噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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噴上裕也は負けられない その①

「はじめまして、我々は敵連合」

 

 ひとかたまりになった黒いモヤがおれたちを見下ろしていた。

 その霧には目があったのだ。まるで光が差すヒビ割れのような目が、鉄塔みてーに伸び上がったてっぺんからおれたちを見下ろしやがる。

 その視線に、優しさだとか温情っつー類のものは一切なかった。

 あるのはただ一つ、愉しみながらおれたちをなぶりものにしようって冷酷な意思だけだ。

 

「このたびヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

「ンだとコラアアアァァァ――――ッ!!」

「その前におれたちにやられるって考えなかったか!!」

 

 ろくでもねー精神はクソみてーな言葉を吐くもんだ。続けざまにのたまった霧に、爆豪と切島が飛びかかる。

 だがダメだ。そいつはただ攻撃しても効くようなヤツじゃねー。

 何で分かるって、おれはこいつに一度会っているからだ。鼻がイカレちまいそうなほどに薬物の匂いを積み重ねた、この『ヤク漬け野郎』にな。

 こいつの個性は瞬間移動とかワープとかそういう類のものだ。こないだもその力でトンズラかましやがった。それができるヤツだ、攻撃なんざどっかに送られて受け流されちまう。

 

「――危ない危ない。やはり学生といえども優秀な金の卵……」

『ダメだっ! どきなさい、二人とも!』

 

 爆豪の個性で起きた爆発の煙から、『ヤク漬け野郎が』変わらねー姿で現れる。それを見て爆豪たちに命令したのは、今日おれたちをこの場所で迎え入れたセンコーだ。

 13号。

 全身を宇宙服みてーなコスチュームで包み隠したヒーローだ。清く正しくいかにもヒーローって感じだったそいつが、メット越しでも分かるぐらいの焦った声で叫ぶ。

 しかし、もう遅いのは誰の目にも明らかだった。

 

「私は私の役目を果たすとしましょう!」

 

 その瞬間、一気に膨れ上がった霧が津波みてーにおれたちを飲み込んだ。

 

 

 

「うおあああああぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!!」

 

 

 

 戸惑いや恐怖の悲鳴があがった。まぁおれは、あまりの悪臭で叫んじまったんだがな。

 だが問題はそこじゃねー。包み込んだものをワープさせる、『ヤク漬け野郎』の霧に包み込まれちまったってことが問題なんだぜ!

 

「……チ、チクショー……!」

 

 消える、消えちまう! クソみてーな霧の匂いの向こうで、同級生たちの匂いがどんどん薄くなるのが分かる!

 

「私の役目は……貴方たちを散らし、なぶり殺すこと」

「何……!?」

「この施設、USJ(ウソの災害や事故ルーム)でしたか。ふふ、ふざけた名前だが、貴方たちを分断するにはもってこいの場所だ」

「……!!」

 

 こいつ知っている! おれたちが今日、雄英高校の中にあるUSJ(ここ)に来るって知っているぞ!

 そうか、こないだ雄英に入り込んだのはこのことを調べるためか。学校側が自分の方から、しかも標的であるオールマイトと一緒に孤立する時間を調べ上げるために!

 だが残念だったな!

 

「……バカヤローが……!」

「?」

「オールマイトは……いねーよ……! 欠席だ! マヌケが!!」

 

 なんでか分かんねーけど、オールマイトはドタキャンしたんだ! さすがに直前になっての変更までは把握してなかったみてーだな、ザマーミロ!

 

「……あなたは先日、死柄木弔に挑んだ学生ですね」

 

 『ヤク漬け野郎』の注意がおれに向けられた。

 

「彼の個性を無力化できる個性、実に危険だ。やはりあなたは、あの男に始末させましょう」

「ンだとぉ!? やんならテメーが来いやッ、ブッ飛ばしてやる!」

「ふふ、それでは」

 

 その言葉を最後に、霧の勢いは一気に強まった。

 ただでさえかすんでいた視界は黒一色に染まり、ついに同級生たちの顔は一切見えなくなった。

 分かるのは、あいつらの匂いが悲鳴とともに消え失せちまったってことだけだ。

 

