学戦都市アスタリスク~星の担い手達~   作:伊達 翼

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第五話『動き出す歯車』

 忍と明香音が揃って第4ラボの観測室前から離れてすぐのこと。

 

ピピピ…!

 

「ん?」

 

 忍の携帯端末から着信音が響き、忍がポケットからそれを出して発信者の名を確認する。

 

「(エルからか)すまん、天月。ちょっと野暮用が出来たから、俺は行くわ」

 

「え? あ、そうなんだ」

 

「悪いな。本当なら送ってってやりたかったが…」

 

「ううん。そこまでしてくれなくても大丈夫だよ。あとは私でなんとかするし」

 

 明香音はそう言うと太腿にあるホルスターに宝瓶の砲銃の発動体であるグリップをしまい、人馬の破弓の発動体もスカートを留めているベルトの腰裏部分に差し込んだ。

 

「ん~…人馬の破弓の方にも専用のホルスター、作らないとかな?」

 

「その方がいいんじゃないか?」

 

「やっぱり、そう思う?」

 

「あぁ。何かの拍子にスカートがハラリ、なんて天月も嫌だろ?」

 

「うっ、それは確かに…」

 

 そんな短い会話をしている間も着信音は響いており…

 

「じゃあな」

 

 流石にこれ以上、会話しててはエルネスタもへそを曲げそうな気がしたので、忍も校舎の方へと歩いていく。

 

「うん。またね」

 

 明香音の方もそれを察してか、軽く手を振ってそのままアルルカントの女子寮への帰路へとつく。

 

「さて、何か起きたか?」

 

 ピッと着信を切ると、そのまま地下のエルネスタの研究室へと向かった。

 

………

……

 

ウィン。

 

 彫刻派…というよりはエルネスタの研究室に着いた忍はそのまま教えてもらったパスワードを使って入室する。

 

「エル。どうかし…」

 

 忍が何か言うよりも早く…

 

ぼふっ!

 

 何かのぬいぐるみらしきものが忍の顔を直撃し、言葉を遮る。

 

「も~、おっそ~い!」

 

 その態度からしてどうにもお冠らしい。

 

「というか、なんで通信の方を切るかな?!」

 

「悪かったって。つか、お前から呼び出しってことは何か事態の進展があったんだろ? そんなの他の派閥の生徒がいる前で聞けるかよ」

 

 実際、忍の言う通りだったりするので、エルネスタも理解はしているはずだ。しかし、それでもエルネスタはぷく~と頬を膨らませて不満そうにしていたが…。

 

「むぅ~、なんか納得いかない~!」

 

「はいはい。で、どうしたんだ?」

 

 この手のあしらい方も心得てるのか、忍が本題に移ろうと話題を切り替える。

 

「しぃちゃんはズルくなったね。まぁいいや。後でモフってやる」

 

「俺はぬいぐるみか?」

 

 などと軽口を叩いていると、エルネスタが急に口調を変えて続けた。

 

「サイラス君がやられちったみたい」

 

「なに…?」

 

 その情報に忍も片眉を顰めて反応する。

 

「お前の人形を貸し与えてた星導館のやつか?」

 

「うん。そうなんだよね~」

 

「華焔の魔女に返り討ちにあったのか?」

 

「うんにゃ。それがお邪魔が入ったみたいなのよね~」

 

「邪魔だと?」

 

「うん。ほい、これ」

 

 そう言って空間ウィンドウを呼び出すと、それを忍に向けて弾き飛ばした。

 

「…………ふむ」

 

 そこにあった報告書を見て忍は興味深い名前を見つける。

 

「『黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)』、か…」

 

「知ってるの?」

 

「いや、俺も噂程度しか知らんが…確か、四色の魔剣の一つだったな。"触れなば溶け、刺せば大地は坩堝と化さん"…そんなことを言われてる星導館保有の純星煌式武装だったか」

 

「へぇ~」

 

「で、その使い手が邪魔に入ったのか?」

 

「そうみたい。ま、データは十分に取れてるし、ここが潮時かにゃ~」

 

 そう言ってエルネスタはサイラスが稼働させていたであろう人形達の各種データを見て満足そうだった。

 

