噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ 作:己道丸
「アルコールは良い。体の中が消毒されるようだ」
空のグラスがカウンターテーブルに置かれた。
器の中で溶けた氷がバランスを失い、甲高い音を立てて崩れる。その拍子に、濡れた氷塊は周囲の明かりを跳ね返した。
ほの暗い部屋だ。
内装はカウンターと数脚の椅子の他に、ジュークボックスが置かれている程度。だがカウンターの先にある壁は一面が酒瓶の並べた棚であり、ここがバーであることがうかがえた。
「この埃くさいアジトで評価できるのは、そこだけだな」
酷薄な男だ。
短く切り揃えた黒髪に切れ長の釣り目。ファーで襟元を飾るジャンバーの袖からは痩せた腕が伸び、手は薄手の手袋が包む。カジュアルな上着に黒一色のシャツとスラックス、白いネクタイをつけた姿は、どこか威圧的だ。
男の無情な呟きに、しかし無人の室内で答えが響く。
『あまり高価な品を開けないでやってくれ。管理している黒霧が悲しむ』
それはカウンターの端に置かれたモニターだ。
ノイズまみれの画面に『SOUND ONLY』の文字を浮かべるその機械は、どうやら通話できるらしい。
聞こえたのは、ひどく穏やかな壮年の男の声だった。風のない日の潮騒を思い出しそうになる、聞く者の心に浸透する声。
だが聞く側の男は、それを真に受けはしない。
「悪いね、貧乏性のヤクザは手が早い」
モニターへ振り向く前に、男はテーブルに手を伸ばす。そこに置いた物を身につけるためだ。
マスクである。
市販されているガーゼ製の簡易なものではない。鳥のくちばしに似た、弓なりを描くペストマスクだ。近代以降廃れて久しいそれで顔の半分を覆い隠し、ようやく男はモニターと向き合う。
「伝説の存在に会えて光栄だ、オール・フォー・ワン」
「こちらこそ、死柄木弔への協力を感謝するよ。治崎廻」
「……その名は捨てた。オーバーホールと呼んでもらいたいね」
それが男の、否、治崎廻の名前だった。
指定敵団体『
『ふふ、すまない。ヤクザと名乗るから、そちらの名を望んでいるのかと思った』
「なるほど、さすが語り継がれる
手にこもる力を努めてほどく。
格も年期も相手の方がはるかに上、戯言に歯向かっても立場が悪くなるのはこちらの方だ。格下として、多少の不快を飲み干す覚悟はしてきた筈だ。
せっかく手に入れた伝手だ。みすみす手放すことはできない。
「感謝しているよ。おかげで欲しかったものが手に入った」
『愛する我が主治医のお下がりでよければ、いくらでも提供するよ。今回君が手配してくれた人手に比べれば微々たるものさ』
「奴らを百人集めても、あの機材の価値には到底及ばんと思うがね」
こちらが提供したのは、巷でたむろする敵くずれのチンピラどもだ。どう使われようと、ふところは痛まない。
ぼろい商売だ。シマを荒らすクズを排除し、数々の専門的な医療器材が手に入ったのだから。
「だが活瓶もつけた。集めた手勢で何をするか知らないが、十分だろう?」
『勿論さ。量に質まで加えてくれるとは、良い取引だ』
本当にそう思っているのかは怪しいところだ。
結局のところ、組織力の差を見せつけられただけではないのか。こちらの対価をはるかに上回る資産を提示できると、威圧されているのではないか。
しかし敢えてそれを受け入れよう。
今の死穢八斎會では、治崎が必要とする設備を揃えられない。けれど目的のためには、どうしてもそれが必要だ。
運よく巡ってきた、あの切り札を活用するために。
『お互い、持つべきものは良い個性だね』
その時だ。にやりと、のぞき込んできた奴に笑いかけられたような気がしたのは。
『私も欲しくなるよ』
「…………」
落ち着け。
切り札の存在は極秘。かつて社会を裏から支配した伝説の存在でも、落ちぶれて以降に生まれたあいつのことまでは把握していない筈だ。
これはブラフ。あるいは意味のない圧力。ここで動じれば組織の中心人物として、額面上の対等さえ維持できなくなる。
「……あんたが言うと洒落にならんからやめてくれ。活瓶は単細胞の馬鹿だが、あれでも俺の手持ちじゃ古参の駒だ。いなくなると困る」
『ふふ、残念。彼、良い個性なんだがね』
話を逸らす、いや、脈絡として当然の人間を挙げた。相手もそれに乗ってきたのは、元々そのつもりだったのか、あるいは強者の余裕なのか。
『個性『活力吸収』。相手の活力を奪い、巨大化する力。実に実戦向きじゃないか』
「触れた相手にしか効かない、奴の体格ありきの個性だよ」
とはいえ、奥の手があるのだが。
活瓶力也。
オーバーホールと名乗る以前、ただの治崎廻だった頃からの舎弟だ。図体ばかりで頭の足りない男だが、だからこそ使い勝手の良い奴といえる。
自分が鉄砲玉・八斎衆を組織した時も、そこに入れという指示を喜んで受けいれた。
今回の敵連合への出向もまた然り。
想像する。どこぞの誰かを始末する活瓶の姿を。
これまで治崎も幾度となく命令したことだ。特に感慨もわかなかった。
ただ、とっととケリをつけて戻ってこい、そう思うだけであった。
〇
「うおおおぉぉぉッ! 下がれッ、上鳴ィ――――――ッ!!」
「うああぁ――――ッ!」
悲鳴なんぞ上げてる場合じゃあないぜ!