「うわあああぁぁぁ―――――……」

「きゃあぁ――――――……」

 

 男の声も、女の声もした。だが誰一人として耳に刺さるような悲鳴をあげられない。まるで一瞬で遠のいちまったような、尻すぼみの叫びをあげるだけだ。

 『ヤク漬け野郎』の言う通りなら、きっと誰もがどこかに送られちまったのだ。

 このUSJという施設のあちらこちらに。待ち構えている敵でなぶり殺しにするために。

 

 その瞬間、おれはここに来るまでにあいつらと話したことを思い出した。

 

 

 

 ――緑谷ちゃん。あなたの個性、オールマイトに似てるわね

 ――えっ!? そ、そうかな? そんなこともないんじゃないっ、かなっ!?

「ハッ、憧れすぎて似たような個性に目覚めちまったんじゃねーのか? こいつ、おれと同じで最近新しく個性が出たクチだしよぉー」

 ――い、いやそのっ! それはっ、たまたまのっ、偶然の一致で……っ!

 ――どうしてそんなに動揺しているの? 緑谷ちゃん

 

  蛙吹梅雨(ツユちゃん)。緑谷出久。

 

 

 

 ――待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねーよ、緑谷のは似て非なるアレだぜ

 ――緑谷、入学早々から保健室の常連だもんねー。毎回バキバキでさ

 ――でも増強型のシンプルな個性はいいよな、ハデでできることが多い! おれのは地味でよぉー……轟や爆豪の個性が羨ましいぜ

「オイオイ切島ぁ、おれの個性だってイカしてんだろーがよぉ! おれのハイウェイ・スターは探って追って戦える無敵の個性ッ! できねーこと探す方が難しいぜぇーッ?」

 ――おー裕ちゃんカッコイー!

 ――お前、いつから噴上のフォロワーになったんだ?

 

 芦戸三奈(ミナ)。切島鋭児郎。

 

 

 

 ――確かに、轟君たちはできることが多いな! しかし爆豪君は、そのすぐにキレる性格をどうにかしないと人気が出ないぞ!

 ――ンだとコラッ! 出すわコラァッ! 何様だクソメガネ!!

「おーおークセークセー、手汗だけじゃなくてアドレナリンがプンプンでクセーったらねーぜ。おめー風呂で一生体を洗ってた方がいいんじゃねーのかぁー?」

 ――テメーのは犬の鼻かっ、濃い顔ぉ! その高鼻へし折って穴塞いでやろぉかぁ!?

 ――爆豪君! 粗暴な口の利き方はやめたまえと何度言えば……

 

 飯田天哉。爆豪勝己。

 

 

 

 

 この雄英高校に入学してからまだ数日。

 初対面に毛が生えた程度の付き合いしかねーが、それでも同じクラスに通う人間として、その中の何人かはおれを励ましてくれる女として、これからも付き合っていくんだろうぜって思っていた、そいつら。

 

 そいつらの顔が、すべて黒い霧の向こうに消えちまう。

 

 

 

「おめーらあァァァ――――――――――ッ!!!」

 

 

 

 きっとこの叫びも、ほかのやつらには届いちゃいねーだろう。

 目の前は完全に黒一色で埋め尽くされ、立っていたハズの地面の感覚も無くなった。上も下も、左右も前後もまるで分からねー暗闇。間違いねー、おれは今、『ヤク漬け野郎』の個性でワープさせられている。

 だがそれも一瞬のことだった。

 次の瞬間、どこからか差し込む光に包み込まれ――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれは空中に投げ出された。

 

「はああああぁぁぁぁ――――――――――ッ!!!?」

 

 高ぇッ、高ぇぞッ! 頬が風を切るほどに! とんでもね―高さに放りだされた!!

 オイオイマジかよ、おれはついさっきまで地面の上に立ってたんだぜぇ~~~~ッ!? それをこんな空高くにワープさせるとか、そんなのアリかよッ!!

 

 しかも周りは岩山! 草一本生えねー岩肌ムキダシの峰がそこら中にひしめいている!

 クソッタレめ、USJのどこっかに飛ばすんじゃなかったのかよぉ~~~~ッ!?

