BOOK   作:ゴマ助@中村 繚

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千夜一夜物語06

「……あれ、俺、思いっ切り悪口言われた? 理由とか、戦う理由とか……そんな、大層なものはないけど、あるよ! 俺がおじいちゃんの後を追って【戦い】に参加した理由が……結構、たくさん」

 

 固い地面に向かって真っ逆さまに落ちて行くし、まだ乗り物酔いで気持ちが悪いし。落下していく衝撃と風が冷たいしで、この絶体絶命な状況で読人の頭の中にはラーレの言葉が反芻する。

 理由、理由……そうだな。

 

「おじいちゃんを知りたいから。哀しい化け物を、これ以上増やしたくないから。大切な……これからもっと好きになる、大切な女性を守りたいから。それと……それと、それと! 絶対に、逃がしたくない奴がいるから!」

 

 祖父である蔵人と、夢で視た若い頃の蔵人の姿。

 不老不死になった者の成れの果てを語った、響平によく似た若い頃の龍生の姿。

 今日のコーデも可愛い、もっと好きになる、きっとどんどん好きになる夏月の姿。

 様々な理由の根源が脳裏に浮かんで、最後に現れたのは書人の遺影だった。

 絶対に、逃がしたくない奴。読人が『竹取物語』の【本】を手にしている限り、必ず巡り合う……かぐや姫を出逢うために、必ず読人の前に現れるあいつの姿。

 

「櫻庭……絶対に! 逃がさない!! 脱落しない!! 逃がしてたまるか! 脱落してたまるかぁぁぁーー!!」

 

『竹取物語』の【本】を握り締めてやけくそ気味に叫んだその瞬間、『ソード・フィッシュ』を飲み込むほどの巨大な火柱が、轟音を伴って発生した。

 巨大な火柱によって遊園地内にいる者たちの視線は『ソード・フィッシュ』に注がれる。何が起きた、何が現れた?

 火柱の中から姿を現した巨大な影。炎の魔人か、大怪獣か……火柱を割って出現したのは、観覧車を優に見下ろしてしまうほど巨大なハリネズミだった。

 

「何だありゃーー?!」

「火衣デケー! え、読人が想像したの? やるじゃん!」

「ラーレ? ラーレはどうなったの?!」

 

 巨大火衣を目にしたハンリンリヒは驚き、響平はケラケラと笑い、リラはアレを相手にするラーレの身を案じた。

 桐乃たち女性陣とクミンの反応も、凡そ同じような感じである。

 丸っこいハリネズミボディが地面を踏みしめる度に、ずしーんずしーんと地響きがする。体長にして約100m!初代ゴジラより大きいぞ!

 

『ずしーん、ずしーん、ずしーん!』

「……自分で言うんだ」

『おう、読人。思い切ったな。できればもっとカッコいいデザインで進撃の火衣がしたかったぞ』

「そこまで想像する余裕がなかった……まだ、気持ち悪いし」

『それなら、さっさととっとと終わらせようぜ』

「うん!」

 

 巨大火衣の頭の上に、ぐったりした読人が乗っかっていた。だけどまだ、弱音も胃の中身も吐いている場合ではない。ポカンとした表情のラーレの相手がまだ残っている。彼が『船乗りシンドバードの冒険』を手にしている限り、【戦い】は終わらない。

 

「わぁ! 凄い凄い、楽しそうだね!!」

『来るぞ』

「行くよ」

「うん、行くよ!」

 

 ポカンとしたのは一瞬だけ、直ぐに嬉々とした表情になったラーレは跳び上がる。

 巨大火衣を相手に細身の少年、だが、怪鳥の如き獰猛な蹴りはハンデを感じさせることはない。ふわふわのふくよかな火衣のお腹に、ラーレの身体が突き刺さった……と、思ったら、柔らかいお腹にばいーんと跳ね返されたのだ。

 

「え? え?」

「よし! 火衣のふくよかなお腹に直接攻撃は効かない! 全部吸収される!」

『複雑だ』

「それじゃあ、これはどう? 第二の航海の宝は谷底の輝石(Second Treasure)!」

 

