ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
騒々しく愚者達の地獄が幕を開く
チェス部で賭け試合をした次の日の昼休み。俺達は職員室の茶柱先生のところへと向かって50万ポイントを支払い、部活の設立申請書を提出した。茶柱先生は驚いた様な顔を浮かべていたが、俺は彼女が一瞬ニヤついていたのをハッキリと確認していた。部活の設立の手続きをその場で終え、新たな申請用紙を雪ノ下が受け取った。
「今日、君達『奉仕部』の設立を書類上認める。ただし、部室を確保するまでは活動が出来ない。此処に今空いている部室として使用可能な部屋のリストがある。来月にある中間テストが終わる時までに部室の申請用紙を提出しろ。また、早く提出しても中間テストが終了するまでは活動が出来ないのでじっくり選ぶといい。以上だ。」
茶柱先生はそれだけ言って、俺達を早々と職員室から追い出す。なんだか空気がピリピリしていたのは気のせいだろうか?
今日は5月1日。割と早く起きたつもりだったが、何やら外が騒がしい。どうやら廊下で複数の生徒が話している様だ。防音を謳った部屋の筈だが、流石に複数人の声には無理があるのかもしれない。
端末を確認すると、珍しく通知が沢山届いていた。雪ノ下や由比ヶ浜以外のもだ。そういえば、雪ノ下と由比ヶ浜は最近まで俺の側以外居場所が無かったせいか、半分依存体質に陥っていて、過激な発言が多くメッセージも頻繁に送ってきていた。だがつい数日前の奉仕部の設立によって、安心感が生まれたからか過激な発言や、過剰なメッセージは鳴りを潜めている。理性が脅かされる事も減って八幡は安心だ。まぁ、アピールはそれなりにあるのだが。
話を戻そう。
メッセージはお馴染みの雪ノ下や由比ヶ浜だけでなく、綾小路や、由比ヶ浜経由で渋々交換した櫛田、軽井沢、プール授業前の騒動で交換した須藤や長谷部からも来ていた。
内容は"ポイント"が振り込まれていない事。
確かに振り込まれていない。多くが単にトラブルではないかと予想していたが、雪ノ下と由比ヶ浜は茶柱先生の今までの態度から何か裏があるのではないかと言っている。
……入学二日目の朝に見た、監視カメラが頭に思い浮かぶ。あの時、俺は著しく態度が悪い生徒なとを摘発する為だと思っていたが、よくよく考えてみると四月の最後は授業がもはや成立していないのに、誰かが注意を受けた様子が無かった。あまりに酷い惨状だった為に忘れていたが、今思い出すと疑問符が付く。
更にチェス部でDクラスと名乗った際の先輩達のあの表情。あれは憐みの顔だ。部長が始め投げやりだったのもDクラスというグレードが低い新入生が来たとなれば、辻褄が合う。
チェス部で部長の連絡先を思い出し、システムトラブルの可能性を排除しようとチェス部の部長に電話を掛ける。
「もしもし。おはようございます。」
「…もしもし、ああおはよう。…比企谷君か?」
「そうです、えーっと少し聞きたい事がありまして。ポイントって今日振り込まれていますか?」
「今日?うん、ちゃんと振り込まれてるよ。」
「あ、分かりました。ありがとうございます。」
「もう大丈夫かな。あ、君に一つだけ言っておこう。頑張ってね。」
チェス部部長の最後の言葉が
妙に意味深に聞こえた。
あの後、俺は雪ノ下達と一緒に登校した。いつもは感じる視線もポイントの件で皆動揺しているのか、ほとんど感じなかった。ポイントの件に関しては大きな裏があるという事で三人の意見は一致している。教室に入るとポイントが一切振り込まれていない事でとても混乱していた。ジュースも買えないという生徒も居る。……いや、お前最低限は残しとけよ。
また授業前に櫛田や、軽井沢、長谷部にポイント関連について色々聞かれたはしたが、適当にお茶を濁していた。
授業開始を告げるチャイムが学校中に鳴り響く。それと同時に担任である茶柱先生が室内に入ってきた。手にはポスターの筒を持っていて、表情はとても険しい。
「佐枝ちゃんセンセー! 生理でも止まったんですか?」
池がおちょくるように問い掛けた。男子達が静かに失笑しているのが分かる。