 

「何だッ、ここはぁ――――ッ! おれはどっか遠くにトバされちまったのか!?」

「――いえ、そうではないようですわ!」

 

 おれの悪態を、しかし正そうとする声がした。

 近くもないが遠くもない、風を切る音の向こうからでも聞こえるように張り上げられたその声は、いかにもマジメですって感じの女のものだ!

 おれはこの声の主を知っている!

 

「八百万!?」

「空をご覧になって!」

 

 ポニーテールを風になびかせるナイスバディのカワイ子ちゃん、我らが副委員長の八百万百は、おれと同じように空から落ちている最中だった。

 青ざめた顔で、しかしその腕に確かな意思をこめて上を指差す。つられて見上げると、どこか遠くに飛ばされたのなら無いハズのものがそこにはあった。

 ドームの内側。ここに来た時にも見た、USJの天井だ!

 

「ここはまだ施設の中ですわ! 岩山に囲まれた環境を見ますに……ここは山岳ゾーン!!」

 

 さすが優等生! 自分がおかれた状況を冷静に把握してるってワケか!

 たしかに、岩山の向こうにさっきまでいたUSJの中央部が見える! まるで山の上にある神社へ続くかのような長くてデカい階段、その高台の上にはちょっぴりとだが黒いカタマリが見える!

 『ヤク漬け野郎』だ! おれたちはついさっきまで、あそこにいたんだ!

 

 クソがッ、ほかのやつらはどうなった!?

 みんなヤツにトバされちまったのか!? あそこにはもう誰も残ってねーのか!?  『ヤク漬け野郎』の目的がおれたちをバラけさせることなら、おれたちのようにUSJのあちこちに送られちまったってことか!?

 

「……ちょっとちょっとお二人さん、冷静に分析してる場合じゃないって!」

 

 そこでさらに別の声が聞こえてきた。

 ちょっぴりハスキーなその声には覚えがある。っつーか、おれが女の声を忘れることなんてありえねーぜ!

 

「耳郎! おめーもここにトバされたか!」

「バカヤロー! おれもいるだろうがよぉ――――っ!」

 

 おっと、もう一人いたか。

 上ずった悲鳴をあげながら真っ逆さまに落ちていくのは野郎だった。革ジャンみてーなコスチュームを着た金髪のそいつは、

 

「おめーは……たしか上鳴!」

「うろ覚えかよ噴上!」

 

 うっせーな、男のツラなんぞいくら覚えたって足しにならねーんだよぉ! 目ン玉と鼻の穴から汁ぶちまけてるクセに、文句つけてんじゃねーぜ!

 しかしその同級生は、おれが忘れかけていたことを思い出させてくれた。

 

「地面!! もう目の前まで来てんぞぉ――――――っ!!!」

 

 そうだった! 落ち続けるおれたちに時間なんざ少しもねーんだった!

 周りは岩山、下はガチガチの地面! このまま落っこちたら全身バキバキのミンチになるのは決まりきった未来なんじゃねーのかぁ~~~~ッ!?

 

 おれにダメージがこないハイウェイ・スターを先にやって受け止めさせるか!?

 いやダメだッ、ハイウェイ・スターじゃ一度に受け止められるのは一人が限界! おれ一人助かっても意味がねーッ! 上鳴はともかく、八百万と耳郎を安全に着地させる方法が必要だぜ! 女どもをキズつけねーでこの高さから着地する方法がよぉッ!

 

 しょうがねぇッ、耳郎はハイウェイ・スターが、八百万はおれが受け止める! 足の骨はイッちまうだろうが、あのムチムチボディを抱っこできる役得だと思って、ここは耐えるしかねーぜ!

 

「皆さん、私の方に集まって!」

 

 だがそこで八百万が叫んだ!

 いつものツリ目をさらにつりあげた目は、一刻を争うガチの目だ。だがそれは何か考えがあるって証拠! 何をするか知らねーがここは従った方が良さそうだ!

 だが空中でみんなまとめて移動する方法なんて、一つしかねーぞ!

