噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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1年A組にやってきた!

「はァ~~~?

 鼻が良いってだけだと思ってた個性が、実は“匂いを覚えた相手を追跡して肉体の養分を奪う無数の足形の分身を生み出し、しかもそれは望んだ時に人型に合体させることができる”個性だったァ~~~~~ッ?

 オイオイ兄ちゃん、話盛るにもちょっぴり程があるんじゃないかぁ~~~~?」

「個性の名前は“ハイウェイ・スター”で頼むぜ、おっさん。なにせ前世からの腐れ縁でよォ――――、チンケな名前で呼びたくねーんだよおれはよぉ~~~~ッ」

「ナメてんのかこのガキィ――――!!!」

 

 そのオヤジは右手を振り上げ、おれとの間にあるデスクを勢いよく殴りつける。

 やっぱり安物の机はダメだよなぁ――、形ばっかり小綺麗でよぉ、叩くとまるで太鼓かなんかみてーにバカでけー音を立てやがるからよぉ~~~~ッ。

 

 デスク越しにいきり立ったオヤジは鼻息吹かしておれを睨めつける。禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤にして、アドレナリンの匂いをプンプンさせていやがる。

 あーヤダねー、オヤジのヒステリーってのはよぉ~~~~ッ。

 

「役所バカにするとただじゃ帰さねーぞガキィ――ッ! おれはなぁ、てめーみたいな一度出した個性届を後になってから変えようって奴が一番嫌いなんだよぉ~~~~! 道端の犬のクソを踏んでも平気な顔で街中を歩ける奴よりもなァ~~~~~!!!」

 

 オヤジのソーセージみてーな指がおれのスカーフをひっつかんで首を引き寄せる。

突き出されたもう片方の手の人差し指はこのおれの額につきつけ、

 

「前世からの付き合いとか言ってたな小僧ォ――――ッ。じゃあよぉ、このまま来世にも付き合わせてやろうかァ~~~~? その野良犬みたいなカス個性をよぉ~~~~ッ!」

 

「……オイ」

 

「分かったらとっととシッポ丸めて帰りな~~~~ッ。このおれの時間を、てめーみてーなクソガキに使わせんじゃねェ――――――ッ」

 

「オイ」

 

「分かったかっつってんだろおれはよォ――――!! 質問に質問で返すなってママに教わらなかったゲゲ――――ッ!!?」

「…………」

 

 オイオイおっさん、ちょっとばかりハシャぎ過ぎなんじゃねーのかよォ――。

 おれの最高にカッコよくて美しいハイウェイ・スターと握手できたんだから気持ちもわかるけどよぉ、ここは皆々様が集まるお役所の窓口だぜぇ――? 騒いじゃいけねーよなぁ~~ッ!

 

「てっ、てめー!! てめーの個性でおれに触るんじゃねぇ――――!!」

「おおっとォ、勘違いしないでくれよおっさん、おれは何もこのチンケな個性を使おうってんじゃねー、握手しようってそう思っただけなんだぜぇ~~~~~~ッ?」

 

 だってよぉ、おっさんの前にいるのはこのおれだぜぇ~~~~?

 

「まさかよぉ~~、おっさんは美術館に展示されている彫刻に触るようなことはしねーよなぁ~~~~? 『ミロのヴィーナス』の全身を朝日に輝くダイヤモンドのごとくピカピカになるまで撫でまわすようなことはしねーよなぁ~~~~?」

「ヒ、ヒギ……?」

「だからよぉ、ミケランジェロの彫刻のように美しいこの噴上裕也の顔によぉ――ッ、触ろうとするワケねーよなぁ――――ッ!?」

「ヒギ――――ッ!」

 

 おっさんの体からアドレナリンの匂いが一気に消え失せ、代わりに脂汗のこってりとした匂いがムンムンにたちこめる。

 ……オイオイ、ちょっぴり小便の匂いまでさせてんじゃあねーか。カンベンしてくれよなぁ~~~~ッ。

 

「て、てめー、こんな公共の場所で無許可に個性使っていいと思ってんのか……!」

「だから握手だよ、握手。おれの届け出を快く受け入れてくれる公務員サマによぉ~~~~、感謝の握手をしてんだぜおれはよぉ~~~~ッ」

 

 分かってくれてねーみてーで、悲しいぜおれはよぉ~~。

 

「感謝の気持ちが足りなかったかぁ~~~~? なぁおっさんよぉ、おれの気持ちを伝えるにはよォ、もっとアツい握手が必要みてーだなぁ――――――!!」

「ヒゲギャア――――!」

 

 おっさんの体臭が強くなる。骨の髄までビビっちまったってよぉ、そういう匂いがするぜぇ~~~~?

