殿下との結婚が嫌というわけではないな」

「違います」

 

何故かファウストは少し目をそらしながら答えた。

ふむ、嘘くさい。

やはりヴァリエールは、ファウストの好みじゃないのではなかろうか。

そんな事を考えるが、まあそれは良い。

 

「ならば、真実かどうか確かめさせてもらっても異存はないな」

「確かめる?」

 

ファウストが、不思議そうな顔をする。

そんなファウストの顔も愛おしい。

 

「事は重要なのだよ、ポリドロ卿。今回の事をよく嚙み砕いて説明させてもらうが、先ほどリーゼンロッテ女王陛下も仰ったように、ポリドロ卿が積み上げた功績に対して、王家から支払われている報酬は足りていない。双務的契約が成り立っていないのだ。ポリドロ卿が、ヴァリエール第二王女殿下を嫁に迎えるなど畏れ多いと断って済む話ではないのだ。判るな」

「判ります」

「もちろん、嫌なら王家側としても無理強いをするつもりはないのだろうが……もう一度聞く。嫌ではないよな」

 

ファウストは、横目でチラリと、顔を下に向けたまま赤らめているヴァリエールの事を眺めて。

少し、色々な考え事を脳裏によぎらせたのであろうが。

ファウストは、ハッキリと答えた。

 

「嫌ではありませぬ」

 

おそらく、色々な人物の立場を考えたな。

断れば王家側としては立つ瀬が無いし、ファウストとしても断るなんて事ができる立場ではない。

嫌でもそういうしかない。

まあ、ファウストにとってはヴァリエールは嫌いな女性というよりも、庇護する立場の女の子であると見ているのであろうが。

あくまで第二王女相談役としての立場から逸脱する気は無いのであろう。

どうもファウストは14歳たる未成熟なヴァリエールを、そもそも性的対象としては見れないのではないかという予感がある。

貴族同志どころか平民同士の結婚でも、14歳ならば大して珍しい話ではないのだが。

 

「ならば、先ほどから述べている『それ』。大きさの主張は嘘ではないと」

「このファウスト・フォン・ポリドロ、神に誓っても嘘はつきませぬ」

「よろしい。では確かめさせてもらおうか」

 

私はアナスタシアの肩をドン、と叩き、目覚めさせる。

顔の赤い色はまだ収まっていないが、正気には戻ったようだ。

 

「ア、アスターテ?」

「アナスタシア第一王女殿下、相談役として進言致します。これより、ポリドロ卿の言葉が誠かどうか確かめてみるべきかと」

「確かめるってどうやって」

 

まだ寝ぼけてるのか、アナスタシア。

私は無視して声を張り上げた。

 

「アレクサンドラ!」

 

第一王女親衛隊隊長の名を呼ぶ。

身長190cmの麗人が、これまた顔を赤らめながらも返事をした。

 

「はっ! すぐに侍童を呼び、確認させるように致します!!」

 

そうだ、それでいい。

いくらファウストに欲情しているとはいえ、しっかりして欲しいものだ。

私のように欲情はしつつも、頭は怜悧に働かせるべきなのだ。

私はファウストの尻を眺めながらでも、冷静に戦場で人を殺せるぞ。

 

「ポリドロ卿、こちらへどうぞ!」

 

アレクサンドラがポリドロ卿の手を引き、エスコートするように連れて行く。

どこか別室にて確認するのであろう。

そう、ファウストの代物がどれだけ大きいかを確認するのである。

私も確認したい。

この場を仕切った以上、その権利が私にはあるのではないか?

私は一瞬、そんな事を考えたが、後で発狂したアナスタシアに締め殺されそうなので止めておいた。

ファウストは大人しく、王の間から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

侍童が王の間にポツンと一人。

あまり見ない顔であるが、新人であろうか。

どこの領地から王都に上がって来たのかは知らないが、アレクサンドラが連れて来たからにはハニートラップなど狙っていない、真っ当な行儀見習いの侍童であると思われる。

 

「リ、リーゼンロッテ女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく」

 

緊張しているが無理もない。

女王陛下の眼前で、しかも周囲は法衣貴族や領主が取り囲んでいる。

領主騎士とはいえ、300名足らずの小領主にもかかわらず毅然として、先ほどまで満座の席にて演説していたファウストが異常なのだ。

まさに私のファウストは英傑である。

 