 

「上鳴ッ、歯ぁ食いしばれ!!」

「はぁ!?」

「ハイウェイ・スタアァ――――――ッ!!」

 

 出現させたハイウェイ・スターを上鳴に向かわせる! 何をするかって? 決まってるぜ!!

 上鳴をッ! ブッ飛ばすんだよおぉぉぉ――――――ッ!!

 

「ふげぇ――――――ッ!!?」

 

 頬っ面ブン殴られた上鳴の間抜けた悲鳴! 気にすんな、ハイウェイ・スターはパワーが弱いからガチ殴りしたってヒデーことにはならねーよ!

 だから安心して、こっちに吹っ飛んで来い!!

 

「うっ!」

 

 まずは上鳴が耳郎に激突! んでもって二人まとめておれに衝突!!

 さすがに三人一緒ってなると勢いも弱くなっちまうが、それでも上鳴からスタートした流れはおれたちの軌道を確実に変えた!

 四人の軌道が一つになる!

 

「ナイスです噴上さん!」

 

 地面が間近に迫る! だがその直前ッ、八百万の腹が光を放ってなにかデカいカタマリを出現させた! 特大の布団みてーなそれがおれたちに先んじて地面に着地する!

 にぶい音をたてて地面に広がる()()はッ!!

 

「――着地用マットですわっ!!」

 

 体育館の走り高跳びなんかで選手を受け止めるクッション材だ! 厚さ数十センチにおよぶスポンジマットがおれたちを受け止める!

 

「ふンぎッ!!」

 

 まぁ、つっても結構痛いんだけどな!

 マットって言っても、ガチで身を投げるとかなりキくよなぁ~~~~ッ。だがよぉ、あの高さから地面に直で落っこちるのに比べたらはるかにマシだぜ。

 

「うぅ……何とか、なりましたわね……」

「痛てぇー……空から落っことされるし……ブン殴られるし……」

「つーか上鳴ジャマ! 重い!」

「あだーっ!」

 

 どうやら他のやつらも無事みてーだな。

 しかしさすがだぜ、八百万百。あの状況で対策を練るオツム、んでもって解決策を生み出す個性。雄英高校に推薦入学したっつー話はマジみてーだな。

 個性『創造』。

 対人戦闘訓練でも見せてもらったが、構造を把握してるモノならなんでも創り出せる個性ってのは、メチャクチャ便利だよなぁ~~~~ッ!

 おかげでおれたち全員、生き延びることができたぜ。

 

 ……とはいえ、だ。

 

「おい、てめーら。とっとと起きた方がよさそーだぜ」

「は? なんでだよ」

 

 ったくノンキなヤローだぜ、上鳴。てめーの目ン玉は節穴かよ。

 おれたちはよー、そもそも敵の個性でやつらの思うままの場所にトバされちまったんだぜ? つまり、連中の作戦にまんまと乗せられちまってるってワケだ。

 だったらよぉー、当然()()()()()

 

 

 

「オイオイ、なんだよ」

 

 

 

 おれでも自分自身のでもない男の声に、上鳴が飛び起きた。ったく遅せーよバカ。

 

 マットの周り、着地した拍子に舞い上がった土煙の向こうからそいつらは現れる。一人や十人じゃきかねー、大勢のロクデナシがなぁ~~~~。

 (ヴィラン)だ。

 いかにも『格好の獲物を前にしました』って具合に舌なめずりをする、餓えた野犬よりも薄汚ねーヤローどもが、おれたちを取り囲んでいやがったのさ。

 

「地面に叩きつけられて虫の息になったガキにトドメを刺す、カンタンな仕事じゃなかったのかよ」

「知らねー。あの小娘の個性だろ」

「哀れだねー。最初っからくたばっておけば、こうして怖い思いをしなくてすんだのによぉ」

 

 フツーの人型のやつもいる。武装したやつも、ガタイのいい異形型のやつもだ。頭数の分だけ見た目はバラバラだったが、しかしそいつらには共通していることがある。

 それは、ギラついた目でおれたちを嘲笑っているってことだぜぇ――――――ッ!

 

「ぶっ殺せえぇぇぇ――――――――――っ!!!」

 

 連中の誰かが叫び、その通りになった。ロクデナシどもが一斉に飛びかかる!!

