噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ 作:己道丸
『一応よぉ、聞いといてやるぜぇ~~?』
ハイウェイ・スターとして向き合うそいつは、真っ白に干乾びた前髪からガンつけてきやがった。
へっ、三日間残飯にありつけてねーノラ犬だってもうちょいマシな目をしてるぜ。そんなに目ン玉をギラつかせてりゃーよぉ、その奥にトンでもなくドス黒い闇を秘めているっつーことが、どんなマヌケにでも分かっちまうぜぇ?
「………………」
その視線に、後ろで芦戸と峰田が身をすくませた。
そりゃそーだ。おれがハイウェイ・スターで割り込まなかったら、こいつの個性で攻撃されてたんだからなぁ。まぁ、峰田は『男ならもっとシャキッとしろ!』っつー感じだがよ。
『てめー、ナニモンだ』
「……お前らと同じ雄英生だよ……。ほら……制服……着てるだろ……?」
『フカシてんじゃねぇーぞッ、てめェ――――――ッ!!』
小汚ねーヤローだぜッ! そんな薄っぺらなウソで、このおれの鼻がごまかせるとでも思ったのかよぉ~~~~ッ! だとしたらその頭はクリスマスと大晦日と正月を一つにまとめちまったぐらいおめでたいぜッ!!
『おれにはテメーの匂いが分かるッ! てめーが着てる制服からは別のヤツの匂いがするってこともなぁ――――ッ!』
「…………」
『カネで買ったか? それとも力ずくで奪ったか!? どっちにしても、てめー自身の持ち物じゃねーッ! 何者だッ、貴様あぁ――――――ッ!!』
「……ミッション失敗だ」
その時だ、ヤツがボソリとつぶやいたのは。
カラカラに乾いた土の塊が崩れた時に出す土煙みてーな声だ。ひび割れた唇からこぼれたそれは、まるで石と石をこすり合わせたのかと思うほど耳障りだったぜ。
どうやら本性隠すのはやめたようだな。まぁ、元からあんまり隠せてなかったがな。
「……匂いで分かるとか……チートが……ッ! メインイベントの前にしくじるとか……ありえねー……ッ!」
頭を宙ぶらりんにして揺らしながら、ヤツはガリガリと首筋を掻きむしる。俯いた顔は髪に隠れてどんなツラしてやがんのかサッパリ分からねーが、とびきりイラついてるんだろーってことだけは分かるぜ。
ドス黒い声と一緒に、皮膚の下までえぐれる音がここまで届く。おれたちを見もしねーで感情をまき散らすヤツは、まるで幽霊かなにかのようだ。
……いや、違うか。
こいつを幽霊と呼ぶのは、ホンモノの幽霊に対して失礼ってもんだぜ。
おれはマジの幽霊ってモンを見たことがある。あれは今生じゃねー、前世でのことだ。
杉本鈴美。
ほかの連中がそう呼んでいた、なかなかイイ顔をした女だ。そしてイカしてるのは見た目だけじゃねー、中身もひっくるめて最高にイイ女だってすぐに分かったぜ。
なんたって十年以上かけて自分を殺した仇敵に報い、成仏する瞬間だったんだからな。
あの時の空をおれは決して忘れない。
雲間から差し込む光、どこまでも高く伸びた空、いつも見ているハズなのにまるで別の顔を見せるかのようだった太陽。その果てにあるのは宇宙とかそういうものじゃねーってのは、おれも含めてその場にいた誰もが気付いていた。
あれが天国に続く空なのだと、心で理解したぜ。
彼女に一番声をかけていたヤツが言ったぜ、『あなたのおかげで街は救われた』ってよ。
その通りだと思った。杉本鈴美って女は、おれが前世を過ごしたあの街を救った。街だけじゃねー、あそこに住んでいたすべての人間を救ったのさ。
彼女がいなかったら、ひょっとしたら誰もあの街にひそむ醜悪な殺人鬼に気付かなかったかも知れねー。正体に気付いたヤツを抹殺し、女の手だけを残して殺すイカれたあのヤローをのさばらせたままになっていたかも知れねー。
おれの女たちの誰かがあのヤローの手にかかるかもって思ったらよ、とてもじゃねーがヤツを許しちゃおけなかっただろうぜ。
最初はその仇敵の側についてたおれがいうのもナンだっつー話だが、彼女はまごうことなき善良な魂の持ち主だ。疑いようのない、誰もが讃え尊敬する『黄金の精神』の持ち主だったのさ。
杉本鈴美っていう幽霊はな。
だが目の前のコイツは彼女とは違う。
仮にコイツが幽霊だったとしても、杉本鈴美とは似ても似つかねー最低最悪のクズ野郎ってことハッキリしてる。悪霊とか怨霊とかそういう類になるんだろうってことはなぁッ!
