噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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息抜きのつもりで思いついたものを描きました。いや、なんかヒロアカで二次創作したいなってぼんやり思ってはいたのですが。


第1期 入学編
噴上裕也:リスタート


 “俺”という人間は、自分には何かが足りないとずっと思って生きてきた。

 15年とちょっぴりの人生だ、大人たちは鼻で笑うのかもしれない。子供の頃にありがちな悩みだ、思春期って奴だろう、という風に。だからって渦中にある人間にとって、そんな半笑いで頭を撫でながら言われた言葉がどれだけの価値があるっていうんだ。

 俺だって“俺”自身に何が足りないのか分からないのに、どうして他人にそれが何なのか分かる。そんな奴らの言う事では、何の補いになりもしないのは分かり切ったことだった。

 

 とはいえ、奴らが笑って俺を励ましにかかるのも分からないではない。

 何故って俺のこれまでの人生は、何が足りないのか分からないぐらい満たされていたからだ。

 

 出自。恵まれた家庭だったと思う。

家族への愛を忘れない収入のある父と、家庭を盤石に切り盛りする優しい母。適度にやさしく、適度に厳しい教育を受け、二人からの愛を感じなかったタイミングはまずないと言ってもいい。

 

 能力。これもまずまずだろう。

 体力、学力ともにクラスの中でも常に上位をキープしていた。予習を忘れず、復習を欠かさず、分からないことは質問し、助けを乞われれば断ることなく相手を支えてきた。

 

 個性。こいつはちょっぴり凡庸かもしれない。

 鼻が良い。それだけだ。全人類の実に8割がなんらかの特異体質に目覚めたこの超人社会においては、まぁ地味な個性だっていうのは間違いない。出来ることといえば個人の匂いを覚えて後を追いかけたり、匂いの変化から直前まで何をしていたか推理したり、今どんな感情を抱いているのか読み取れるってことぐらいだ。

 

 だが容姿。これには自信がある。

 控えめにも言っても俺は見目のいい方だと自負している。背丈は歳の割に高く、均等のとれた体格に育ち、たるみどころかシワもシミもない、張りのある健康的な肌を維持している。ワックスで固めた髪は黒々と光り、どんな時も崩れることがないように気を使った。

そして何より、俺は顔が良い。

 中学生にしちゃ彫りが深すぎるだろう、ってからかわれたこともあるが、それぐらい整った顔をしているってことだ。美形というものに関心が芽生えはじめる中学生三年間、同級生の男たちは俺を羨ましがり、女生徒はうっとりとした目で俺を見つめていた。それは俺の周囲にいた人間の日課だったといっても過言ではない。

 

 つまり“俺”という人間は、どう考えても足りないところなんてあるはずがない満ち足りた人間であるはずなのだ。

 だというのに生まれてこの方、ひょっとしたら赤ん坊の時からずっと、自分に足りない何かをずっと自覚し続けている。それは俺の心を荒ませるようなものでこそなかったが、それでも、何事にも満足できない慢性的な不満って奴を抱えて生きてきた。

 

 一体何が、“俺”に足りないというのだろうか。

 その答えが出るなら、俺はなんだってやろうってずっと思ってきた。

 親の勧めで受けることになった雄英高校の入試もその一つだ。天下の名門校、全国から我こそはという優秀な学生が集まり、潤沢な資金・設備・人員によってそれを昇華させようっていうここでなら、ひょっとしたら“俺”に足りないものを教えてくれるかもしれない。

 

 だが。だがしかし、だ。

 その答えは期せずして、入校するよりずっと早くもたらされたのだ。

 

 

 

「――うん、やっぱり!」

 

 

 

 答えは、女の声となって“俺”にもたらされた。

 その女は臆面もなく、恐れ多くて誰も触れようとしなかった俺の顔、その目尻に指を当てて、きゅっと軽く釣り上げて、そう言ったのだ。

 

 

 

「ほら、目尻上がったらもっとカッコ良いよ!!」

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 天啓だった。

 まさしく脳天からつま先にかけて電流が駆け巡ったような感覚。

 その時“おれ”は、すべてを思い出したのだ。

 

「…………!! !!! !!!」

 

 そう。

そうだ。

それだよ。

 

それなんじゃねーかよォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!