 だがよぉ、叫んだのはおめーらだけじゃねーぜ!

 

「みんなっ、正面に向かって走って!」

 

 耳郎だ! 彼女の声でおれたちは跳び出した!

 

「はぁ!? 敵のど真ん中に突っ込めって、何考えてんだよぉ!?」

「うっせー上鳴! いいから走るんだよぉ~~~~ッ!!」

 

 文句つけてるヒマはねー! どのみち黙ってても敵のエジキだ、ここは耳郎を信じて突っ走るしかねーぜッ!

 上鳴の胸倉をつかんで引きずり起こし、八百万とともに走る。正面、耳郎が向いている方向へスタートダッシュを決める!

 そうして耳郎を追い越そうとした直前、とんでもねー爆音が放たれた!

 

「――――――――――ッ!!?」

 

 飲み込まれた敵の悲鳴をかき消す大音響! どいつもこいつも耳をおさえてうずくまり、横を抜けていくおれたちに襲いかかることもできやしねー!

 

「やるな、耳郎!」

 

 振り返って声をかければ、一歩遅れて走る耳郎ははにかんだように笑って見せた。

 

 個性『イヤホンジャック』。彼女の個性だ。

 耳たぶから伸びるプラグは、突き挿したモノを通して細かな音を聞き取ることができるらしいんだが、逆に自分の心音を大音量に拡大して伝えることもできるんだそーだ。

 んで今やってみせた芸当は、耳郎が身につけているサポートアイテムの力だ。スピーカーみたいになってるブーツは、大音響になった心音を一方向に絞って放つことができるッ!

 これも対人戦闘訓練で見せてくれた耳郎の技だ。

 

「行かせねーぞっ! ガキイィ――――ッ!」

「おっと! やっちまえハイウェイ・スター!!」

 

 だが範囲の外から敵が躍りかかる! そのへんはおれのハイウェイ・スターでフォローだぜ!

 足形の群れに分散させて、ロクデナシどもにブチかます!

 

「うげぇ!?」

 

 複数人相手で足形もバラけちまったが、一つ二つでも強烈だろうがよぉ!

 はたき落されたハエのように倒れる敵を横目に、おれたちは連中の包囲網を突破した。左右を岩山に囲まれた細道を走り、罵声をあげる追っ手から逃げる!

 

「待てやコラアァ――――――!」

「オイオイあいつら追っかけてきてんぞぉ――――!?」

 

 ビビッてんじゃねーぞ、上鳴! あいつらはおれたちを狙ってるんだ、追っかけてくるのは当たり前だろうがよぉッ!

 だがいつまでも逃げてらんねーのも事実!

 

「上鳴! あんたの個性でどうにかしてよ、電気男でしょ!?」

「あのなぁ戦闘訓練の時に見たろ、ペアだったじゃん! 俺のは電気をまとうだけだ! 放電したらおめーら巻き込んじまうよぉ!」

「あぁもう役立たず! だったら一人残って足止めしてこい!」

「ひでー! この人でなしぃーっ!!」

 

 漫才してる場合じゃねーぞ、おめーら! そういつまでも走ってらんねーんだからな!

 だが上鳴の個性を使おうってのはいい考えだぜ耳郎! 要はおれたちに電気が向かってこねーようにすればいいんだろ!? なら何とかなるぜ!!

 

「――『水』だッ! 『水』を創れるか、八百万!!」

「! ……ええ、やれますわ!!」

 

 へっ、さすが優等生、言いたいことは分かってくれたみてーだな! いいねぇ、女とのツーカーってのはいつだって気分が良いぜ!!

 

 その直後、八百万の足が光を放って大量の水を噴き出した。それは地面に残り、おれたちの走った後をビッショリと濡らしていく!

 そうなればよぉ、敵どもは当然その上を通るよなぁ~~~~ッ!!

 

「よしッ、八百万、水を止めろ! 上鳴、やっちまえ!!」

「おっしゃあぁっ! これなら俺はクソ強えぇ――――――っ!!」

 

 上鳴が足を止めて連中に振り向く。そして勢いよく腕を振り下ろした直後、トンでもねー光が放たれた!