コイツには光がない。人が持ってしかるべき善性ってモンがひとカケラも存在しねーッ。
あるのは墓穴よりも暗くて臭い、世の中全部を恨むゲスな性根だけだッ!!
――だから次に奴がとる行動も予想できる!!
「……コンテニューだ……」
「ひ……っ」
おうおう、ドブが煮え立つようじゃねーか。やめろよな、芦戸がビビッてハイウェイ・スターの背中にしがみついちまったじゃねーか。
悪りーな、芦戸。マジで不本意なんだぜ?
おれに頼る女をこっちから離さなきゃならねーッつーのはよぉ――――――!!
「……おまえら全員消して! コンテニューだっ!!」
『芦戸ッ! 峰田ッ! 下がれェ――――――ッ!!』
迎え撃つッ!
飛び掛かってきたコイツを芦戸たちには近寄らせねーぜぇ――――ッ!!!
〇
手の平をかかげるように駆けだしたヤローは、まるで走り寄るゾンビのようだぜ!
おれたちのハラワタをもぎ取ろうって気マンマンのッ、ハクトウハシのように広げられた五本の指が迫ってくる! 空気を引き裂く手が匂いの跡をひきながら振り下ろされる!
こいつの『手』ッ!
ヤツの指先ッ、その周りだけちょっぴりとだが匂いが変わっている! まるで何十年も放置された廃墟みてーにホコリクサいイヤな匂いだ!
間違いねーッ、ヤツの『個性』だ! こいつの『個性』は、指先で触れたモノに働きかける
生身で触るのはマズいッ! 間違いなくマズい、何が起こるか分からんが絶対にマズいということは理解できるッ!!
芦戸たちを触らせるワケにはいかねー!
コイツと戦えるのはッ!! この『ハイウェイ・スター』だけなのだッ!!!
『うおおおおおおおおおおおおォォォォォ――――――――――ッ!!』
迎え撃てッ、ヤツを!
指に触れるのがヤベーならよーッ、そのツラをブチ抜いてやるぜぇ――――ッ!!
「バカが……!
ハイウェイ・スターの拳がヤローの顔面に迫る!
だがしかしッ、届くよりも早くッ! 急に向きを変えたヤツの手が殴りかかる腕を横から掴んだ!
瞬間ッ!!
「な、何イィィィィィィ――――――――ッ!!?」
そ、それはッ! ヤツに触られたところからだッ! いきなりそれは起きたッ!!
「腕がッ!!
ま、まるで風にあおられた砂の城が端から粉々に吹き飛ばされるかのようにッ! 乾燥しきったクッキーがつまみ上げられることにすら耐えられないようにッ! ヤツに掴まれた腕がいきなり砕けッ! もげた拳がチリより細かく崩れていく!!
いや、それだけじゃない!
腕を伝ってッ、砕けたところから体の方へと
やっぱりヤツの手に触れることはッ、とんでもなくマズイことだったのだ!!
「噴上っ!?」
背後で芦戸と峰田の声の叫ぶ声がする。当然か、腕が欠けたんだからな。
実際、フツーの個性……いや、おれの場合スタンドか。とにかくフツーのスタンドだったらヤバかったぜ。フツーのスタンドは傷を負えば本体にも影響がおよぶ。この攻撃を受けたら、本体の腕も砕けちまってただろーよ。
だがしかしッ! このハイウェイ・スターなら対処できるッ!!
