水上学園都市『六花』、通称『アスタリスク』。
その南部に位置する学園『アルルカント・アカデミー』。
そこでは日々数多くの学生が様々な研究を執り行い、その研究成果を持って強い発言権を得ていた。
他の学園で重要視されている序列制度もこの学園ではあまり意味を成しておらず、実践クラスの学生よりも研究クラスの学生の方が重要視されている。
しかし、一言に研究クラスと言っても、研究クラスにも派閥があり、それぞれで得意分野や発言権の強さも異なっている。
研究クラスの最大派閥『
得意分野は主に煌式武装の研究開発で、最大派閥だけあって発言権も強い。
その最大派閥である獅子派から一人、脱退を希望する者がいた。
「今まで世話になった。目的も達したし、俺は獅子派から離脱する」
唐突にそう告げた青年は獅子派の研究室の出口へと向かって歩き出す。
「待て」
その青年の背に声を掛ける女性がいた。
「何か?」
青年も一応…たった今離脱表明したから"元"となるのか…上司の言葉に耳を貸す気はあるのか、その場で一時立ち止まる。
「勝手に離脱するのは構わないが、これからどうする気だ? 行く宛はあるのか?」
女性は青年にそのようなことを尋ねていた。
「行く宛ですか。まぁ、ないですね。でもご安心を…ここで培った知識は流出なんてしませんよ。第一、他の派閥に行ったところでこの知識が役立つかわかりませんしね」
得意分野が異なるだけで研究内容もガラリと変わる。
それまで培ってきた知識が役立つかも定かではないのは確かだ。
「所詮、俺は"実践クラス"の人間ですからね。研究クラスの人間とは頭の出来が違うんですよ」
「よくもそんなことが言えるものだ。実践クラスの人間でありながら我々の研究についてきたくせに…」
女性が苦々しく青年を睨む。
事実、青年は実践クラスの人間でありながら研究クラスの人間に混じって煌式武装の研究開発を手伝っていたのだ。
「ま、物覚えがいいんで…」
「それで片付けられても困るのだがな」
と、女性は一つ気になったことを尋ねることにした。
「それと、お前の目的とは?」
「ん~…まぁ世話になったし、言ってもいっか。自分専用のカスタム化した煌式武装を組み上げることですよ」
青年は女性の問いに対してそのように答えていた。
「自分専用、だと?」
「あぁ。ここだと汎用性が高いのばかり作ってたからな。だからこそ廃棄処分予定の煌式武装とかを引き取って独自に組み上げた。まぁ、一年近く掛かったが、それも昨日の時点で理想の形にはなったからな」
続く青年の言葉に女性は眉を顰めた。
「なるほど。それが廃棄予定の煌式武装を引き取った理由か」
「他にも実物を触った方が色々と手っ取り早いと思ってな」
「つくづく実践クラスの人間とは思えない発言だな…」
実践クラスの人間が研究クラスに混じるだけでなく、独自に自分専用の煌式武装を組み上げるなど聞かない話である。
実験などで煌式武装を研究クラスの人間が使う機会が少なからずあるとは言え、逆の話はなかなか聞かない。
「そういう訳で目的も果たしたし、ここでの研究ももういっかなって思ったんで…」
なんとも軽い感じに聞こえるが、実際に目的を果たすために潜り込んでたと考えるなら淡白なのも頷ける。
「その組み上げた煌式武装で
女性が再度尋ねると…
「さぁ?」
青年は気だるげに答える。
「…………………」
女性は青年の言葉を待つ。
「ここでは他学園と違ってあまり意味がないだろ? なら、別に序列外でも何の問題もない。違うか?」
「……確かにな。お前のいうことも一理ある」
女性もそんな青年の言葉に理解を示す。
「ただ…」
「?」
「俺は理想の形を迎えた煌式武装の性能を確かめたい。そんな欲求もあるにはある」
そう言って頭だけを振り返らせた青年の表情は嗤っており、その眼は妖しく輝いているように見えた。
「…………そうか」
「じゃ、縁があったらまた会おうぜ」
それを最後に青年は研究室の出口を潜り、通路へと出た。
「さてと、この後はどうすっかな…」
通路に出てしばらく適当に歩きながら独り言ちる青年。
「星は仕上がった。あとは舞台で試すだけだが、その舞台をどうするかな…」
青年は星武祭のことを考えるが、そもそもそんな親しい人間もいないので二年後の
正直、一回…ギリギリで二回出るのが関の山だろうか。
しかし、青年はそんな悠長に待ってるほど気は長くない方だ。
組み上げた煌式武装の性能をどうやって確かめるか…。
青年がひとしきり考えていると…
「ん~…どうしよっかにゃ~」
と、通路の角を曲がったところでそんなことを呟く少女と出くわす。
ドンッ!
「む?」
「ありゃ?」
当然のことながら正面衝突し、青年の方が体格もいいせいか、少女だけが後ろに転びそうになる。
「っと」
すぐさま少女の手を引き、バランスを立て直す青年。
「すまない、よそ見していた」
「にゃはは、こっちこそめんごめんご。あたしも考え事してたからさ」
そんなやり取りの後、青年は少女の顔に見覚えがあった。
「お前は…確か、
「おや? 君は確か、カミラんとこの…」
かくいう少女の方も青年のことを知っていたようだ。
「あぁ、それだが…ついさっき獅子派から脱退した。今はフリーだ」
「あら、そうなんだ~。珍しくカミラが面白い子がいるって言ってたけど、脱退したんだ。なんで?」
「目的を果たしたからな。俺はそもそも自分専用の煌式武装を独自開発出来れば問題なかったわけだしな」
「へぇ~」
青年の話を聞きながら、少女は青年の顔を見て…
「あ、そだ! もしも行き場所を探してるならウチに来ない?」
何を思ったのか、そう切り出していた。
「彫刻派に? 悪いが、俺にそっちの技術はないぞ」
青年は少女の申し出に訝し気ながら答える。
「問題ないよ。ウチに所属してほしいのは、あたしの護衛って意味合いが強めなんだよね。それにさ…君って…………………」
最後の方は青年に耳打ちするように言い聞かせる。
「…………………わかった。別に行く宛もないし、厄介になるか」
それを聞き、青年の方も苦々しい表情になりながらもそれを許諾した。
「にしし、そうこなくっちゃね♪」
少女の方は悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。
こうして青年は新たに彫刻派へと所属することになった。