 

「わ、分かりまヒたっ。こ、個性届の変更を、受理させていただきマヒュッ」

「おおっ、分かってくれたかおっさん! いやぁ、話が分かる人が受け付けてくれてよかったぜ、おれもよぉ――――ッ」

 

 青ざめた顔で頷くおっさんの肩を叩き、手を離したハイウェイ・スターを引っ込める。

 胸まで汗でぐっしょり濡らしたおっさんは椅子にもたれかかり、ひん剥いた目ン玉でおれを見上げていた。

 

「じゃあ後は任せたぜおっさーん! おれの個性、しっかり変えてくれよなぁ――――ッ」

「ハ、ハヒ、お任せくださヒ」

 

 席を立って振り向きざまに手を振れば、おっさんもハイウェイ・スターと握手した手をヒラヒラと振っておれを見送ってくれた。

 

 いやぁ――――ッ、やっと終わったぜクソ面倒なお役所の手続きってヤツがよぉ――。

 

 いわゆる前世の記憶ってのに目覚め、ハイウェイ・スターを出せるようになったのはよかったんだけどよぉ――、それってつまり個性が大きく変わっちまったつぅコトなんだよなぁ~~~~~~ッ。

 

 この全人類の8割がなんかの個性を持っている超人社会では、自分の個性は役所に届け出を出さなきゃならねーことになっている。

 これまでおれは“鼻が良い”っつー個性でずっと通してきたワケだが、それがより強力な“ハイウェイ・スター”というスタンド、いや個性に成長したことは、ただ単に成長したって言い張るにはちょっぴり範囲を超えすぎちまってるんだよなぁ~~~~ッ。

 届け出を出した個性の変更は1~2回程度なら認められてるが、しかしここまで変化がデカすぎると中々認められねーんじゃねーかって、今生の親父もお袋もビクビクしてたぜ~~~~ッ。

 

そういやどっちも随分ビックリしてたよなぁ――――。まーこれまで15年以上変わらなかった個性が、どっちにも似つかねー全く別の個性になっちまったんだからそれも当然だけどよぉ~~ッ。

 

 だがその手続きもたった今終わった。後は受理された証明書を受け取って、ほかの書類とまとめて提出するだけだ。天下の名門、雄英高校で入学手続きを管理する学生課によぉ~~~~ッ。

 そうすりゃよぉ、

 

 

 

「晴れておれも雄英高校の新入生よォ~~~~~ッ!!」

「そうすれば僕も雄英高校の新入生だぁ――――!!」

 

 

 

 ………………。

 ………………………………。

 ………………………………………………。

 

「――あん?」

「――へ?」

 

 役所の正面玄関を抜けて晴れ晴れと宣言したおれ。

 その隣に、いつの間にかそいつはいた。おれとは全くに似つかない、カッコよさも美しさもまるでないボサボサ頭の地味なヤツが。

 けれどそいつは、おれと全く同じことを口にしていやがった。

 

 雄英高校の新入生、ってな。

 

 

 

「――誰だおめー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……っつーことがちょっと前にあったって事を、おれはそいつの顔を見て思い出していた。

 

「――あれ、お前あん時のヤツじゃねーか」

「え、あ、えっと、役所の前であった人、ですよね……?」

 

 初めて会った時と変わらず、そいつはボサボサ頭の地味なツラでおれの前に立っていた。

 おれと同じ雄英高校の制服を着て、おれが入ろうとしていたその扉を半開きにして、そいつはそこに突っ立っている。

 ここにいるっつーことは、マジでこいつ雄英高校の新入生だったのか。

 

「裕ちゃん、知ってる人?」

 

 おれの袖を引き、かたわらに立つトオルが疑問を浮かべておれを見上げてきた。

 つっても、個性のおかげで透明人間のトオルの顔はおれの方からは見えねーんだけどよぉ――――。

 

