忍とエルネスタが改めて再会を果たしてから数日。
「そっか。あずきの足は順調に治ってるのか」
ある日の放課後、忍はあずきを預けた獣医から経過観察の連絡を受けていた。
『あぁ。それに合わせて軽めの運動もぼちぼち始めておるところじゃ』
「ふむふむ」
『猫というのは存外骨折に強いんじゃよ。まぁ、あずきの場合、罅が入っただけで済んでおるから治りも少し早いんじゃよ』
「なるほど」
『あとは、餌とトイレの躾もしておるが、あずきは賢い方じゃったからさほど時間も掛からんじゃろう』
「何から何まですまないね、先生」
それを聞き、忍が獣医に礼を述べる。
『なに、気にするでないわい。それと、あのお嬢ちゃんにもちゃんと連絡しておくんじゃぞ?』
「わかってるって…ちゃんとこのことを伝えるさ」
『うむ。では、またの』
「おう。ありがとな、先生」
そう言って携帯端末を通話機能を切り、次に先日知り合った綺凛へと連絡を取ることにした。
「流石にウィンドウを開くのはマズいか…」
先日のやり取りを思い出し、音声のみの通話を選択して綺凛の携帯端末へと繋げる。
『は、はい。もしもし?』
「よっ、忍だ」
名前だけ伝えるのもどうかと思うが…
『ぁ、紅神さん…お久しぶりです』
それだけでも伝わったらしく、綺凛も挨拶を返す。
「この前の病院からさっき連絡があってな。あずき、結構回復が早そうなこと言っててな。それで軽い運動も視野に入れてるそうだ」
『ぁ、そうなんですね。よかった…』
「ついでに飯やトイレの躾もしてくれてるそうだ。あの先生も先生で世話焼きだよな」
『あわわ…今度伺ったらちゃんとお礼を申しておかないと…』
「俺もさっきは口頭だけだったしな。あずきを引き取る時に手土産でも持ってくか…」
綺凛とそんな会話をしていると…
『ぇ…紅神さんが、あずきちゃんを…?』
忍の何気ない言葉に綺凛が驚く。
「あぁ。まぁ、幸いにも一人部屋だしな。防音もしっかりしてるし、周りに迷惑は掛からねぇだろ」
『で、でも…大丈夫なんですか…?』
「ま、何とかならぁね。最悪は実家に連れてけばいい」
『ご実家に、ですか?』
「そうそう。長期休暇の時にでも連れていきゃ文句はねぇだろうしな。ま、その間はここで暮らすことになるだろうがな」
ケラケラと笑いながら忍はそう言ってのける。
すると…
『綺凛! いつまで通話をしているつもりだ! さっさと来んか!』
『は、はいです! 伯父様!』
「ん?」
何やら通話してる向こうで怒声が響き、綺凛も慌てたような様子に忍も首を傾げる。
『で、では、紅神さん。また次の機会に…』
「あぁ、気を付けてな」
『では…』
そこで通話が切れる。
「ふむ…(放課後だからまだ学園にいると考えると…あの怒声を発した伯父様ってのは学園、もしくは財体の関係者ってところか?)」
そんなことを考えつつ…
「(なんか、やだよなぁ…)」
忍は少し綺凛のことが気になっていた。
「(後で掛け直すか…)」
そう考えを纏めると…
「さてと、これからどうすっかなぁ~」
ひとまずこれからの予定を再度考える。とは言え、既に時間的には放課後である。大人しく帰ってもよかったが、気分的にもう少しぶらついていたいような感じだった。
「そういや、ウチの純星ってどんなのがあったっけ? いや、そもそもあんのか?」
他学園の純星煌式武装はいくつか耳にしたことはあったが、アルルカントで純星煌式武装の情報をあまり聞いたことはなかった。
「まぁ、ウチは煌式武装を開発してるからな。純星煌式武装に頼らずとも結果出してきたしな。実際、前シーズンは2位だったわけだし…」
とは言え、"アルルカントには本当に純星煌式武装がないのか?"というちょっとした好奇心が芽生えてしまったのも事実であり、忍はちょっと探ろうと考えていた。
「ま、聞くだけならタダさ。とは言え、保管先は…どこだろ? やっぱ、獅子派か?」
純星煌式武装は基本的に総合企業財体が権利を持っており、各学園に管理を委任している形で、適合率の高い生徒に貸し出すようになっている。だから、最大派閥である獅子派が管理を担っている可能性も高いが、確実性を取るのならば…
「……やっぱ、こういう時は…」
そう呟き、忍が向かった先は…
………
……
…
「よっ。左近会長!」
生徒会長室の扉を蹴飛ばす勢いでやってきていた。
「!? べ、紅神君でしたか…お、おどかさないでくださいよ…」