 

「くらえぇ――――――!!」

「ゲアアァァァ――――――ッ!!?」

 

 上鳴の個性『帯電』によって電流が放たれる!

 目もあけられねーほどの電気だ、おれたちも巻き込まれてたらひとたまりもなかっただろーぜ! だがそれを誘導するモノがあるんなら話は別だよなぁ~~~~ッ。

 水は電気を通す! 小学生でも知ってる知識だぜ! 八百万が創造した水が上鳴の電気を誘導し、その上を走る敵どもだけを感電させたのだ! これがマンガだったら骨が透けて見えるほどの強烈な電光が連中を襲う!

 

「オ……オア……ッ」

 

 放電が止んだ時、あとに残ったのは真っ黒コゲになった敵の集団だった。

 立ち尽くしたヤツはまだマシな方。ほとんどは手足を痙攣させながら、湯気が立ちのぼる地面の上に倒れ込んでいた。

 全滅だ! うまくやったな、上鳴!

 

「やりましたわね、上鳴さん!」

「うわ、強力。やるじゃん、上鳴」

「ウェ……ウェイ……い、いや、……おうよ……。でも、ギリギリだったぜ……」

 

 だが褒められた当の上鳴は、ちょっとアホ面になっていた。

 個性の副作用らしい。あんまり電気を使いすぎると、脳ミソがショートしてとんでもねーアホになるんだと。つっても、普段から結構アホだけどな。

 どうやら電気を誘導する水のおかげで、限界超えるまで電気を使わずにすんだらしいな。

 

「しっかりしろアホ」

「ウェーイッ!」

「けど、これからどうしますの?」

 

 気つけのビンタをかます耳郎を尻目に、八百万が疑問を口にする。まぁ当然だな、追っ手がいねーんなら、次は何をするかって話になるよな。

 でもおれたちにできることなんて、そう多くはねーだろ。

 

「このUSJから抜け出して、センコーに敵が入り込んだことを伝える。これしかねーんじゃねーか?」

「……そうですわね、それが一番だと思います」

 

 八百万もおれの言葉に頷いた。

 ここにあとどれだけ敵がいるか知らねーが、おれたちを待ち受けていた敵だけでもかなりの数がいた。それがほかのゾーンにもってなると、相当な数がいるのは間違いねー。

 入学したばっかりのおれたちじゃどうしようもねーぜ。

 どうにかしてここから抜け出してセンコーを呼びに行くのが、他の場所に飛ばされた連中を助ける一番の手になるのは確かだぜ。

 

「行きましょう。とにかくここの外に出なくては」

「あぁ」

「うん」

「ウェ……おうよ……」

 

 頷きあい、おれたちは歩き出そうとした。

 だがその時、

 

 

 

「……あ~~あ~~っ。何やってんですかぁ~~~~あんたらぁ~~~~っ」

 

 

 

「!!」

 

 声が降ってきた。いかにもやる気がねーって感じの、野太くて低い男の声だ。

 山間に反響して何重にもなって聞こえるのは、はじめて聞く声だ。だがよぉ、この状況で聞こえてくる声の主が味方だと思うほど、おれたちはマヌケじゃねーぜ。

 

「これだからハンパ者はダメだって話だよなぁ~~~~っ。こんなガキどもに良いようにされて、恥ずかしくないんですかぁ~~~~ッ?」

「ンだてめーッ! どこにいやがるッ!? ツラ出せやオラアァ――――――!!」

 

 声の張り合いでこの噴上裕也、負けはしねーぜ!  こういうのはビビった方が負けだよなぁッ!

 

「お、おい噴上、あんまり挑発しねー方が……」

「――ガキが」

「ひぃっ!」

 

 その瞬間、それまでとはまるで違う声がした。

 おれには分かる。これはガチになったワルが出す、キレる寸前の声だ。

 

 そしてそいつは()()()()()

 

「噴上っ、危ない!」

 

 耳郎の声で気付く。

 暗いッ、おれの周りだけ急に暗くなった! さらにさっき聞いたばかりの音! これは何かが風を切って落ちてくる音だ!

 まちがいねー、これは()だ! 何かがおれの上から降ってくるぞッ!!