「いや、いっぺんタマタマすれ違っただけの名前も知らねー野郎だよ。そん時、雄英高校に入学したって言ってたけどな」

「へぇー、そうなんだ。……ねぇ君、名前なんていうの? あ、私は葉隠透ね」

 

 トオルは物怖じしないイイ女だ。

 制服だけが宙に浮かんでるように見えるその姿にそいつは面食らったみたいな顔したが、個性なんだろうって納得した感じで頷き、

 

「ぼ、僕は、緑谷出久、です」

 

 地味顔のそいつ、緑谷はそう名乗ってからおれを見た。

 そういやおれは名乗っていなかったな。

 

「おれは噴上裕也。トオルと同じ、1年A組の新入生よ。おめーもそうかよ?」

「う、うん。僕も、そう」

 

 何だか何かにつけて自信のねー野郎だなコイツはよぉ~~~~ッ。

 これまでの人生でも前世でも、ちょっとあんまり見かけないタイプの野郎で、逆におれの方が面食らっちまうぜぇ――――。

 

「じゃあよぉ、とっとと教室に入ろうぜぇ――? 何でてめーはこんなトコに突っ立ってやがんだよぉ――――ッ」

「あぁ~、それは、ええっと……」

「おや、君は!」

 

 その時だ、半開きになった扉の向こう、つまり1年A組の教室の中からまた別の男の声がした。それから律儀な足音がして、背の高い男が出てきた。

 眼鏡をかけた、いかにも真面目ですってツラをした野郎だ。肩ひじ張った歩き方をしてきたそいつは、『前にならえ』って感じで手の平を突き出し、緑谷へ声をかけた。

 

「おはよう!!」

 

 まずは挨拶ってワケだ。どうやらやっぱりツラ通りの野郎みてーだなコイツはよぉ。

 

「ぼ……いや、俺は私立聡明中学校出身、飯田天哉!! 君の名前を聞いてもいいだろうか!!」

「はひっ!? み、緑谷出久、デス」

「そうか緑谷君!!」

 

 眼鏡の真面目クン、飯田に質問に、緑谷は妙にビビッてる風だった。元からそんなに気の強いヤツには見えねーが、おれやトオルへの返事とは随分違うって感じだ。

 そして実際、飯田と緑谷は知り合いみてーだった。

 

「緑谷君、俺は君を見誤っていたよ。君はあの実技試験の構造に気付いていたんだな……!」

「へ……?」

「俺は気付けなかった。悔しいが、君の方が上手なようだ……!!」

 

 どうやらおれとトオルがそうであるように、こいつらも入試で知り合ったようだった。

 飯田の口ぶりからするに、どうやら緑谷はあの仮想敵をぶっ壊す点数稼ぎとは別にある加点されるレスキューポイントの仕組みに気付いてたって感じだ。聞いてる感じ、おれと同じようにレスキューポイントの加点で試験を通過したのかもしれねーな。

 

 しかしこの地味顔キョドり君が、自力で隠し採点に気付けたとは思えねーんだがよぉ――――ッ。

 

「へぇー、緑谷君、すごいじゃん」

 

 トオルは緑谷を讃えた。素直で本当にイイ女だ、可愛いヤツよのう、おめーはよぉ~~~~。

 

「え、何、どうかした裕ちゃん?」

「いいや、トオルは最高に可愛いイイ女って思ってただけだよ」

「え~~~~ッ? そうかなぁ~、えへへへへへ」

 

 思ってたことを言ってやると、トオルはこっぱずかしいらしくてくねくね身悶えする。その様もまた可愛いじゃねーのよぉ~~~~ッ!

 そんなおれたちを緑谷と飯田はそろって見ている。

フフフ良いだろう、これがカッコよくて美しい男だけに許されたオトコとオンナの関係ってもんよぉ~~~~~ッ。

 

 って時だ、おれたちの後ろから知らねー女の匂いが近づいてきた。

 振り返ると、廊下の向こうから茶色い髪をした丸っこい顔をしたカワイ子ちゃんがやってきた。朱がさした頬と垂れた目尻が良い感じにキュートだ。

 そのカワイ子ちゃんは入り口でたまってるおれたちに気付くと、パッと笑顔になって手を振り上げ、

 

「あっ! もさもさ頭の、地味めの人!」

 

 どうやらカワイ子ちゃんも緑谷の知り合いらしい。この噴上裕也を捕まえて、地味なんて言葉が出てくる人間はこの世にも前世にも間違いなくいやしねーからなぁ――――ッ。

 

「あっ、あぁっ、き、君っ、はっ!」

 

 オイオイ緑谷、つっかえ過ぎだろうがよぉ~~~~ッ、ピュアボーイかよおめーよぉ~~~~~~~~ッ!!

