噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ 作:己道丸
「ハイ、裕ちゃん! あ~~~~んっ」
「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~んっ」
トオルが箸につまんで差し出してくれた焼き鮭を、おれは口をめいいっぱいに広げて頬張った。虫歯一つねぇこのおれ自慢の新雪より真っ白な歯が魚肉を噛みしめ、舌の上に香ばしい焼き魚特有の風味が広がった。
その瞬間さ、口の中に光り輝く黄金色の新世界が広がったのはよぉ!
「ゥンまあああああああああああああああいッ!!!」
サッパリとした塩と出汁が弾力タップリな鮭の中から飛び出してきやがった!
肉のスジ一本一本にまで染み込んだ旨味が噛みしめた瞬間にあふれ出し、まるで一陣の秋風みてーに舌を撫で、喉の奥から鼻へと駆け抜け過ぎ去っていく!
たった一口噛んだだけで、少年ジャンプのページみてーに積み重ねられた味がおれの味覚を満たしたのだ!!
これこそ魚料理っつーんですかぁ~~~~ッ?
これぞまさに和食の極みっつー奴ですかぁ~~~~~~~ッ!?
まるでシャケが生まれてから釣り上げられるまで経験してきた世界中の海を追体験しているかのような! それをあまさず読み取って表現しつくす匠の業をおれは体験しているぜ!!
これぞ素材と技巧の完璧な調和!!
人と自然が手を取り合って生み出すハーモニー!!
例えるならそれは、黄金の太陽をその頂きで指し示すピラミッドの黄金比!!
あるいは、シャネルの5番をまといながら月を見上げるマリリン・モンロー!!
湯煙の向こうに覗く翡翠色の草津温泉!!
布施明の歌声で震える空気!!
全国津々浦々の伝奇に対する水木しげるの妖怪画!!
……っつぅ――――――っ感じの味がするぜぇ~~~~~~ッ。
「どう裕ちゃん、美味し?」
「最ッ高だぜ、トオルゥ――――ッ! おめーが食わせてくれたおかげで、より一層美味くなってんじゃぁねぇかぁ~~~~~ッ!?」
「えー本当ー? じゃあじゃあ、次はお米と一緒に食べさせてあげるっ」
「うおおおマジかよ、さすがトオルだぜ! 分かってンじゃあねぇかよぉ――――ッ!!」
そんなおれたちに、おれたちが囲むテーブルの前にいたそいつは勢いよくサムズアップした。
「――白米に落ち着くよね、最終的に!!」
コック帽と排気管みてーな機械で顔を隠した男だ。
真っ白なコックコートで全身を包み、手袋までつけて徹底的に素肌を隠してやがる。そいつはきっと、料理人として衛生に気を使った結果のことなんだろーっつーのは、そいつの肩書を聞きゃあ分かることだった。
「クックヒーロー、ランチラッシュだ!」
テーブルの向かいに座ってる緑谷のヤツが、目ん玉キラキラさせながら両手で口元を隠し、そいつを見上げていた。どうやら結構有名なヒーローらしいな。
まぁそれはこいつがこの食堂を切り盛りしてるのをみりゃ分かるけどよぉ。
「うん、落ち着く」
「麗日君、君、それ何杯目だい」
箸を置いて感動する緑谷をよそに、隣の麗日は学食に舌鼓を打っていた。ゆるみきったその顔には、横に座る飯田の奴もあきれ顔だ。
とはいえ、こんなウメー飯をこんな格安で食えるんだ、手を止めねぇで食っちまった方がおれは得だと思うがね。全く雄英サマサマだぜ、学食まで超一流とはよぉ――――ッ。
「……しかし君たちは動じないな、初日でも」
ランチラッシュとやらが調理場の方に戻った後、ようやく飯を食い始めた緑谷たちだったが、ふと飯田のヤローがおれたちを見てつぶやいた。
それはどうやら、おれとトオルのことを言ってるらしい。
「ああん? 雄英っつったってよーッ、何も肩すぼめてビクビク廊下の端歩かなきゃなんねーっつー事はねーだろーがよぉ――――ッ。むしろおれたちは真っ向から入学試験を乗り越えてきた、将来有望なホープ様だぜぇーッ。胸張ってりゃいいんだよぉ」
「さすが裕ちゃん、自信たっぷり! カッコイー!」
「だろぉぉぉぉぉぉぉ~~~~ッ!!?」
もっと言ってくれたって良いんだぜ、トオルぅ。カッコいいってよぉ~~~~~ッ!