「ま、適当言ってやらせてた闇討ちも思いの外、成果が出てるし。これはこれでめっけもんかな?」

 

「はっ、マジで精が出るよな」

 

 エルネスタの言葉に忍も話に聞いてたサイラスを鼻で嗤う。

 

「単にあたしの人形ちゃん達が優秀だっただけかもだけどね~」

 

「実物を見てないから何とも言えんが…ま、お前の人形がそんな甘くないのは何となくわかる」

 

「いずれにせよ…半端に賢しい奴は扱いやすくて助かるわね~」

 

「そりゃ同感だ」

 

 そう言いながら2人揃って悪い笑みを浮かべていた。

 

「にしても、そのサイラスだったか? 星導館はどうする気だろうな?」

 

「さぁ?」

 

「捨て駒には興味なしか」

 

「そりゃ~ね~?」

 

「ふむ…」

 

 エルネスタの反応を見つつ忍は思案してみる。もしも、自分が星導館の関係者ならサイラスをどうするか、と…。

 

「普通なら闇討ちの犯人の身柄を差し出すんだろうが…敢えて引き渡さず、こちらに借りを作るくらいのことはしてきそうだな」

 

「その心は?」

 

 忍の推察を聞いてエルネスタがちょっと興味ありそうに尋ねる。

 

「星導館の序列2位であり、生徒会長『クローディア・エンフィールド』。二つ名は『千見の盟主(パルカ・モルタ)』。俺もそこまで詳しい訳じゃないから何とも言えんが…生徒会長なんてやってる人間が普通な訳がないからな」

 

「ウチの会長殿はわりかし普通よ?」

 

「ウチはウチ、他所は他所だろ?」

 

「むぅ~、そういうもんかにゃ~」

 

 忍の答えを聞いてエルネスタはグッと両手を天井に向けて伸ばしていた。

 

「そういや、お前の夢の序章だったか? 起動させるのはいいとして、どうするんだ?」

 

「どうするって?」

 

 忍の質問にきょとんと首を傾げるエルネスタ。

 

「自律式擬形体とは言え、人形には変わりないだろ? AI制御だとしても、星武祭に出られんのか?」

 

「むっふっふ~、そこは我等が会長殿に働いてもらう予定よん♪」

 

「左近会長に? …………あぁ、そうか。もうすぐ六花園会議だったか」

 

 エルネスタが何を言いたいのか何となく察する。

 

「流石はしぃちゃん。物分かりが早くて助かるにゃ~」

 

「やれやれ、左近会長も災難だねぇ~」

 

「これくらいはしてもらわないとねぇ~」

 

 左近会長に同情する忍だったが、それもエルネスタの言葉で苦笑に変わる。

 

「じゃあ、そっちの下地は左近会長に任せりゃいいか。あの人、アレで交渉上手だしな」

 

「にしし、そ~ゆ~こと~♪」

 

 2人して悪い笑みを浮かべながら話していると…

 

ウィン。

 

 研究室の扉が開き、そこから獅子派筆頭のカミラが入ってきた。

 

「エルネスタ、と紅神もいたか」

 

 先に来ていた忍に多少驚きながらもカミラはエルネスタの元に歩いてくる。

 

「そりゃあ、いますよ。俺は彫刻派唯一の実践クラスなんで」

 

「そうだったな。なら、既に耳に入っていると思うが…」

 

「あぁ、サイラスってのが下手打ったんでしょ?」

 

 さっきまでその話をしていた忍はカミラにそう聞く。

 

「あぁ、そのようだ」

 

「しぃちゃんとも話してたのよね~。そろそろ潮時かなって」

 

「そうか………………ん? "しぃちゃん"?」

 

 エルネスタの発言に眉根を少し顰めるが…

 

「そこは引っ掛からなくていいっしょ。とにかく、星導館の方は何か言ってきてます?」

 

 忍がすぐさま話題を修正する。

 

「ふむ? いや、まだ特に何も言ってはきてないが…」

 

「そうっすか」

 

「だが、この件で我々は星導館に借りを作ってしまったかもしれないな」

 

 忍と似たようなことを言うカミラに…

 