ちょっとした落石みてーなッ、おれの頭より大きな拳が降ってくるだからよぉ~~~~ッ!!
一直線に振り抜かれた攻撃が地面を割る!
砕け散る土の塊! 避けられなかったらおれたちの頭もああなってたんだと思うとぞっとするぜッ。 どんな腕力だよ、こいつ!
「ははっ、避けないでくださいよぉ~~~~~~っ!」
そいつは、活瓶と呼ばれていた男だ。
見るからにカタギじゃねーナリをしたこのヤローは、おれたちを他の同級生たちから引き離した
なにせ自称ヤクザ! このヒーロー飽和社会で天然記念物みてーなオシゴトを名乗るんだ!
こいつが敵なのは、間違いないことだぜッ!
生き残るためには、こいつをブッ倒すしかねーッ!
「八百万、耳郎、上鳴ッ! やるぞッ、やるしかねぇ――――――ッ!!」
「は、はいっ」
「うん!」
「お、おおおぉおうよ!」
向こうは手練れみてーだが、こっちは四人! 人数で押し切ってやるぜッ!
ヒーロー以外の個性使用は違法行為とか言ってくれるなよぉ~~~~ッ、こんなところでくたばるワケにはいかねーんだからよぉ!
何よりッ! 八百万と耳郎には手を出させねぇ!
女どもを傷つけたとあっちゃ、この噴上裕也の名が廃っちまうぜぇ――――ッ!
「あ~~? やる気ですかぁ~~~~? どうなんですかぁ~~~~~~っ!?」
活瓶の一歩は小さな地響きだ。二本足で立ち上がったインドゾウみてーなヤローだぜッ。だが、その図体がアダになるってことを教えてやる!
「ハイウェイ・スター!!」
おれの個性、ハイウェイ・スター!
最ッ高にカッコよくて美しいフォルムを誇る姿が、活瓶を目指して突っ走る!
「やる気あるんですかぁ~~~~? こんなもん、潰して終わりだぁ~~~~っ!」
再び拳を振り上げる活瓶が分厚い胸板を開いた!
そこだぜ! 狙うのはッ、そこなのだああぁ――――――ッ!!
「耳郎! やっちまえ!!」
「分かってる!!」
いいねぇ、威勢のいい返事! おれのやりたい事を分かっている! イイ女だぜ、おめーはよぉ~~ッ!
おれの横に並んだ耳郎が、耳たぶから伸びるプラグを伸ばして靴に突き挿した。彼女の個性を収束させて放つ、サポートアイテムになぁ~~~~!
「くらえぇ――――!」
「ぬ!?」
一直線に伸びる音波攻撃! それはハイウェイ・スターを飲み込み、活瓶の胸を叩いた!
音ってのは振動なんだぜぇーッ、それをマトモに食らえばよォ、骨も内蔵もまとめてシビレちまうんじゃねーのかぁ~~~~ッ!?
ハイウェイ・スターが間にいるから撃てないとでも思ったかよ? だが残念ッ、ハイウェイ・スターのダメージはおれに来ないから全然問題ねー!
いやそれどころか、波に乗っておめーに取りついてやるぜ!
