噴上裕也の果てしなくカッコよく美しいアカデミアライフ   作:己道丸

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JコンビvsHトリオ その③

 かぐわしい匂いがおれを包み込んでいた。

 例えるならそれは、風に乗って舞い降りたアルプスの野原に咲く一輪の花の香り。あるいは、清らかな水と陽の光だけで育った温室のバラが花開いた瞬間に放った芳香。そんな感じの、透き通るような香りの中にも自然の活力を感じる匂いだ。

 

 ……つまり何が言いたいかというと、まさにトオルだぜって思わせる、最高にイカした匂いってことだぜぇ~~~~ッ!

 

「トオル、もっと抱き寄せてくれねーか……?」

「え、ちょっとヤダ裕ちゃん、こんな人前で、ダメだよぉ……っ」

 

 トオルのヤツ、透明人間って個性を活かすために相変わらずの全裸だからよぉ、匂いが服に阻まれねーでダイレクトに香るから、こうして抱かれてるとめっちゃクるんだよなぁ……。

 

「……あんまり悠長にしてられないわよ、二人とも」

 

 だがいつまでもそうしてるワケにゃいかねーか。じゃねーと、ヤローどもから庇ってくれてるツユちゃんに申し訳が立たねーからよ――――ッ。

 

「二人揃うと相変わらずだな、おめーらはよ」

「おれらそっちのけかよ! 今どこにいるのか分かってんのか!?」

 

 お、何だ羨ましーか、ヤローども。だが残念だったな、トオルはおれだけの女だぜ。

 

 こっちに背を向けておれたちを庇うツユちゃん。その向こうで、瀬呂と全身瓦礫まみれの切島が睨みを利かせてくる構図だ。

 奴らと勝敗を競うこの対人戦闘訓練、おれたちが勝つには瀬呂たちをブッ倒すか、奴らの背後にある核兵器(って設定のハリボテだ)を確保しなきゃなんねーワケだが。

 しかし奴らの作戦に乗っかっておれが突っ込んじまったせいで、トオルたちの足並みが崩れちまった。ノックアウトされかけたおれの為に駆けつけてくれたのは嬉しーけどよぉ、さすがにこのままだと瀬呂たちに押し切られちまうかもな。

 

 こうなると、仕方ねーか。

 

「一度退きましょう」

「う、うんっ」

「それしかねーよなぁ~~~~ッ」

 

 ツユちゃんの判断は妥当ってヤツだぜ。

 

「あっ、オメー!」

 

 てめーのパンチは効いたぜ、切島ぁ~~~~ッ。だが残念だったな、女どもが傍にいてくれるんならおれは何度だって立ち上がれるぜ、不死鳥のようになぁ!

 

 入り口に向かって駆け出すおれとトオル。それを見たツユちゃんは一跳びでおれたちを追い越し、一足先に出入り口へと向かっていく。

 さすが個性『カエル』、跳躍力に関しちゃ及びもつかねーって事かッ。

 

「待ちやがれっ」

「ハイウェイ・スターッ!!」

 

 なので、しんがりはおれだ。

 おれにダメージがかえってこないハイウェイ・スターで瀬呂のテープを受け止め、女どもを部屋から逃がす。ま、素早いツユちゃんより姿が見えねートオルより、おれの方が的になりやすいってだけだがよォ~~~~ッ。

 しかもハイウェイ・スターはダメージを受けてもおれに返ってこねーからな。瀬呂のテープだって、いったん引っ込めちまえば拘束から逃げられるって寸法よぉ。

 

「――くそっ」

 

 んで切島は瓦礫が重しになって今は走れねぇ。ハイウェイ・スター対策も良し悪しだな。

 そうしておれも部屋から飛び出し、入り口の折り返したところに身を潜めるトオルたちに合流した。

 

「……セーフッ」

「大丈夫、裕ちゃんっ?」

「おう、ヘーキヘーキ」

 

 おれが跳びついたのは、入り口の向かって左側の壁。反対の右側にトオルとツユちゃんがいる。

 切島どもは、おれたちがそのまま離れていったと思ったかどうだか知らねーが、追ってくる足音はしねー。まぁフツーに考えりゃ、奴らがワザワザ深追いする必要もねーしな。

 

「……これで状況は対等になったわね」

 