 ラーレが再び創造された宝石の壁を蹴ってキラキラ光る弾丸を発射すれば、弾丸は巨大火衣の横スレスレを掠った。

 

「落とせ!」

『お前は、流れ弾に当たるなよ!』

 

 ダイヤモンドの弾丸をリーチは短いが大きな拳で殴り落とす。火衣の頭上にいる読人の横でも、ルビーの流れ弾が通過していく。

 弾丸の雨が降る中で、ラーレの猛攻は止まらない。『ロック鳥の爪(Roc the Boots)』が今度は、観覧車の支柱を蹴り折った。支柱から離れたゴンドラの輪を、サッカーボールのようにポンポンとリフティングをしてから、巨大火衣を狙って巨大観覧車をシュートしたのだ。

 

「いっ、けぇーー!」

『大きいのキターー!?』

「受け止めて!」

 

 短い腕を構えて観覧車を受け止めると、巨大火衣の身体は観覧車の勢いで後退する。カラフルなゴンドラがガチャガチャと音を立てて、窓ガラスがいくつか割れた。

『ソード・フィッシュ』ことジェットコースターが破壊された、観覧車も投擲された。遊園地の二大シンボルアトラクションが見事に見る影もない。

 次は何が来る?

 蹴り飛ばされるのはティーカップか、メリーゴーランドの木馬か?

 受け止めた観覧車をよいしょと地面に置いた火衣の背後で、次に飛んで来たのは……航海の安全を祈る、女神の像。

 

「っ! バイキングだ!」

『さっきのか!』

「折角だから、ボクの船を見せてあげるよ」

 

 観覧車と同じく、支柱を蹴り壊されて自由になってしまったバイキングの船は、ラーレによってリフティングの後に蹴り飛ばされる。しかも、船は一隻だけではなかった。

 最初に巨大火衣へと突っ込んで来たのは、この遊園地のバイキングの船だ。ラーレが最初に乗っていた、グルグル回るアトラクション。観覧車と同じく、巨大な身体が受け止めた。

 跳び上がったラーレの手には白い【本】がある。

 彼の船――シンドバードが航海に出る度に難破して壊れた、物語の中の船じゃない。七つの航海も難なく乗り越え、荒波を切り裂いて前へ前へ突き進む夢の船。

 想像上の産物でも、思い描く事ができたなら現実に創造できる。それが、【本】の能力だ。

 

「創造能力・七つの航海を抜けて(Battle Ship)!」

「もう一隻、船!?」

「いっ、くよぉーーー!」

 

 バイキングの船の倍以上も巨大な帆船は、七つの海も、激しい波も嵐も乗り越えて旅を完遂させる無敵の船だ。『七つの航海を抜けて(Battle Ship)』は、巨大火衣が受け止めたバイキングの船の船尾へ激突して来た。更に、無敵の船の船尾へ、猛禽類の爪をむき出しにしたラーレの蹴りが一直線に突き刺さった。

 

「火衣!」

『よ、読人……!』

 

 踏ん張れない。ラーレの蹴りと『七つの航海を抜けて』の衝撃で、巨大火衣の身体はどんどん後ろへと押されて行く。

 このままでは蹴り抜かれてしまう。このままでは負けてしまう。

 絶体絶命……ならば、逆転劇を。

 火力を上げろ。何のために巨大化したんだ。

 巨大化したのなら、燃え滾る炎の威力も上がったはずだ。

 

「火力を上げろ、燃えろ、火鉢の炎なんかよりもずっと大きく! こんなところで、終わらない!!」

『叫べ読人! 炎に形を想像しろ!』

「『右大臣阿部御主人様は、火にくべても燃えることのない火鼠の皮衣をお持ちになって下さい』!!」

 

 読人が持つ『竹取物語』の【本】から発する光が強くなり、巨大火衣の背中からも炎が強く噴き出て辺り一面は火の海となる。渦巻く炎は二隻の船とラーレを包み込み、空中には炎の繭……否、燦々と炎上する、真紅のつぼみができた。