 

このおれ(・・)に今までほんのちょっぴり足りなかった最後のピースは!!

でもクレオパトラの鼻があと3cm高かったらっていうぐらい決定的な差って奴は!!!

 このおれの!! 最高にカッコよくて美しい顔が損なわれて生まれ育っちまったつー事なんじゃねーのかぁ~~~~~~~~!!?

 あああああああああああ甦る! 思い出してきたぜ、チクショウ!! 生まれる前にあった事、前世の記憶ってモンがよぉ―――――!!!

 ていうか!! おれって奴は!!!

 

 

 

「おれ、噴上裕也じゃねーかよぉ~~~~~~~!!!?」

 

 

 

 杜王町在住! 女どもを侍らす最ッ高にカッコ良くて美しい絶世の美少年!!

 事故って死にかけちまった瞬間に力に目覚め、あの東方仗助とその仲間たちに戦いを挑んだスタンド能力者!! でもクソみてーな吉良の親父とその一味を町から追っ払うために奴らと立ち向かったマジでカッコ良い奴!!!

 どうしてか一味との戦いが終わってからの記憶が曖昧だが、そのことはしっかり思い出せるぜ!!!

 間違いねー、このおれは噴上裕也!! ミケランジェロの彫刻のごとくカッコよくて美しい最高の高校生!!!

 ……だっつぅのによォ~~~~、

 

「やっぱり仗助の野郎、完璧に治せてなかったんじゃねーかあぁぁぁぁッ!!!」

 

 目尻が高い方がもっとカッコいい!?

 それってつまり、今のおれの顔よりカッコよい顔があるってことだろ? ってことはつまり、それが本来のおれの顔なんだよ! おれの顔は、常に最高にカッコよくて美しいんだからなぁ――――っ!!

 チクショウ、アイツの半端な仕事のせいで生まれ変わってもこの顔になっちまったじゃねーかぁ――――――――――!!!

 

「あの、噴上くん? 大丈夫?」

「ん、ああ、すまねー……おれとしたことが、ちょっぴりカッとしちまったぜ」

 

 いけねー、記憶を取り戻したインパクトのあまり、目の前にいる彼女のことをほったらかしにしちまったぜ。

 こいつのおかげで、おれは自分を取り戻せたのによぉ――。

 

「わりぃな、葉隠。そして感謝するぜ、葉隠ェ。お前のおかげで、おれはこれまでの人生でずっと足りなかったおれ(・・)って奴を、ようやく取り戻すことが出来たぜ!」

「ふ、ふぅん、そうなんだ?」

 

 そこに立っていたのは、宙に浮く女子制服だった。

 いや違う。そいつはそこに立っているのだ。ただ目に見えないから、服だけがそこに浮かんでいるように見えてしまっているだけなのだ。

 

 葉隠透。

 この女はそう名乗った。

 雄英高校入学試験第二課題、実技試験の待ち時間でたまたま会話になった初対面の女子生徒は、葉隠透と名乗ったのだ。

 

「そうなの? ずっと悩み事あったんだ?」

「そうなのよお――……。なんでおれって奴は、あと一歩キマらねぇのかってなぁ――。でも葉隠、お前の手が、おれの顔を完璧にしてくれたんだぜぇ~~? そうだよ、ちょっとタレ目すぎたんだよなぁ、今のおれの顔はよォ~~~~!!!」

「へ、へえぇ?」

『――HEYそこのリスナー!! 試験開始前にイチャつくとは、ずいぶん余裕じゃねーかYO!!!』

 

 その時だ、空から拡声器でデカくなった試験官の声がする。

 

『ヤングなリビドーを持て余すのも結構だが!! 今この時は、目の前の問題に集中してぶつけることをオススメするぜぇ――――!!? 何故ってもう、試験は始まるんだからなァ――――!!!』