『腕を切り落とせッ! ハイウェイ・スターァァァ――――――ッ!!』
奴に掴まれたのは右腕! 崩壊が肩に届くより早くッ、左の手刀が二の腕を断つ!
「何……?」
ハイウェイ・スターの、おれ本体にダメージがこないっつー特徴が役に立ったぜ! 切り離した腕はチリになって消え去ったがッ、本体のおれがダメージを一切負うことなく、侵食する
そしてヤツがこれ以上近づけねーようにけん制するッ!!
「……チッ」
抜き放った蹴りをヤツはかわした。まぁ当たらねーとは思ってたぜ。
だが意外だっただろう? 相手がためらいなく腕を切り捨てて反撃してくるのは! 狙い通り、ヤツはまた飛び退いて距離をあけた!
ハイウェイ・スターなら問題ない! ビジョンとしての体が欠けるっつーのは初体験だが、それはあくまでも一時的な見た目の話だ、すぐに復元できる!
火を吹くみてーに切り落とした二の腕からパワーが湧き出し、あっという間に右腕の形にまとまる。念のため手を開いたり閉じたりしてみるが、その動きは寸分の狂いもなくおれの思う通りに動いてくれた。
同時に、やっとコイツの個性がなんなのかハッキリしたぜ。
コイツの個性は『崩壊』! 指で触れたモノを粉々にする個性ッ! 発動したらほぼ間違いなく相手を殺す、マジモンの
やはりコイツを芦戸たちから遠ざけたのは正解だったっつーことだな!
ふりだしに戻ったヤツは、今度はジットリとおれのことを注目してきやがった。
「……切り離した腕が復元した……血も出ない……。……なんだそれ……個性か……?
「てめーにそれを教えると思ってんのかよ、バカがッ!」
この場でコイツの相手ができるのはハイウェイ・スターだけだッ! このまま押し切るしかねぇ――――――ッ!
『くたばれッ! ミイラ野郎オオオォォ――――――ッ!!』
「……まぁいい……さすがに頭か胴を崩せば終わるだろ……?」
ハイウェイ・スターで突っ込む!!
ヤツが迎え撃つように手の平を構える!!
ヤツの指は猛毒をしたたらせたヘビの牙だ! 触れられたら粉々になるって事実は、たしかにハイウェイ・スターでも同じだ。その意味じゃ脅威は変わらねーかもな。
それにハイウェイ・スターのスピードじゃ、単なる殴り合いになったら圧倒することはできねーかも知れねーぜ。
だがな、ハイウェイ・スターの本領はただ殴り合うことじゃねー!!
『ヤツの養分を吸い尽くせ! ハイウェイ・スター!!』
ハイウェイ・スターが人型から足形の群れに分裂する!
時速60kmで走る、敵の養分を吸い上げて本体を回復するもう一つの形態だ!!
「……はぁ……!?」
ザマーミロ! 形を崩せるのはおめーだけの特権じゃねーぜ!
この姿でいるあいだは喋れなくなるのが難点だが、しかしこんなヤツとこれ以上喋る気はねー!
触られてもダメージがねーのはこの姿でも同じ! しかもこの数と細かさだ、二本しかねー人間の腕じゃさばききれねーだろ! このままその厄介な腕をかいくぐり、その体に取りつかせてもらう!
そしてマジモンのミイラになるまで養分を吸い尽くしてやる! それで終いだぜぇ――――――――――ッ!!
「クソチートが……!」
足形がヤツを取り囲む!
もはや警察犬に取り囲まれた犯罪者って感じだな、くたばりやがれ!
だがその時、風が吹いた。とんでもねー悪臭の風がな。
ふげえぇ――――――!!?
は、鼻が曲がる! 足形になってて無いはずなのに、鼻が曲がっちまう!!