 蹴り抜かれるな。突き破られるな。

 固いつぼみは必ず、花開く。

 巨大な炎の花が咲くのは、今だ。

 

「咲いて、火衣!! 薔薇火(そうび)!」

 

 火の粉という名の花弁をまき散らして、空に巨大な真紅の花が弾けて咲いた。

 大輪のバラにも似た巨大な炎の花は、花火よりも大きく花弁を広げて包み込んだ船を燃やし、残骸を散らし、されど人間を燃やすことはない。

 七つの航海を乗り越える無敵の船も炎の花には敵わず、壊れた船、燃えた怪鳥の翼……両足のブーツは黒く焦げてしまった。

 

「……突っ切れると、思ったんだけどな。跳ね返すんじゃなくて、包むなんて、思ってもみなかった」

「なら、創造力が勝った俺の勝ちだよ……うっ」

『どうした?』

「きゅ、急に、吐き気が……!」

『吐くなよ! 絶対吐くなよ、そこで吐くなよ! フリじゃないからな!』

 

 もう跳べなくなったラーレの身体は、墜落する前に巨大火衣の柔らかいお腹の上にぼふんと受け止められて、読人に手を差し伸べられた。まだ顔色が悪く、今にも胃の中身をリバースしてしまいそうになるところを、必死で堪える。

 どちらか勝者か分からない光景だ。だが、ラーレの手には『船乗りシンドバードの冒険』の【本】はあるけれど、この状態は、彼が敗者だ……負けたのだ。

 ()()は。

 

『クミンとリラはどうなったのかな。無事、かな……ご主人様の願い、叶えてあげられなかったな』

「ラーレ」

「うん?」

「大丈夫?」

「……まだ【本】を持っている敵の心配をするの? 吐きそうなのに」

「うっ! でも、燃えたし。思ったより火力が強くなっちゃったし」

『こいつ、甘ちゃんだから仕方ないんだよ』

「火衣!」

「……う~ん。ヨミヒトはさ、主人公オーラはないけど。オレは結構好きだよ。オーラはないけど」

「三回も言う!?」

 

 ゆっくりと身を起こしたラーレは、『船乗りシンドバードの冒険』の【本】を読人へと差し出した。

 炎の残骸が真紅のバラの花弁のように舞う五月晴れの空。その光景を背負った読人の前髪は、ヘアピンで止めた前髪が乱れている。

 王道的な主人公ではないかもしれない。今も乗り物酔いは継続中だし、乗っているのは巨大なハリネズミだ。ラーレが思い描いた像とは違うけれども、彼の叫びは本物だった。

 黒文字読人は、彼自身の物語の主人公だった。

 

「ラーレ!」

「ごめんなさいラーレ! 負けてしまって」

「んー……2人に怪我がないなら、それでいいや」

 

 ラーレの元に駆け付けたクミンとリラの手に、それぞれの物語の【本】はない。

 桐乃と響平、読人がそれぞれ手にした【本】を「めでたしめでたし」の言葉と共に表紙を閉じれば、【戦い】は()()()()()()となった。破壊された観覧車もバイキングも、しっちゃかめっちゃかに組み換えられた遊園地も元の姿に戻り、巨大化した火衣は元の大きさに戻ったのだ。

『竹取物語』の【本】に新しく紋章が回収された。ロック鳥に襲われる船の紋章は、『船乗りシンドバードの冒険』の物語を象徴している。

 

「夏月さん! 大丈夫、だった……?」

「読人君の方が大丈夫? 顔色、悪いよ」

「……やっぱり、ちょっとトイレに……吐く!」

『行ってこい』

 

 乗り物酔いでトイレに駆け込んで、折角のGWの遊園地は終わってしまった。

 最後、締まらなかった。




千夜一夜トリオ
石油がよく採れる国の大富豪に拾われた孤児3人組。所持している【本】から千夜一夜トリオとひとくくりにしているが、厳密にはちょっと違う。

ラーレ(14)『船乗りシンドバードの冒険』
3人組のリーダー格。身体能力に優れた美少年。【本】に選ばれずともスポーツ選手などで十分の成果を出せるタイプ。
好きなゲームは格闘ゲーム。指の動きが柔軟、ついでに足癖も悪い。

