噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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第2期 雄英体育祭編
体育祭がやってくる その①


 その日の朝のホームルームでのことだった。

 このおれ、噴上裕也と20人のクラスメイトからなるヒーロー科1年A組のテンションをブチ上がる発言が飛び出したのは。

 

「――雄英体育祭が迫ってる」

「クソ学校っぽいの来たあああああああああああああああああぁぁぁぁぁ――――――ッ!!!」

 

 示し合わせたワケでもなく重なるクラスメイトの声。その中には当然、おれの声も入っていた。

 

 へっ、相澤のヤロー、包帯まみれのクセにイカしたネタを仕込んでくれるじゃねーか!

 こないだのUSJ襲撃でボコボコにされたっつー話だったが、たった2日で教壇に戻ってくるあたり、見上げた担任根性だぜ!!

 

 雄英体育祭!!!

 それは年に一度、雄英高校で行われる競技の祭典! 全国が熱狂する日本のビッグイベント!

 そして同じく、プロヒーローがデキる新人を掘り出そうと注目するドデカいスカウトの場でもある!!

 プロを目指すおれたちヒーロー科にとっては欠かすことのできねービッグチャンスだ!!

 

 だがクラスの中には開催にビビる声もあった。

 “耳郎響香(キョウカ)”と尾白猿夫の2人だ。

 

「敵に侵入されたばっかりなのに、体育祭なんてやって大丈夫なんですか……?」

「また襲われたりしたら……」

 

 そう。

 おれたちが校内に侵入してきた敵に殺されかけてから、まだ2日しか経ってねーんだ。

 今年の春からヒーローになろうと入学したばかりのクラスメイトの中にゃ、まだ腰がひけちまってるヤツが何人かいた。

 

 特にキョウカはおれたちと一緒に一際強い敵に襲われたクチだ。危機感もデカいんだろーよ。

 ……ふっ、いいねぇ、リスクの分かる女は賢い女だぜ! その上でそれを大勢の前で確認できる度胸もある! 相変わらずガッツのある女だぜ!!

 

 それに比べて尾白っ、テメーはだめだ! てめーも男ならもうちょい根性見せろやぁ!!

 おれらにプロヒーローへの道がひらけるかどうかがかかってんだぜぇ、それをポッと出の敵のせいで台無しにされて良いのかぁ~~~~?

 

 答えはNO!!

 断じて!! NOなんだぜ!!!

 

「警備は五倍に強化するそうだ。……雄英が敵ごときでゆらぐ組織じゃないと、世間に知らしめる狙いもある」

 

 いつも路地裏のノラ犬みてーな目つきをしやがる相澤だが、包帯の隙間からそれのぞくと、いつも以上にギラギラして見えるな。

 ヒゲ面まで覆ったミイラ男の口は、くぐもった声でもっておれたちを煽ってくれやがる。

 

「時間は有限。在学中に三回しかない、プロヒーローに見込まれるチャンスだ。ヒーローを志すつもりなら――おびえてる時間はないぞ、お前たち」

「……!!」

「その気があるなら準備は怠るなよ」

「ハイ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなホームルームも過ぎて、今は昼休み。

 

 だがおれたちにとっちゃー気が休まる時間とはならねぇ。なぜって、授業の裏でずっとくすぶってたテンションをようやく吐き出せる時間なんだからな!

 

「あんな事言われるとよぉー! テンションあがるなぁオイ!!!」

「活躍して目立ちゃあプロへのドデカい一歩が踏み出せる!」

「雄英に入った甲斐があるってもんだぜ!」

「数少ない機会、モノにしない手はない」

 

 教室の一角をヤローどもが陣取り、あーだこーだと言いながらツラをテカテカさせてやがる。

 まったくムサ苦しいヤツらだぜ!

 そんなヤローどもとつるむのはゴメンだね。おれはいつだって、このおれを励ましてくれるカワイイ女どもに囲まれていてーのよ。

 

 そんな気持ちに気付いてくれたのか、元気イッパイにはなやぐキュートな声の持ち主がやってきた。

 

「裕ちゃん裕ちゃん!」

「おう、どうしたトオル」

「私、なんだかとっても緊張してきちゃった!」

 

 鼻息フンフンさせやがって、カワイイヤツよのう~~~~~~っ!