この姿でいる時は嗅覚がメインになるから、より一層敏感になった気さえある。骨の髄まで薬漬けになった人間の匂いが、吐き気をもよおすほどビンビンに突き刺さる!
しかも、その匂いにまぎれてヤツが消えた!
ほんの一瞬、突然風とともに吹き込んだ風に気をとられた一瞬のうちに、あのヤローの位置が大きく変わった! それこそ瞬間移動するみてーに!
いや、それだけじゃねーッ、まるで
何が起きているんだ!?
ワケの分からねー状況! ハイウェイ・スターを人型に戻して確認するしかない!
足形が積み重なり、一つに固まって人型の姿に戻る。そうなった時目に飛び込んできたのは、辺り一面をすげー勢いの黒い風が吹き荒れている光景だった!
いや違う、これは風に色がついているんじゃねー!
『霧』だ!
黒い霧かモヤみてーな何かが、意思を持ったみてーにこの辺りにだけ吹き荒れているぞ!
「きゃああああああああぁッ!」
「ひいいいいぃぃぃぃ―――――――ッ!!」
『芦戸!? 峰田!!』
嵐といってもいい黒い突風に、芦戸と峰田の悲鳴が混じる。
クソッタレ! ぬかったぜ、この場にいる『敵』は、今の今まで相手にしていた白髪のアイツだけじゃなかったんだ! むしろ最初に見つけたのはもう一人の方、このとんでもねー悪臭を匂わせる『ヤク漬け野郎』の方だった!
その匂いはこの黒い霧全体から匂っている!
つまりこの黒い霧がッ! 『ヤク漬け野郎』だ!!
「黒霧……! 何のつもりだ……!」
どうにか芦戸たちの元までたどり着き、ハイウェイ・スターの体で二人をかばう。
すると、吹き荒れる霧の向こうからヤツの声がした。イラついた声、どうやらこの霧による横槍は、ヤツにとっても不本意だったようだ。
「今ことを荒立てるのは得策ではありません、死柄木弔。すでに
『霧が喋った……!』
やっぱりコイツ、人間だ! とてもマトモな人間が出す匂いじゃねーが、すくなくとも考えて喋る
しかも匂いは薄れていく!
あんなにひどかった『ヤク漬け野郎』の匂いが、今まで戦っていたヤツの匂いもろとも、みるみる間に薄れていく! それはあたりに広がって濃度が落ちる感じじゃねー、本当にその場から動かずに存在自体が消えていくかのような薄れ方だ!
まさかこの霧! 『ヤク漬け野郎』も瞬間移動みてーな能力を持っているのか!?
「ここは退きましょう。これ以上人目を引くのは良くない」
「……チッ。まぁいい、コンテニューがきくならな……」
き、消える! マジで消える! ヤツらの匂いが、もう消えかけたロウソクの火よりも乏しい!
『てめーッ、待ちやがれッ!!』
「……ザコキャラに用はない……ボス戦に備えて……HPは温存しないとな……」
『誰が雑魚だコラアアァァァァ――――――ッ!!』
しかし叫びに返事はなかった。
渦巻く霧の嵐はウソみてーに晴れ渡り、あとには何一つ残っちゃいなかったんだからな。
〇
「……消えちまった」
ハイウェイ・スターを芦戸たちのもとに飛ばした後も人混みにもまれたおれだったが、どうにかそこを抜けてここまで来れた。
飯田のヤツが体を張って人混みを冷静にさせたおかげだ。
人だかりを飛び越え、廊下の出入り口の上にへばりついて声を張り上げたヤツの姿は爆笑モノだったが、それでパニックになってた人の流れがおさまったんだから、ただ笑ってすますワケにいかねーな。
しかしそこに残っていたのは、芦戸と峰田、そしてハイウェイ・スターだけだった。
他には何もない。
二人が、校舎裏にさしかかる一歩手前の日当たりが良い場所にいるだけだ。