武装能力・ロック鳥の爪(Roc the Boots)
物語に登場するロック鳥の羽や爪、皮で作られたブーツとして創造した、シンプルなデザインのブーツ。
履けば猛禽類が飛翔するかの如く跳躍し、ロック鳥の爪の如き破壊力の蹴りを実現できる。
ラーレの主装備。昔書いた別の作品から流用しました。

創造能力・第二の航海の宝は谷底の輝石(Second Treasure)
シンドバードが谷底で見付けた宝石たち。肉と猛禽類を使って採取していたアレ。
数多の色彩の宝石は、防御の盾にもなるし『ロック鳥の爪』で蹴り飛ばせば宝石の弾丸にもなる。

創造能力・七つの航海を抜けて(Battle Ship)
七つの海の航海も突破する無敵の船を召喚する。ただし、シンドバードの船は航海の度に大破しているため、これはシンドバードの船にラーレの幻想が付加されて想像を膨らませた船。
この船を突撃させてその船尾から蹴りを入れるのは『仮面ライダー』で結構見る必殺技。


リラ(14)『アリババと40人の盗賊』
3人組の紅一点。淑やかで髪が美しい少女。ラーレやクミンとは実の兄弟のように育ったが、宗教上のアレコレで一緒に過ごせる時間はあとわずか……寂しい。
見た目に反してゾンビ系のシューティングゲームが大好き。が、下手の横好きなので、ラーレとクミンの協力プレイで手伝ってもらっている。

創造能力・アリババと40人の盗賊(バンデッド・オブ・ザ・デッド)
物語に登場する40人の盗賊たち。熱々の油で焼死させられた手下39人とナイフで刺殺されたお頭1人の構成。どっちも実行犯はモルジアナだ。
リラがゾンビゲーム好きのため、焼死した=焼死ゾンビと想像しちまったためにゾンビになった。ゾンビ故に疲れ知らずで、ゾンビの癖に世紀末的にファンキーな奴ら。

創造能力・開けゴマ(イフタフ・ヤー・シムシム)閉じろゴマ(サケル・ヤー・シムシム)
有名すぎるあの呪文。何でも開けて、何でも閉じる。閉じてしまったら完全に封鎖され、中も見えないし外からの認識も阻害される。
空間を閉じて攻撃をブロックし、空間を開いてその反動で攻撃することもできる。


クミン(14)『アラジンと魔法のランプ』
3人組の頭脳担当。IT及び機械工学の天才児で飛び級で大卒取得済み。3人組の中では既に主人のビジネスのサポートを行っており、億以上の利益を出している。
好きなゲームはクラフト系やパズル。ついでに自分でもゲームを作製する。

創造能力・ランプの魔人(Lamp of Jinn)
魔法のランプから魔人を呼び出す。見た目はアニメで見たあの魔人に似ているが色は緑だし厳ついし、あんなにハジケていないので別(魔)人である。『畏まりました(ナーム)』以外も喋れる。
三つ以上願いは叶えられるが、万能ではないので無からは創造できない。詳しく言うと、「億万長者になりたい!」と願ったらそこら辺の銀行を襲って金の雨を降らせることになる。

創造能力・指輪の魔人(Ring of Jinn)
魔法の指輪から魔人を呼び出す……が、桐乃さんによって不発に終った。
ランプより目立たず、知名度的にはマイナーなため初見殺しもできる。不発に終ったけど。

魔法の絨毯(Flying Carpet)
魔法の絨毯柄の戦闘用ドローン。【本】の能力によって創造された物ではなく、クミンが開発した現実の兵器。
反射コーティングによる光学迷彩で背景に溶け込むステルス機能が搭載されているため、何もないところから急に出現したように見える。その光学迷彩技術は、世界的武器軍事兵器企業、ガブリオ・ゴーンズから声がかかるほど。
ただし、軽量化にこだわりすぎたため紙装甲。
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