突然の訪問に帰り支度をしていた左近会長もかなり驚いた様子だった。
「これから帰るとこか? ちょうど良かったぜ」
「こちらの話は無視ですか…」
「なぁなぁ、会長。ウチに純星煌式武装ってあったっけ?」
「え? また突然の質問ですね…」
忍の唐突な質問に左近会長も再度驚く。
「いやな、他の学園の純星煌式武装の情報はあっても、ウチの純星煌式武装って聞いたことねぇからさ。ちょっと気になってよ」
「はぁ…まぁ、あるにはありますよ」
「おぉ~、あったのか。ちなみにやっぱ、獅子派が管理してんのか?」
「いえ、流石に純星煌式武装の管理はこちらで取り仕切っていますよ」
流石に管理は生徒会長が行っているらしかった。
「え~と、確か…本日は、ある純星煌式武装の起動実験の日でしたね」
「ある純星煌式武装?」
左近会長が思い出したようにそんな話題を出す。
「えぇ、我が校を含めて六学園には開発者が同じ純星煌式武装が2機ずつ預けられているのですが、その純星煌式武装は一切起動しないのですよ」
「なんだ、そりゃ? 全部で12機もあんのに、そのどれもが起動しないってのか?」
「はい。僕も詳細はわかりませんが、その純星煌式武装群は『ゾディアックシリーズ』と呼ばれているらしく、未だ起動も出来ていない代物なので、能力や代償も提示されていないのですよ」
「おいおい。それ、ホントに使えんのかよ?」
「だからこそ、起動実験を試みるのですよ」
「そりゃまぁ、そうなんだろうが…」
「とは言え、そんな得体の知れない純星煌式武装を起動させてくれる人も少ないので…」
「そらな」
そんな左近会長の言葉に忍もうんうんと頷く。
「ちなみにその実験はどこでやるんだ?」
「確か、第4ラボの性能テストを実施する模擬戦エリアで行うはずでしたが…」
「そうかい。なら、ちょっくら野次馬根性で見に行くかな」
「物好きですね…」
「ま、純星煌式武装がどの程度のもんか見てみたいしな。起動すればの話だが…」
「そうですね」
「ありがとよ、左近会長。邪魔して悪かったな!」
そう言い残し、来た時と同じように颯爽と部屋を後にする忍だった。
「ふぅ…やれやれ…」
若干疲れたように左近会長も部屋を後にするのだった。
………
……
…
~第4ラボ・模擬戦エリア~
「おっ、やってるな」
忍が第4ラボの模擬戦エリアにやってきた時には既に起動実験が始まっており、既に数人の生徒が項垂れていた。
「へぇ、あれがウチの純星煌式武装ねぇ」
忍の視線の先にはそれぞれ別々にエネルギーフィールドで四方を囲った2機の純星煌式武装が発動体の待機状態のまま空中に鎮座しており、それに触れた生徒が起動を試みるが、一向に反応しないといったことが続いていた。
「えっと、名前くらいの情報はあるよな?」
そう思ってそれぞれの頭上にあるディスプレイの表示を見ると…
「『
2機の純星煌式武装の名前が表示されてたので、それで名前の由来をある程度納得していると…
「……ん? あれって、まさか天月か?」
純星煌式武装を起動させるために集まっていた生徒の中に明香音の姿を見つける。
「剣から転向ってとこかね? まぁ、そりゃ人それぞれか…」
隅の方で忍は起動実験の成り行きを見守っていると…
「……………………」
遂に明香音の番となり、緊張した面持ちで宝瓶の砲銃の元へと歩んでいた。
「行きます!」
そう呟いてから明香音が待機状態となっている発動体の2本の銃のグリップを両手で握ると…
「うぅ~…」
こちらも一向に反応を示さない。
そんな時だった。
「くそっ! この欠陥機め!!」
人馬の破弓の起動テストをしていた男子生徒が悪態を吐きながら、待機状態になっているT字状の発動体を壁に投げつけてしまった。
「おい! 一応は純星煌式武装なんだから大事に扱えよ!」
次の番だった男子生徒が投げつけた方の男子生徒に文句を言う。
「うるせぇ! あんな欠陥機、触るだけ無駄だぜ!」
などと言ってると…
「ひゃあ!?」
どうにも壁に当たった人馬の破弓の発動体がエネルギーフィールドの隙間から抜け出てしまい、壁に激突した上に、弾かれた先に宝瓶の砲銃の起動を試みてた明香音の方へと向かってしまったようだ。しかし、そこは明香音も星脈世代。悲鳴を上げつつも咄嗟に左手でグリップを手放し、人馬の破弓を受け止めていた。
すると…
カッ!!