「!!!!」

 

 試験官、プロヒーロー・プレゼントマイクの宣言で周囲の空気が一気に固まる。

 どいつもこいつも、やってやるぜコンチクショウが、って面で全身に力を溜めてやがる。それはどうやら、葉隠もそうであったらしく、

 

「ん? 葉隠?」

「ごめん、噴上くん。私もちょっと本気になるわ」

 

 パサッと乾いた音がしたので振り向くと、そこには脱ぎ捨てられた女子の服が折り重なって放り出されていた。間違いねー、葉隠の匂いがこれまでよりもずっと強くなっている! 体を包み匂いをさえぎっていた服がとっぱらわれちまったからだ!!

 

「ってオイオイ葉隠、オメェ今、ひょっとして全裸なんじゃねーのかァ――!?」

「大きな声で言わないでよ!! いいでしょ、私透明人間なんだから! これが私の本領なの!!」

 

 すぐ隣で葉隠のちょっぴり恥じらう怒鳴り声。

 そしてそこに目玉が見えてる訳でもねーのに、しっかりとした視線を感じる。おれはいいのか、って問いかける、葉隠の試すような力強い視線がよぉ。

 

「私、行くね。噴上くんも頑張って!!」

「お、おいおい、頑張ってって、おれはもう別に……」

 

 答えようとしたおれの声を、しかし試験官のとりわけデカい声が押しつぶしやがった。

 

『雄英高校入試実技試験!!! スタートだあぁ――――――――――!!!!』

 

 ひときわ大きな宣言に、周りにいた奴らが一斉に駆け出す。

 その流れに流されて、おれも試験会場へと駆け込む羽目になっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験会場の中は、それこそまさに本物って感じの市街地でぎっちり埋め尽くされていた。

 バカデカいビルに幅広な道路、そしてそこにひしめく沢山のロボットども。雄英高校が設置した仮想敵だ。割り振られた番号は点数の証。受験生はこいつらをどれだけ潰せるかが試験の成績になるって、さっきプレゼントマイクが喋ってやがった。

 

 受験生たちは先を争って仮想敵を破壊してく。

 雄たけびを上げて挑みかかり、腕なり足なりよくわからねーエネルギーみたいなものなりで、次々と仮想敵の硬い装甲をぶち破っていく。

 そんな戦場を、おれは路地裏に続くビルの隙間から眺めていた。

 

「おうおう、どいつもこいつも気張ってるねぇ」

 

 まぁ当たり前だ。どいつもこいつも“おれは勝ち残ってやるぜ!”ってアドレナリンの匂いを全身からプンプンさせてやがる。滾りまくった体は熱気を放ち、この試験会場全体をがっつり満たして気温をあげちまっているようじゃねーか。

 だがおれは、その中に入ろうとは思わなかった。

 何故って? おれにはそれより先に確かめなきゃならねーことがあったからさ。

 

「出ろ、ハイウェイ・スター!!」

 

 そう言って心を奮わせれば、力って奴はいつも隣に立っているもんだ。

 たしかに今までは、どんなに個性を使っても姿を現すことがなかった。でもそいつはきっと、おれがおれ(・・)として目覚めていなかったからに違いない。だからこそ、おれに成った今なら、確実にその姿を発現させられるという確信があった。

 

 そしてそれは間違いなくその通りだったのだ。

 おれのスタンド、いや、個性ってやつになったハイウェイ・スターが、記憶に寸分なく違わない姿でおれの傍らに現れる。

 最初は無数に現れる足形の群れだった。しかしそいつらは積み重なり、溶け合ってより大きな一つの姿となって出現する。

 人型だ。美の象徴、最高に美しくておれに一番似合う紫色の体。白い斜線の格子で区分けられたその姿は、まるで紫紺のタイルを張り合わせて作ったギリシャ彫刻のように洗練された肉体美を誇っていやがる。

 つまり、まさにおれに相応しいスタンドのビジョンってことだ! このハイウェイ・スターって奴はよぉ~~~~~!!!

