噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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今回から作品のタグに「独自解釈」を追加しました。
作中におけるスタンドの能力について、筆者個人の解釈がからんでくるからです。この能力への解釈を強く推すわけではありません。あくまで作中におけるパワーバランス調整の一環としてご理解ください。


JコンビvsHトリオ その②

 ビルの正面入り口をくぐり、おれはエントランスを通り過ぎた。

 脇にある壁には、このビルに収まっている会社かなんかの表札がキッチリ縦一列に並んでいたが、しかし実際には誰も通っていないウソの表札だっつーことがおれには分かる。

 本当に人が通ってんなら、このエントランスにはもっと人の匂いが染みついてるハズだからな。

 

「……さすが雄英、演習用のビルでも作り込みが半端ねーぜ」

 

 ま、ここが校内の運動場に建てられてたニセモノの街、ニセモノのビルだっつーのは、ハナッから分かってたけどよー。でもやっぱり、こんだけホンモノみてーな作りなのに、人間の匂いがほとんどしねーってのは気持ちワリーって思っちまうよなぁ~~~~~ッ。

 

 しかしニセモノって事はよぉ、どんなに暴れても気にしなくていいって事だよなぁ。

 今このビルにはおれも含めて5人の雄英生徒がいる。チームに分かれて戦うためになぁ。真っ向からぶつかったらよぉ、ビルの一角がブッ飛ぶぐらいはあり得るんじゃねぇかぁオイ~~~~~~~ッ。

 

 なんせ敵は、切島鋭児郎と瀬呂範太のヤローども。

 おれや、チームメイトのトオルとツユちゃんを狙いブチあげてくる事は十分ある。しかしこのカッコよく美しい噴上裕也が、女どもと一緒にいて負けるワケにはいかねーぜ。

 

 おれたちが勝つには、制限時間内にヤローどもをブッ倒すか、奴らが守っている核兵器(って設定のハリボテだ)を確保しなきゃなんねー。

 と、なると頭数が多い方が良いのは当たり前で、全体の人数の都合で三人組になったおれたちが有利なんだが。しかしハンディキャップでこっちのチームは、おれ一人とトオルたち二人に分かれている。事前の打ち合わせも無しだから、今二人が具体的にどのあたりにいるのか、何を考えて進んでいるのか、おれには分からねー。

 

 と、なるとおれが選べる選択肢は二つ。

 トオルやツユちゃんを探すか、先に切島と瀬呂の情報を集めるか、だ。

 

「……さて、まずはどーしたもんかな」

 

 トオルとツユちゃんは正反対の方向から入ってくるっつー話だったけどよー。このビル、外から見た通りなかなか奥行がありそうで、合流にはちょっぴり時間がかかっちまうかもなぁー。

 まぁそれでも、このおれの鼻にかかれば、決して出来ねーことではねーんだけどよー。

 

 だからおれはトオルやツユちゃんの匂いをかぎ取ろうと、鼻を鳴らして空気を吸いこんだ。カワイ子ちゃんの匂いは忘れるなんてことはまずありえねーけどよー、二人のイイ匂いをおれはしっかりと覚えてる。同じビルにいるんなら探すのは難しくねーぜ。

 だから少なくとも、二人を探したせいで制限時間が危なくなるなんてことはない。

 

 ……ない、んだが、

 

「――こいつは!」

 

 しかしおれの鼻は、トオルよりツユちゃんより先に別のヤツの匂いで満たされた。

 

 空気に混じって流れてくるのは、男の匂いだ! それもちょっぴり接着剤みてーな匂いが混じった、独特の匂い! 個々人の匂いがより極端に個性化している超人社会において、このおれが嗅ぎ間違えることなどありえないッ!!

 

 間違いねー、瀬呂だ! この曲がり角の先から、瀬呂の匂いがするぜッ!!

 

 だ、だが、これはいったいどういうことだ?

 『何』をすれば『こう』なるっつんだよぉ~~~~~ッ?

 おれの鼻は正確無比。しかし嗅ぎつけた匂いに対して、それをどう理解するのかは別問題だ。漂ってきた匂いは間違いなく瀬呂のものだが、しかしさっき面と向かって会った瀬呂とはまるで違う感じの匂い方をしているッ!

