「あ゛~」
アルルカント・アカデミー、実践クラスの教室の一角で、忍が椅子の背もたれに身体を乗せ、さらには変な声を上げてだれていた。ちなみに時間的には朝のSHR前である。
「(流石は序列1位…ただの打ち合いだけでも、あそこまで速いとは…)」
教室の天井を見ながら考えていたのは、今朝の朝練だ。綺凛との合流後、公園で軽く打ち合ってみたのだが…その剣速は年下なのに、速くて正確、しかも纏う剣気も尋常ではなかった。あれほどの使い手と軽くとは言え、剣を打ち合えただけでも役得と考えてもいいだろう。
時間で言えば、10分も打ち合っていなかっただろう。その後は軽くストレッチを行い、身体をほぐしてから走るのを再開して星導館の近くで別れたのだ。
「(あれで中1とは恐れ入る。並みの研鑽じゃねぇな。元々の才能があったとしても、あそこまでのものを身に着けるのに、一体どれだけの修練を積んだのやら…)」
それだけ綺凛の技量が凄まじかったのは認めている忍だったが…
「(だが…)」
ふと、打ち合っていた綺凛の剣から僅かに伝わってきた悲しみの感情を思い出し、それを考える。
「("父が厳しかった"……その辺が関係してるのかね? とは言え、確証がある訳じゃない。しかし、妙だ。刀藤流と言やぁ、今じゃ知らない奴の方が少ないんじゃないかってくらいの有名流派。それ関係で大々的な報道なんか聞いたことがない…はて、どういうわけだ? 刀藤姓からして宗家に近しいか、或いは直系…その父親っつったら、何かしらあってもおかしくはない。ただ、それがないとなると…ふむ?)」
考えても詮無いことだとわかっていても、忍は思考の海を漂っていた。
「(ま、深くは突っ込むまい。無理に聞き出してもお互いに良いことなんてないしな…)」
忍がそんな結論に達したところで、予鈴が響く。
「(さて、そろそろ天月の答えも聞かないとな…)」
だれた体勢から姿勢を戻すと、忍は友達とお喋りしている明香音をチラリと見た。
………
……
…
昼休み。アルルカント・アカデミーの食堂でカツ丼と味噌汁、漬物のセットを食べている忍の対面には、パスタと小さなスープのセットを食べている明香音の姿があった。
「それで、結論は出たのか?」
食べる手を一旦止めた忍が明香音に尋ねる。
「う、うん…」
明香音も食べる手を止めて頷く。
「そうか。ま、その話は食ってからでいいさ」
結論が出てるなら慌てることもないと忍は食事を続行する。そんな忍を見て明香音も苦笑しながらも食事を再開する。
その後、2人は食事を終えて食器を片付けてから連れ立って食堂を後にすると、自販機で適当な飲み物を買うと近くのベンチに並んで座る。
「早速で悪いが、答えを聞かせてくれ」
お互い缶ジュースを一口飲んで一息ついてから忍が切り出す。
「うん。偶然とは言え、純星煌式武装を持っちゃった訳だし…このまま使わないのももったいない気もするから、ちょっとだけ挑戦してみようかなって…」
「つまり、俺と組んでくれる、って解釈してもいいのか?」
明香音の言葉を聞き、忍はさらに問う。
「正直、それもずっと考えてて…紅神くんじゃなくても他の人と組む選択肢はあったんだけど…ちょっと、ね?」
「あぁ。今まで動かせなかった純星煌式武装を動かしたんだから、そら色々と目立つわな」
「うん…」
実際、忍以外からも勧誘があったらしく、明香音は一旦保留していたのだが…
「ちょっと強引な人もいて…それで逃げてるって部分もあって…」
どうにも強引な手法で迫った奴もいたらしい。
「ま、純星煌式武装を2機も持ってりゃな」
「それで、その…本当に信じられそうな人って思ったら…真っ先に紅神くんが思い浮かんで…」
「ほぉ? そりゃ光栄だが…またなんでだ? 俺は自分の手札を隠してたんだぞ?」
以前、授業の時に戦闘技能を隠してたことを指摘してみる。
「うん。自分でも何で紅神くんなんだろって思ったんだけど…紅神くんって後衛が欲しくて、この純星煌式武装にも興味あるんだよね?」
「誘った時、確かにそう言ったが?」
"それが何か?"と言いたげにしながらも続きを促す。
「他の人も似たようなものだったんだけど…紅神くんはほら、そんなに頻繁に来ないし、私に考える時間をくれたじゃない?」
「まぁ、こういうのは本人の意志だからな。他人がとやかく言うもんじゃない、って思ってるだけだが?」