 

「いいねーッ、久しぶりじゃねーか、ハイウェイ・スター!」

 

 こいつがおれのスタンド、ハイウェイ・スター!!!

 足形の群れと、それが集合した等身大の人型の、二つの姿を持つスタンド!! 足形の群れはおれが匂いを覚えた対象をどこまでも自動追跡し、追いついたらその体にとりついて養分を吸収する!! 逃げられても立ち止まったところでその周囲に瞬間移動する、攻撃されてもおれ自身にはダメージが来ない、スタンドとしちゃちょっと無敵な能力!!!

 まぁ無機物からは養分を吸えないし、単純なパワーもちょっぴり弱っちいかもしれねェが、そこはそれ。ハイウェイ・スターの本領は、面と向かった直接の殴り合いじゃねェってことよ。

 

「でもよォ、それってつまりよォ」

 

 ちょっとばかし顎を撫でて、おれは目の前に広がっている光景を見つめる。受験生どもが相手にする、大小無数のロボットの軍団をなぁ。

 ぶっ壊せば点数稼ぎになる奴ら。でもそいつらは全員、機械仕掛けなんだよなぁ~~ッ。でもそれってつまりよぉ、

 

「おれ向きの戦いじゃねーんじゃねーのかぁ~~~~~ッ」

 

 おれのハイウェイ・スターが真価を発揮するのはあくまで対人戦、もっと言えば追跡と鎮圧を目的とした戦いってやつだ。

 生き物としての養分を持たず、人間以上の硬さを持つロボットの相手は、ハイウェイ・スターにとって最も鬼門な相手だぜぇ~~~~。

 ていうかよぉ、そもそもの話よぉ、

 

「――おれがこの試験に合格しなきゃならねーってことはねーよなぁ~~~~?」

 

 おれが受験したのは、あくまで記憶を取り戻す前のおれがやったことだ。

 何か足りねー、でも何をすればいいのか分からねー。

 だから手につくものは全部手を伸ばしてきた。この雄英高校受験もその一つだ。世の中がカッコいいって言ってるモノになれれば、このおれの足りない何かが満たされるんじゃねーのかって、そう思って来たんだよなぁ。

 

 でもよ、何が足りなかったのか、もう分かっちまったんだよなぁ~~。そんでもって、もう足りなかった“おれ”っていうものは、満たされちまったんだよなぁ~~~~!

 その上でまだ試験に挑むのか、っつう話よ。

 

 だってそうだろう? この噴上裕也がヒーロー? 前世じゃ暴走族やってバカな女どもにチヤホヤされるのが大好きだったこのおれが、世の中に奉仕するヒーロー?

 ちゃんちゃら笑っちまうぜ。

 ここにはおれを励ましてくれるあの女どももいない。おれが“おれ”を取り戻した今、わざわざヒーローにならなくたって満足してやっていける。

 だったらここで、ヘトヘトになって向いてもいねーロボット退治にせいをだすことねーんじゃねーかぁ~~~~?

 

 そうさ、これっていうのは、つまりそういうことなんだぜ。

 だからおれはハイウェイ・スターを引っ込める。そんで試験会場として作られた模擬市街の路地裏の影に身を隠すことにした。

 ひょっとしたら試験官が見ているかもしれねーが、合格する気はねーんだ、気にしやしねー。おれはこのままひっそりと試験が終わるのを待たせてもらうぜ。

 

 ――って、そう思ったのによォ。

 このおれの鼻が、知り合ったばかりのあいつの匂いを嗅ぎ当てちまうんだよなぁ!!

 

「――きゃあ!!!」

「!!!」

 

 思わず振り返った先、広く伸びる道路の先に、おれは倒れた葉隠を見つけた。

 いや、透明人間のアイツを見つけたっつうのは正しくない。このおれの鼻が、たとえ距離が離れていてもそこにアイツの匂いの塊が倒れ伏しているっていうのを、はっきりと教えているんだ!!!