 

 で、でかいッ(・ ・・・・)! 広い(・・・)んだ、瀬呂の匂いがッ!!

 

 とても人間のものとは思えない面積から瀬呂の匂いが漂ってくる!!

 何だ、奴は成長期か? たった数分会わなかっただけで、巨人になったっつーのかッ!?

 まさかおれが勘違いしているだけで、奴の個性は『巨大化』の類だったのか? 世間には巨人化するプロヒーローだっている。瀬呂もそいつらと同じ個性だったのか!? いや、あるいは切島が他人を巨大化させる個性をッ!?

 

 バカなッ! ありえねーッ!!

奴らの個性は、相澤の個性把握テストの時に見ている! 瀬呂は『テープ』ッ! 切島は『硬化』ッ! これは間違いようのねー事実のハズなんだッ!!

 

 だが現に、この曲がり角の先から来る匂いは、明らかに人一人の体から出る量じゃねー!

 ()この先で(・・・・)ッ! 瀬呂は一体どうな(・・・・・・・・)ちま(・・)てるんだ(・・・・)ッ!!!

 

 

 

「―――ハッ!」

 

 気づいた時、おれの右手は思わずアゴを撫でていた。

 知っているぜこのサイン! 前世で対決したあのクソヤローがのたまいやがった、おれが『恐怖』しているサインだ!! おれは今、はじめて出会う未知の匂い方にビビっちまってるってのか――――――――ッ。

 

「クソがッ! ナメてんじゃあね――――――ぞッ!!」

 

 上等だぜぇ――――――ッ!!

この先に何が待っているか分からねーが、この噴上裕也とハイウェイ・スターに切り抜けられぬものなど何もない!! 無敵のハイウェイ・スターが打ち勝てぬものなどこの世にはありはしねーッ!! どんなに大きな手でも流れる水を掴むことは出来ないのと同じぐらい、これは確実なことなのだぁ――――――ッ!!!

 

 行くぜ!! 進むぜおれはッ、この先をッ!! 何があろうとも勝利するためになぁ――――!!!

 

 おれは口の中にたまった唾を一気に飲み干し、曲がり角を飛び出した。

 そしておれが、匂いのする方を見たおれが、見たものは――――――………

 

 

 

「な、何イィィィィィ――――――ッ!!! こッ、これはッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「や、『矢印』!! 『道標』だ、壁中にびっしりと!! 徹底的なほどに『道標』がしるされているッ!!!」

 

 曲がり角の先に伸びている通路、その左右の壁におびただしいほどの『道標』が張りついているッ! 明かりの乏しい薄暗い通路の先へと、数十はくだらねー数の『道標』が一様に導こうとしているじゃあねーかッ!!

 

 『道標』はどれも白っぽく、よく見るとほんのちょっぴり透明感のある素材で、ペンキかなんかみてーな塗料じゃねーのが分かった。

 そして何より、無数にある『道標』からはどれも同じ匂いがする。

 

「瀬呂……瀬呂だぜ! 間違いねー、こいつは瀬呂のヤツと同じ匂いがするッ!!」

 

 どうやらこの『道標』はすべて、瀬呂が個性の『テープ』を貼り合わせて作ったもののようだ。奴らがビルに入ってからおれが入ってくるまでの間に準備したに違いねー。

 そして今なら、なぜ奴がこんな手間のかかる事をしたのかも分かるッ!

 

「に、匂いだッ。通路すべてが、瀬呂の匂いで満たされてしまっているッ!」

 

 『テープ』は瀬呂の体から出る、瀬呂の体で作られたものだ。つまり当然、切り離されたテープも奴の匂いを放っている。

 それがこんだけ徹底的に貼り付けられたら、通路の壁を埋め尽くされちまったらッ、その中に『瀬呂本人』がいたら奴を嗅ぎ分けることができねーじゃねーかッ!!!

 

「……考えたな、瀬呂範太。これがおめーのハイウェイ・スター封じってワケだ」

 

 このおれのハイウェイ・スターは、匂いを頼りに追跡する。

 つまり屋内を匂いで満たしてその中に潜んじまえば、ハイウェイ・スターの遠隔自動操縦では追えなくなる。ハイウェイ・スターの最大の強み、時速60kmで突っ走る『足形』の追撃が使えなくなってしまうッ!!