「これより朝のSHRを始める。が、その前に何か聞きたいことがあるはずだ。始める前に受け付けよう。質問がある生徒は挙手するように。」
茶柱先生は池をガン無視し、そんなことを言う。まるで質問があるのを確信している。実際、半数以上が手を挙げた。
「あの、ポイントが振り込まれてなかったんですけど。今日支給されるんじゃないんですか?焦りましたよ、ジュース買えなかったんで。」
「ほう。ポイントが振り込まれていなかったのか。それは大問題だ。本堂以外に振り込まれていない生徒はどれだけ居る?」
面白そうに口を歪ませて笑う茶柱先生に、教室に居る大勢の人間が恐怖を感じただろう。とにかく、質問されたら答えなくてはならない。コンツェルンの跡継ぎを名乗る高円寺を除く39人が手を挙げた。恐らく挙げる必要性を感じていないのだろう。雪ノ下と目が合った。裏があるのは確定だな。
「そうか、これだけの生徒がポイントを支給されていないのか。だが安心しろ、ポイントはちゃんと毎月一日に、今日もしっかりと振り込まれている。こちら側の不備は一切ない。」
「えっ? で、でも振り込まれてないし……。」
教室に騒めきが広がっていく。
だが、暫くすると茶柱先生がその騒めきを破った。
「本当に愚かだな。お前たちは。」
「ぇ………。」
誰かの呟きが聞こえ、何人もが息を飲む。
「もう一度だけ言おう。ポイントは確実に振り込まれた。それは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想や可能性も皆無だ。分かったか?」
「わ、分かったかって言われましても……。な、なぁ?」
本堂は不満げな様子を見せ、クラスメイトに同意を求める。クラスメイトもやはり納得が行かないのか、口々に本堂に同意する。…一方、雪ノ下と由比ヶ浜が真剣な表情でこちらを見ている。
登校中に三人で考えた色々な裏の予想の中で一番突拍子もないが、一番辻褄が合う予想。
それはクラスの授業態度などの評価によって支給されるポイントが異なる、というものだ。
根拠は賭け試合の時の事だ。チェス部の部長のクラスはAクラスで、一気に十万単位でポイントを賭けてきていた。一方、由比ヶ浜が相手をして貰っていた女の先輩達はCクラスやDクラス。その人達の「本当はもっとあげたい」などの発言から彼女らはポイントの余裕があまりないんじゃないか、という結論に至った。ちなみにチェス部のくだりは由比ヶ浜が考えついている。ここに来て由比ヶ浜が冴え始めた!……結論を言おう。
つまり、1年Dクラスに支給されたポイントは
0ポイントである。
雪ノ下達に目配せをし、
俺が手を挙げようとしたその時、
「ははは、なるほどねティーチャー。私は理解出来たよ、この謎解きがね。」
高円寺が声高に笑う。出番取られちゃったよ畜生め!
はい。まぁ、しょうがないですね。
高円寺は本堂を指さして言う。
「簡単なことだよ本堂ボーイ。」
「はあ? なんだよ?」
「つまりだ、私たちDクラスは1ポイントも支給されていないのさ!」
「おいおい、流石にそれはないだろ。だって毎月1日に10万ポイント振り込まれるって……。」
「そんな言葉を私は一度も耳にしたことは無いね。そうだろう、ティーチャー?」
「態度に問題がありすぎるが……高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントを与えた状態で他者に教えられて気付くとは、嘆かわしいものだ。私の見立てでは自分で気付いたのは……たった数名か。」
一瞬彼女は雪ノ下や由比ヶ浜、そして俺の顔を見た気がした。茶柱先生が侮辱した大勢の生徒は、突然の出来事に脳の処理が追い付かず、呆然としている。落ち着きを保っているのは雪ノ下、由比ヶ浜、平田、高円寺、堀北、そして綾小路か。
「……先生、質問良いでしょうか? 腑に落ちないことが多々あります。」
「平田か。…良いだろう、質問を許可する。」
「ありがとうございます。何故ポイントが振り込まれなかったんですか? その情報が開示されなければ、僕たちは誰一人として納得できません。」
おいおい、俺達は納得してるぞ。全てを理解している訳ではないが、酷過ぎる授業態度あたりが関連してるとは思わないのか?