 一息ついたツユちゃんの呟きだ。

 おうおう、優しいねぇ~~ッ。一人でやつらに突っ込んじまったおれのことを責めねーワケだ。おれがハナッからツユちゃんたちを探してりゃ、またちょっぴり状況は違っただろうによォ――――ッ。

 だが、お情けにすがってポカを流すおれじゃねーぜ。

 

「――悪ぃ、二人とも。一人でつっこんじまった」

 

 女どもの優しさは嬉しーけどよぉ、だからってそれに甘えんのはカッコわりーことだぜ。励ましってのは応えるもんだ。自分のやった事を正当化する理由付けにはしねー。

 

「裕ちゃん……」

「……ケロッ」

「だが、おめーらがいてくれるおれなら、大丈夫だ。おめーらが傍にいてくれんならよー、おれは必ず奴らから勝利をもぎ取る、『カッコいいおれ』になんのよ」

 

 情けねーところは見せちまったがよー、でも頼りねーところは見せねー。おめーらがいてこそのおれだからよー、おめーらが寄ってきてくれる姿は絶対に崩さねーッ!

 それが、カッコよくて美しいこの噴上裕也の生き様よォ――――――――――ッ!!

 

 

 

「――おれの傍にいてくれねーか? おれを、お前らの『カッコいい裕ちゃん』にしてくれや」

 

 

 

「うんっ! 私が裕ちゃんから離れるなんて事、ないんだからっ!」

「ええ、やりましょう。切島ちゃんたちに勝つのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とは言ったけど、どうやって勝てばいいのかしら」

 

 快くおれに応えてくれたツユちゃんだったが、困ったような声をもらした。相変わらずの、口元に指を添えるクセまでついてくるんだから、結構マジで悩んでんな。

 そんな様子を見たトオルが勢いよく手を上げた。

 

「ハイッ! 私がこっそり忍び込んで、二人をすり抜けて核兵器をゲットしてくるのは?」

「そいつぁ名案だがよぉ、今はちょっとばかり難しいかもなぁ~~~~ッ」

「え? 何で?」

「……部屋の床を見てみろよトオル。こっそりとなぁ」

 

 トオルの匂いが少しだけ動いた。切島どものいる部屋に通じる入り口を、おそるおそる覗き込んでいるのがおれには分かる。緊張でちょっぴり汗の匂いが強くなったし、匂いの元の形で位置と姿勢が読み取れるからなぁ。

 そしておれの言う通りに部屋を観察したトオルは、ハッと動きでおれに振り向き、

 

「ゆ、床っ! 床全体に、チリや破片が散らばってる!」

「おそらく、切島が身につける瓦礫を作る時に出た細かな破片をばらまきやがったのさ。トオル対策になぁ」

 

 あの微細なチリの上を歩いたら、通ったあとには足跡が残っちまう。そうでなくとも大き目の破片は、素足で歩くトオルにとってはニンジャが使うマキビシみてーに効果バツグンだろーぜ。

 

「っちゅーわけでトオル、靴履いとけ。居場所がバレちまうんじゃ全裸の意味がねー。おめーの香り高い足裏に血の匂いが混じんのはカンベンだぜ、おれはよぉ」

「う、うん……って私の足、そんな匂わないもんっ!」

「落ち着いて、葉隠ちゃん。今は裕ちゃんの言う通りにしましょう」

 

 プンプンって具合にアドレナリン匂わすトオルを、ツユちゃんはなだめてくれた。

 手の平をトオルの方に向けて『まぁまぁ』ってやる彼女は、それからおれの方に向き直り、

 

「でも、どうしましょうか。やっぱり、戦闘は避けられないわね」

「……やんなら瀬呂の方だな。切島は瓦礫で武装してるし、それを抜いても『硬化』の個性がある。ぶっ倒すにゃ時間が足りねーぜ」

「でも、どちらかに戦力を集中させても押し切られちゃうわ。切島ちゃんの防御を越えられないように、瀬呂ちゃんも素早いもの」

 

 そう言ったツユちゃんはちょっと目を伏せてから、

 

「真っ向から追いつけるのは、多分私だけね」

「ああ、おれ本体とトオルの身体能力はあくまで無個性並み。ハイウェイ・スターも瀬呂を標的にできないんじゃ、追いつけねー」

「梅雨ちゃんに瀬呂君の足止めしてもらってる間に、私と裕ちゃんの二人がかりで核兵器に向かっちゃうとか?」

「……いや、それだと瀬呂がツユちゃん無視しておれたちを追ってくるな。奴のテープは射程が広い上、両腕から出せるから一度に二人を相手にできる。やっぱり、瀬呂をブッ倒さねーと突破できねーだろーぜ」