 

 体から生成物を大量に作り出すことができる、瀬呂だからこそできる対策ってワケだ!

 

「……だがよーッ、てめーにはもう一人ツルんでる奴がいるってことを忘れてねーか?」

 

 それとも『自分さえ良ければいい』っつー敵の精神まで演じてるつもりかよ、瀬呂範太。

 おめーを追うことができねーっつーんなら! もう一人を追うだけなんだぜぇ――――ッ!!

 

 

 

「走れハイウェイ・スター!! 切島鋭児郎を追跡しろ!!!」

 

 

 

 火が吹き出すような音を立て、おれの足元に無数の『足形』が出現する。

 おれのスタンド、否、個性『ハイウェイ・スター』!! 時速60kmで標的を追跡し、その体に取りついて養分を奪い取るおれの分身!!!

 厚みのある足跡みてーな形をした今のこいつは遠隔自動操縦型、設定された条件に従って徹底的に標的を追い詰め、取りつくまで諦めることはないッ!!

 

 その条件とは匂い!!

 この噴上裕也が嗅いで覚えた匂いを元に、ハイウェイ・スターは追撃する!!

 切島の匂いは、ついさっきまで面と向かって話していたからバッチリ覚えているッ! 奴を特定するなんてワケねーことだぜ!!

 

「……落ち着いて嗅ぎ分ければ、広げられた瀬呂の匂いにも限界があるのが分かるぜ~~~~ッ」

 

 考えてみれば当然だ。

 敵チームである奴らがセッティングのために与えられた時間は五分、人数で勝るおれたちへのハンディキャップとしてトオルたちが裏手に回る時間を加味したとしても十分前後にしかならねーハズだ。

 その短時間で、屋内全部にテープを貼り巡らせるのは無理がある。

 

 分かるッ! 分かるぜ、この通路の先、一本道の先に一際大きな『瀬呂の匂い』があるッ! その中には切島の匂いもあるぞッ!!

 

 十中八九、確保目標である核兵器がある部屋だ。その部屋にもテープを貼り巡らせ、護衛として切島を配備させているに違いない!!

 どうやらテープを貼りめぐらせるのは、1階の一区画が限界だったみてーだな。瀬呂の匂いを誤魔化しつつ核兵器を守るには、それを1階の一番奥まった部屋に置いて陣取るのが精一杯だったと見た!

 だが同じ1階じゃあよぉ、おれのハイウェイ・スターが、最短距離で切島のもとまで突っ走っちまうぜ!!

 

 走り出したハイウェイ・スターは通路は抜けた!

 

 部屋にも入った! 切島は目前だッ!

 

 あと5メートル足らず!

 

 1メートルをきった!

 

 触れたぜ!

 

 

 

「――捉えた!! 養分をいただくぜ、切島ぁ~~~~ッ!!」

 

 

 

 嗅ぎ分けた切島の匂いと、分身として位置取りが分かるハイウェイ・スターの座標が重なった!!

 ツメがあまかったな、瀬呂、切島! これで一人ダウンだぜぇ~~~~ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイウェイ・スターというスタンドは、元々はおれの生存本能が生み出したスタンドだ。

 交通事故で生死の境をさまよった前世のおれ。そんなおれは、スタンドを人為的に生み出す力を持った連中の手により、スタンドを手に入れた。

 

 スタンドの能力は本体の精神によって形作られる。

 生きるか死ぬかの瀬戸際だったおれが手に入れたのは、他人から養分を吸い取って自分を回復させる能力を持つスタンド。ご丁寧に、事故を予防するために取り決められた制限速度を守って動き回るスタンドだった。

 

 自分が生き延びるために必要な力だ。当然、相当に強力な能力になったと思うぜ。

 

 ハイウェイ・スターは決してあきらめることなく標的を追い詰め、たとえ攻撃を受けたとしてもおれにダメージがかえってくることはない。コイツ自身の攻撃力は低いっつー欠点はあるが、それも生物相手だったら養分吸収の能力でカバーできる。この能力に目覚めたおかげか、やたらと鼻も利くようになったしな。

 

 おれはこのハイウェイ・スターという能力を信頼しているし、絶対の自信を持っていた。

 

 それは生まれ変わり、スタンドから個性に変わった今でもそれは変わらない。

 発動条件を満たしたハイウェイ・スターは何者にも負けることはない。おれはそう確信していたんだ――――――――――…………

 

 

 

 

 

「何ッ! バカなッ、何故だ!!」

 

 ありえねーことが起きているぜ!