「……自信、か。そうだな。ぼ……いや、俺に必要なのはそれなのかも知れないな」
「すごいな、噴上君は。僕はまだ、とてもそんな風には言えそうにないや……」
「ったくビビり症かよおめーらはよぉ。特に緑谷ぁ~~~~ッ」
ま、おれみてーに絶対確信をもって断言できるものを持ってねーとムズいのかも知れねーけどな。このおれが最ッ高にカッコよくて美しいっつー、明日も太陽は東から昇ってくるってぐらい確実に断言できることがよぉ。
おれの言ったことで考えこんじまったのか、野郎どもムッツリと黙りこくっちまった。ったく辛気クセーなぁ、いーんだよ、おれはスゲー奴だぜって言い張ってりゃよぉーッ。
そうやってちょっぴりこいつらから目をそらした時だ。
食堂を埋める人垣の向こうに、見覚えのある顔を見つけたのはよぉ。
「――おっ、おめーらも学食か!? こっち来て一緒に食おーぜ、オイ!!」
見知った顔が数人、ひとかたまりに食堂をうろついていた。
おれたちと同じ1年A組に通うヤツら。それも女子の集まりだ。
まぁ入学したばっかりだしな、女同士でツルむっつーのも分かる。っつーか、おれにゾッコンなトオルは別として、知り合ったばかりの緑谷や飯田とツルんでメシ食える麗日のヤツが変わってんだろーぜ。
「……どうする?」
「ケロッ、いいんじゃないかしら」
「他に席も空いてなさそうですし……」
顔つき合わせて話し込んだそいつらだったが、トオルや麗日がいるのにも気づいたのか、こっちに手を振って応えてからやってきた。
おれたちが座ってる長テーブルに学食を乗せたトレイを置き、女子連中は席に着く。これでウチのクラスの女は全員揃ったっつーわけだ。
……でもよーッ、それにしてもよぉーッ、あれだよなぁオイィッ。
カワイ子ちゃんばっかりじゃあねぇかよぉ~~~~~~~~~~~~~ッ!!!
「そーいや自己紹介がまだだったな。相澤のヤロー、しょっぱなからテストでホームルームも開かなかったからよぉ。――おれの名前は噴上裕也、おめーらは何つーの?」
「……自己紹介からの流れるような名前チェックッ! 噴上君、すごい……ッ」
「なるほど、ヒーローともなれば円滑なコミュニケーションは必須!! 食事の時間においても研鑽を怠らないとは、やはり雄英高校に入学する者はレベルが高い!!」
「違うと思うなぁ……」
カワイ子ちゃんを前にしてビクつくなんて時間のムダだぜ? 緑谷、飯田ぁ。これがモテる男の立ち振る舞いっつーヤツよぉ――――ッ!
「ケロッ、積極的ね」
女子の一人、濡れたように艶やかな黒髪を光らせる子が最初に口を開いた。
やけに大きな目と口が特徴的で、箸を持つ手もいやにデカい。なんか全体的にカエルっぽい感じがするぜ。あとポーカーフェイスっつーの? あんま顔色変わんねぇし、際立った匂いもしねーし、ちょっと考えが読めねぇ感じだな。
「私、蛙吹梅雨。梅雨ちゃんって呼んで。――貴方は、噴上ちゃんって呼んでもいい?」
「おーよ、何なら裕ちゃんって呼んでくれても良いんだぜェ――――ッ?」
「そう? じゃあ裕ちゃん」
よぉし、裕ちゃん呼びのカワイ子ちゃんゲットォーッ!
ツユちゃんも中々積極的じゃぁねーかよぉ――、いいねぇ、そういう女も大好きだぜおれぁよぉ―――――ッ!