「すばしっこい瀬呂君に追いつけて、しかもすぐにノックアウトできる攻撃をしなきゃいけない……。そんなの、やっぱり裕ちゃんのハイウェイ・スターがないと無理だよぉ!」

「……ケロッ」

 

 手足をバタバタ振ってわめくトオル。だがその横で、ツユちゃんがおもむろに手を上げた。

 

「……匂いが分かれば、狙えるのよね?」

「考えがあんのか、ツユちゃん」

 

 おれが目を向けると、彼女はコクリと頷いた。

 

「ええ。……でも、それには少しだけ、瀬呂ちゃんに止まっていてもらわなきゃダメだわ」

「じゃあ簡単だ。そっちはおれに任せとけ」

 

 要するに瀬呂の奴を足止めすりゃいいってことだろ? それだけだったら、おれにも出来るぜ。

 だからよぉ、

 

「――聞かせてくれツユちゃん。瀬呂の奴をブッ倒す、その作戦をよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どーする瀬呂。あいつら、全然動かねーぞ」

「いいんじゃねーの? 持久戦だったらこっちが有利なんだし、このまま釘付けでもよ」

 

 切島は瓦礫まみれで顔色が読めなかったが、それでも不満そうなのが瀬呂には分かった。

 まだ短い付き合いだが、分かりやすい性格をしている奴だからだ。この竹を割ったような性格で付き合いやすいが、こういう場面になると説得しなければならないのがいささか面倒だと瀬呂は思う。

 

「時間切れ狙いなんて漢らしくねーよ! 正々堂々、真っ向から勝とうぜ!!」

「いーんだよ、それも俺たちの勝利条件って説明されただろ」

「けどよぉ……」

 

 なおも切島は抗弁を続けようとする。だから瀬呂は彼を説き伏せようとして、

 

「……!」

 

 前触れもなく、入り口の真ん前に現れた人影を見た。

 

「動いたぞッ! 切島ァ――――ッ!!」

 

 全身に網を巻き付けたような人型は、噴上が個性によって作り出す奴の分身だ。

 ハイウェイ・スター。

 車のライトみてーな両目がこちらを見据え、突撃してくる。

 

「おらぁッ!」

 

 だが遅い。瓦礫で補強された切島の拳が薙ぎ払った。

 さっきと同じだ。もう一つの形態である無数の足形だとかなりの速さになるが、人型の状態なら十分対抗できる速度でしかない。

 ただ厄介なのは、倒してもまるで手応えがないことだ。いまも切島の一撃を受けたハイウェイ・スターの体だったが、まるで突き崩された積み木のように分解し、攻撃をいなしてしまう。

 

 そしてそれに合わせて、出入り口に向こうに隠れた連中も動き出す。

 

 

 

「来たぞ切島ッ! 梅雨ちゃんと……葉隠が来ているッ!!」

 

 

 

 カエル並みの跳躍力でこちらへ向かってくる梅雨ちゃん。それと同時に、宙に浮いた手袋と靴が部屋の中に駆け込んできた。

 葉隠だ。

 どうやら床に撒いた葉隠対策のチリに気付き、全裸になってこっそり忍び込むのは諦めたらしい。まぁ身につける物は手足の先しかないので、焼け石に水な気もするのだが。

 その葉隠は、ハイウェイ・スターとやりあう切島へと向かっていた。

 

「そっち行ったぞッ、切島ッ!」

「おう、任せろ!!」

 

 ハイウェイ・スターの拳を真っ向から打ち破った切島は、そのまま腕を振り回し、全周に渡って無差別攻撃を繰り出す。

 

「うっひゃぁッ!」

 

 素っ頓狂な声とともに手袋と靴が床の上を滑る。どうやらスライディングでかわしたらしい。見えない代わりに武装もできない葉隠だ、相手の攻撃は回避するしかない。

 初撃を潰したことで葉隠の手袋と靴を見つけたらしい切島は、葉隠に向かって拳を構え、

 

「二人がかりでも俺は敗けねーぜ! かかってこいやぁ――――ッ!!」

 