ハイウェイ・スターは切島の匂いを捕捉し、今、確実にその体に取りついた!! ヤローの全身に張りついた『足形』はッ、その養分を吸い取るハズなんだッ!!

 なのに何故ッ、

 

 

 

「どうして! 養分が送られてこねーんだよおぉ――――――ッ!!!?」

 

 

 

 ハイウェイ・スターは生物相手に絶対的有利を誇る能力!

 標的を追い詰め、倒れて動けなくなるまでその養分を吸いつくす!! その結果は、捕らえたのなら絶対に避けることが出来ねー決まった未来のハズなんだ!!

 

 しかし今、実際に!!

 切島に取りついたハイウェイ・スターから養分が送られてこない!!

 何かあるッ!! おれが把握していない何かが、切島とハイウェイ・スターのあいだで起きているのは間違いねーッ!!!

 

「いったい何が……」

 

 おれは、『道標』で満たされた通路へと踏み出した。

 確かめる必要がある。ハイウェイ・スターが一体何をされているのか、確認しなければならないッ!! 何故ならハイウェイ・スターはおれの精神の形! 形になったおれの心が誰に何をされているのか、それを知らずに済ませるなんてことは出来ないッ!!

 だからおれは『道標』に舗装された通路の先、切島のいる部屋へ向かおうとして、

 

 

 

「いっただきぃ――――――――――ッ!!!」

「何ィ!!?」

 

 

 

 意外! それは天井!!

 腕から伸ばしたテープを使い、振り子かターザンロープみてーな動きで背後から迫る瀬呂が、おれの体を蹴り飛ばすッ!!

 

「あぐぎゃッ!!」

 

 強烈! 前世でおれをブッ飛ばしてくれやがった仗助のクレイジーダイヤモンドほどではねーが、なかなかの威力だぜ!! 遠心力ってヤツか? いや、それだけじゃねー、瀬呂自体の鍛えられた肉体がパワーを発揮しているのだと、くらったおれにはわかる!

 

 しかもコイツ、天井から降ってきやがった!

 『テープ』の個性を使い、天井に張りついてやがったのか! 匂いが通路を満たしているせいで、本来なら気付けたはずの奇襲に気付けなかった!

 

「瀬呂ッ! てめー!!」

「へっ、油断大敵だぜ噴上クンッ! あんま気ぃ抜いてっと、そのステキなお顔を擦り剥いちまうんじゃーねーかぁ!?」

「ンだとコラァッ!」

 

 このヤローッ! 言うに事欠いてこのおれの顔にッ、傷をつけると宣言しやがったなぁ~~~~ッ!! それだけは許ねーぞッ、貴様ぁ――――――ッ!!

 そのご立派な前歯ッ、へし折ってやらぁ!!

 

「残念、トロいぜッ!!」

 

 しかし瀬呂の奴はすばしっこい! そりゃスタンドみてーに速ぇーパンチは出せねーけどよー、暴走族で鳴らしたこのおれの拳がかすりもしねーッ!!

 しかも瀬呂はバックステップでおれから距離をとり、そのまま走り出した!

 

「逃げる気か! 瀬呂ぉ――――――!!」

「そう思うなら捕まえてごらんなさ――――――いッ」

 

 野郎、ナメやがって!

 このおれに向かってその言葉を投げかけていいのは、トオルをはじめとするカワイ子ちゃんたちだけだぜ!! もっと言うなら、サンサンと輝く青空の下、さざ波が打ち寄せる浜辺で手を振りながら言ってくれるとグッドだ!!

 

「待ちやがれッ、クラァ――――!」

 

 

 

 『道標』まみれの通路を瀬呂は走り抜け、おれもまたその後を追っていく。

 っつーことはアレよ。この先には核兵器と切島がいると思しき、一際おおきな瀬呂の匂いがする部屋があるんじゃーねーか!? こいつ、自分たちが守んなきゃなんねーモンがあるところにおれを誘い込んで、どういうつもりだ!?