「世辞はよい。結論から述べよ。侍童が確認したファウストの代物のサイズは如何程であったか」

「は、はい。計測しましたが」

 

侍童の顔は、やや青い。

何かショックを受けたような顔つきである。

 

「20cm超えでありました」

 

デカイ、説明不要。

その大きさは想像を絶していた。

周囲が完全にざわめき始める。

 

「私の夫の二倍はあるぞ!」

「それは卿の夫のサイズが小さすぎるのでは?」

「お前殺すぞ! 友人たる卿とてその言葉ばかりは許されぬぞ!!」

 

雑多な会話。

誰しもが、そのサイズに耳を疑う。

いや、ちょっと待て。

よく考えろアスターテ。

侍童が確認したのは、あくまで平常時のサイズであって……完全体は。

完全体に変身すればどうなるというのか!

ぎょっとした顔つきで、ファウストを見る。

やはり純情たるファウストは顔を赤らめず、何故か平然としている。

ファウストは母親マリアンヌの手一つで育ったと聞く。

少し、紳士としての性教育が足りていないのではないかと心配になるが。

そんな心配をよそにして。

 

「失礼ながら申し上げます。完全体では25cmを超えます」

 

マスケット銃のバレルか何かかな?

平然とした顔で訴えるファウストに、自分の股座を見る。

果たして、私でもちゃんと全部入りきるのだろうか。

そんな事を考えながらも、周囲はざわめく。

 

「さすがポリドロ卿! 股の代物も英傑よ!」

「そうと知っていれば、どんな手段を講じてでも結婚を申し込んだのに!」

「今からでも遅くない、ポリドロ卿、私と結婚してください!」

 

どうしようもない貴族達であった。

アンハルトの価値観、紅顔の美少年を好みとするその手の平をあっさり返すほどの現実であった。

それほどにファウストの股座に眠るセックスアピールは魅力的であった。

デカいというのは良い事だ。

人から聞いた話では! ヴィレンドルフのチンコは特大チンコ! うん、よし! 感じよし!  具合よし!

すべてよし! 味、よし! すげえよし! お前に良し! 私に良し!

そんな猥歌を脳裏に浮かべる。

この猥歌の重要なところは、蛮族ヴィレンドルフ好みの屈強な男ですら、チンコがデカければアンハルトでも許されると謳っている点にある。

実際、奥まで届くかどうかは重要な話ではないだろうか。

ファウスト・フォン・ポリドロという男はアスターテにとって、尻も良くチンコもデカいというまさに完璧超人であった。

それを手に入れる。

そのためにも。

 

「ですので、今のヴァリエール様をポリドロ領の嫁に迎える事は致しかねます。本当に入りませんので。具体的にはお腹がボゴォとなります」

 

ヴァリエールとの結婚を、ファウストに納得してもらう必要があるのだ。

そうでなければ、私とアナスタシアの愛人計画も遂行されない。

どうにかしてファウストを翻意させる必要がある。

 

「ポリドロ卿、今のヴァリエール様は、と申したな。つまりヴァリエール第二王女殿下の身体が未成熟であるゆえ、どうしようもない話だと言いたいわけだな」

「はい、そうであります」

「ならば話は早い」

 

結局のところ、ファウストはどこか政治的センスにおいて甘いところがあるのだ。

先ほどの演説、ゲッシュには皆があまりの覇気に気圧されたが、こういうところではミスをする。

まあ、そんなところが可愛いのであるが。

 

「ならば、提案だ。こうしよう。ファウストは、隣国ヴィレンドルフの王女カタリナとの間に、2年待つと約束したはずだな」

「はい、その通りであります」

「ならば、我が国も2年待つと言う事でどうだろうか」

 

本当はそんなに待ちたくないのだが。

私ことアスターテ公爵など20歳になってしまうが。

この際は仕方ない。

 

「2年ですか」

 

少し、不服そうにファウストが呟く。

不機嫌さを隠しきれてないぞ、ファウスト。

そこがお前の未熟なところだ。

 

「そうだ、2年だ。何、ヴァリエール第二王女殿下は14歳、確かに背の高さも、身体つきもまだお前を受け入れる様な具合にはなっていないだろうさ。それは認めよう。だが、2年後は違うぞ」

 