「あぁ~~っ!? なんだぁ、うざってぇ~~~~~~っ!!」
強烈な音波の衝撃でハイウェイ・スターが形を崩す。
それは足形の群れ! 取りついた敵の体から養分を奪い取る、もう一つの形態だ! 風に舞い上がった木の葉のように吹き飛ばされそれらが、勢いよく活瓶の体に張りつく!
ここだ! ここなんだぜ!!
「養分を吸収しろッ! ハイウェイ・スター!!」
胸! 肩! 腕! 足! いたるところにひっついたハイウェイ・スターが奴の養分を吸い上げる!!
「ぐぉ……!?」
衝撃を受けたみてーに活瓶の巨体がよろめく!
へへ、おれの個性はキくだろーがよぉ~~~~っ! ひょっとして膝をつかされるのは初めてかぁ?
だが手はゆるめねーぜ! このまま畳みかける!
「八百万! 上鳴!」
「はい、準備はできてますわ!」
「最後の一撃だ、一丁やったるぜ!」
背後の二人が答え、前に出る。そんな二人の手は、一つの巨大な布を引きずっていた。
いや、布というのはあまりに網目が広い。何よりズッシリとした様子には、麻や木綿じゃ出せない重量感がある。
網だぜ! 金属製の網なのだ、それは!
「通電性抜群の金属網ですわ! 行きますわよ、上鳴さん!」
「おうよ、こいつでキッツイのお見舞いしてやる!」
八百万の個性で創造したそれは、上鳴の個性を誘導するためのモノだ。
こいつで活瓶の動きを封じ、更に電気を放ってとどめを刺す! 上鳴の個性もそろそろ限界に近いからな、確実に仕留める工夫が必要って事だ!
「せぇーのぉ……!!」
八百万と上鳴が息を合わせて金属網を投げ放つ! これでヤローとの対決は終いだぜ!
だが、そうはならなかった。
「あ……?」
「へ?」
金属網を投げる寸前、八百万と上鳴が倒れた。
腕を振り抜く途中で腰が抜けちまったみてーに、しおれたように膝から崩れ落ちる。
結果、金属網は中途半端な位置に落ち、意味もなく地面に広がっちまう。
「お、おい、おめーら!?」
「どうしたの!? 大丈夫!?」
おれは二人に駆け寄った。モチロン耳郎もさ。目の前で同級生がいきなり倒れたんだ、当然さ。
しかし、それすらできなかった。
おれたちも、八百万と同じになっちまったからだ。
「ぐぉ……!?」
「う……っ!」
いきなり海の中に引きずり込まれたみてーだった。
体が、いや、空気が重い。息をするのが億劫になるほどに!
「うげっ!」
地面に倒れる痛みすら鈍くなったような気がした。
まるで全身の血が鉛になっちまった気分だぜ。それまで自由に動けていたのが信じられないほどに、体が重い!
「こ、これは……!」
「……ははっ、奇遇だなぁ~~~~~~っ」
「!」
その時、声があがった。
おれたち四人の誰のでもない。活瓶の声だった。
「そうかぁ、お前もおれと同じ個性かぁ~~~~っ」
「何ィ……!?」
た、立っている! 立っているぞッ、こいつ!
おれのハイウェイ・スターを受けていながら、なおも立ち続けている!!
「へへ、やっと薬が効いてきたぁ~~~~っ!」
「きッ、貴様!?」
「いいぞぉ~~~~~~っ! お前らの活力でおれは元気いっぱいだぁ~~~~~~~~~~!!」
こいつ! 間違いねぇ、こいつ!
おれたちの活力を! おれにとっての養分のようなものを吸収したのだ! それも近くにいるだけで、触りもしねぇで!!
「体質ってあるよなぁ~~~~っ。牛乳飲んだら絶対ゲリ腹になるとか、卵食ったら必ずゲロ吐くとかよぉ~~~~~~ッ」
ク、クソ、体に力が入らねぇ……! 目が回る!
まるで風邪ひいて三食抜いた翌朝に町内一周させられているような気さえするぜ……!
八百万たちも同じってことか。どいつもこいつも顔を真っ青にしてやがる。
まるで、目の前の筋肉ダルマにこうべをたれるかのように!
「俺、薬が効くまで時間がかかるし、効いてる時間も短いんだよなぁ~~~~。嫌になるぜ、高燃費でよぉ~~~~っ」
薬! ドーピングってことかッ!
聞いたことがある。路地裏でたむろするようなヤツらのあいだで出回ってる、個性ブースト薬だな!