 

 だがこれは、かえって好都合かも知れねーぜ。

 核兵器があるかどうかはともかく、少なくともこの先には切島と、切島に取りついたハズのハイウェイ・スターがいる!! どうして標的を捉えたハズのハイウェイ・スターが養分を送ってこねーのか、その謎を解明するのも悪くねーッ!

 

 ノッてやるぜ瀬呂、てめーの誘いになァ――――!

 

 そうしておれは瀬呂を追いかけ、『道標』の合間を駆け抜けた。

 元々瀬呂たちが数分で『道標』を貼り終える範囲だ、いくらもしねーでおれは通路を抜け、その先にある部屋へとたどり着く。すれ違い様に見えた部屋の入口には、『会議室』っつープレートが張られていたのがチラッと見えた。

 

 そこはまさに、会議室って呼ぶのにふさわしい、バカデケー部屋だった。

 幅も広いが奥行はもっとずっとある、長方形の一室だ。窓は無く、元々は部屋の真ん中に並べられてたんだろう長机と椅子が、脇の方で山のように積み重ねられている。

 目を引くのは、壁っつー壁に張られたテープだ。通り抜けてきた通路の『道標』とは違い、一つながりのテープが網目を描くように貼り付けられてやがる。当然匂いもムンムン、部屋全体が瀬呂の匂いで満ちていて、鼻では部屋と瀬呂の区別がつきそーにねぇ。

 

 そしてやっぱり、部屋のど真ん中には核兵器があった。

 古いアニメにでてきそーな、いかにも『ミサイル』って感じのデザインだ。ハリボテっつー説明だったが、随分デカいハリボテ作ったな。おれらの背丈の倍ぐれーあるぞ。

 

 確保すればおれたちの勝利になる、そのデカブツを前にしたおれ。だがそれとの間には、あるべきモノがなく、無くてもいいモノがあった。

 

 

 

 あるべきモノとは切島。奴の姿がどこにもねー。

 無くてもいいモノとは瓦礫の山。核兵器の前に、人一人分ぐらいの大きさで積もっている。

 

 

 

 瓦礫は、どうやら壁をブチ壊したものらしい。見渡すと、やたら入念にテープを貼りつけた一角があるぜ。テープの隙間があるのか、ほんのちょっぴり空気が流れているのが嗅ぎ取れる。

 しかし何だアレ。バリケードのつもりか? それにしちゃ小せぇ。あんなんじゃカンタンに迂回できちまうぜ。

 一体何のために、わざわざあんなモノを……、

 

「――ハッ!!」

 

 いや待て、違うぞッ! おかしい、そういうコトじゃぁねーんだ、コレは!!

 おれが考えなきゃーいけねーコトはッ!! 『なんでこんなところに瓦礫が積もってるのか』なんてスットロいことじゃぁーねぇ――――ッ!!

 

 

 

 『なんで瓦礫の山にハイウェイ・スターが取りついているのか』っつーコトだったんだッ!!!

 

 

 

「まッ、まさかッ! あの瓦礫の山はッ!!」

「……そういうコトだぜ、噴上ィ――――――――――ッ!!!」

 

 その瞬間、瓦礫の山の陰にいた瀬呂がおれに向かってテープを放つッ!

 それはまるで、丸々としたネズミを見つけて躍りかかる白蛇のような鋭さッ! 風を切る音が聞こえそうなほどのスピードでそれはおれの腕に貼りつき、すげーパワーで引き寄せる!!

 

「う、うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ―――――――――ッ!!!」

 

 マ、マズいッ! すげーマズいぞッ! 瓦礫の山へ、みるみる間に近寄ってしまう! あの瓦礫の山に近寄るのは、すっげーマズいことだって確信がおれにはある!!

 何故って、単なる瓦礫の山は、ゴリゴリと音を鳴らしながら動き出したりはしねーからだッ!!

 

「き、貴様ッ、入っているな(・ ・・・・)ッ! 切島ァ――――――ッ!!!」

「そういうコトだぜッ! 噴上ィ――――――――――ッ!!!」

 

 動き出した瓦礫の山はまさに人型ッ!!

 切島の声を中から響かせたそれは、引きずり寄せられるおれを真っ向からぶん殴った!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐあァ――――――――――ッ!!」

 

 とっさに腕でかばう程度じゃどうしようもねー、圧倒的なパワーが叩き付けられる!