触れたモノを粉々にするミイラ面のヤローも、とんでもねー悪臭を放つ霧みたいなヤツもいやしない。何一つ痕跡を残さず消え失せちまった。
だが間違いなくやつらはいた。
「いったい何だったんだ、ヤツらは……」
少なくともマトモなヤツらじゃねーってことはハッキリしている。個性の使用が厳しく取り締まられたこの超人社会で、あんなヤベー個性を迷わず人間に向けられるヤツがマトモなワケがねー。
とんでもなくヤベー不審者……いや、ただの不審者じゃすまねーかもな。
「――まさか、
ヒーロー養成校として名高い雄英に忍び込むとは信じらねーが、実際に目にしちまったんじゃ認めるしかねー。
対面したのはおれだけじゃねーんだしな。
「……あ……噴上……」
おれの名を呼ぶ声がした。
地面にへたり込んだ芦戸だ。呆然とした顔でハイウェイ・スターを眺めていたが、どうやらおれ本体がこの場にたどり着いたことにようやく気付いたようだ。
呆然とした力のねーまなざしがおれに向けられる。モチロン隣の峰田もだ。
「よぉ、大丈夫かよ」
ハイウェイ・スターを引っ込め、おれは二人に歩み寄った。
ったく、イイ女が地べたにケツつけちゃあいけねーよなぁ~~~~。腰でも抜かしちまったか? まぁ目の前であんな大立ち回りがありゃしょうがねーかもな。
「立てるか?」
だからおれは右手を差し出した。芦戸の手を掴み、立たせようと思ったからだ。
だが芦戸はその手をまじまじと見つめて腰を浮かせることもしねー。いや、それどころか、まるで手相を見る占い師みてーにおれの手の平に触れ、確かめるように表面をなぞりやがる。
オイオイ、ちょっぴりくすぐったいぜ芦戸。そんなにおれの手が好きかぁ~~~~?
「…………手」
「あん?」
ポツリと、つぶやく声がした。
「手、大丈夫なの?」
「ん? ああ」
どうやら芦戸は、さっきの戦いでハイウェイ・スターの腕を自分から切り落としたことを気にしているらしいな。おれの分身だから、おれ自身にもなんか影響があるんじゃねーかって、とそういうことか。
優しーねぇ~~ッ、まさかそんなところまで気ぃ回してくれるなんてよぉー、イイ女じゃねーか芦戸三奈ぁ~~~~ッ。
「問題ねーよ。おれとハイウェイ・スターのつながりは
まぁほかのスタンドだったらこうはいかなかっただろうけどな。
あんまり遠くにいくと細けーことが分からなくなるのが難点だが、しかしこういう時にはやっぱり無敵の能力だって思うぜ。とくに指先に触れるだけでヤバいヤツを相手にする時はな。
まぁそれも今となっちゃあ終わったことだぜ。
だからおれは、手の平をなぞる芦戸の手を掴んで引き起こそうとして、
「……ぅ」
逆に掴み返された。
いや、それだけじゃねー。おれを見る芦戸の目がうるみ、体を大きく震わせた。
そして一気に強くなる塩っぽい匂い。次に何が来るかを直感で理解したおれは、腰を落として足のふんばりをきかせることにした。
跳びついてくる芦戸を受け止めるためだ。
「うあああああぁぁぁぁぁんッ! 噴上ぃ――――――――――!!」
その大きな瞳からめいいっぱい涙をこぼし、芦戸はおれのふところに飛び込んできた。
なかなかの勢いだぜ。まさに全身全霊って感じだ。予想してなかったら押し倒されてたかも知れねーな(それも悪くねーが)。
「怖かったぁ! 噴上、腕無くなっちゃうし! 変な真っ黒も吹いてくるしぃっ!」
「おう、悪かったな、ビビらせちまってよ。もう大丈夫だから泣くなって」
細いとはいえ鍛えられた芦戸の体だ。受け止めるにも力がいる。
だがこの噴上裕也、女に頼られてよろめくようなヤワな男ではねーぜッ!!