「そういう、ちょっとドライだけど思いやりがある人の方がパートナーとしてはいいのかなって…」
明香音の評価に忍はキョトンとする。
「(ドライなのに、思いやりがあるってなんだ?)」
まぁ、そう思っても口にはしなかったが…。
「ふ~ん? じゃあ、俺と組むってことで異論はないのな?」
忍の最終確認に…
「うん。一緒に頑張ろうね?」
明香音は頷いて右手を差し出す。
「あぁ、こちらこそな」
忍もそれに応じて明香音と握手する。
「じゃあ、早速申請しに行きますか。せめて予選は突破したいがな…」
「足を引っ張らないように頑張るよ」
「そう気負うな。俺もタッグ戦とか初めてだしな」
「そうなの!?」
「ま、なるようにならぁね。基本戦術は俺が前衛、天月が後衛。それで機能しない時はその時に考えようぜ?」
「うぅ…本当に大丈夫なのかな…?」
そんな会話をしつつ忍と明香音は鳳凰星武祭へのエントリーを済ませるべく移動するのだった。
………
……
…
鳳凰星武祭へのエントリー申請を済ませた後、2人は練習場所をどうするかで頭を悩ませていた。
「う~ん…困った」
何故、こうなったかと言えば…主に忍が原因とも言えるのだが…。
「せっかくまだ能力も代償も細かいことが分析されてない純星煌式武装があるんだから、それを最大限に活かそう。俺も煌式武装の能力をまだ隠していたいしな」
この一言で練習場が激減した。というか、ほぼ無くなってしまった。
「鳳凰星武祭まであと1ヶ月くらいなのに、どうするのよ!?」
明香音からの当然の抗議に忍は…
「ふむ…ならば、最後の手段といこう」
そう言い放つ。
「もう最後なの!?」
「他に当てがないのも事実だしな~」
「も~!」
そうして忍が明香音を連れ立って向かったのは…
「ちぃっす。筆頭殿。今、大丈夫っすか?」
「?」
獅子派筆頭、カミラ・パレートの元だった。
「紅神か。今日はどうした?」
カミラが問うと…
「どっか人目を気にしないで済むアリーナとかない?」
「ド直球!?」
忍のド直球な要望に明香音が驚く。
「……………話が見えないのだが?」
「あ~、実は…」
忍がカミラに隣にいる明香音と鳳凰星武祭にエントリーしたことを話し、手の内がバレるのが嫌なので、どこか都合のいい訓練出来る施設がないかな、ということを伝えた。
「お前というやつは…ほとほと困った奴だな…」
「いや~、それほどでも…」
「褒められてないからね!? 絶対に呆れられてるよ!?」
カミラがやれやれと首を振るのを見て、忍が照れたように頭を掻くが、それにすかさず明香音がツッコミを入れる。
「天月、といったか? お前も大変だな。こんなのと組むことになって…」
「今更ながら後悔してるとこです…」
カミラが明香音に労いの言葉を言うと、明香音も早くも後悔しそうであると答える。
「で、筆頭殿。どっかいいとこない?」
忍は悪びれた様子もなく、再度聞いてくる。
「そうだな…」
しばし考える素振りを見せるカミラは…
「それなら、研究院地下の特別アリーナを貸してやってもいい」
そう申し出ていた。
「お、ラッキー。そいじゃあ、早速…」
「そう慌てるな。貸すのはいいが、わたしと"もう1人"の監督下でなら、という条件を付け足させてもらう」
急かす忍をカミラはそう言って制する。
「もう1人って…まさか?」
「そうだ。お前の今の上司、と言えばわかるだろう?」
「ん~…やっぱ、そうなるか…」
条件を出された時点である程度の予測はしていたのか、忍が唸るように考え出す。
「天月はともかく、今のお前は彫刻派の一員だろう? ちゃんと筋を通さんとな」
「そらそうか…………ま、2人だけならいいか。どうせ、いずれは公開することになるんだし、そもそも筆頭達なら別に見せてもいいか…」
カミラの言葉を受け、ブツブツと何やら呟いた後…
「よし、わかった。その条件で頼むよ」
忍は即決した。
「え!? こんなアッサリ決めていいの!?」
忍の即決に明香音はまたも驚く。
「こいつの行動は読めんところもあるからな。天月も今の内に慣れておくといい」
「は、はい…。でも、あんまり慣れたくないかも…」
カミラが明香音に助言するが、明香音はあまり慣れたくないようだった。
「で、でも…ご迷惑じゃなかったですか?」
おずおずと明香音がカミラに尋ねる。
「まぁ、迷惑かどうかで言えば…ハッキリ言って迷惑だな」