 相変わらずの漢気で、葉隠とハイウェイ・スターに立ち向かう。

 だが瀬呂も、いつまでもそちらの方を見ていられない。自分には自分の敵がいるからだ。

 

「ま、俺に向かってくるんなら梅雨ちゃんだろーとは思ってたぜ」

「でしょうね」

 

 厚手の手袋で覆われた拳、カエルを模したフィンブーツを履く足。そして何より、口の中から発射される長い舌。繰り出される五つの攻撃を、瀬呂は両腕から放つテープで自らを吊り上げることでかわす。

 この個性によって立体的に俊敏な動きができる瀬呂は、自分に対抗するなら梅雨ちゃんしかいないと予想していた。

 事実、梅雨ちゃんはこちらへと向かってきた。

 しかし、

 

「おいおい梅雨ちゃん一人かよ!? 噴上の奴は何してんだ――ッ!?」

 

 一人足りない。

 梅雨ちゃんは自分へ、葉隠は切島へ向かった。奴の個性によって生み出された分身、ハイウェイ・スターもだ。

 だが本体である噴上の姿が、どちらにもない。

 どちらにも戦いを挑まないのだとすれば、考えられるのはただ一つ。

 

「核兵器狙いかよ、噴上!」

 

 瀬呂と梅雨ちゃん、切島と葉隠たち。二つの戦場の合間を縫って、黒い人影が走り抜ける。

 噴上裕也だ。

 

 どうやら自分たちの打倒ではなく、戦術的勝利である核兵器の確保を目指すことにしたらしい。

 だが瀬呂は、その役割を噴上が担ったことを意外に思っていた。

 対策を施されていたとはいえ、目を盗んで走るなら葉隠の方が適正があると思っていたし、何よりも噴上は女を囮にして目的を達成するような奴には見えなかったからだ。

 

 だが現に、噴上裕也はチームメイトの女たちを背にして核兵器へと走っている。

 瀬呂としては、それを潰さない理由はなかった。

 

「わりーな梅雨ちゃん、相手すんのはここまでだ!」

「あ……っ!」

 

 梅雨ちゃんが方向転換できない空中にいるタイミングを見計らい、瀬呂は天井に向けてテープを放つ。先端を床に張り付けて引き戻せば、瀬呂の体は撃ち出された矢のように宙を飛ぶ。

 またたく間に、噴上の背が眼前に迫る。

 

「うお……!」

 

 気づいた噴上が振り向こうとする。

 だが、もう遅い。

 

「くらえッ! 噴上ィ――――ッ!!!」

 

 走る噴上の脇に、遠心力を加えた瀬呂の回し蹴りが食らいつく――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がしゃしねーぜ、噴上! おれたちみたいに『囮』を使えば、核兵器まで抜け出せると思ったか!?」

 

 コスチュームでも殺しきれない蹴りの威力が、おれのハラワタを直撃した。

 溜め込んでいた息が無理やり押し出され、唾と一緒になって口からあふれ出す。強力な一撃だ。瀬呂のヤツ、遠心力を攻撃に乗せる動きに慣れてやがんな。

 ったくキツい一撃だ。マジで意識が遠のきそうになるぜ。

 だがよーッ!

 

「……逃げられねぇ? だからこそ良いんだぜ……それが良いんだぜ(・・・・・・・・)ッ!」

「何ッ!?」

「おっと、どこ行こうってんだ瀬呂ォ!」

 

 脇腹にめり込んだ奴の蹴り、抜かせはしねー!

 おれの腕、おれの腹筋、おれの全身全霊をかけてッ! てめーの足はおれが捕らえる!!

 

「お前、最初っからこのつもりでッ! オメー自身が『囮』のつもりでッ!!」

「切島の足が遅くなってるからよぉ、素早い分お前がおれたちの動きを全部抑えようとするのは分かってたぜぇ。最初に仕留めそこなったおれに、今度こそトドメをさそうとするだろうってこともなぁ~~~~ッ」

 

 だがよぉ、

 

「こんなマネ、女どもにはさせられねぇよなぁ。……だったらおれがやるぜ。おれが前に出ておめーを止められるなら、女どもが何ともならねーなら――」

「噴上裕也ァ――――――ッ!!」

「――おれは喜んで、てめーの一撃を受け止めるぜ」

 

 そして瀬呂にとっての敗北は動き出す。

 いつだって『敗け』は背後から忍び寄るんだぜ、瀬呂ォ。ゆっくりと、頬と首筋を撫でまわすようにして、『敗け』は敗北者を抱きしめるんだッ!

