学戦都市アスタリスク~星の担い手達~   作:伊達 翼

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第六話『休日デート…?』

 七月直前の六月下旬のある休日。

 

「だいぶ暑くなってきたな」

 

 梅雨も明け、夏も近付いてくる中、忍はあずきを預けてる動物病院へと足を運んでいた。その手には手土産として紙袋に入ったお菓子も持っていたりする。

 

「ちぃっす。先生、いるかい?」

 

 動物病院へと入り、先生がいるかを確かめる。

 

「なんじゃ。お前さん1人か?」

 

 受付の窓口にいたのか、すぐに出てくる。

 

「あぁ。ちと差し入れにな」

 

「ふん。そんな気を遣わんでも大丈夫じゃ」

 

「そうかい。でも、たまには顔出しとかないと、あずきに忘れられても困るしな」

 

「ふむ? つまりはそういうことか?」

 

 忍の言葉をそう受け取った獣医はそう問いかけた。

 

「あぁ、最悪実家に連れてけばいいとも考えてるからな。まぁ、しばらくは寮での生活になっちまうが…それまでの辛抱さ」

 

「お前さんもよくよく面倒見がいいの」

 

「そうか?」

 

 手土産を手渡しながら忍は飄々と答える。

 

「まぁいい。そういうことなら儂も文句は言わんさ。ちゃんと大事にしてやるんじゃぞ?」

 

「あぁ、わかってるよ」

 

 その後、2人は他愛もない会話を軽く続けながらあずきの顔も見たが、長居しても悪いからと忍から動物病院を後にしたのだった。

 

「さてと、用意も済ませたし、どうすっかな~?」

 

 動物病院を出てすぐ、軽く体を伸ばした忍は特に予定も決めてなかったので、どうするかと悩んでいた。

 

「(エルのやつはどうせ研究室に引き籠ってるだろうし…天月の答えもそろそろ聞かないとだし…刀藤の様子も気になるっちゃ気になるしな…)」

 

 う~ん、と悩むこと数分。

 

「よし、刀藤に会いに行くか」

 

 結果、忍は綺凛に会いに行くことにしたようだ。

 

「まずはアポ取ってっと…」

 

 携帯端末を取り出すと、前回のことを踏まえて音声のみでの通信を発信する。

 

『はい、もしもし?』

 

「よっ、俺だ。忍だけど」

 

『あ、紅神さん』

 

「ちとこれから会えないか?」

 

『え、っと…それは…その…』

 

「うん? なんか問題でもあったか?」

 

『い、いえ、そういうのではなく…その…』

 

「うん?」

 

 忍は綺凛の返答を根気よく待つ。

 

『そ、その…あまり家族以外の、男の人と出歩くとなると、その…』

 

「あ~、そっち?」

 

 忍としては考えていた予想と違った回答に少々間抜けた表情になる。

 

「家がそういうのに厳しい系なのか。ふむ…」

 

 そうなると、どうしたもんかと思っていると…

 

『あ、あの…』

 

「うん? どした?」

 

『お、怒らないのですか?』

 

「怒る? それはまた意外なお言葉だ。他人の家の事情に口を挟むほど、俺も偉い人間でもなければ、そんな些事は気にしねぇよ。まぁ、度を越して酷かったりするなら話は別だけどな? このくらいで怒るってこたぁねぇよ」

 

 ケラケラと笑いながらそう言ってのける忍。

 

『そ、そうなんですか…』

 

「あぁ、だから気にすんなよ。それに本来なら別学園ってことで敵同士みたいな間柄だしな。こうして話せるだけでも俺は貴重なことだと思ってる」

 

『紅神さん…』

 

「ま、それでも直接会いたいと思ってるのは確かだ。そっちの都合が良ければでいいが、そうだな。中央の総合メインステージ前で待ってるぜ。あそこが一番わかりやすいからな。道は星導館側の大通りにいるからよ」

 

『は、はい』

 