「平田。賢いお前ならある程度は予想がついているはずだ。違うか?」
「……良いから教えてください。先生、これは僕たち生徒の権利じゃないでしょうか?」
「権利か。フッ、お前の言う通りだな、それでは言おうか。遅刻や欠席98回。そして、私語や居眠り、携帯を触った回数391回。1ヶ月で随分とやらかしてくれたものだなぁ。この学校では、クラスの成績がそのままポイントへ反映される。それだけのことだ。つまりこの学校は全て実力で生徒を測る。そしてお前たちは先月、先述した理由で10万ポイント全てを吐き出した。評価ゼロという事だ。」
教室中から悲鳴、罵倒、ありとあらゆる物が飛び出す。
「茶柱先生。僕たちはそんな説明をされた覚えはありません……。」
「ほう。確かにお前の言う通り、私はそんな説明は一切していない。だが聞くが、お前たちは説明されなければ理解出来ないのか?」
「当たり前です。予め説明さえされていれば遅刻や私語は行わず、ポイントは減点されませんでした。」
「ぶふっ!」
ヤバイ、思わず吹き出してしまった。平田から俺へと皆の視点が移り、怪訝そうな視線や憎悪の視線を感じる。
「比企谷。何がおかしい。」
「いえ、なんでもな「比企谷、言え。」…はい。」
「比企谷君、今言った事にどこか間違いがあるのかな?」
雪ノ下達の心配そうな顔には心が痛むが、あの文化祭以降悪感情には慣れている、ここはしっかりと問おう。
「じゃあ聞くが、これまでの1ヶ月。平田は何を見てきた?酷過ぎる授業風景をしっかりと見たか?まだ魔が刺して少し携帯を弄ったり、体育で疲れて居眠りをするのは百歩譲って仕方ないだろう。だがな、高校生にもなって小学生の頃から教えられて来たであろう、遅刻をしない、サボりをしない、授業中におしゃべりしない、これらは当たり前の筈だろう?俺の中学校では携帯触りや居眠りこそ居たが、流石に授業中に大声で放課後の予定を話したり、お喋りしながら遅れて教室に入って来る事は無かったぞ。そこの辺り、どう考えているんだ?」
「そ、それは……。」
言葉を詰まらせる平田に、今度は茶柱先生が追い打ちを掛ける。
「身に覚えがあるだろう。義務教育の九年間……いや、幼稚園の頃からお前らは嫌になるほど言われたはずだ。高校からは義務教育じゃない、お前たちは自分の意思で当校を志望し、そして合格した。そのことについては素直に称賛しよう。事実当校の倍率はとても高く狭き門だった。その門を見事に潜り抜けたお前たちは、そんなことすらも分からないのか? 自己責任だ、甘んじて受け入れろ。」
俺の平田に問うた話も茶柱先生の話もまさしく正論だ。初めは俺に向いていた憎悪の視線も、反論ができないが為に薄れて来ている。
「さらに私はお前たちに聞きたい。お前たちはおよそ一ヶ月前、10万円が支給されたことに対して驚いていた。そして、お前たちは何故か勝手に来月からも10万円貰えると錯覚した。愚かにも程がある。どうして高校一年生になったばかりの若者に、なんの制約もなしにそんな大金が与えられると思うんだ? 東京都高度育成高等学校は、知っての通り国主導で作られた。その理念は、次世代に活躍する若者を支援するためだ。常識で考えてみればすぐに分かる。何故疑問を疑問のまま放置していたんだ?」
再び教室に様々な声が鳴り響く。
「ではせめて、ポイントの増減についての詳細を教えて下さい。今後の参考にします!」
「それは出来ない相談だな。詳細な内容は教えられないことになっている。社会でも同様だ。仮にお前がこの学校を卒業して会社に入社する時、詳しい査定結果を告げるか否かはその会社が決めることだ。……しかし、そうだな。一つアドバイスをしてやろう。」
絶対にアドバイスじゃない。追い討ちをかけて心を折りに来るパターンだぞ。これは。
「お前たちが改心して遅刻や私語を無くし、マイナスポイントをゼロに抑えたとしても、減ることはあっても増えることは無い。つまり来月振り込まれるポイントもゼロだ。だが裏を返せば、どれだけ遅刻や私語をしたとしても関係ない。どうだ? 覚えておいて損はないぞ?」
つまり、一度決定した評価は覆らず少なくとも一年間は同じポイントで過ごさなければいけないと言う事か?賭けを毎月しないといけないな。あ、雪ノ下が楽しそうな顔をしている。
だが、多くの生徒からしてみればそれはまさしく希望から絶望。少しニヤケている茶柱先生は恐らくこの中から自分の駒として扱える生徒を探しているんだろうな。陽乃さんと同じ匂いがする。
絶望が教室に広がっていく間に、
SHRの終了のチャイムが鳴る。
しかし、彼女はそれを無視し話を続ける。
まだ地獄は始まったばかりであった。
はい。今回は地獄回です。オリジナル要素として、八幡が平田を責めていること、また茶柱先生が入学式ではなく、ここで初めて実力で測ると発言しています。
茶柱先生の話はこちらを参考にしました。
https://syosetu.org/novel/169837/7.html
次回はクラスポイントについてです。