「へ…?」
それぞれ射手座と水瓶座のアストロロジカルシンボル状に加工されていたコアが輝き始めた。
「なっ!?」
『こ、これは…!?』
「起動した!?」
「嘘だろ!?」
モニターしていた研究員の他、その場にいた生徒達も今まで起動しなかった2機の純星煌式武装が起動したことにかなり驚いていた。その驚いている中には忍も含まれており、何が起こったのか訳が分からなそうであった。
『て、適合率…94%に86%!? し、信じられない。純星煌式武装を…"2機同時"に起動しただと!?』
研究員の驚きの声に生徒達はもちろん、当の本人である明香音も呆然としていた。
「(ゾディアックシリーズ、か……左近会長の話だと、他の学園にも2機ずつあるってことだったが…さてはて、これからどうなるかな?)」
第4ラボ内が騒然とするとする中、忍は面白い場面に立ち会えたことに笑みを浮かべていた。
………
……
…
この後、第4ラボでの騒動は放課後ということもあって早めに収束していったが、今まで起動しなかった純星煌式武装が起動した事実は、その起動条件の可能性と共に瞬く間に情報が伝播することになるのだった。
「し、失礼します…」
第4ラボの観測室から頭を下げて明香音が出てくる。出てくる時も周りを気にしていたが、その手には待機状態の純星煌式武装の発動体が2機分、握られていた。
「よっ、お勤めご苦労さん」
そんな明香音に忍が声を掛ける。
「ぁ、紅神くん…」
声を掛けられて警戒する明香音に対して忍は…
「安心しな。俺は純星には興味ないからよ」
肩を竦めてそんな風に言葉を発する。
ちなみにだが、今まで起動出来なかった純星煌式武装を起動させた明香音を狙ってあの場にいた生徒達が観測室前に詰めかけていたのだが、忍が適当なことを言ってその生徒達を追い払ったので、今は2人しかいない。
「あと、今の言い方だと私が悪いことしたみたいじゃない…」
「そりゃ悪かったな」
明香音の言い分に忍は軽い感じで答えると…
「……この間は悪かったな」
「…え?」
突然の謝罪に明香音もポカンとする。
「手札は基本隠す主義だったんでな。あと、泣かせたっぽかったし…まぁ、その…一応、謝りたかったんだよ。だから、すまん」
そう言って頭を下げる忍の姿を見て…
「ぁ、えっと…べ、別にそこまで泣いてた訳じゃないし…もう済んだことだから、そこまで気にしなくてもいいよ」
忍の意外と律儀な一面を垣間見たような気がして、そのように返す。
「そうか? なら、いっか」
が、お許しが出てたった数秒でいつもの調子に戻る忍だったりする。
「紅神くんって律儀なのか、淡白なのかわからないね…」
その様子に明香音も怒る気力が湧かなかったようだ。
「そうか? そういや、筆頭殿にも切り替えが早いとか言われたな」
「筆頭殿って…もしかしてパレートさん?」
「あぁ」
なんとも事も無げに言う忍に…
「……紅神くんって怖いもの知らずだよね」
明香音はもはや呆れているようにも見える。
「そうでもないと思うがね。ま、それはいいとして結局その2機は天月預かりになったのか?」
「う、うん…
「別にいいだろ。ま、注目の的になるだろうがな」
「うぅ、やめてよぉ~」
「その純星煌式武装は未だ起動者がお前さんだけなんだ。そのくらいは甘んじて受け入れるしかねぇぜ?」
「そんなぁ~」
忍の言葉に明香音がガックリと肩を落としながら今にも泣きそうな声を漏らす。
「それで? 起動したことで能力や代償なんかも開示されたんだろ?」
「それは、その…」
「っと、流石に無粋だったか。今のは気にしなくていい」
「……ありがと」
とりあえず、純星煌式武装のことはこの場では話すことではなかったと忍の方から話題を終わらせた。
「……ま、俺も隠してる口だからな」
最後に小さく呟きながら…
「え?」
「別に。なんでもねぇよ」
そう言って忍はその場を後にしようとする。
「あ、待ってよ」
それを追うように明香音もその場から離れる。