これまでヤツがおれたちの養分を吸収する様子はなかった。ということは、触れずに個性が発動できるのがブーストの効果ってことか! ヤツの口ぶりを信じるなら、その効果は短い!
だが、だったらどうだってんだ。
このまま薬が切れるまで待てば、ハイウェイ・スターとヤツの個性で堂々巡りになってる養分の循環が途切れ、ヤツの養分だけを吸う状況に戻るってか?
バカな! それより活瓶が拳をふるう方がずっと早い!!
「そういうわけなんで……とっとと終わらせなきゃなぁ――――――――ッ!!」
く、来るぞ! バカデカい拳がッ、横から迫ってくる!
男も女も、全員まとめて薙ぎ払うつもりだ!!
「う、うおおおぉぉぉ……!!」
気に入らねー! 気に入らねーぜッ、女もまとめてっつーところが特に!!
このカッコよくて美しいおれの顔が傷つくのはモチロンイヤだけどよぉ~~ッ! 回避すべきことであるのは間違いねーんだけどよぉ~~~~ッ!
それよりもまず! 女どもが痛い目見るのをみすみす見逃すってのは!! 最高にカッコわるいことだぜぇ――――――――――!!
「……ハイウェイ・スター!!」
おれは動けねぇ! だからお前が行け! 人型になれば腕は二本ッ、二人はかばえる!
八百万と耳郎だけでも逃がすんだよォ――――――――――ッ!!
「くたばれえええぇぇぇぇ――――――――!!!」
うなる活瓶の拳。だが、それを伝う足形の群れが一歩先んじた。
人型になって飛び出したハイウェイ・スターが、倒れている八百万と耳郎を掴んで跳び、拳の間合いから外れる。
女どもは守れた。だがそれが限界だ。
悪りーな上鳴、ちょっと付き合ってくれや。
「ぐぁッ!!」
「げふうっ!!」
まさに前世の追体験だ。ドデカい車にはねられた気分がしたぜ。
おれと上鳴は一緒くたになって殴り飛ばされ、そびえたつ山肌に打ちつけられた。
〇
「あ?」
活瓶は手応えが軽かったことを理解した。
暴力を生業にして随分経つ。一度にどれだけの人数を殴ればどんな感触が返ってくるのかというのは、文字通り手で覚えている。
殴り飛ばしたのは十代半ばの男女が二人ずつの筈。しかし拳に返る重みは、それにしてはやけに軽い。
何より女特有の柔らかさがない。
軽くて脆くてか弱い、ぶっ飛ばして最高にイイ気持ちになれる、あの感触がないのだ。
「んん~~~~?」
拳の先を見る。やはり男がいなかった。
全身で岩肌を砕いたそいつらは、血まみれになって倒れている。ぐったりとしたその様子は、路地裏に転がるドブネズミの死骸を思い出させた。
男どもは仕留めた。
なら女はどこだ。
そうして正面に向き直れば、その先に女どもはいた。
真っ青な顔で伏したそいつらの上には、気色悪い網目模様の人型が覆いかぶさっている。
たしか男のうちの一人が出していた分身だ。どうやらそれを使って庇ったらしい。
無意味なことだ。
「それで逃がしたつもりですかぁ~~~~?」
見下ろす間に人型が消え失せた。きっと本体の男が意識を手放したからだ。
まったく哀れなことだ。
たった一撃、そこから守った程度でどうにかなると思っているのか。この女どもも、自分の個性で身動きがとれなくなっているのに。
所詮は学生の浅知恵か。いや、なけなしの努力に拍手の一つもしてやるべきか。
そのおかげで、女どもはほとんど無傷なのだから。
「へへっ」
活瓶は舌なめずりをした。熱を増した息のせいで、マスクの中が蒸れる。
眼下で身じろぎする小娘たちへとにじり寄る。個性の影響で立つことも出来ないこいつらは、格好の獲物だからだ。
すでに個性ブースト薬の効果は切れた。今の自分は触れた相手にしか個性が使えない。
だから獲物が必要だ。必要な時に活力を奪い取るための、持ち歩きに便利な弁当のような獲物が。
その相手は、今目の前にいる。
〇
「……よぉ、上鳴……調子はどうよ……」
「……元気ハツラツに見えるかよ……しっかり虫の息だよ、コンチクショウ……」
