朝起きたら、ORTでした……   作:凧の糸

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それではどうぞ


青かった星

 

「へぇー君、宇宙から来たのか……」

 

 

「場所によるけど、ほとんど何もないぞ。星を眺めるのも悪くはないが、地球みたいな緑ある星はレアなんだ」

 フェリドの面白がりな性格でついペラペラと話してしまう。反応もいいのだから暇を持て余している俺は宇宙の様子や、途中で見かけた星についても面白おかしく話した。

 

 

「ベテルギウスってあるだろ?デカいんだよこれが。気の遠くなるくらいに遠くなのにそれでもデカいからね。」

 

 

「ベテルギウス……オリオン座か……天体観測はまだした事がないなぁ。そうだ!宇宙に連れて行ってくれよ。月だ。月面着陸とやらをしたい」

 興奮した口調のフェリド。宇宙開発なんてこの世界じゃゴミ以下の価値しかない、というよりもそもそも人間側に余裕は無いし、吸血鬼(ただし、フェリド以外の、が頭に付く)は宇宙に微塵も興味が無い。無人のISSやスペースデブリは未だに地球に縛り付けられて、グルグルと衛星軌道上に浮かんでいる。

 

 

 

 

 

「うーん、他人なんて乗せたことないからなぁ……ちょっと待ってよ」

 

 

「流石に本体も大きいじゃないか」

 背中のUFOをそれっぽい部屋にした。そして、足と身体をUFO内に引っ込めるとその姿はいよいよ未確認飛行物体だ。もっとも、エイリアンが中にいるのではなく、エイリアンそのものだが。

 

 

 

「乗らないの?」

 フェリドが険しい顔をして、周囲をうろうろしていた。

 

「……どこから?」

 

「あ、入り口作ってなかったな」

 UFOモードは久々な上に他の生き物を乗せることを考えていなかった。俺は急いでスペースを作った。

 

 

 

 

「出来たよ」

 

「じゃあお邪魔するよ」

 急ごしらえのドアは悍ましさを少々含む、かなり有機的な動きで開いた。それに彼は特に気にする様子もなく、優雅に乗船した。

 

  

 

 

「中々悪くないが……キミの貴族イメージの悪さに驚くよ」

 

「初めてなんだ、手加減してくれ」

 なんだかんだでワイワイしながら直ぐに地球を旅立った。

 

 

 

「おお、速い」

 窓から見える光景は目まぐるしく変わる。「早送りの映像を見ているようだ」フェリドはそう評した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……早いな」

 

「割とゆったりのつもりだけど、思ったより早かったわ。」

 ほんの数分で着いてしまった。数千年(長い間)居眠りをしていて、久しぶりなのだ。加減を間違えたかも知れない。ゆっくり時間をかけるべきだったかな?

 

 

 

「そっか。にしても、吸血鬼になってからこんなにも間近で月を見るとは思わなかったな……」

 

「月面に降りれるのか?」

 

「いいや、無理だね。こっから眺めておくのが楽しいさ」

 

「へー、そうか」

 静かな世界では、俺が動き出すたびに砂がフワリと舞う。

 

「相変わらず青いな……」

 

「ユーリ・ガガーリンが『地球は青かった』と言ったのも分かる。こんなにも美しいとは……」

 暗い海にポッカリと浮かぶ船のようで、孤独な船はどこまでも美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさから、何探してるの?」

 俺がキョロキョロと探し物、いや、探し者をしていることに気づいた。

 

 

「王さま」

 俺は片手間にそう言った。アルティミット・ワンの知覚能力をフル活用しても痕跡すら見つけられない。

 

 

「誰だい?」

 

「月の王さま。いると思ったんだけど……もう居ないか……」

 朱い月のブリュンスタッド。アルクェイドなどの真祖のオリジナルである生命体。さすがに宝石翁に倒されているから、もう居ないみたいだった。

 

 

「そもそも月に生物がいたのかい?」

 

「居たかもね」

 

「曖昧だなぁ……」

 

「俺も記憶が曖昧なんだよ」

 ひとしきり月の裏側も覗いたあと。今度はゆったりと時間をかけて地球、京都の第三都市サングィネムへ帰還した。

 

 

 

 

「いやー、楽しかったねぇ!」

 うきうきとした様子で周りの吸血鬼は気味悪そうにチラチラ見ていた。

 

 

「暇だったら名前を呼んでよ。空いてたら直ぐに行くから」

 

「りょーかい」

 

「ああ、おぶざけで呼ばないでよ? めんどくさくなるから」

 

「わかってるわかってるって!!」

 へらへらした顔で笑っている。約束を守りそうにない顔だ。

 

 

 

 

「まあ、いいや。ちょっと渋谷の方にふらっと行ってみるよ」

 

「そうかいそうかい。百夜優一郎君ってのがいるだろうから見てみると良い。面白いだろうよ、彼」

 

 

「お前に目をつけられるの、運悪いな」

 

 

「それを言うなら、私も運が悪いな。なんせ君に目をつけられた」

 

「うわー、言うねえー」

 

「ハハハ! お互い様さ」

 

 

「それじゃあな」

 本体をUFOから出して、一気に加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、頑張れよ、優一郎君?」