 身を乗り出して胸元に寄せた拳をぶんぶん振って、スカートをプリプリ揺らすところとか、もう極めつけじゃあねぇかよおおおおぉぉぉぉぉ~~~~っ!!

 

 何より匂いがイイ!

 このおれの鋭敏な鼻が、間近にまで迫ったトオルの香りを逃すなんてことはねー。

 春先の果物みてーないかにもオンナノコって感じの甘い匂いに混じって、アドレナリンとほのかな汗の匂いがおれの嗅覚を刺激する!

 

 ハツラツなオンナノコのスペシャルブレンドって具合の体臭がよぉ~~っ! おれをヒジョーにイイ気分にしてくれるんだよなぁ~~~~っ!!

 

「体育祭! 上、目指しちゃうもんね!!」

「その意気だぜトオルぅ~~ッ! おめーならできる! おめーはデキる子なんだからよぉ~~~~っ、このおれが保証するぜぇ?」

「えへへ、そうかな?」

「モチロンよぉ~~っ! おめーがその気になりゃあできねーことはねー、体育祭の注目は独り占めだぜ!!!」

「やったー!!」

 

 ピョンピョン跳ねまわるトオルの姿に、おれも胸の内からフツフツとアツい感情が湧いてくるのが分かった。

 

 体育祭ねぇ、体育祭ねぇ。

 おれが元々生きていたココとは違う世界での記憶じゃ、ンなかったるい学校行事はいつだってフケてきた。

 けどよー、それが日本中から注目を集めてるとなれば話は別なんじゃーねーのかぁーっ?

 

 このおれっ! 噴上裕也の!!

 誰よりもカッコよく美しい姿が勝利をおさめる姿がたくさんの観客に! いや、それどころか日本中に放送される!!

 その光景を想像すると、このおれの中にある“おれ”っつー精神が、ギンギンにたぎってきちまって仕方がねーんだよなあああぁ~~~~~~~っ!!

 

 やるっきゃねーぜ体育祭!

 噴上裕也っつー男を日本中に魅せつけてやる!!

 プロヒーローが頭下げて「ウチに来てくれ」って頼み込んでくるようなっ! そんな大活躍をしてみせるっきゃねぇだろーがよおおおぉ~~~~~~!!

 

「トオル!!」

「裕ちゃん!!」

「やってやろうぜ!!!」

「うんっ、やっちゃおう!!」

「雄英体育祭、このおれたちが――――…………」

 

 かっさらってやろうぜ!!!

 おれはそう言おうとした。

 

 だがその瞬間、おれの鼻にとんでもなくキョーレツな匂いが飛び込んできやがった。

 ハンパじゃなく濃厚なアドレナリンの匂い。

 そして匂いの主は叫びも爆発させたのだ。

 

 

 

「私ッ!!! 頑張るううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ―――――――――っ!!!!」

 

 

 

「うひゃいっ!?」

 

 跳びあがったトオル。

 教室の端からとどろくバカデケー雄叫びだ。しかもそいつは、ひっきりなしに叫ばれる。

 

「みんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 私、やったるわあああああぁぁぁ―――――!!」

「お、おぉー……?」

「私いいいいぃぃぃぃ――――!! がんばるよおおおおぉぉォォォォ~~~~~~~~~~ッ!!!」

 

 それはゴリラもかくやっつー唸り声だった。

 だが、だからっつってムサ苦しい男どもの声だったワケじゃねー。

 むしろ逆だ、声そのものは中々キュートな女のもの。

 ただまぁ、めちゃめちゃ力んでてゴリラの鳴き声みてーになってるのは間違いねーんだが。

 

 教室中に響く叫びに目を向けたのはおれたちだけじゃねー。誰も彼もが声の主に目を向けていた。

 それが誰かっつーと、つまり、

 

「どーした麗日ぁ、全然うららかじゃないよー?」

 

 麗日お茶子。

 1年A組きってのホンワカ女子。

 ……だと思ってたんだがよぉ…………。

 

「私っ! 頑張るううううぅぅぅぅぅ――――!!」

「おい麗日、大丈夫か……? なんかめっちゃキャラふわふわしてっけど…………」

「がぁんばるううううううウウウウウゥゥゥゥゥゥ――――――――――――――――ッ!!!!」

 

 オイオイ周りの連中もドン引きじゃねーか。どう見ても様子がおかしいぜ。

 何かあってゴキゲンになっちまったようだがよぉ、アガリ方が尋常じゃねーんじゃねーのかぁー?