「じゃあ、後でな」

 

 そう言ってから忍は通信を切ると、そのままの足でアスタリスクの中央に聳え立つ総合メインステージこと『シリウスドーム』へと向かうのだった。

 

………

……

 

 そんな出来事から約3時間。

 

「(流石に来れなかったか?)」

 

 時間的には昼頃となり、そろそろ忍も小腹が空いてきて何か食べに行くかと思ってきたところだ。

 

「(ま、都合が良ければとも言ってあるし…来れないなら来れないなりの事情があっても仕方なしだな…)」

 

 そんな風に考えながら忍がその場を後にしようとした時だ。

 

「えと…その、困ります。わたしには、約束が…」

 

「そんな約束、ほっぽって俺達と楽しく遊ぼうぜ?」

 

 ふと耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。しかもどうにもナンパされてるらしいような…。

 

「…………ふむ」

 

 そちらを確認すると、チャラめな男が3人、小柄な銀髪のツーサイドアップの少女をナンパしているが見えた。小柄な銀髪ツーサイドアップ、それにこの声…ほぼ間違いなく綺凛だろう。そして、チャラめな男達は観光客なのか、綺凛を見て可愛い子くらいにしか思っていないのだろう。一見して竹刀袋にしか見えないが、入っているのは実物の日本刀であることを除けば、世間一般では可愛い私服姿の女の子である。観光客のチャラめな男達も剣道少女か何かと勘違いしていてもおかしくはない。ここが水上学園都市『六花』であることを考えれば、まず別の考えが浮かぶはずだが…。どうも軽い旅行感覚で来て気分が昂揚してるのだろう。多分、旅行あるあるだ。

 

「(まぁ、しゃあないか。刀藤は見た目に反して発育がいいしな。そら、男も群がるだろうよ)」

 

 学生達なら『刀藤 綺凛』という存在を知っているので、逆に疎遠してしまいそうではあるが、忍はそういう先入観なしで話すので、特に問題にはしていない。まぁ、それでも他学園の生徒と交流する、という時点でスパイ疑惑が上がりそうではあるが…そうでなくてもあまり良い印象は持たれないだろう。

 

「はいは~い。邪魔すんぜ?」

 

 というのを考えながらも綺凛の元へと歩いていた忍は男達にそう言って合間を堂々と横切っていた。

 

「あ、紅神さん…」

 

 綺凛も忍の登場に見知った人が来てくれた、というような感じで忍の背に隠れる。

 

「おいおい、兄ちゃん。なに、邪魔してくれてんの?」

 

「そうだそうだ。その子とは俺達が遊ぶ約束をだな」

 

 などと軽薄そうな男2人が忍の介入に腹を立ててると…

 

「その前に俺が先約だって~の。つか、ここは天下のアスタリスクよ? 観光もいいけど、声かける相手をもっと考えてみ? 確実に星脈世代だとは思わんかね?」

 

 忍はそう言って背中の綺凛を庇うかのように穏便な方法で説得を試みる。

 

「そりゃまぁ、そうだけどよ」

 

 残りの1人も"そういや、そうだったな"みたいな顔になる。

 

「観光しにきて気分いいのもわかるが、問題は出しちゃいかん。俺だって一応は星脈世代だからな。その辺は配慮するさ。ただまぁ、この子は俺の知り合いでもあるからな。まっ、ここは引いてくれや。な?」

 

 忍の言葉に…

 

「ちっ…しゃあねぇな」

 

「問題起こして出禁になっても嫌だしな…」

 

「せっかくアスタリスクに来たのに、それももったいないしな…」

 

 チャラめの男達は大人しく引き下がった。忍が自ら星脈世代というのを明かしたのもあったのだろうが、問題起こしてせっかく来たアスタリスクを出禁にされるのも嫌だったのだろう。この3人組はその場から離れていった。

 

「災難だったな、刀藤」

 