「ありゃ、カミラもそう思うんだ?」

 

 エルネスタがそのように言葉を漏らす。

 

「わたしも?」

 

「俺も似たような見解なんで」

 

「そういうことか」

 

 忍が似たようなことを言っていたなら、それはそれで話が早いか、とカミラは話を続ける。

 

「もし、星導館が何か要求してきたら…そうだな。こちらで技術提供でも持ち掛けてみるか」

 

「おいおい。それって大丈夫なのか?」

 

 カミラの発言に忍が驚きの声を上げる。

 

「名目上は、新型煌式武装の共同開発ということになるだろうな。まぁ、餌に使うのは技術的に難のあるものを選ぶから、そこまで痛手ではない」

 

 などと言っているが、忍は少し不安を覚えていた。

 

「そらまぁ、今の件がその程度の最小限で済むならそれでいいけどよ」

 

「安心しろ。他学園に我々の技術力に追いつける技師などそうそういないだろうさ」

 

「そう言われると、まぁ、そうかもだが…」

 

 そう言われると、あまり強くも言えなかった。

 

「いずれにせよ、餌はこちらで用意しておくよ」

 

「よろしく~」

 

「ま、それで手を打てるなら、俺ももう何も言わねぇよ」

 

 最後は忍の諦めたのか、それ以上の言葉は紡がなかった。

 

「そういや、筆頭殿。天月の情報は行ってるのかい?」

 

 そこで思い出したように忍がカミラに尋ねる。

 

「天月? あぁ、今まで起動しなかった純星煌式武装を起動させた実践クラスの女子生徒か」

 

「そそ。一応、俺のクラスメイトでね」

 

「なになに? 何の話~?」

 

 作業に集中してたのと、サイラスの件しか知らないのか、エルネスタが興味津々に尋ねてきた。

 

「各学園に2機ずつ、開発者が同じだって言う『ゾディアックシリーズ』って純星煌式武装があるらしいんだが、そのいずれも今まで起動しなかったんだってよ」

 

「へぇ~? そんなのウルムの無駄使いじゃないの?」

 

「だろうな。わたしも聞いたことはあっても使えないのでは意味がないと思っていた。さっき報告を聞くまではな」

 

「ほぇ?」

 

 カミラの微妙に不機嫌そうな声音にエルネスタも首を傾げていると…

 

「聞いて驚け。どうも、その純星煌式武装。2機同時じゃないと動かなかったようだぞ?」

 

「え? 2機同時? それって…」

 

 エルネスタが忍からそれを聞くと、カミラの方を見る。

 

「あぁ、わたしとしては非効率この上ない上に汎用性に乏しく、理解できない代物だ。到底、許容出来るものでもない」

 

 なんとも苦々しい表情でそんな風に言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、筆頭殿とは相容れない開発者なんだろうさ。それはそれとして、2機同時じゃないと起動しない純星煌式武装。なかなかそそるじゃねぇの」

 

 そう言う忍はまた悪い笑みを浮かべている。

 

「あ~あ、しぃちゃんってばまた悪い顔してる~」

 

 面白そうにエルネスタが忍の表情を見て笑う。

 

「さっきも思ったが、なんだ、その…"しぃちゃん"というのは?」

 

「うにゃ? そういや、カミラには言ってなかったっけ?」

 

「なにをだ?」

 

「あたし達、昔馴染みなのよ。ちっさい頃の」

 

「なんだと!?」

 

 その情報に珍しくカミラが声を上げた。

 

「あ、ラボに引き抜かれる前の話だから、付き合い的にはカミラの方が長いのよ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うんうん。で、その昔のあだ名が"しのぶちゃん"だったから略して"しぃちゃん"」

 

 そんなエルネスタの説明に…

 

「まさか、紅神もエルネスタのことを?」

 

 そんな疑問を抱いていると…

 

「あ? 一応、許可取って"エル"と呼んでるが?」

 

「!?」

 

 急に話に戻ってきた忍の発言にさらに驚くカミラ。

 

「まぁ、筆頭殿以外の人前ではエルネスタとでも呼んでおくさ」

 

「え~、別にあたしはエルでもいいのに~」

 