 

 ……良くねー。

 良くねーぜ、こいつァよぉ~~~~~~。

 女の新しい一面を知るのは悪くねーが、カワイ子ちゃんがイキんでそのツラ台無しにしちまうのは、よろしくねーよなぁぁぁぁぁ~~~~~~。

 こいつはちょっとばかり見過ごせねーことぜぇ。

 

「……なぁトオル」

「うん、任せて」

 

 コソッと耳元でささやいてやると、隣に立つおれの女は皆まで言わせず応えてくれた。

 いいねぇ、女とツーカーってのは最高の気分だぜ!

 

「う~らら~かちゃんっ」

 

 スキップを踏んで歩み寄っていくトオル。

 それを、まるで獲物を嗅ぎつけた猛獣みてーな素早さで麗日は振り返る。

 

「葉隠さん! 私ッ!! 頑張るよッ!!!」

「うんうんそうだね、頑張ろうね! ……でさぁ」

「……あ」

 

 と、不意に麗日がガッツリ握られた自分の拳を見た。

 そこに伸びているのはトオルの袖だ。

 鼻の利くおれには分かる。だが、目に見えねーからってコレが分からないってんなら、そいつはオツムが足りてねーんじゃねーのかと思うぜ。

 

 手を握ってるのさ。

 トオルの手が、麗日のゲンコツをふんわりとな。

 

「――お昼、一緒に食べよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いやぁ面目ない、すっかり頭に血がのぼっちゃって……」

 

 食堂のテーブルに定食のトレイを置いた麗日には、さっきまでみてーなありあまる血の気はなかった。むしろちょっぴり顔を青くしてため息をつく有り様だ。

 よしよし、興奮は抜けたようだな。

 場所を変えさせたのが上手くいったみてーだぜ。

 

「……やったね、裕ちゃん!」

「おうよ、おめーのおかげだぜぇトオル」

 

 いつも通りおれの横に座るトオル。えへへ、と笑うコイツに合わせておれも笑うと、目には見えない体の温もりと匂いがほんのちょっぴり強くなる。

 喜んでるなぁ~~、素直でカワイイヤツだぜぇ~~~~っ。

 

「しかし麗日君、一体どうしたというのだ。さっきまでの君は明らかに異常だったぞ!」

「い、異常……。でもよかったよ、落ち着いたみたいで」

 

 そう言ったのは、同じテーブルを囲む飯田と緑谷だ。

 チッ、せっかく麗日とメシ食うチャンスだったのによぉーっ、ヤローどもなんてお呼びじゃねぇぜぇー!

 

 しかしこいつらは麗日と仲が良いからな。

 どうにも心配になったみてーで、食堂へ連れ出したおれたちの後についてきやがったのだ。

 

 緑谷のユルい笑みに、肩を小さくしていた麗日のやわらかな頬が赤くなる。

 

「あ、あはは、お見苦しいところをお見せして……」

「そ、そんなことないよ。麗日さん、すごいやる気あって……その……良いと思うよ……」

「そう、かな……?」

「う、うん、僕はそう思うんだけど……」

「………………ありがと」

「……………………………………え、えぇと」

 

 …………。

 …………………………。

 ……………………………………………じれってぇ。

 ドンクセーぜッ!! こいつらよおおおおおおォォォォォ~~~~~~~~~~ッ!!!

 ジジイとババアかっ、てめーらっ! モニョモニョ足踏みするみてーにしやがってよぉー! ケツがかゆくなっちまって仕方がねーぜっ!!

 

 聞きてーことがあるならよぉ、本人が目の前にいるんだから聞きゃーいいじゃねーか! おれだったら身長体重誕生日、オッパイとケツのデカさまで聞いちゃうところだぜぇ――――――――!!?

 

 あークソッ、やめだやめっ!