 

「お疲れ様、裕ちゃん。作戦成功よ」

「つ、梅雨ちゃん!?」

 

 身動きを封じた瀬呂の背中にツユちゃんが跳びついた。

 その顔からは、そして袖をまくった腕からは、したたるような粘液を垂れながしている。当然そいつは、抱きついている瀬呂の全身に塗りつけられていた。

 

()これは(・・・)……ッ!?」

「私の毒性粘液よ、瀬呂ちゃん。大丈夫、そんなに強くないわ」

「いいんじゃねぇか、瀬呂ぉ~~ッ。水も滴る良い男ってヤツだなぁ、おれ程じゃねぇけどよぉ」

 

 動揺する瀬呂に、瀬呂に体液を塗りたくった蛙吹ちゃんが説明する。マジで優しーねぇ、大したことねー毒っつってたのに、ちゃんと話してやるとは。

 

「ど、毒……ッ!」

「ちょっとピリっとだけよ。動きを鈍らせることもできない。――でもね?」

「おー、分かる、分かるぜぇ、ツユちゃん」

「……!」

「嗅ぎ分けられるぜぇ、瀬呂をよぉ~~~~ッ!!」

 

 毒液に覆われた瀬呂の半身からよぉ、ツユちゃんの匂いがプンプンするぜ! 瀬呂のテープから奴の匂いがするように、ツユちゃんが出す粘液もツユちゃんの匂いがする! 瀬呂とツユちゃんの匂いのミックスブレンドだ、奴の匂いに満ちたこの部屋で、奴自身を浮き彫りになったぜ!!

 これなら、追える!!

 

 

 

「ハイウェイ・スター!!! 瀬呂範太を追撃しろ!!!」

 

 

 

「な、何イィ――――! てめえ、待ちやがれ噴上ッ!!」

 

 悪ぃな切島ぁ、ハイウェイ・スターの本当の狙いはこっちなんだぜ。

 人型のシルエットを崩し、足形の群れとなったハイウェイ・スターの速度は時速60km! いくら素早いっつってもよぉ、このおれが足にしがみついたまま、60km以上で動き回れるワケねーよなぁ――――ッ! 

 飛来するハイウェイ・スターを前に、ツユちゃんは瀬呂の背中から飛び退いた。

 

「ごめんなさいね、瀬呂ちゃん」

「……へへ、まいったぜ」

 

 まるで肩をすくめてウインクの一つもしそうな瀬呂に、おれは声をかけるしかなかった。

 

「おめーはスゲー奴だよ、瀬呂。負かされたことはあったけどよー、ここまで能力を封殺されたのは初めての経験だった。いやまったく、トオルたちが間に合わなかったらもうダメだってところまで来てたぜ」

「そりゃどーも」

「だがおれは乗り越える。おれを励ましてくれる女どもの力を借りて、おめーという壁を飛び越えていくぜ。……だからおめーはこの言葉を贈ってブッ飛ばす!!」

 

 群体となったハイウェイ・スターが瀬呂に連撃を叩き込む!!

 

 

 

PLUS ULTRA(プルス・ウルトラ)AAAAAAAAAA(アアアアアアアアアア)AAAAAAAAAA(アアアアアアアアアア)AAAAAAAAAA(アアアアアアアアア)AAAAAAAAAA(――――――――――――――)!!!!」

 

 

 

「がっぐおぉ――――――ッ!!」

「瀬呂ォ――!!」

 

 全身にハイウェイ・スターを叩き込まれた瀬呂が墜落する。

 数発分の蹴りに養分吸収を受けたんだ。速度のある乗り物に乗ってる訳でもねーし、逃げらんねーよなぁ。

 そんな瀬呂をかばうつもりなのか、瓦礫まみれの切島は動き出す。

 

「おれにその個性を向けてたのは、あくまでブラフってことかよ、噴上ィ!」

「自分を『囮』っつたのはおめーだろうがよ、切島ぁ~~ッ! そんでよぉ、おれや瀬呂のヤツにそんな気ぃ回してていいのかぁ?」

「何ッ!?」

「頭に血が上ると前が見えなくなる野郎だなぁ、おめーはよぉ。まあ目に頼ってる内は、横にいても……離れても気づかねーだろうけどよぉ」

「……あ!!」

 