「ですよね…」
カミラの答えを聞き、明香音が乾いた笑みというか苦笑していると…
「だが、まぁ…わたしも噂の純星煌式武装の性能を見てみたいとも思っていたのでな。そう悪いことばかりでもない。あとは、紅神が組み上げたという煌式武装の性能もな」
カミラは面白そうに明香音、次いで忍の方を見る。
「紅神くんが組んだ?」
「ん? 聞いてないのか?」
カミラの言葉に引っ掛かりを覚えたのか、明香音が呟くとカミラが尋ねる。
「あ、いえ…紅神くんが獅子派にいた時は研究クラスの人達と混じって何かしてるなくらいの認識だったんで…その、詳しくは…」
「そうか。どうも、あいつの目的は自分専用にカスタマイズした煌式武装を作製することだったらしい」
「え?! 煌式武装を自分で!?」
その事実を聞いて明香音は今日何度目かの驚きの声を上げる。
「実践クラスのくせに味な真似をしてくれる。と度々思ったが、その成果を見られるのなら、アリーナを貸してやるくらい別に構わんさ」
「ほへぇ~…」
流石は獅子派筆頭。そこまでの権限があるのか、と驚くと同時にそんな筆頭に気安く話し掛ける忍は本当に何者なんだと思えてならなかった。
ちなみにその忍はというと…
「エルネスタか? あぁ、実はな」
部屋の回線を使ってエルネスタに連絡を取っていた。
………
……
…
~研究院地下ブロック・特別アリーナ~
防御障壁を完備し、各所には計測端末も配されたアルルカントの地下ブロックに存在するアリーナ施設。
「いや~、言ってみるもんだな」
その中央には忍と明香音が並んで準備を進めていた。
「私はちょっと畏れ多いというか…肝が冷えたんだけどな…」
「まぁまぁ、そう言いなさんな。これで心置きなく訓練出来るんだからよ」
「それはまぁ、そうかもだけど…」
とは言え、準備と言ってもお互い煌式武装、もしくは純星煌式武装の確認だけなので、いつでも始められる。忍の方は言わずもがな、制服の下に着込んだベスト型ホルスターに差し込んでる発動体のチェック。明香音の方も2機の純星煌式武装の発動体の確認作業だ。
『紅神、天月。準備は良いな?』
そこに空間ウィンドウ越しにカミラが確認してくる。
「こっちはいつでも、と言いたいが…まずは天月の持ってる純星煌式武装の性能テストをやっちまおうぜ? 俺もまだ能力とか聞いてねぇし、ちょうどいいだろ?」
忍がそのように伝えると…
「え…でも、それだと練習時間が…」
当然、明香音から時間を気にした発言が出る。
「まずはお互いの手札を確認した方がいいだろ? その上で戦略は考えるさ」
「……うん、わかった。私もこの子達の扱いには慣れておきたいし…」
明香音も忍の意見に少し考えたが、すぐに頷いてみせる。
「だ、そうだ。エル、筆頭殿、観測は任せるぞ?」
『ほいほ~い。面白そうだから了解よん』
『わかっている』
ちなみにエルネスタとカミラはエルネスタの研究室で観測することになっている。
「随分とあの2人と親しげだね?」
「ん? まぁ、腐れ縁ってやつでな。それに筆頭殿には色々と世話になったからな」
明香音の質問にそう答える忍だが…
「ふ~ん?」
明香音はさも面白くなさそうにしていた。それがどういった心境なのかはともかくとして…
「じゃあ、どっちから使うよ?」
忍は2機ある純星煌式武装の内、最初はどちらから使うかを明香音に尋ねる。
「う~ん…そうだな…」
「ちなみに弓の扱いと銃の扱いには多少の心得があるから教えられるぞ?」
悩む明香音に忍はどっちを使ってもフォローが出来ると申告する。
「ん~…じゃあ、こっちにしようかな?」
そう言って明香音は腰裏のホルスターから人馬の破弓の発動体を取り出す。
「あぁ、そういや、ホルスター作ったんだな」
「うん。紅神くんの言ったように戦闘中にハラリ、とか本当に嫌だったから…」
そう言って明香音は嫌そうな表情をする。ちなみにベルトのバックルとは反対の腰裏に取り外し出来るようなホルスターを作ってもらったらしい。
「男的には眼福なんだがな」
「紅神くんのエッチ…」
『しぃちゃんのスケベ~』
『今のは紅神が悪い』
今の発言に対し、ジト目で睨んでくる明香音にエルネスタとカミラの追撃も加わる。
「おっと、失言だったか」
などと口にしてるが、本気だったわけじゃない…と思われるが、とにもかくにもそれぞれの性能テストが始まる。