 こいつらに任せてたら日が暮れちまうぜ!!

 

「で、麗日。何だ、おめーも体育祭で目立ちてーってクチなのか?」

「え? あ、うーん、まぁ……そうなんだけど……」

「めっちゃ気分アガってたじゃねーか。ちょっと見ねーくらいだったぜ、おめーよぉぉぉぉ~~~~」

「それはぁ、えぇっとぉ……」

「ひょっとしてよぉ」

 

 ……ちょっぴり踏み込んでみるか。

 

「早ぇーとこプロヒーローになりてーって、燃えてんのか、お前」

「……うぅ~~~~~~~~~~…………」

 

 麗日はうめき声をもらすように体を丸め、髪の毛をぐしぐしとかき回し始めた。

 しばらくは迷うみてーにグネグネ身悶えしてやがったが、しかし観念したのか、大きくため息をついておれたちに顔をあげた。

 

 泳いだ目とへの字になった唇、それにプンプンただよってくる『自信アリマセン』って匂いは、おれに麗日の気持ちを何から何まで分からせる。

 

 だが覚悟もキメたようだ。ボソボソとだが、そのちっちぇー唇を開いて喋りはじめた。

 

「……そのね? 実はウチの実家、建設会社やってんだけど……全っ然仕事なくてスカンピンなの……」

「建設。麗日君の個性が使えれば貢献できるのではないのかい?」

「どんな資材でも浮かせることができるもんね」

「重機いらずじゃん!」

「でしょ!? それ昔、父にも言ったんだよ!!」

 

 オイオイ飛びつくなって。あんまり身を乗り出すと、テーブルに置いた定食の皿ひっくり返しちまうぞ。

 そんな麗日だったが、すぐにまたシュンとしおれて、昔を思い出すみてーに浮いたケツを落とす。

 

「……でも言われたんだ。ならなきゃならないものより、私が自分の夢を叶えてほしい、って」

「それがプロヒーローになるってことか」

 

 コクリとうなずき、麗日はおれたちを見た。

 そのまなざしには力があった。

 そこにはもう、ウロウロ泳いでいたさっきまでの目つきはどこにもありはしねー。

 やるぜ、っつー固い意志がこもっていやがった。

 

 

 

「――だから私、絶対ヒーローになるの。そんでお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させてあげるんだ」

 

 

 

 その目は、それまで麗日が見せたことがねーほどまっすぐな強い目をしていた。

 曲げることはしねーぜって本気で覚悟キメてるヤツ特有の、輝くような光を放っていたのだ。

 

 おれはすぐに何か言うことができなかった。

 トオルも、モチロン飯田や緑谷だってそうだ。この場にいるヤツ全員が、麗日の『本気』に圧倒されちまっていたのだ。

 

 こいつぁマジだぜ。

 ハンパじゃねーガチの感情が、コイツの中には宿っている!

 

「……麗日ぁ、おめーってヤツはよぉ~~~~……」

「………………」

「――ちょっとどころじゃなく、めちゃめちゃイイ女なんじゃねぇのかよおおおぉぉぉ~~~~?」

 

 このおれ、噴上裕也は前世じゃそれと知られた暴走族(ゾク)だった。 そんなところに来るヤツは大体ゴロツキだ。

 家にカネがねー、自分にカネがねー、だからグレたってヤツは、それこそ山のように見てきたつもりだ。

 

 だが今ここにいる麗日っつー女は、そいつらと同じ理由で動いているはずなのに、まるで違う面構えでそれを口にした。

 あいつらのよどんじまった目や顔にはない、強い意志だけが放つ輝きを確かに放っていたのだ。

 

 

 

 それはまるで、黄金の精神。

 

 

 

 クセーこと考えてるって自覚はあるけどよーっ、そうとしか言えねーもんが麗日にはあったんだぜ。

 

「……ふふっ」

 

 すると麗日は吹き出し、肩の力を抜いて笑い出した。

 

「やっぱり噴上君、女子にはやさしいんやね」

「まさしくカッコよくて美しいおれって感じがするだろおおぉぉぉ~~~~? 惚れてもいいんだぜぇ、オチャコぉ」

「ん~、その呼び方はまだちょっと早いかなぁ」

「おおう、テキビシーねぇ」

 

 そん時にはもう、麗日はいつも通りの調子に戻っていた。

 そうそう、さっきまでのもイケてるけどよぉーっ、おめーはそんぐらいフニャっとしたツラでいる方が、それらしくてカワイイぜぇ~~~~?