 重厚な瓦礫の硬さと重さ、何よりそれをまとったまま動ける切島の腕力をモロにくらい、その威力のままに吹っ飛ばされるッ! 腕にくっついていたテープは一瞬にして引っぺがされちまった、それぐらいのパワーだったんだッ!!

 

 着てるもんがただの学ランじゃなくてよかったぜッ。見た目は前世で着ていたまんまでも、雄英専属のサポート会社が作り上げたこいつは段違いの頑丈さを持っている。これがなかったら、ちょっぴり擦り剥く程度じゃ済まねー傷を負っていたッ!!

 

 出来る限り精一杯の受け身をとって転がったおれは、それでも抑えきれなかったダメージを全身に感じながら身を起こす。

 

 そのおれを、奴らは見下ろしているッ!

 勢いよく釣り上げた魚が陸に打ち付けられ、しかしまだパクパクとエラをヒクつかせている様子を見て、『あら、まだ生きてるのね』って感じで見下ろしているようなッ! そんな残酷な眼差しをおれに向けているッ!!

 

「て、てめーら……ッ、ゲフッ!」

「まだ立ち上がれるのか、噴上ッ! いいぜお前、漢らしいぜ!」

「バカッ、んなこと言ってる場合か! 早く仕留めねーとマズいだろーが!」

 

 這いつくばったおれに、奴らはゆっくりと近づいてきた。瀬呂と瓦礫の山、いや、瓦礫を全身にくっつけた切島のヤローがなぁ……ッ!

 

 よく見りゃ瓦礫の隙間からは瀬呂のテープが覗いている。どうやら硬化した全身にテープを巻き付け、その接着面に砕いた壁の破片をくっつけているらしい。その一個一個が結構な重さを持つコンクリートの塊のはずなのに、切島はニブい動きだがしっかりと歩いてきやがるッ!

 

「そ、それがッ、切島の方のハイウェイ・スター対策っつーコトかよ……っ!」

「そゆこと。お前らの中で一番厄介そうな噴上をまず抑えようって話になってな。お前のハイウェイ・スター、無機物越しには養分吸収できねーんだろ?」

「お前が自分の目で見ねーとハイウェイ・スターの細かい状況がつかめねーってことも分かってたからな。俺が囮になって引き付けさせてもらったぜ」

「…………ッ!!」

 

 こ、こいつら、考えてやがる! アホっぽい面ぶら下げてるクセに、バッチリと!

 

 瀬呂の個性によってハイウェイ・スターの標的を限定させッ! 囮にした切島は全身を分厚い瓦礫で覆うことにより養分吸収を回避するッ!!

 通路やこの部屋にテープを貼り巡らせたのも、ただ単に匂いを充満させるためだけじゃねー! 切島にテープを巻き付けることで、奴から瀬呂の匂いがするっつー違和感を誤魔化すためだったんだッ!

 

 『カモフラージュ』でもあったのだ、これまでの全ては!! ハイウェイ・スターを封殺しておれをブッ潰すための、作戦だったのだぁ――――――――――ッ!!!

 

 み、見くびっていた!!

 勘違いしていたんだ、おれはッ!!

 自分には前世の記憶があるとかスタンド能力があるとか、その程度のちっぽけなことで他のヤツよりも有利になっているとか、そんな傲慢さに気付きもしねーでここに立っていたッ!

 

 杜王町にはこんな奴らはいなかった!!

 『部屋中を自分の匂いで満たす奴』もッ!! 『全身に瓦礫をくっつながら動ける奴』もッ!! おれの前世には存在していなかった!! スタンド能力がないなんてコトが、こいつらが大したことないってコトの証明にはならなかったんだ――――ッ!!

 

 

 

「うおおおぉぉハイウェイ・スターッ!! 瀬呂範太を攻撃しろォ――――――ッ!!」

 

 

 

 だがまだだッ! まだ終わらねーッ!

 自分の目で見える状態なら、おれが直接操作してハイウェイ・スターで攻撃できる! 切島の表面で分散している足形のハイウェイ・スターを人型に合体させ、瀬呂のヤツをぶっ飛ばす!!

 

「おっと危ねー」

 

 しかし瀬呂は一歩引いて簡単に避けちまう。

 ダメだ、ただでさえ直接攻撃では劣るハイウェイ・スターに、切島の一撃を受けてグロッキー入った今のおれでは、攻撃が予想できているヤツに拳を命中させることもできない!