「私は八百万百。……私のことは、八百万と呼ぶように」
次に名乗りを上げたのは、髪をポニーテールっぽく結わえた釣り目の女子だ。
気が強そう、っつーよりも真面目そうってツラだなぁー? ツンとすました感じが、いかにもお育ち良いですって感じだ。あんまおれみたいなのと話した事がねぇのかもしれねぇ、ちょっぴり警戒してる匂いがするぜぇ。
っつーかお育ちいいのはカラダの方じゃねぇか、コイツぁよぉ――――ッ!
めっちゃオッパイでけぇぜ――――ッ!!! 手足もムッチリしてんのにモデルみてぇに長ぇし、こいつぁ発育の暴力ってヤツじゃねぇのか~~~~ッ?
「ウチは耳郎響香」
更に続いたのは、前髪を斜めに切り揃えたショートカットの子だ。
八百万とはまた違う感じの釣り目で、小柄でスレンダーな感じがクールでイイじゃねぇの。あんま飾らない感じがちょっぴりボーイッシュに見えなくもないが、細い首や手足が華奢ですげぇキュートだ。
特徴的なのはなんつってもコードみたいに細長い耳たぶ! 先っちょはプラグみてーな形してんな。時々ニョロニョロうねってるから、意識して動かせるのかも知れねー。
「んで私で最後ねー。芦戸三奈、ヨロシクー!!」
特徴的っていやーこの子が一番特徴的だ。
何つっても全身ピンク! 髪の毛の先から足に至るまで全部がうすいピンク色だ! それに加えてハジけた髪から生えたフックみてーな角、黒い白目に金色の瞳ときたら、ちょっとした小悪魔かエイリアンって具合だ。
しかし真っ白な歯を見せながらニカッと笑う顔は元気ハツラツ、人懐っこくてイイ感じなんだよな。スタイルも良いし、引き締まった腰回りと太ももは何か運動やってるっぽいぜ。
良いぜ良いぜ、良いんじゃねぇの~~~~ッ?
めっちゃレベル高ぇじゃねーかよ、1年A組ぃ!! こいつはおれのカッコよくて美しい顔が、より一層引き締まるってもんだぜェ――――――ッ!!!
「……裕ちゃん、めっちゃ顔ユルんでる」
「おいおいおいおい、何だよトオル、イジケちまったかぁ?」
「そんなんじゃないよーだッ」
隣に座るトオルが不貞腐れたみてーな声を出した。
「そっぽ向かねぇでよぉ~~~~ッ、おれを元気にしてくれよぉ。おれはおめーがいてこそのおれなんだぜぇ~~~~ッ?」
「……ホント?」
「当たり前だろぉ? さ、おれにおめーの顔を
「……もぉ、すぐそうやってカッコいいこと言うんだから~」
「へへっ、おめーが見てくれてるのが分かるぜトオルぅ――――ッ。カッコよくて美しいおれの顔はよォ、やっぱり見てくれるヤツがいてこそだぜ~~~~ッ」
へっ、おれとトオルのことを緑谷たちが目ぇ丸くして見てやがる。どーよ、ご覧の通り、おれはトオルみてーな女がいてこそのおれなんだ。
美貌ってもんはよぉ、人に囲まれ讃えられてこそ真価を発揮するよなぁ。メラメラと輝く炎を古代の人間たちが神聖視して讃えた拝火教のようによぉ~~~~ッ。
美しいものは見る者を美しく活かす。
これまで多くの美術品や芸術が見つめてくるヤツに対してそうだったようによぉ! この噴上裕也のカッコよさは、おれを元気づけてくれる女どもがより美しく生きていけるようになる、光り輝く美しさなんだぜェ――――――――――ッ!!!