 それを見送ってから忍は振り返って綺凛の頭をポンポンと軽く撫でながら言葉を発する。

 

「ぁ…いえ、その…また助けていただいて、ありがとうございました」

 

「別にいいって。困った時はお互い様ってな。それよか、俺は2回も助けたかな?」

 

「えと、あずきちゃんのことです」

 

「ふむ。あれも助けた内に入るのか?」

 

「わたしとしては…はい、助けてもらったと思ってます…」

 

「そうかい。ま、別に気にするこたぁねぇよ。俺が勝手に首突っ込んだわけだしな」

 

「そ、それでも…ありがとうございました」

 

 綺凛はそう言うと丁寧なお辞儀を忍にしていた。

 

「(なんか、こそばゆいな…)ま、別にいいけどよ」

 

 頭を上げさせてから忍は綺凛に問うた。

 

「時間も昼頃になっちまったし…なんか食いに行くか?」

 

「ぁ、はい」

 

 了解の意を得たので…

 

「よし。せっかくだから、お兄さんが奢ってやろう」

 

「え!? そ、それは、その…」

 

 忍の申し出にあわあわと慌てる綺凛だった。

 

「別にそんな大層な飯を食いに行くんじゃねぇから気にすんな。どこにでもあるチェーン店だから安心しな」

 

 そんな反応を見せる綺凛に忍は苦笑しながらもそう言う。

 

「さてと。じゃあ、刀藤は何が食べたい?」

 

「えとえと…」

 

 突然、何が食べたいかと問われてパッとすぐに出なかった綺凛だった。

 

「ん~…なら、俺のお任せでいいかい?」

 

「……お願いします…」

 

 その様子を見て忍も流石にいきなり過ぎだったかと少し反省しながら代案を出し、綺凛もそれに頷くのだった。

 

「さてと…じゃあ、そうだな…」

 

 綺凛と歩きながら忍がどの店に入ろうかと悩んでいると…

 

「………………」

 

 ちょっと緊張しがちの様子の綺凛が半歩引いて忍について行く。

 

「そういや、家族以外の男と出歩く機会が少なかったんだっけか?」

 

 その様子も見えたのか、それとも気配でも察したのか、忍が話題を振る。

 

「は、はい。その、家というか…お父さ…父が厳しかったので…」

 

「ふむふむ。親父さんが厳しかった、ね…(過去形…? 何かしら事情がありそうだな…)」

 

 綺凛の一言に忍は少し違和感を覚える。しかし、忍も年上としてそこまで相手の事情に踏み込んでしまってもいいのか、少し迷った。多少、連絡を取っているとは言え、忍と綺凛はまだ直接会ったのは今回ので2回目なのだ。そんな風にズケズケと踏み込んでもいい話でもないか、と忍は考える。

 

「よし、ここにすっか」

 

 そう言って忍が立ち止まったのは、蕎麦屋のチェーン店だった。

 

「お蕎麦、ですか?」

 

「あぁ、アレルギーとかは大丈夫だよな?」

 

「はい。そこは平気です」

 

「そうか。ならよかった」

 

 そう言うと、忍が店の中へと入り、綺凛もそれに続く。中は昼時もあってか、少々混雑してるようにも見える。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 

 そこに店員がやってきて人数を聞いてくる。

 

「2人だ。席が空いてるならカウンターでもいいが…」

 

「2名様ですね。ちょうどカウンター席の端が空いているので、そちらにご案内しますね」

 

「ありがとさん」

 

 そんな風に忍と店員が話し、店のカウンター席の端の方へと案内される。奥に綺凛、それを庇うように忍が隣の席に着く。

 

「それでは、ご注文が決まりましたらお呼びください」

 

「あいよ」

 

 店員が立ち去ると、忍はカウンター席に置いてあるメニューを取って綺凛に見せる。

 

「刀藤はどれがいい?」

 

 メニューを見ずに勧めてくる忍に、綺凛が尋ねる。

 