 

「おいおい何してやがんだアイツはよぉ……!!」

 

 倒れた葉隠へと、中級の仮想敵がじりじりと迫っていきやがる。

 当然だ、仮想つったって敵の動きをするように入力されてるんだ、動けない奴がいりゃ率先して襲い掛かる。当たり前のことだぜ。

 

 つまりそれは、葉隠が襲われるのは当然の成り行きってことだ。

 攻撃に押し負けたんだか別の誰かへの攻撃に巻き込まれちまったんだか知らねーが、それでもとにかく、隙を見せちまった葉隠が狙われるのは、滝の水が低いところに流れ落ちていくぐらい当然のことだぜ。

 

 つまり葉隠のポカってことだ。

なら葉隠が自分の力でどうにかするべきなんじゃねーか? このおれがわざわざ向いてもいない戦いの場に自分から乗り込んでいくような事じゃない。

 

 だからおれは路地裏に引っ込もうと思った。

 当然だぜ、おれから見えるってことは奴らからも見えるってことだ。見つかっちまったら葉隠みたいに襲われるのは火を見るより明らかだからな。

 だからおれは身をひるがえそうとして、

 

「あ?」

 

 動かなかった。

 足が、動かねー。

 

「おいおいおい、どうしちまったんだおれはよぉ」

 

 ブルっちまった訳じゃねー。

この足がおれの意思で動かねーのは、決してそういうんじゃねーんだ。

 そう、おれが今からとろうとしていた行動を、おれ自身が認められなくなっちまったってことだぜ!!!

 

「この噴上裕也が、女を見捨ててスタコラサッサと逃げるってーのかぁ~~~~?」

 

 相性が悪いから? 戦っても意味がないから? あそこで起きていることはおれのせいじゃないから?

 おいおいちょっと待てよ、待てよおれ。本当に“おれ”なのかよ、おれよォ~~!

 ヤバそうだからビビッて女見捨てようなんて、それがおれのやる事なのかよォ~~!!?

 

「この噴上裕也がカッコわるいことして良いワケねーだろうがよォ――――――!!!!」

 

 行けハイウェイ・スター!! 葉隠をかっさらえ!!!

 

「わきゃあ!!!」

 

 足形となったハイウェイ・スターが仮想敵より先に葉隠に到達、そのまま人型に集合して葉隠を抱え、おれのすぐそばまで飛び退いた。

 おれのハイウェイ・スターの移動速度はキッチリ時速60km!! どんくせー仮想敵が葉隠に届く前に掻っ攫うなんてワケないぜ!!

 

「ふ、噴上くん!?」

「おう葉隠、ケガはねーか? ねーみてーだなー」

 

 ハイウェイ・スターの腕の中、目には見えないが確かにそこに葉隠がいるとおれの鼻が告げている。こびりついた埃と砂利の匂いはするが、血の匂いはしてこねー。どうやら傷付けられる前に掻っ攫うことはできたみたいだ。

 

「こ、これが噴上くんの個性?」

「ああん、おめーハイウェイ・スターが見えんのか」

 

 いや、今のハイウェイ・スターは正確にはスタンドじゃなく、個性ってもんになったんだ。だからビジョンが普通の人間にも見えるようになってるってことなんだろう。

 っつうかよぉ、

 

「んな事より、自分の体を心配しろよ、おめーよぉ。素っ裸なんだからよぉ、ケガとかしちゃならねーだろうが」

「ど、どうして私のいるところが分かったの?」

「あぁん、そりゃあ分かるぜ、この鼻にかかればよぉ。どこにいたって見つけてやるぜ」

「……!!」

 

 ハイウェイ・スター越しのにぶい感覚だが、それでも葉隠が身を固くしたのが分かる。息をつめたその体を地面に下ろし、おれはハイウェイ・スターとともに進み出る。

 ビルの角から表通りへ、こっちに気付いた仮想敵と向かい合う。

 

「さぁて」

 

 ここに立っちまったんだ、もうやるっきゃねーよなー。

 拳を構えろハイウェイ・スター。お前の全力を出さなきゃーならねーぜ。

 

「おめーよ、チンケなロボットのクセによぉ、なに葉隠に手ェ出してやがんだよォ」

『――!!!』

 

 仮想敵が襲いかかる。

 だがその図体がおれに届くより、ハイウェイ・スターの拳がツラぶちぬく方が早ーぜ!