「おれが追っ払って、何とかしてやったろ?」
「う、うん……っ」
「だったらホラ、怖えーことは何もねーだろーがよー。おめーをビビらせるもんは、この裕ちゃんが許しちゃおかねーって。……だからよぉ、泣くより笑ってくれや」
「…………で、でもぉ……」
あーまだダメそーだな。
ちょっぴりマシにはなったが、まだ不安そうな匂いがくすぶってやがる。眉をハの字にしてこっちを見上げるツラも、いかにも心細いですって感じじゃねーか。
だからおれは芦戸を抱きしめることにした。
「あ……」
「じゃあお前に魔法の呪文を教えてやる」
お前の目の前にいるのは頼れる男だってことを教えてやる。助けにやって来たこのおれは、決して揺るがねー男なんだってな。
「『ありがとう裕ちゃん』。ほれ言ってみ? 気持ちが晴れるからよ」
おれの言葉に一瞬きょとんとした芦戸だったが、すこしためらった後、おずおずとおれの言葉を繰り返した。
「……あ、ありがとう裕ちゃん……」
「もっと腹の底から。嫌な気持ちを全部乗っけるように。ほれ」
「――ありがとう裕ちゃん」
その時、その言葉が出た時。
芦戸から香る不安の匂いが一気に薄れたのが分かった。
「ほうら、気持ちが軽くなった。だからもう大丈夫。……おめーの不安はおれが止めるぜ、ミナ」
「……うん。ありがとう、裕ちゃんっ!」
そうそうその調子! やっぱり芦戸三奈っつー女は、笑顔が一番似合うんだよなぁ~~~~~~ッ!!
……さて。
あとは、ミナのついでにくっついていた要らねーオマケをどうにかしねーとな。
「ウヴェェェェェェェェェ――ッ!! 噴上ィ―――――!! オイラッ、オイラももう死ぬかと思ったよォ~~~ッ! なんだったんだよアイツら、めっちゃコエエェェ――――――――――!!」
「てめーは離れろ峰田! おれがなぐさめるのは女限定だッ、バカヤロー!」
「オイラもうお前嫌いになんねー! 恩人だよおめーはっ!!」
「あッ、バカッ、てめー鼻水つけんな! おいコラッ、マジで離れろテメーッ!」
かくして。
腕と胸を芦戸に貸し、足を峰田にしがみつかれたおれは、二人が泣き止むまでそこに立ち尽くすことになった。
おれに泣きつくのはミナだけで十分だっつーのによぉーッ。ったく、世話の焼けるヤローだぜ。
〇
――これで事件は落ち着いた。そんな風におれは考えていた。
モチロンおれたちはここで起こったことをセンコーたちに報告したぜ。
セキュリティーが反応したのは不当に入り込んだマスコミだったが、それに紛れて入り込んだ敵まがいの不審者。校内の人間に危害を加えようとした危険人物として警戒を強めると、センコーたちは言っていた。
……不覚にもおれはそれで一安心だって思っちまった。
センコーに言われたことを真に受けるなんて、もと暴走族の噴上クンも丸くなったもんだぜ。ひょっとしたら、隣で一緒に話を聞いていた芦戸と峰田を安心させるために話を合わせて、おれ自身もそう思っちまったのかもな。
後日、おれを含む1年A組が校内の施設で授業を受けようって時、それは起きた。
あのとんでもねー悪臭がふたたび吹き出し、ミイラみてーなツラのあいつが現れたのだ。それも、バカみてーな頭数のいかにも人相が悪い連中を引き連れて。
おれの予想は当たっていた。やつらは
世の中のヒーローが日夜戦う悪党。街を壊し、人を襲う『悪』の実行者。
その矛先としておれたちは狙われていたのだ。
雄英バリアー崩壊編・後編。またの名を芦戸編ともいう。
ハイウェイ・スターは遠隔操作型と自動操縦型のハイブリットって感じですが、足形の群れになってる時は自動操縦型としての特性が強くなり、本体との情報共有や操作性が落ちるイメージがあります。
次回からはUSJ編。一度は退いた死柄木たちが手下を引き連れてリベンジ。
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