 

「…………ッ!!」

 

 飛び退く! 直後、立っていた場所が砕ける!

 ()()()が踏み破ったのだ!!

 

 

 

「ヤクザをナメてるとツブすぞガキイィ――――――っ!!!」

 

 

 

「ギャ――――――!!」

 

 上鳴が悲鳴をあげ、八百万と耳郎がその姿を見た。いや、見上げていた。モチロンおれもだ。

 それぐらいそいつは、デケーナリだったのだ!

 

 降ってきたのは、オールマイトよりもデカい筋肉ダルマだった。

 岩のカタマリみてーな胴体と、おれの体よりずっと太い二本の腕。両手は鎧みたいなグローブをはめていて、いかにも相手を殴り殺す気マンマンって格好だぜ。

 だが一番目を引くのは、その筋肉まみれの体じゃねー。

 ツラだ。そいつは覆面をしていたのだ。

 カラスかペンギンっつー感じの、細長い鳥の頭みてーな黒いマスク。両目のところはカブキ役者みてーな模様が入っていて、いかにもワルモノって感じじゃねーかよぉーッ。

 

 しかしこいつ、今なんつった?

 ヤクザ? ヒーローがワンサカいる今の世で、ヤクザ?

 

「……か、活瓶……! 今までどこにいやがった……!」

 

 その時、上鳴の電気で倒れていた敵の一人が頭を上げた。

 

「て、てめーらの誘いで来たんだぞ……! 言い出しっぺが後ろにいるとか、どういうつもり……」

「黙れ」

「ぷげひっ」

 

 言い募ろうとした敵は、しかし最後まで言い切ることはできなかった。

 活瓶、そう呼ばれたこの筋肉ヤローに踏みつぶされたからだ。

 まるでゴキブリを踏みつぶすみてーな気軽さだったぜ。足を上げて下す、ただそれだけでその敵は、靴底の下敷きになって地面にめり込んじまった。

 

「チンピラが。おれに命令できるのは兄貴……いや、オーバーホールだけだ」

「う……っ」

 

 青ざめた顔で八百万たちが一歩引いた。当然かもな。靴底からあふれ出した血が、地面を濡らす水に混じってじんわりと広がって来たんだからよぉ~~~~。

 こいつはヤベー。さっきまでおれたちを追っかけてた連中なんて目じゃねーくらいにな。

 覚悟をキメたヤツの匂いがこいつからはするぜ。他人を傷つけても一切感情の匂いがしてこねぇ。こいつにとって、暴力はふるって当たり前のものってことだ!

 

「……まぁ、そ~~~いうワケでぇ~~~~っ」

「!!」

 

 さっきまでの気怠そうな口調に戻って、筋肉ダルマはおれたちに振り向いた。

 

「世知辛い裏社会をヤクザが生き残るには、必要な犠牲ってワケなんですよぉ~~~~っ」

 

 ケッ、今更口調を戻したって遅せーよ。紳士ぶってるつもりかよ、クソが!

 隠せてねーんだよ、殺意ってやつがなぁ――――――!!

 

「ガキどもぉ~~っ、ちょっと死んでくださいよぉ~~~~~~~~~っ!!!」

 

 




USJ編、前編。
……諸君は活瓶力也という男を覚えているだろうか。
そう、死穢八斎會編でオーバーホールとともに登場した、一際大きな体をしたペストマスク軍団の一人である。結構目立つビジュアルで登場初期から印象を残しながら、まともに戦闘を描かれずに最終的にはオーバーホールの強化パーツ的扱いになってしまった彼である。ぶっちゃけ乱波くんと見た目が似てる。

私、結構彼のこと好きなんですよね。あの種のパワー系背景要員って割と好み。セリフが少ないから口調に自信がないのが残念ですが。
まぁそういう個人的な好みが半分、もう半分は噴上裕也との相似性を見込んで原作での登場に先駆けて出演してもらいました。
ヤンキーとヤクザ、触れた相手からエネルギーを奪うタイプの能力、女好き(多分)。特徴だけでいえば似通ってると思うのですが、しかし決定的に噴上とは異なるものがあります。
そのあたりについて書けたらなぁと思いますね。





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