 

「ブラボー! ブラボーだ、麗日君!! 高潔だっ、同じヒーローを志す者として尊敬する!!」

「麗日ちゃん、いい子だね……私、感動しちゃった……」

「憧れだけじゃない……麗日さんは現実も見据えて夢に向かっているんだね」

「え、えへへ、そんな大層なもんじゃないよ……」

「腰ヒケてんじゃねーよ。おめーが大したヤツだって、みんなそう思ってるってことじゃねーか」

 

 トオルたちに口々にたたえられ、麗日はさっきまで以上に顔を赤くして縮こまる。

 まったく、本当にカワイイヤツだよ、コイツはよぉ。

 こんなイイ女っぷりを見せられちまうとよぉ、今度はおれたちの方が気分アガっちまうよなぁ~~~~。

 

「いいじゃねーかっ、やったろーぜ雄英体育祭! ガッツリ目立ってよぉーっ、プロヒーローどもにおれたちが来たってところを見せつけてやろーぜ!!!」

「おおぉ――――っ!!」

 

 振り上げた拳に合わせ、トオルたちも声をあげた。

 いいテンションだ、こいつぁやってやれるんじゃあねぇのかあああああぁぁぁぁ――――――っ!!?

 

 

 

「――ふ、ずいぶん余裕だねA組は。ちょっと能天気すぎるんじゃないかな?」

 

 

 

 だがその時、ヨソからの声がおれたちに水をさした。

 

「……あぁん?」

 

 このテーブルを囲うどいつのものでもねぇ、聞いたこともねーヤツの声だ。

 だがしかし、いけすかないスカしたヤローの喋り方だっつーことはイヤでも分かるぜっ!

 

「んだテメー、おれたちに何か用かよ」

「おやおやおやおやおやおやおや、敵の襲撃をしのいで名を知らしめた1年A組が随分な喋り方じゃないか。ひょっとして敵に感化されちゃったのかな?」

 

 そいつはおれたちを前にして立つ、金髪のとっぽい男だった。

 そのツラにはベッタリとニヤケ面が張りついていたが、ギラついた目はニコリとも笑っちゃいなかった。

 

 ……気に食わねーヤローだぜ。

 

 いかにもお高くとまった、自分以外はみんなバカだから仕切ってやらにゃならねーって使命があります、って考えてるヤツの雰囲気がプンプンするぜぇ~~っ。

 

「どこの馬の骨か知らねーけどよぉ~~~~、ケンカ売ってんなら買ってやるぜぇ?」

 

 この噴上裕也クンをナメてかかってやがるってのもまず許せねーが、トオルや麗日もひとまとめにしてバカにしてやがるところがますます許せねー!

 あと飯田と緑谷もな! こいつらが敵に影響されるほど器用なヤローなもんかよ。

 

 どうやらこのバカ野郎にはそこらへん分からせてやんなきゃならねーようだなぁ~~~~っ!

 

「ちょ、ちょっと噴上君……っ」

「黙ってな。このヤローには、おれらにナメたクチきくとどうなるか教えてやんねーとよぉ~~」

 

 止めてくれんな緑谷。

 ジャレてきやがったヤツにはまずメンチきってやらねーと話がはじまらねーんだぜッ!

 ツラ突き合わせてガンつけてやるが、しかし中々どうして根性があるやつらしく、こいつはそのヘラヘラした口を閉じようとはしなかった。

 

「ふっ、粗暴すぎて嫌になるね! そんな風に振舞われると、僕たちB組まで質が低くみられるじゃないか!」

「B組だぁ?」

 

 B組っていやお前、たしか……、

 

「そこまでにしとけよ物間」

 

 なんて思ったところで、ニヤケ面を支える首に後ろからチョップが突き刺さった。

 

「ウッ」

 

 クソナマイキな二つの目がぐるっと白目を剥き、とっぽいナリした体がおれの足元に崩れ落ちた。

 ピクピクと叩き潰されたゴキブリみてーになるニヤケ面ヤロー。

 今その傍には、おれの他にもう一人のヤツが立っていた。

 

「悪いなA組。こいつ、こういうヤツだからさ」

 

 そいつは女だった。

 それもかなり……いや……めちゃめちゃレベル高ぇー女だった!!