 今頃気付いても遅いぜ。

 おれがハイウェイ・スターをてめーに差し向けたのは、瀬呂に対してのブラフだけじゃねーって事だぜ、切島ぁ。

 

 

 

『――そこまで(・・・・)ッ!!!』

 

 

 

 ビルの外から、拡声器越しのバカデケー声が響いた。

 オールマイトの声だ。

 

「Hトリオの核兵器確保を確認ッ! よってこの第3戦、ヒーローチーム・Hトリオの勝利だぁ――――――ッ!!!」

「……ッ!!」

 

 オールマイトの言葉に、まるで壊れたブリキの人形みてーな動きで切島は振り返る。

 その先にある核兵器……のハリボテ。その隣には、それをバンバンと叩き鳴らして『ここにいるぜッ』と切島に主張するトオルが立っている。

 

「油断大敵だよ、切島君ッ!」

「……おれが、瀬呂に気をとられた隙に……ッ!」

 

 透明人間の利点は『どこにいるか分からないこと』。それは『近づいてるのか分からない』ってことだけじゃねー、『近くにいると思ってたら遠のいていた』っつーことも含むってことよ。

 ハイウェイ・スターも含めた四人がかりでやっても、瓦礫をまとった上に硬化するてめーをブッ倒すのは骨が折れるからな。時間制限もあるし、わりーが機動力で追っかけてこられる瀬呂を潰すところまでで、おめーらとの対決はおしまいだぜ。

 倒れた瀬呂をハイウェイ・スターから解放しつつ、うなだれる切島におれは声をかけた。

 

「てめーらは相当粘ったぜ。頭も使った。もうダメかと思う時もあったぜ、マジでなぁ。実際おれ一人相手だったら勝ててたかも知れねぇ。だがよぉ……」

 

 おれは周りを見た。

 トオルがいて、ツユちゃんがいる、おれの周りをなぁ。

 

「女どもに囲まれたおれこそが『真実』ッ! こいつらと、こいつらに励まされるおれこそが、勝利にたどり着くってことだぜぇ――――ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カンパァ~~~~~~~~~~イッ!!」

 

 その日の終わり、陽もだいぶ傾いて赤みを帯びてきた頃だ。

 Hトリオと呼ばれていたおれたちは、雄英高校にほど近い街中で、缶ジュースをかかげてかち合わせていた。

 

「今日は戦闘訓練お疲れーッ! 勝って終われてよかったー!」

「世話かけちまったなぁ。このジュースはおれのおごりだ、飲んでくれや」

 

 自販機の隣にあるベンチにトオルとツユちゃんを座らせ、向かい合わせで立つおれは二人を見下ろす。レディーファーストってヤツだぜ。これでもうちょいベンチが広ければ、おれが二人のあいだに座って両手に花としゃれ込むんだけどよぉ~~~~ッ。

 

 だがトオルの隣にいるツユちゃんは、ちょっぴり浮かねー顔だった。

 

「……いいのかしら、下校中にこんな寄り道して。反省会の後で、少し遅くなっちゃったし」

「大丈夫だよ梅雨ちゃん! 帰りがけにお茶するぐらい、フツーだって!」

「そーそー、何かあったらおれが責任持つからよぉ~~ッ、ジュース一本ぐらい付き合ってくれよぉ」

 

 なんっつったってよぉ~~~~、

 

 

 

「これは戦勝祝い。もっと言やぁ、おめーらに感謝する会なんだぜぇ~~~~ッ?」

 

 

 

「……ケロッ」

 

 ツユちゃんは目をまん丸にして、いかにもびっくりしたぜッつー顔でおれを見た。缶を握る手にも力がこもり、ちょっぴり汗の匂いが強くなったのがおれには分かる。

 

 驚いた、いや、ほんの少し緊張してるっつーって感じか? 珍しーな、ツユちゃんが感情を匂わせるなんてよぉ。

 でもその緊張は、戦闘訓練で嗅ぎなれた『やってやるぜッ』っつー戦意のある緊張とは違う感じだ。もっとこう……そう、『これは欲しかったものかもしれない』って感じの、期待したり喜んだりする時の匂いが混じってるな。

 

 この感じ、ひょっとしてよぉ、

 

「あっ、梅雨ちゃん今照れてるでしょー」

 

 おれが口にするより早く、トオルが声を弾ませながら言った。

 

「……分かっちゃう?」

「分かるよーっ、梅雨ちゃん顔に出るの珍しーもん」

 

 ツユちゃんの頬を指先でプニプニとつつきながら笑うトオルからも、楽しんでるヤツだけが出す匂いがする。

 いいねぇ、いい匂いをさせてる女子が傍にいてくれるっつーのはよー、男冥利に尽きるっつーもんだよなぁ~~ッ!