「アホ。お前は彫刻派の筆頭だろうに。もうちっと外面の使い分けをだな」

 

「ぶ~ぶ~」

 

 そんな2人の他愛もないやり取りを見て…

 

「本当に昔馴染みなんだな…」

 

 カミラは呆れていいのやらどうしていいのか、多少困っていたとか…。

 

………

……

 

 サイラスの件が知らされてから翌日の昼休み。

 

「それで、話って?」

 

 アルルカントの食堂で向かい合って座っているのは、忍と明香音だ。テーブルには食べ終わったであろう食器がトレイの上にあった。食後のお茶を一口飲んだ後、明香音からそんな質問があった。

 

「いや、大したことじゃないんだが…」

 

「うん?」

 

 忍がそう前置きを置くと、明香音は再びコップに口をつける。

 

「天月。俺と『鳳凰星武祭(フェニクス)』に出ないか?」

 

「ぶふっ!?」

 

 忍の言葉に明香音が咽る。

 

「ゲホッ、ケホッ…!」

 

「大丈夫か?」

 

「だ、誰のせいで…こんな、状態に…なった、と、思って…ケホッ…」

 

 自前のハンカチで口を押さえ、涙目になりながら忍を睨む。

 

「悪かったよ。だからそう睨むなって」

 

「ケホッ……はぁ…ふぅ…」

 

 とりあえず、なんとか落ち着いたようだ。

 

「それで、なんで私と鳳凰星武祭に出たいって思ったのよ?」

 

 当然と言えば、当然の明香音の質問。

 

「理由はいくつかある。一つ目に後衛が欲しかった」

 

「後衛?」

 

「あぁ、俺はどちらかと言えば、近接戦を好むんだよ。だから背中を任せられる後衛が必要だと思ってる。幸い、鳳凰星武祭はタッグ戦だ。だから相方には後衛を担当してほしいと思ってる」

 

「ふ~ん…それから?」

 

「二つ目は…そうだな。言い繕っても仕方ないから言うが、お前の持ってる純星煌式武装に興味を持ったからだ。どちらも名前からして遠距離で機能を発揮するだろう。それがどんなもんかまでは知らないが、組むとしたら後衛に徹してもらいたくてな」

 

「……他には?」

 

「ん~…そのくらいかな?」

 

 明香音の質問に対して忍は二つの理由を明かした。

 

「まぁ、天月が嫌って言うなら別に無理強いはしないが…」

 

「……私は、別に星武祭に拘ってる訳じゃないけど…紅神くんはどうなの?」

 

「俺か?」

 

「うん。だって、紅神くんだってこれまで星武祭に出てなかったよね?」

 

「そうだな。前シーズンもそうだし、あんま星武祭に興味がなかったのも事実だ」

 

「だったら、無理に出なくても…」

 

 そう言う明香音に対し、忍の答えは…

 

「ただな…『星』が仕上がった以上、その性能を試したい、って欲求が強くなってな。実践クラスの連中は大抵どっかの派閥に所属してるし、おいそれと喧嘩を吹っ掛けられないからよ。『王竜星武祭(リンドブルス)』に照準を合わせるとしてもなぁ。ぶっちゃけそれまで待てない。なら、今シーズンから星武祭に出てみようかなってな」

 

「『星』? ていうか、今シーズンから出るつもりなの!?」

 

「おう。そのために相方を探さないとなんだがな。そういうわけで、天月を誘ってる訳だ。別に強制じゃないから安心しろ。どうせ、星武祭には3回しか出られねぇんだし、あんま気負う必要はねぇって」

 

 ケラケラと笑いながら説明する忍は、ブラックコーヒーを一口飲む。

 

「……ちょっと、考えさせて…流石にいきなりは無理…元々、私は星武祭に出るつもりなんて無かったんだし…」

 

「あぁ、それは構わない。だが、猶予は登録の締め切り日までだ。必ず答えを出して俺に伝えてくれ」

 

「うん…」

 

 明香音の答えを聞き、忍はコーヒーを飲み干すと、食器の載ったトレイを持って席を立つ。残った明香音は忍の提案を真剣に悩んでいる様子だった。

 

 はたして、彼女が出す答えは…?

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