 

 ツラの作り、整った髪、グンバツのボディラインを描く体、それでいてさばけた立ち姿は、そんじゃそこらじゃお目にかかれねーレベルの高さだ。

 総合力って言えばいいのか?

 カワイ子ちゃんとして隙のねー、何もかもがイケている女がそこにはいたのさ!

 

「こんなんでも同じB組だからさ、許してやってよ」

「おう、じゃあおめーも同じクラスってことか、カワイ子ちゃん」

「そ。ヒーロー科1年B組、拳藤一佳。この性格悪いのが物間寧人ね」

 

 名乗ったカワイ子ちゃん、拳藤の目にビビったところは一つもなかった。物怖じするところのねー、だがおごることもねー確かな自信がそこにはある。

 いいねぇ、賢くて強い女だぜ、こいつはよぉー。

 

 しかしB組か。そういやあったな、ヒーロー科にもクラスがもう1つよぉ。

 こいつは盲点だったぜ。

 教室の壁一枚むこうにこんなイケてる女がいたなんてよぉー! 今日この時までそれに気づかねーとは、この噴上裕也クンらしからぬ手落ちだぜ!

 

「……裕ちゃん、また新しい女の子のこと考えてるでしょ」

「当たり前だろトオルゥ! だが安心しな。この噴上裕也は自然と女を惹きつけてやまねーが、だからってついてきた女をおろそかにする男ではねーぜ!!」

「本当~~?」

「モチロンよぉ~~。デザートについてきたイチゴに賭けてもいいぜぇ?」

「じゃあじゃあ、あ~~~~んってして?」

「お安い御用だ。ホレ、あ~~~~~~~~~~んっ」

「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ。……おいしっ」

「だろぉ? 美しいおれの指先がお前のためにつまんだイチゴはサイコーだろうがよぉ~~~~っ」

「……あんたたちのクラス、いつもこんな感じなの?」

「い、いやぁ……」

「この二人が特別なんだ! 全員こうだとは思わないくれたまえ!」

 

 うっせーぞ緑谷と飯田! 外野はすっこんでろ!

 ったく、おれとトオルのイチャイチャした時間にケチつけやがってよぉ~~~~、てめーらじゃなかったらガンつけるだけじゃすまねーぞ。

 

「……ふ、ふふ……悠長なこと言ってるのも今の内だぞ……A組ぃ……」

「あ?」

 

 その時、地面にへばりついていたニヤケ面ヤロー、もとい物間が首をおさえながら起き上がってきた。

 んだよてめーもケチつける気か。容赦しねーぞ。

 

「なんたって……雄英体育祭はもうそこまで来ているんだからね」

「!!」

「つまりぼくたちは、いいや、1年全体が目立ちたがりの君たちをつぶしにかかるって訳さ。その意味をもっと理解するべきだと思うね」

 

 ゆらゆらと立ち上がった物間のギラついた目に、席についていたトオルたちがまとめて息を呑んだ。

 だがそうまで言われて黙っちゃいられねーよなぁ。

 

「テメーごときがおれらに勝つつもりかよ」

「勿論さ。だが、万が一僕と渡り合うことがあったとしても、彼の前では簡単に踏みつぶされるだろうね」

「何ぃ?」

「そしてもうここに来ているんだよ、そいつはね!!」

 

 バネ仕掛けみてーに勢いよく腕を広げた物間は、あたりの注目を集めるように指を指し示す。

 その先にあるのは、おれたちが座る席と通路を挟んで向かい側にあるテーブルだ。

 

 そこには一人の男が黙ってメシを食っていた。この騒ぎに目を向けるでもなく、黙ってそこで。

 

「おいちょっと待て物間! こいつを巻き込むな、ややこしくなるだろ!」

「拳藤は分かってないな! ここでガツンと言ってやらないとプレッシャーにならないだろう!」

「だからイチイチ敵対しようとするなって言ってるでしょうが!」

 

 もめ始める物間と拳藤。男はそれにさえも振り向こうとはしない。

 

 だが不意に、男の肩が動いた。

 

「……………………ガツンと言う、のガツンってよぉ」

「あ?」

 

 は? ガツン?