 

「ナニ照れることあるっつーのよ? ツユちゃんはよー、おれの恩人なんだぜぇ」

 

 おれは膝をつき、ベンチに腰掛けたツユちゃんを真正面に見る。

 目線の高さを合わせるためだ。この気持ちを女に伝えるならよぉ、やっぱり見下ろしたまんまじゃカッコつかねぇよなぁ。

 

「――あんがとよ、ツユちゃん。マジで感謝してる」

「それは、戦闘訓練のこと?」

「そりゃモチロンそれもあるけどよ、それだけじゃねぇ。……もしおれがアッサリ勝ってたらよ、おれは切島どもやこの学校をナメてたっつーことに気付かねーまんまだったと思うのよ。スタ……いや、個性が強いからっつってよー」

 

 だがそいつはいけねぇ。やっちゃならねーことなんだよなぁ。

 何故ってそりゃよぉ、

 

 

 

「――そりゃカッコよくねーよなぁ。ああ、間違いなくカッコわるいことだぜ」

 

 

 

「裕ちゃん……」

「このおれがカッコわるいまんまでいるなんてよー、まったく許されることじゃーねーよなぁ。だからおれは切島にブッ飛ばされたことも受け入れるぜ。おれが目を覚ますのに必要だったんならなぁ~~~~ッ」

 

 そして、

 

「ブッ飛ばされて目ぇ覚めて、その上でヤローどもに勝てたのはツユちゃんのおかげだぜ。だからおれは感謝すンだぜ、ツユちゃん。おめーになぁ」

「えー裕ちゃん、私はぁ~~?」

「モチロンおめーもさトオルゥ~~~~~~ッ!! 助けてくれてあんがよぉ――――ッ!!」

「きゃーヤダ裕ちゃんくすぐったーい!」

 

 ハグして思いっきり頭撫でまわしてやると、黄色い声が腕の中で上がった。

 フフフ、分かってんだぜトオル。おめーが服を着てねーところ……手とか頭とかに触れられるのをちょっぴり嬉しく思ってるって事はよぉー。何故って、それがどこにあるか分かって、その上でちゃんとしたポジションに良い具合の力加減で触れられる奴は、トオルが『透明』でもちゃんと認識できる奴ってことだからなぁ~~~~ッ。

 このおれの鼻は、素肌を晒すトオルの腕の位置も、サラサラな髪の香りも、ちょっぴり熱を帯びた頬もしっかり嗅ぎ分けられるからよぉ、そんなのワケねーぜ。

 

「……もー、裕ちゃんだけなんだからね、こんな事できるの」

「――イヤか?」

「全然ッ! もっともっとーッ」

 

 よしよしよしよし、まったく可愛いヤツよのう~~~~ッ。おめーにはいつだって感謝してるんだぜぇ~~~~ッ? おれを励ましてれる女をおろそかにするおれじゃねーからよーッ!

 

「本当に二人は仲良しね、ちょっとうらやましいわ」

 

 そんなおれたちを、ツユちゃんは口元に指をあててじっと見ていた。

 

「お、いーぜ、んじゃツユちゃんもするか?」

「え?」

「うん、ツユちゃんだったらいいよッ。してもらったら? とっても気持ちいいんだから」

「でも……」

「良いぜ来なよ。おれの懐は、女にはいつだって開かれてるんだからよぉーッ」

 

 トオルは腕の中から解放し、おれはツユちゃんに向かって両腕を広げた。カモンカモンカモン、ツユちゃんッ! おれのホットなハグを受けてみなよぉ~~~~ッ!