私は両手を組み、自分の乳房。

戦場では邪魔になる爆乳を持ち上げる。

ファウストの視線が、こちらに向き瞳孔が拡大するのが認識できた。

 

「ヴァリエール第二王女殿下も、王族の一員であることに間違いない。王族の血統は総じて肉付きが良い。2年も待てば、その体つきも女性としての丸みを帯びている事だろうさ。お前のその股座のデカブツも受け入れられる」

 

何故かファウストが顔を顰めた。

何かをとても痛そうに身を屈めているが、理由は判らぬ。

熟考に入ったのか、それとも将来のヴァリエールの姿を思い浮べているのか。

 

「……承知しました。ヴァリエール様が2年後、女性として私の代物を受け入れる体つきになりましたら、ポリドロ領の嫁、ゲオルク・ヴァリエール・フォン・ポリドロとして迎え入れましょう」

「そうしよう。それがいい」

 

ファウストが折れた。

これで私達の愛人計画も頓挫せず、順調に進行する。

王家の面子がこれで立ち、ファウストの立場もヴァリエールとの婚姻により補強され、領主騎士はポリドロ卿がちゃんと功績に報われたことに安心、全てが丸く収まる。

私はリーゼンロッテ女王へと向き直り、言葉を発する。

 

「女王陛下、御決断を」

「う、うむ。アスターテ公爵の意見や良し。それを採用とする。本日この場を以て、ファウスト・フォン・ポリドロ卿と我が娘ゲオルク・ヴァリエール・フォン・アンハルトの婚姻の約束を結ぶことにしよう。只今より二人は婚約者である!」

 

顔を赤らめて下を向いていたヴァリエールが顔をあげ、ばっとファウストの顔を見る。

何だ、何か言いたい事でもあるのか。

 

「ファウスト、最後に念のため聞くけど。本当に嫌じゃないのね。本当に嫌なら言って。たとえこれが貴族的な結論から避けられない事であっても、私は貴方の邪魔をしたくないのよ」

「ヴァリエール様」

 

ファウストと、ヴァリエールが一時見つめ合う。

身長200cm超えの巨躯の男騎士と、身長140cmに満たない小柄な第二王女のカップルである。

少し、妬ましい。

 

「嫌ではないのです。決して貴女の事は嫌いではありませんよ、ヴァリエール様。ですが、逆に問います。私は本当に領民300名足らずのちっぽけな小領主に過ぎません。贅沢な暮らしはできませんよ」

 

いや、ファウストは私とアナスタシアの愛人にするから、金はジャブジャブ与えてやるので苦労はせんと思うが。

ファウストの知らぬところで、王族によるポリドロ領の開発計画も進んではいるのだ。

ポリドロ領はヴィレンドルフ国境線から少し離れたところにある領地であるが、小さな山も川もあるし、それに領地規模はそれほど小さくない。

まだ発展余剰はあるのだ。

この世には家を継げない平民の次女、三女もたくさんいる。

あとは男さえ手に入れれば、領民を増やす事には困らない。

……もっとも、ファウストはそんなの嫌がるだろうが。

ファウストとしては地元民による緩やかな人口上昇を考えているだろう。

それはアスターテ公爵領を統治する領主騎士として、理解できる。

だが、それでは困るのだ。

アナスタシア第一王女とアスターテ公爵の愛人が統治する領地としては小さすぎて困るのだよ、ファウスト。

私は少し自分に嫌悪感を抱きつつも、ヴァリエールの言葉に耳を傾ける。

 

「贅沢な暮らしなんていいのよ。私はファウストがいれば幸せだわ。あ、でも、第二王女親衛隊の子達は最後まで見届けたいから、時々王都に帰ることもあるかもしれないけど」

「構いませんよ」

 

ファウストが優し気に微笑んだ。

おそらく、ヴァリエールの優しいところ、第二王女親衛隊の事を忘れていない事がツボに入ったのであろう。

本当に優しい笑顔だった。

少し、ヴァリエールに嫉妬する。

その嫉妬はリーゼンロッテ女王も同じであろう。

 

「では、互いの了承を以て、二人を婚約者とする! 皆盛大に祝福せよ!!」

 

リーゼンロッテ女王の、身内にだけ判る少しばかり不機嫌な声。

その大声に応じて、王の間の騎士達が盛大に拍手した。

 


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