「裕ちゃん、葉隠ちゃんととっても仲良しなのね」
「これが異性交遊……! 私、はじめて見ましたわ」
「いや、それもどうなの」
「ラブラブだぁ――! 何、二人はずっと前から付き合ってるの――!?」
おれたちを見てめいめいが思ったことをつぶやく中、芦戸のやつが勢いよく手を上げた。
「ううん、裕ちゃんとは入試の時に初めて会ったの」
「ってことは付き合ったの雄英に入ってから!? 高校デビューじゃん! スゲー!!」
芦戸のヤツ、見た通りノリのいい奴だな。案外気が合うかもしれねーぜ。
「ねぇねぇねぇ、二人の話もっと聞かせてよ! コイバナしよぉ――ッ!」
「フッ、このおれに惹きつけられるのは分かるけどよぉ、目の前にあるもん食っちまった方が良いんじゃねぇのかぁ?」
「へ?」
「そ、その、じ、時間がっ」
「うむ、噴上君と緑谷君の言うとおりだ! 昼休みは有限!! はやく食べきってしまわないと、午後の授業に間に合わなくなってしまうぞ!!」
「うわっ、マジだ、もうこんな時間!」
身を乗り出した芦戸だったが、ヤローどもの言葉で壁の時計に目をやり、その針が指す時間を見て慌てて箸をとった。
かきこむようにメシを食い始める芦戸。それを横目に、ほかの女どもも食を進める。
もちろん、このおれもだ。
「ほら裕ちゃん、まだご飯残ってるよー」
「おう、任せたぜトオルゥ。あ~~~~~~んッ」
「あぁ~~~んっ」
「……あのペースで間に合うのかな……」
「分からん。いや、彼のやる事だ、間に合うに違いない!」
「飯田君は噴上君のこと、信じてるんやねぇ」
外野がなんか言ってるが、おれはトオルが手ずから出してくれたメシをおろそかにはしね――――ぜ!!
それにしても、こんなカワイ子ちゃん(とちょっぴりのヤローども)に囲まれてメシが食えるなんて、最高じゃねーか!
雄英高校の学園生活、こいつぁ楽しくなりそうだぜ――――――――――ッ!!!
「野郎……ッ!! もうカンベンならねぇ――――――!!!」
――そんな風に女どもとテーブルを囲むおれは、食堂入り口の影から暗い情念をほとばしらせる男のことになんて、これっぽっちも気づいちゃいないのだった。
そしてそいつが、おれの今日という日の残り半分に、大きな波風をたてるきっかけになるってこともなぁ。
〇
「噴上ッ、てめー調子ノってんじゃね―――――ぞッ、クラアァァァァァーーーーッ!!!」
「……ああん?」
食堂での食事を終え、午後の授業の鐘が鳴る前に教室へ戻ってきたおれたち。そして席に着いたおれに、がなり立ててくるヤローが現れた。
妙に小せぇー野郎だ。おれの腰ほどの身長もねぇ。
どんな髪型したらそうなんのか、まるでバカでけぇブドウの房みてーなモンを頭から生やしてやがる。やたらでけぇ目ん玉をしてるのはツユちゃんと同じだが、この野郎にはあの子にあった可愛げやニュートラルな感じがまるでねー。
コイツ、アドレナリンの匂いをビンビンに噴き出してやがる。赤黒くなるまで血が上ったツラは、鼻息荒すぎてむしろ鼻血垂らすんじゃねーかッつー勢いだ。
……つーかよぉ、
「誰だよオメー」
「峰田実だよ!! テメーと同じクラスの!!! 覚えろ!!!」
知らねーな、昨日はじめて会った、今日から同じ教室に来ることになった野郎のことなんてよーッ。おれが覚えるのは、カワイ子ちゃんたちだけで十分だぜ(緑谷と飯田は例外だ。ツルんでるヤツらだからな)。
「んでその峰田クンが何の用だよ。難癖つけてっとシメんぞ、コラ」
「シメるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ―――――!!? 締めたいのはテメーの首だぜ、オイラはよぉ――――――ッ!!!」
峰田はおれの机の上に飛び乗り、ギンッギンに目ん玉ひん剥いて叫んだ。
「入学早々に女子とイチャつきやがって!!! あまつさえクラスの女子全員と一緒にランチタイムだとぉ~~~~~!! 女限定の聖徳太子かテメーはよぉ!!!」
「しょ、聖徳太子に例えるなら女の子は10人必要なんじゃ……」
「諦めろ緑谷君。彼は怒り心頭で数も数えられないようだ」
いや解説してねーでコイツ止めろよ、緑谷、飯田。
「オイラはなぁ―――――!! テメーみてーなバカみてーに女にモテる奴を見返すためにッ!! オイラ自身がモテるために雄英高校に入ったんだよぉ~~~~ッ!!! なのに何なんだテメーはッ! 来る日も来る日もイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ!!! そんなに自慢か!! そんなに誇らしいか、自分がモテるってのがよぉ――――――ッ!!!」
「……ったりめぇだぜぇ~~~~ッ」
こいつバカだぜ。このおれに向かってその質問をするとはよぉ。
「――この噴上裕也は、己のカッコよさと美しさに関しては他の一切を寄せ付けねー至高の頂きに立っていると自負しているッ!! 女にモテんのも当然だろうがよぉ――――ッ」
「キイイイイイィィィィィィィィ――――――――――ッ!!!!」
峰田のヤロー、ついに言葉も忘れちまったようだ。猿みてーな声を上げて、おれの机で地団駄を踏みやがる。
だがその時だ。
「……ッセーぞテメーら」
峰田のとは比べ物にならねー、腹の底を震わせるような声がした。
そいつは丁度、おれの前の席に座ってやがる奴だ。干乾びたイガグリみてーにツンツンした髪をおれに向け、机の上に両足を乗っけた格好は、いかにもおれと同じ種類の人間だっつーことをあからさまに見せつけてやがる。
……気に入らねー野郎だぜ。
振り返っておれを睨みつけるギラついた三白眼もモチロン気に入らねーが、何よりもコイツがこの席にいるせいで、トオルとの距離が一席分離れちまったっつーのが一番気に入らねーッ!!