 

『!!!』

「おれのハイウェイ・スターはパワーがねーからよぉ、悪いが終わるまで続けさせてもらうぜええええええええええぇ!!」

 

 二発! 三発! 四発! まだだもっとだ止まるなハイウェイ・スター!!

 殴れ殴れ殴れ殴れ殴れぶっ壊れるまで殴れ!! 奴が動かなくなるまで、ぶっ壊れるまで、ブチ殴り続けろ!!!

 知ってるんだぜ、こういうの! この世じゃこう言うんだろ!?

 

「PLUS ULTRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

『!! !!! !!!!』

 

 仮想敵の面が、腕が、胴が粉々に砕け散る。

 鉄クズの雨になってアスファルトへ降り注ぐ様を見ると、こう、気分がスカッとするぜぇ――――ッ!

 

「スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~~~~ッ」

 

 試験終了の合図が響いたのはちょうどその時だ。やり遂げて終わるのも、いいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数週間後。おれは再び雄英高校の校内に立っていた。

 だが今度は受験生としてじゃねー。今年度の新入生としてだ。

 

「まさかあの状況から試験に合格しちまうとはよぉ~~~~ッ」

 

 なんでもあの試験は、仮想敵を倒して受験者がポイントを稼ぐのとは別に、いかにヒーローらしい行動をしたのかを評価するナイショの採点形式だったんだそうだ。仮想敵をほとんど倒してないおれだったが、どうやら葉隠を助けて戦ったことが評価され、それがギリギリ合格のボーダーラインに届いてたっつうことらしい。

 

 ぶっちゃけ今のおれとしちゃあそこまで入学することにこだわりがねーんだが、しかし入れてくれるっつうんなら入ってやるぜ。今のおれにとっちゃあイマイチ馴染まなくなっちまったが、今生の親父とお袋にも恩義はある。ここまで育てて送り出してもらった分はきっちり返していかねーとなー。

 つーか何より天下の雄英高校に入るなんて、ちょっとカッコいいんじゃねーかぁ~~~~~~!!? さすがおれって感じでよォ、こいつはやってやってもいいぜ、ってなるだろうがよォ――――――!!

 

 さぁてじゃあ記念すべき一歩を踏み出そうじゃねーか。

 って時さ、覚えのある匂いが後ろから近づいてきたのは。

 

「だーれだ!」

「おおっとぉ、そうはいかねーぜ葉隠ェ~」

 

 後ろから覚えのある匂いが近寄ってくるのはずっと前から分かってたんだ。

 ヒラッとかわしてやれば、つんのめる葉隠とすれ違う。相変わらずの透明人間で、目で見ただけじゃどこにいるかまるで分かりゃしねー。

 だが匂いだけは誤魔化せない。一度覚えた匂いを、おれは忘れねーからな。

 

「おう、ここにいるってことはおめーもヒーロー科を合格したんだな、葉隠。よかったじゃねーか」

「ま、まぁね。そういう噴上くんもでしょ? 私1年A組だけど、そっちは?」

「おれもA組よ! つうことはだ、これでおれたちは晴れて同級生ってことだよなぁ~~ッ」

「そうだね」

 

 ん~? なんか様子がおかしいな。いや、っつうかよぉ、

 

「おいおい葉隠ェ、また素っ裸かよ。もう試験は終わったんだぜ、ちゃんと服着て出歩けよなぁ」

 