奇遇だな、おれもだよ。
このカッコよくて美しい噴上裕也がズタボロだぜ。全身は血まみれ、コスチュームはボロボロ、傷口に砂やら砂利やらがくっついてすげー痛てー。しかもキツいのはそれだけじゃないときた。
こりゃあれだな、中身もイッちまってるなぁ~~。
前世で交通事故にあったから分かる。骨とか内臓とか、そういうところまで悪くしちまった感覚だぜ、これはよぉ――――。
ったく、思う存分やってくれたもんだなクソッタレ。足腰立たねーよ。
……だが、死んだワケじゃねーんだよなぁ――――。
「う、動くなよ、噴上。このままやり過ごそう……」
這いつくばった上鳴は、地べたにキスでもするみてーにヒッソリと喋る。
「ヤベーよアイツ……このまま立ち上がったらマジで殺される……。このまま死んだフリしてさぁ……どっか行ったあとに逃げようぜ……」
「……あぁ、そうだな。それが『賢い選択』だぜ……間違いねぇ……」
そうさ。ここで立ち向かうのは愚かなことだぜ。
さっきまでの調子でも勝てなかったんだ、ボロクソになった上で勝てるワケがねー。
そもそも、おれたちの目的はあいつを倒すことじゃねーんだ。あいつが通り過ぎるのを待ったって、十分おれたちの勝利だぜ。
何もガンバって歯向かうことはねーんだ。
だからよぉー、とっととどっか行ってくれ。そうすりゃおれたち四人、みんなでトンズラかまして、
「――お~~。よく見りゃカワイ子ちゃんじゃ~~~~ないですか~~~~?」
………………。
「へへ、いいねぇ~~、カワイ子ちゃんは大好きだぜ~~~~、触らせてくださいよぉ~~~~~~っ」
「……うぅ……」
「やめろ……近寄んな……っ」
「イヤだっつっても触っちゃうんだけどなぁ~~~~。丁度いいぜぇ~~、あの手だらけ小僧に合流した後も一仕事ありそうだし、ちょっと付き合ってくださいよぉ~~~~~~」
……はぁ?
「カワイ子ちゃんってのは良いよなぁ~~~~。殴ってよし、触ってよし、個性で活力も吸える……、最高に便利じゃあないですかぁ~~~~~~!」
オイ。オイオイオイオイオイオイちょっと待てよ。
何だよその手はよぉー。そんなゴツゴツした手袋で、さっきまでおれたちをボコボコに殴った手で、八百万と耳郎に触んのか、おめーよぉ。しかも何だ、まるでウナギのつかみ取りでもするみてーによぉ。クソガキが女の子からバービー人形を取り上げる時だってもうちょいマシな手つきをするぜ。
つーか待てよ、そいつらをどこに連れていく気だ。
置いてけよ、二人をよ。関係ねーだろーがよぉ。
そんなニンジンかダイコンを握りしめるみてーにするなよ、頭と足が振り回されちまうだろうが。首と腰が悪くなったらどうするつもりだ。
それは女の触り方じゃねーぞ。
デケーナリしてりゃ他の人間はみんな人形かなんかに見えるってか? だとしたら随分ご都合がよろしいことだぜ。なるほど、おれたちを殴り倒し、八百万と耳郎を連れ去っても全然に気にしねーってワケだ。まったく人の心がねー、悪りーヤツだぜ。
……当たり前か。
てめー、
「――
気づいた時、おれは走り出していた。
「オラアアアァ――――――ッ!!」
「うぉっ!?」
余裕ブッこいて背を向けたのがアダになったな! ムキダシなんだよぉ、デカい図体の弱点がッ! そのナリを支える両膝の裏側がよぉ――――!
おれが左、上鳴が右だ! 全力の膝カックンだッ、くらいやがれ!!
「きゃあっ!」
「うわ……っ!?」
へっ、そうさ。いきなり膝をつかされれば、思わず手をつくよなぁ。放すと思ってたぜ、八百万と耳郎をよぉ~~~~!
弓なりに落ちてくる八百万をキャッチ! 上鳴も耳郎を受け止めた!
腕の中にあるぬくもりと柔らかさ! いいねぇ、やっぱり女を抱きしめるのはイイ! ヒーローの、いや、男の本懐ってヤツじゃねーのかぁ~~~~~!
女は人形みてーに手の中にするもんじゃねぇ、腕と胸の中にするもんさ! そこらへん勉強しとけ、敵ヤローがぁ――――――!