「紅神さんはもう決めてあるのですか?」

 

「ん? まぁ、そうだな。一応、決めてはいるが、先にお前さんから選ぶといい。なぁに、お兄さんに遠慮なんてするなよ」

 

「で、でも…」

 

「そう遠慮しなさんな」

 

「……で、では、これで…」

 

 そう言って恐る恐るといった感じで綺凛が選んだのは、ざる蕎麦の並盛。

 

「それでいいのか?」

 

「は、はい」

 

「ん~…まぁいいか。すみませ~ん」

 

 相手がそれでいいというのなら、という感じで忍が注文する。ちなみに忍はざる蕎麦の特盛というのを頼んでいた。

 

 

 

 その後、揃ってざる蕎麦を食べた忍と綺凛は店を後にする。支払いは忍が済ませており、綺凛が何度も頭を下げていたが、忍は終始"気にするな"と言っていた。また、特に予定も決めていなかったので、このまま適当にぶらつくことになった。

 

「ふぅ、満足満足♪」

 

 満足そうな忍を見て綺凛が尋ねる。

 

「お蕎麦、お好きなのですか?」

 

「ん? そうだな。麺類の中だと比較的食べてる方かな? 別に他が食べれないとか、嫌いって訳じゃないが…」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ。他に聞きたいことがあるなら聞いてもいいぞ? 学園のこと以外ならな?」

 

 そんな風におどけて言う忍に綺凛は…

 

「えっと、では…紅神さんって何かの流派に属しているのですか?」

 

 真面目そうに尋ねていた。

 

「流派。それは剣術的なことか?」

 

「はい。紅神さんって、飄々としてますが、あまり隙がないので気になりまして…」

 

「ん~…悪いが、特に流派に属してるってわけじゃないな。強いて言うなら…我流、かな?」

 

「我流、ですか?」

 

「おう。俺ってば、物覚えだけは良い方でな。剣術も多少かじってはいるが、基本は刀をベースにしてる。その他、銃の扱い、体術、弓術、棒術、居合なんかも出来るな。ま、どれも子供の頃にやってたヒーローごっこの延長なんだがな」

 

 などと忍は自嘲気味に語っている。

 

「紅神さんって凄く器用なんですね。そんなに多くのものを修得出来るなんて…わたしは剣術しか能がないので、ちょっと羨ましいです」

 

「いやいや、そんなことはないぞ? 好きこそ物の上手なれ、って言うしな。剣術一筋でも、それが好きな分野なら上達も早いだろうに」

 

「そ、そんなことは…ないですよ」

 

「そう謙遜しなさんな。刀藤はもうちっと自信を持った方がいいな」

 

「自信、ですか?」

 

 忍の言葉にキョトンと首を傾げる綺凛。

 

「あぁ。俺達は別々の学園に所属してるし、それぞれ目的があってここに来たわけだろう? 俺はその目的を達するために手段を選ぶ必要はないと考えてる節がある。ま、それをお前さんにも強要するつもりはないが…そうだな。まずは自分の進むべき道を見定めてもいいんじゃないか?」

 

「自分の、進むべき道…」

 

「なんか説教じみたことを言うようで悪いな。でも、俺は俺なりにこの道を進んできた。そこに後悔なんぞ微塵もない…とは言い切れないな。まぁ、多少の後悔はあったような気もするが…」

 

「クスクス…どっちなんですか?」

 

 忍の言い方に少し笑いながら綺凛が言葉を返す。

 

「どっちでもいいだろ? とにかく、俺は俺のために動いてきたし、これからも自分のために動くだろうさ。それだけは言い切れる。だからさ、刀藤ももっと自分に自信を持てばいい。そいでもって目的のために邁進すればいいのさ」

 

「紅神さんは不思議な人ですね…」

 

 そんな風に言う忍を綺凛は『不思議な人』と評する。

 

「そうか?」

 

「はい」

 

 忍の返しに綺凛は笑顔で答えるのだった。

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