 おれの目の前にいる葉隠は、姿が一切見えなかった。身一つでここに立っているのだ。

 肩越しに振り返れば、女子の制服が道のど真ん中に脱ぎ捨てられているじゃねーかよ。どうやらここに来るまではちゃんと服は着ていたようで、安心したぜ。

 

「……あはは、本当に私がどこにいるか分かるんだ」

「ったりめーよぉ。おれはもうお前の匂いをしっかり覚えたんだ、見失うなんてことは金輪際ありえねーんだぜぇ~~~~ッ」

 

 まぁ見失うっつても、目で見て追っかけてるワケじゃねーけどよぉ。

 

「――そっか」

 

 と、葉隠がおれに向き合うのが分かった。

 そんでもって、何か独特の匂いを放つようになる。嫌な匂いじゃねー。むしろ香しい感じだ。蒸れるような、アツくなっていくような、ひどく興奮しているのがおれにはわかる。

 

 ん、ん~~? この感じ、知ってるぜぇ~~~~? 前世でおれをいつだって励ましてくれた女ども、アケミやヨシエやレイコの奴らからいつも香っていた匂いだ!

 つぅことはよぉ、あれなんじゃねーか? 葉隠の奴もよぉ、おれにそれってことなんじゃねーのかぁ~~~~~~!!?

 

「おい葉隠、お前……」

「わ、私ね!」

 

 声をかけようとして、だが葉隠の張り上げた声がそれを塗りつぶした。

 

「……私ね。ほら、透明人間だからさ。本当だったら誰にも見つけてもらえないんだと思ってたんだ」

「…………」

「私から声をかけてかなきゃ誰も気づいてくれないんだろうなって。だからきっと、誰かの方から私を助けに来てくれるなんて、ないんだろうなって、そう思ってた」

「だったらその思い込みも今日限りって事になるなぁ~~~~ッ」

 

 何故って? このおれがいるからさ。

 猟犬にだって負けねー鼻と速さを持つ、この噴上裕也がなぁ~~~~!!

 

「どこにいたってこのおれが見つけ出してやるぜ、葉隠。んで助けがいりそうならよぉ、絶対助けてやる。何故ってこの噴上裕也がカッコ悪いことをするのは、太陽が西から昇るくらいありえねーことだからよ」

「……うん」

 

 おれの言葉に葉隠は小さくうなずいた。

 そのくらいは嗅がなくたって分かるぜ。葉隠はカワイイ奴だからなぁ。

 

 その時だ。おれたちを急かすように、空高くまで響く鐘の音が校舎から響いてきたのは。

 

「おっと予鈴がなっちまったな。こいつはちょっと急いだほうがいいんじゃねーか?」

「うん、そうだね」

 

 とは言いつつ、葉隠はおれの袖をつかんで軽く引いた。

 

「ね、ね、ね。あのさ、私のこと、透って呼んでもいいよ」

「いいねー。じゃあよぉ、おれのことも裕ちゃんって呼んでいいんだぜぇ~~~~?」

「えー何それ。でもいいよ、呼んだげる」

 

 くすくすと笑う葉隠の声は、おれの気分を最高に良くしてくれた。

 やがて葉隠は掴んでいた袖を大きく引っ張り、おれのことを校舎の入り口へ連れて行こうとする。

 

「行こ、裕ちゃん!」

「良いぜトオルゥ!! おれたちの新しい学園ライフの始まりだぜぇ~~~~ッ!!」

 

 これから始まる雄英高校での生活がどんなもんになるか分からねーが、何、問題はねーだろうさ。

 何故って、このカッコ良くてなおかつ美しい噴上裕也は、そのためなら何だってできる最高にイカした男なんだからなぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから校門前に脱ぎ捨てられた女子制服が問題となり、葉隠とついでにおれもひとまとめになって怒られたのは、このちょっと後のことだったが。

 

 




ジョジョで好きなキャラの噴上裕也と、ヒロアカで好きなキャラの葉隠透を掛け合わせてみました。
でもジョジョ風の言い回しって難しい。こんな風でよかっただろうか、と思わなくもないです。
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