 

「プレゼント・マイクが言ってた通り受かってたんだね、良かったぁ~! そりゃそうだよね、パンチすごかったもんねぇ!」

「い、いや、僕はっ、その、貴方の直談判のおかげで……っ」

「へ? 何で知ってるの?」

「あっ、そ……それは……」

「――おはよう!!! 俺は私立聡明中学校出身、飯田天哉! 君の名前を伺ってもいいだろうか!?」

 

 しどろもどろになる緑谷とカワイ子ちゃんのあいだに飯田が割って入った。まぁこの二人だけにしてると全然話が進まねーのはまるわかりだからな。

 しかし飯田、その自己紹介毎回やるつもりかよ。

 

「あ、うん、おはよう! 私、麗日お茶子! A組の教室にいるってことは、同級生?」

「ああそうだ!! 麗日君、いや緑谷君も噴上君も葉隠君もだが、教室に入ると良い! もう予鈴は鳴ってしまった、担任の方がもういつ来てもおかしくないぞ!!」

 

 いかにも飯田の言いそうな事だが、まぁ全くその通りだ。

 まぁ別に、前世じゃバリバリの暴走族だったこの噴上裕也は、センコーが恐ろしいなんざ欠片も思わねーけどよぉ~~~~ッ!

 

 けどその時だ。おれたちが飯田の言葉で教室に入った、その時だよ。

 泥の底から来ましたって感じの声がしやがったのはなぁ~~~~~~~ッ!

 

 

 

「――はい、全員教室に入るまで5分かかりました――……。君たちは合理性に欠くね、まったく」

 

 

「ほっ?」

「むっ!?」

「へ?」

「え?」

「ああん!?」

 

 いつの間にか、廊下にはそいつが横たわっていやがった。

 ミノムシかなんかみてーに寝袋にはいった、何日もドブに浸かった野良犬って感じのヒゲ面の男がよぉ――――!!

 

「友達ごっこがしたいならよそへ行け。ここは雄英高校ヒーロー科だぞ」

「え、あ、先生、ですか……?」

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 その男は寝袋から這い出し、おれたちに向かって手を上げてそう名乗った。

 見れば教室ですでに席についていた他の連中も、おれたちがそうであるようにその男を、相澤を注目していた。

 

 っつーかマジかよ、こんな小汚ぇおっさんが担任? しかも雄英のセンコーっつーこととは、このおっさんもプロヒーローってことなのかよぉ~~~~ッ?

 おれの思ったことは、言葉には出さなかったがトオルも他の連中も同じだったはずだ。マジかよ、って感じで教室全体がどよめいている。

 しかしこの相澤って男はそれを気に留めた風もなく、

 

「早速だが、これ来てグラウンドに出ろ」

 

 寝袋から取り出したのは、一着のジャージだった。青地に白と赤のラインが入ったそいつは、雄英高校の専用運動着だ。

 どうやらジャージは既に用意されていたみてーだ。

 席に着いていた連中が次々にそれぞれの机からジャージを取り出している。

 

「え、入学式は? ガイダンスは?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出てる余裕はないよ」

 

 相澤の野郎はにべもなく麗日の言葉をぶった切り、続けてこう言いやがった。

 

 

 

「――これから君たちには、個性把握テストを受けてもらう」

 




沢山の閲覧と評価、ありがとうございます。予想していた以上の反応で嬉しく思います。
続きを思いついたので、書いてみました。

この後の構想もかたまりつつあるので、もう少し範囲で書いてみようかとも思います。

ただ本作は、当方が書いているONE PIECEの方の二次創作の息抜きも兼ねた、そっちとはまた別のやり方を試す形にしようかと思っています。具体的には、ローコストハイペースというか、文字数と推敲回数を減らす代わりに投稿ペースを上げる、って感じで。

それもどこまでやれるか分かりませんが、へばらない程度に頑張れればと思います。
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