んだぁコノヤロー、こいつもおれに文句あんのかぁ?
「か、かっちゃん、ダメだよっ」
「っせーぞデク! テメーは口をはさむな!!」
「やめたまえ爆豪君!! 教室の中で暴言を吐くなど!!」
「エリート野郎もすっこんでろ!!」
「……あのー、今オイラ話してんですけど?」
「ああああああん!!?」
「し、失礼しましたーっ!」
おれとイガグリ頭野郎に挟まれる形になった峰田がトンズラした。
しかし爆豪? っつーのかコイツ。かっちゃんとかデクとか、あだ名かなんかか? 緑谷と付き合い長ぇーのか、コイツよぉ。
だがそんな横槍は、爆豪をより一層ブチギレさせただけだったようだ。机から足を下ろした爆豪は身を回し、おれに正面きってガンつけてきやがった。
「オイ濃い顔ォ、ウゼーんだよオメー……! 女の尻おっかけてヘラヘラしやがってよぉ、ぶっ殺されてーかぁ!!?」
……あ?
「……あぁ~? 今なんか言ったか手汗野郎がよォ~~~~ッ」
ひょっとしてよぉ、このおれの美しさを貶しやがったのか、コイツはよぉッ? このミケランジェロの彫像のごとき美しさを、バカにしやがったのかコイツぁよぉ――――ッ!?
おれが椅子を引いて立ち上がると、爆豪のヤローもまた立ち上がり、睨みつけて来た。
おもしれー、暴走族でならしたこの噴上裕也クンと、真っ向からメンチ切ろうってのかぁ――――ッ!!?
「オウてめぇコラ、今なんつった、もっぺん言ってみろ!!」
「てめーよぉ、両手からすっげえ濃い汗みてーな匂いがしてクセーんだよぉなぁ。何だよヒトサマと喋ると緊張しちゃうタチかぁ~~~~ッ? 実はブルっちまってる小心者が、大物ぶってるだけなんじゃねぇのかよぉ~~~~~~ッ!?」
「え……っ? かっちゃんの個性で出る汗は無臭のはずなのに、嗅ぎ分けるなんて噴上君すごい……!」
「黙れクソナード!! 解説がキモいんだよ!!!」
気づけば緑谷や峰田だけじゃねぇ、クラス全体がおれたちを遠巻きにしていた。
おれたちの席が教室の端、窓際の列だったっつーこともあるんだろーぜ、ほかの連中との間合いが随分開いてるように思える。
しかしそれは同時に、クラス全員がおれのことを見ているってことでもある。
こいつはカッコ悪いとこ見せらんねーぜッ!! ゾクとしてブイブイ言わせた前世の記憶がよぉーッ、男はナメられたら終わりっつーことを警報みてーにガンガン頭の中で鳴り響かせているからなぁ――――ッ!!
「ゆ、裕ちゃん」
「ちょっと待ってろトオル、今この手汗野郎を黙らせるからよぉ」
「あ? 黙んのはテメーだろうが。死人に口なしだからなぁ――――――!!」
言うなり爆豪の奴が腕を振り上げた!