 いま物間が言ったことか?

 

 思わず首をかしげるおれたちに振り向くでもなく、それこそ独り言でも言うみたいに、そいつはいきなり喋りはじめやがった。

 

「なんか物を殴ったり叩いたりする時の音だ……それで何を言いたいかってのはよく分かる……音が聞こえてくるぐらい物事をハッキリさせろってことだからな……そういう時に使う、それはよく分かる……」

 

 しかし次の瞬間。

 静かに見えたそいつは突然爆発した。

 

 

 

「だがタンカきる時に口で言うだけってのはどういうことだああぁ~~~~~~っ!!?」

 

 

 

「!!?」

「手ぇ出せ手ぇ!! てめーは口だけで相手を分からせられると思ってんのか!? 口と手で同じだけの音がだせると思ってんのかぁぁぁ~~~~~~!!?」

 

 キレた。

 そいつはおれたちに振り向きもせず、いきなり叫び出しやがった。

 

「口だけの方が音小せーに決まってんだろーが!! 口で言うだけならもっと小さいヤツにしろ!! コツンとかよおおおおおぉぉぉぉ~~~~~~ッ!!!」

 

 そして殴る。

 殴る。めちゃめちゃ殴る。

 目の前のテーブルを、そこに乗った定食のトレイや食器を、メタクソに殴りまくる。

 ひたすらひたすら、それこそ徹底的に。

 

「どういう事だ! どういう事だ!! ナメてんのかこのオレをよぉ~~~~~~!! クソッ! クソがッ!! 言う時ってのはやった後だ!! ガツンって口にだすんなら!! そん時はガツンと鳴るぐらい手ぇだしてみろや!! コケにしてんのかっ、このオレを!! クソボケがよオオオオォォォォ~~~~~~ッ!!!」

 

 それは、とんでもねーレベルの八つ当たりだった。

 何発も何発も、振り下ろされる拳は止まらねぇ。

 ドラムを叩くよりも激しく、まるで親の仇をぶっ殺すみてーに、そいつは殴り続ける。

 

「こうか!! これぐらいかッ!!? ガツンってのはこれぐらいかぁ!!? それともこれぐらいなのかあああアアァァァァ――――――――――ッ!!!?」

 

 食器もトレイも吹っ飛び、テーブルがへこみはじめても、それでもそいつは殴ることをやめなかった。

 そのイカレた姿にビビり、近くの席に座っていた連中は軒並み離れていった。

 しかしそれでもヤツの拳は止まらない。

 とんでもねープッツンヤローだ。

 

「あぁもう! だからこいつを巻き込むとロクなことにならないのに! おい、落ち着け!」

「どうだA組、驚いたか!!」

 

 プッツンヤローを抑える拳藤を尻目に、物間は頭がイッちまってるヤツだけが浮かべるようなニヤケ面でおれたちに宣言した。

 そこにいる、イカレ野郎のことを。

 

「彼こそ我ら1年B組きっての狂犬! ヴィジランテの本場、イタリアからやってきた男!!その名も――……」

 

 そうしてプッツンヤローの名前は叫ばれた。

 

 

 

「――ギアッチョ!! ギアッチョ・ビアンコだ!!!」

 




こちらではご無沙汰しております。随分時間を空けてしまいました。

雄英体育祭編突入です。それに合わせて、ジョジョ側から新キャラを追加しました。
実はわりとギリギリまで別のジョジョキャラとどっちにするか迷っていたのですが、ここは素直に自分の好きなキャラを登場させることにしました。
噴上は原作で一番好きなキャラ、ギアッチョはアニメ版で一番好きなキャラです。
あ、ちなみにヒロアカ世界に登場させるにあたりギアッチョのファミリーネームを設定しましたが、当作のオリジナルなのであしからず。
これからまた更新を続けていきたいな、と思っております。





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