 

 おれを見て、トオルを見て、辺りを見回したツユちゃんだったが、じっくりと自分の両手を見つめ、いかにもおっかなびっくりっつー感じで腰を上げた。

 そうしてゆっくりとおれの腕の中へと歩み寄り、

 

「………………ケロッ」

 

 おれの胸板に額を寄せるツユちゃんは小柄で細く、ちょっぴりひんやりしていた。

 緊張してんのは匂いで分かっていた。両脇から背に回された腕のぎこちなさ、思ったよりもふくよかな胸越しに伝わってくる心臓の鼓動でも、それは分かる。

 

 ……身も心も固くしちまった女にがっつくおれじゃねー。

 

 ゆっくり、ゆっくりとだ。おれの腕は怖いもんじゃねーぜっつー速度で彼女を抱きしめろ。まだ寒さの残る早朝に親鳥がヒナを翼で包み込むような優しさと、日の出を予感して花びらを開くアサガオのような自然さを忘れるな。

 触れるか触れねーか、羽より軽い力加減でツユちゃんの背中に触れる。

 おれの腕が閉じ始めたことに気付いていた彼女は少しだけ緊張の匂いを強めたが、しかし震えるようなことはなかった。むしろ、ちょっぴりと肩の力を抜いたのが分かる。

 クスリと笑ったツユちゃんの息が、おれの胸をくすぐった。

 

「私、ハグは中学校のお友達以来よ。――男の人とするのは、裕ちゃんがはじめて」

「そいつぁー光栄だ。ツユちゃんのはじめてをいただけるなんてなぁ」

「いやらしい意味じゃないのよ? これはお友達のハグ」

「分かってるぜ。……でもそれは、ツユちゃんにとって嬉しいことだろ?」

「……ケロッ」

「女のためになるならよぉ――ッ、この噴上裕也は、紙っぺらにされてるのも恐れねー男だぜ~~~~ッ?」

「なぁに、それ。おかしな裕ちゃん」

 

 胸の中でくすくすと笑うツユちゃん……カワイイじゃね――かよぉ~~~~ッ!!

 これだぜこれ! やっぱよぉ~~~~ッ、微笑みかけてくれる女ってのは、命かける価値があるよなぁ――――ッ! おれはおれを励ましてくれる女どものためなら何だってできるぜ――――ッ!!

 こいつらの瞳にこのおれのカッコよくて美しい顔が映る限り、この世の終わりが来たって挫けることはねーと理解できるッ!!

 

 

 

 と、ツユちゃんとお互いの目にお互いの顔を映し込んだところで、隣から火ぃ噴くみてーな勢いでアドレナリンの匂いが湧き出した。

 トオルだった。

 

「……むぅ~~~~ッ! そーこーまーでーっ! そこまでなのーっ!!」

 

 おいおいトオルぅ、そんな力いっぱい引っ張ったらよぉ、おれの服が千切れちまうぜぇ~~~~?

 だがツユちゃんも潮時だと思ったのか、おれの腕から抜け出してトオルに向き直った。

 

「大丈夫よ、葉隠ちゃん。私、葉隠ちゃんから裕ちゃんをとったりしないわ」

「……本当?」

「ええ、本当」

「じゃあ私ともハグしよッ! あと私のことも、透ちゃんって呼んで!」

「……ええ。勿論よ、透ちゃん」

 

 そうして、おれの目の前でトオルとツユちゃんは力いっぱいお互いを抱きしめあった。

 いいねぇ~~~~ッ! おれはよぉ、おれを励ましてくれる女どもが大好きだが、そいつらが横のつながりを広げていくのだって好きなんだぜぇ~~~~? そうすりゃ、おれを見てくれる女も増えていくだろうからよぉ――――ッ!

 

「よぉし! おれを励ましてくれるツユちゃんと、トオルとツユちゃんの友情を祝って、もっかい乾杯だぜぇ~~~~ッ!」

「お――――ッ!」

「ケロッ」

 

 

 

 そうしておれたちはまた、それぞれの缶ジュースをかかげてぶつけあった。

 そん時のツユちゃんの、それまで見たことねぇぐらい楽しそーに笑ってた顔を、おれはこれから先も忘れねーことだろうぜ。

 

 




対人戦闘訓練編、これにて終了。

梅雨ちゃんの匂いにからむ設定は本編でもちょっとやってましたね。そのへんをうまく絡められたかなぁ、と思っています。

以前感想で聞かれ、その時点ではまだ作中で描けてなかったのでちょっとごまかしましたが、本作は今回のような感じで葉隠メインのハーレム路線を目指します。やっぱり噴上は複数の女子に囲まれる姿が似合うと思いますので。





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