「……てめぇら!」
「おっと! 退くぜ上鳴!」
「おうよっ!」
おれたちに向けられる活瓶の恨みがましい目。だがそんなモンは興味ねぇ!
とにかく距離を空けるぜ! まずは八百万たちをヤツから逃がさねーとよぉー!
「待ちやがれガキどもぉ~~~~!」
「誰が待つかよ、バカがぁ――――――!」
つっても、そう長くは走れねーんだけどな!
おれも上鳴もキズだらけだ、女一人抱えて逃げ切れるほどの余力なんてちっともねーぜ。
だからヤツから逃げるのはなしだ。
勝つしかねー! 立ち向かって活瓶を打ち負かすしかねーよなぁ――――――――――ッ!!!
「悪りぃな、八百万。ちょっとここで待っててくれ」
「噴上さん……!?」
活瓶から間合いをとったところで、岩場の影に八百万を下ろす。
ハンカチも敷かずに女を地べたに座らせるなんて主義じゃねーんだが、今は仕方ねー。抱えたままじゃ活瓶と戦えねーからな。
上鳴もその隣に耳郎を下ろす。
そしておれたちは来た道へと向き直った。走ってくる活瓶の方へと。
「……おい。分かってんだろーな、噴上」
荒い息にまぎれちまった声が問いかけてくる。
「俺はもうギリギリだ。体じゃねー、個性の話だ。限界寸前まで電気を使っちまった。これ以上使ったら、アホになる」
「だろうな」
「もう役立たずだ。俺は頼りにならねー」
ああ、分かってるぜ。
おれだって立ってるのがやっとだ。個性に限界があるおめーはそれ以上だろうぜ。
「――だから、後は頼むわ」
そしてこっちを見る上鳴のツラ。強がってるつもりの、引きつった笑い顔。
へっ、ムカつくぜ。こいつと同じことを考えてたと思うとよぉ――――――――――!!
「ハイウェイ・スター! 上鳴の養分を吸収しろ!!」
その瞬間、上鳴の背後から現れたハイウェイ・スターがヤツに取りつく!
「ぐお……!」
ハイウェイ・スターの養分吸収は中々強烈だ。前世で食らったヤツはどいつも倒れ、自力じゃマトモに立ち上がることもできなかった。
それをキズだらけの体で受けたんだ、悲鳴の一つもあげたっておかしくねー。
だがしかし、上鳴は歯を食いしばって耐えた!
一丁前に男を見せやがったな、コイツ!
「……上鳴電気。おめー、ちょっとカッコいいんじゃねーかよぉ」
「と、とーぜん」
覇気のカケラもねー半笑いを浮かべ、上鳴は倒れた。その体にはもう、本当にチョッピリの養分しか残されてねーからだ。立つことも、それどころか意識を保つこともできねーほどにな。
「………………」
だがそのおかげでおれは回復した。
ハイウェイ・スターを通じて養分が送られてきた。完全回復ってワケにはいかねーが、それでも痛みはひき、体の中もだいぶ治ったのが分かる。
感謝するぜ、上鳴。おかげでヤツに立ち向かえる!
「あぁ~~~~ん!? 何だぁ、仲間割れですかぁ~~~~~~っ!!?」
分かってねーな。上鳴は賭けたのさ、このおれにな。
てめーは屈強な男だ、活瓶。対してこっちは半死半生の男が二人、しかも片方マトモに個性が使えない。そんな状態じゃ勝てねーのは目に見えてる。
だから、くたばり損ないが二人で立ち向かうよりッ、足手まといである自分の養分でおれを回復させる方が勝ち目があると上鳴は覚悟したのさ!!
そして、回復した力の使い道は決まってる!
迫ってくる貴様をぶっ飛ばす以外にッ! 使い道はねーよなぁ――――!!
「来いッ、活瓶エェ――――!! 上鳴の分までッ、てめーをぶっ飛ばしてやるぜ!!!」
USJ編、中編。
上鳴がちょっと体を張って頑張る回。
今回伺いたいことがあるので、アンケート機能のお試しがてら設置してみました。もしよければご意見をいただければと思います。
これまでPCの制作環境そのままで書いてたんですけど、web小説はスマホで見る方が多いと聞き、今回はスマホでの表示を想定してみました。具体的には、一行あたり約23文字の想定で書き上げています(自前のスマホで見るとそれぐらいで文章が折り返してたので)。なにか印象は変わりましたか?
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今回の文面の方が見やすい
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これまでの文面の方が見やすい
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特に印象は変わらなかった