 

「諦めねーのも良い感じだぜ。だがこれも漢同士の勝負、情けはかけねーッ!」

 

 そして、身につけた瓦礫からハイウェイ・スターを生やす切島が、拳を振り上げる。

 おれにトドメを刺すために! 今度こそおれを行動不能にするためにッ!

 

「終わりだぜッ!! 噴上ィ――――――――ッ!!!」

 

 切島の拳がッ! 瓦礫をまとった拳が降ってくる!!

 このおれのカッコよくて美しい顔を鼻から床に叩き付けようと、風を切って一撃がやってくる!!

 

 クソッ、ダメだ、避けられねー!!

すまねートオル、ツユちゃん。このおれが足を引っ張っちまうなんて――――――……ッ!

 

 

 

「――大丈夫よ」

 

 

 

「!!!!」

「何ッ!」

 

 切島の拳に、何か細長いものが巻き付いた! ちょっぴり湿ったそれは、しかしぶっとい腕をそらすほどの力を発揮し、切島の攻撃を横に逸らしたッ!!

 そしておれの体を何かがかっさらうッ。

 姿はない。だがそれは見えねーだけだッ! おれの体を抱えて危機から逃してくれたそいつの匂いを、おれは良く知っているじゃあないかッ!!

 

「ト、トオル!!」

「裕ちゃん、大丈夫ッ!?」

 

 き、来てくれたのかッ、このタイミングで!!

 拳がドタマに叩き付けられる直前の、ギリギリのタイミングで!!

 

「クソッ、合流させちまった!」

 

 大きく間合いをあけたおれたちに、瀬呂の焦る声が投げつけられる。奴は腕を構えてテープを発射しようとするが、しかし俊敏な動きをする『何か』がそれを蹴っ飛ばし、阻止する!

 

 俊敏な『何か』は、切島の腕を逸らさせた細長いものの出どころでもあった。

 瀬呂を蹴った弾みを利用して跳んだ『何か』は、切島の腕に巻き付けていた細長いものを解いて口の中に収納する。そう、その細長いものとは舌だったのだッ!

 

 そして『何か』は、おれたちの前に着地した。

 そいつが何であるか、おれは知っている。『何か』だなんて呼ぶべきじゃねーってことも知っている!!

 艶やかな黒い髪を揺らし、おれよりもずっと小柄な体で瀬呂や切島を阻むその後ろ姿を、おれは知っているんだ!!!

 ――助けてくれたのかッ!!

 

「ツユちゃんッ!!!」

「ケロッ」

 

 一瞬だけおれたちに振り向いた彼女は、しかしまたすぐに瀬呂たちの方へと向き直るッ! それは立ち向かうべき相手から目をそらさないためだ!!

 相手を向いて立つその背中はッ! おれに向かって無言の言葉を投げかけている!

 『さぁ立ち上がれ』という、揺らぐことのねー信頼に満ちた後ろ姿!! まるで形のない手を差し伸べられているような思いがして、おれの体に力が湧いてくる!!

 

 まだやれる! まんまと罠にハマっちまったおれだが、まだやれる!!

 女たちが傍に来てくれた今のおれなら、何度だって立ち上がれるぜぇ――――――!!

 

 

 

「勝ちましょう。――大丈夫、裕ちゃんにはチームメイト(私たち)がついてるわ」

 




今回からハイウェイ・スターの能力について、独自解釈が入ってきます。


①標的の匂いが充満していた場合、遠隔自動操縦のハイウェイ・スターは標的本体を特定できるのか?
②相手が養分吸収の妨げになるほど分厚い外装を身につけていた場合、ハイウェイ・スターは外装と本体の合間に瞬間移動できるのか?

本作ではこのいずれもが『できない』ものと仮定して描写しております。この意見はあくまで拙作内での設定ですので、あしからず。



ヒロアカ側の能力も頭をひねればスタンド能力に対抗できるんだよ、ってしたかった今回です。
まぁ行動にルールがあるハイウェイ・スターは対処しやすい方で、純粋なパワー押しや輪をかけて特殊な能力を持つスタンドへの対処は難しいでしょうが。

次回は戦闘訓練編後半。この戦いに決着をつける予定です。




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