タカかワシが獲物に迫るかのような手つき! 手の平の匂いが一層強くなりやがった!! 何かあるッ!! こいつの個性が発動しようとしているのが分かるッ!!
だがおれにはハイウェイ・スターがついている!!
生身の人間に対しては絶対的に有利な、このおれのハイウェイ・スターがなぁ――ッ!!
「――ぶっ殺す!!!!」
「やってみろッ!! このダボがぁ――――ッ!!!」
爆豪の掌底とハイウェイ・スターの拳!!
クロスカウンターなんてダセーことは言わねぇ!! その頬っ面ブチのめして、コイツだけ床にたたき伏せてやる!!! 道端にブチまけられたミルクを舐めとろうとする野良犬みてーに這いつくばらせてやるぜぇ~~~~~~~ッ!!!
「――オイオイ少年たち、もう青春を爆発させてるのかい? アツいねぇ、十代!!」
「!!!」
だが、唐突に響いた声がおれたちの動きを止めさせた。
そいつは太く、剛く、誰よりもたくましい男の声だった。
樹齢1000年の大木を殴ったらこんな音が響くんじゃねーのかっつー声だ。ビクともしねぇ、それどころか、殴った奴を許しいたわるように枝葉を鳴らすよーな、そんなキモのすわった泰然さがその声には満ちてるッ。
こんな声を出せる奴は、この世に一人しかいねーッ。
だが誰ならこんな声を出せるのかっつーことは、世界中の誰もが知っている!!
前世の記憶で動いてる今のおれだが、それでも15年、この世で生きてきた記憶はある。
そして、それだけこの世で生きてりゃー絶対どこかで必ず聞く声が、それだった。
何故って? そいつは簡単だ。
誰かが望んだ時、――そいつは必ず現れ、こう答えるからだ!!
「私が!! 普通にドアから来たぁ――――――ッ!!!」
「オールマイト!!」
「オールマイトだ!!!」
「すげぇ、マジで雄英の先生になったんだ!!」
「画風が全然違ェ……!!」
「オールマイトぉ――――ッ!!」
オールマイト。
この教室の誰もが尊敬を込めて見上げる、筋肉でガッツリ武装された巨漢がそこにいる。
プロヒーロー、オールマイト。ヒーロービルボートチャート不動のナンバー1、この国、いや、世界中の老若男女が親しみと敬愛を込めて慕う無敵の英雄。
その顔は常に剛健な笑顔をたたえ、逆境にくじけた一般人を励まし、暴虐をふるう卑劣な敵をすくませる。振り抜かれた腕はあらゆる災害と悪行を蹴散らし、地を踏む脚はいかなる危機にも颯爽と駆けつける。
救済の化身。正義の権化。――平和の象徴。
それがこの、おれたちの前に現れた、オールマイトという男だった。
「……オールマイト」
目の前の爆豪ですら、オールマイトの出現に手を止め、目を奪われている。……おいおい、そんな様をさらされちゃあ、おれだけブチかますわけにはいかねーじゃねーか。
完ッ璧に水をさされちまったな。
だがおれを見るトオルのホッとしたような視線を受けちまうと、ゴチャゴチャ言うワケにもいかねーな。
「有り余るリビドー、いいね若人たち!! だがぶつけるなら、私の授業にしたまえ!!」
生徒たちの合間を抜け、教卓の前に立ったオールマイトは、高々と腕を振り上げた。だがそれは拳じゃあない。その手には、一枚のカードが握られていたからだ。
――BATTLE、っつー文字が書かれたカードがな。
「ヒーロー基礎学!! 本日の内容は――今の君たちにピッタリ!! 戦闘訓練だ!!!」
冒頭のネタで無い語彙ひねり出してたら少し時間かかっちゃいました。食レポ難しい。
書いてて噴上の自信タップリ感が羨ましくなる回となりました。個人的に彼は結構コミュ力高そうな印象があるんですけど、どうなんですかね。あと以前いただいたご意見ですが、峰田は元より爆轟とも相性悪そうな感じがします。解釈が人と一致すると嬉しいですね。
次回は対人戦闘訓練編。
感想や評価をいただけますと、当方とても喜びます。