 にやりと悪い吸血鬼(大人)の笑みが溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

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 渋谷に向かって飛行中、突然にラッパのイメージが流れ込んできた。

 

 

 

「む……これは……」

 地球や人間への害が強くあるのは分かった。

 

 

「だるいなぁ……」

 怠けよう。そう思っていると『早くしろ』『働けニート』と根も葉もない罵声に近しいものを浴びせてきた。

 

 

 

「うえぇ……なんだよ……」

 業を煮やしたのか、無理やり身体のコントロールを奪ってきて、加速を始めた。ソニックブームで地上が少しずつ破壊されている。

 

 

 

「うわ、やべぇよ」

 どうせ大した事は出来ないだろうと呑気な気分に浸っていたら、とんでもなく突拍子の無いことを起こした。

 

 

 

「おいおいおいおい!!! いや、ぶつかるぞ!」

 建物に突っ込もうとするのはまずい。とっさに身体を小さくしたが、よく分からない建物に衝突した。

 

 

 痛い。めちゃくちゃ痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてぇ……何だよ、頑丈だからって痛いんだからな……」

 意思に向かって怒っていると、崩れた建物から誰かが出てきた。

 

 

「……貴様、何者だ?」

 

「話すときに剣を出すのって若者の流行なのかね? 危ないし、かっこ悪いよ?」

 若く、目つきの鋭い男は静かに怒っていた。

 

 

「……」

 黒い刀を出して、目の前の男が襲いかかる!

 

 

 

 

 

「いや、謝るよ。ごめん、俺のせいだけども俺の意思じゃないんだよ……」

 回避、回避、回避。

 

「……」

 電撃を帯びた剣撃。躱したとしてもびりびりと痺れる。

 

 

 

「よっと」

 離れて体勢を整えた。

 

 

「刀には、刀といこうか!」

 瞬時に人間形態へ擬態し、自分の外殻の一部を使用した蒼い刀を振った。

 

 

 カキン!カンッ!

 

 

「うおっ! 強!!」

 かなりの技量があるようで、力は圧倒的に高い俺と言えど、積み重ねられた技には分が悪い。切り結ぶのは良くなさそうだ。

 

 

 

「刀の振り方も知らんのか……」

 

 

「……俺、最強だからさ。君から面倒なニオイがするのも分かるんだよねぇ」

 

 

「ほぅ……最強の割に、雑だな」

 

 

「恥ずかしいな、バレてたか」

 誤魔化しても情けなくなってくるから、開き直ることにした。

 

 

 大振りや力の入れ過ぎなど、自分自身の力に引っ張られ過ぎていた。柊暮人(目の前の若者)に敗北しないのは、その規格外の力があったからだ。だからこそ、刀を使うのを辞めて、確実に相手を屠れるメイスを使っている。ま、実際は俺が手加減してるだけなんだけどね!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、もういいや。これ以上教えてくれないなら、無理やりだ」

 得物を変えて、戦いながらも話しかけたが、全然反応もしないし、勿論ラッパについても教えてくれない。流石にもうだるくなってきた。さっさと終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

ズドン!!

 

 

「な……」

 すました顔が驚愕に変わるのは心底気分が良いが、眉がピクリと動いただけだった。建物に大穴、地下に向かって開けて、匂いのする方へと穴掘りをする事にした。

 

 

 

 

 

「穴掘り〜お前のせいだ〜」

 瓦礫を増産していく。頑丈なシェルターをゴツゴツと叩いて壊し、研究者と鎖に拘束された少女がいた。

 

 

 

 

「い、いや……助けてお兄ちゃん」

 小うるさい研究者をペチペチと跳ね除け、少女へ視線を投げかけた。

 

 

 

 

「じゃあ、元の場所に帰れ」

 ぐしゃり。少女に眠るコアだけを完全に破壊した。中に眠る天使は空に登っていく。ムカつくのでぶん殴ってやろうとしたが、登るスピードの方が早かった。

 

 

 

 

 

 

「貴様……なんてことを……!」

 目つきの悪い男は憤怒に塗れていた。怖い。

 

 

「危ないことをするからだ。あと、ここにぶつかってこんな成り行きになったのは俺のせいじゃないからな」

 通らないだろう言い訳をし、逃げるように空を走って逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘だ……」

 

 

「残念ながら……」

 

 

「未来ー!いるんだろー、なぁ、早く出てこいよ。兄ちゃん心配だぞお!!」

 

 

「……っ」

 憔悴して、あてもない希望にすがりつく一人の少年を周りの人間は見ていられなかった。

 

 

 

がらっ……

 

 

「未来ッ!?」

 瓦礫に反応して駆け寄った。

 

 

「あ……あ……ああああ!!!!」

 そこには、若く白い少女の首がーー真っ赤な血の華を咲かせていた。少年の大事な何かはひび割れて、粉々になった。

 

 

 

 

 

 

 

「少年……こうなった原因を知っているか」

 

 

「……ッ! お、教えてくれ!なんだってする。だがら……妹を苦しめた奴を……」

 ビクン!と身体が痙攣した。ツノが少し生えている。

 

 

 

「鬼か……」

 柊暮人は鯉口を切り、雷鳴鬼で斬りつけようとした。

 

 

「……?」

 鬼のツノが自然と収まっていく。

 

 

 

「ふむ……?」

 珍しい現象を見た。そして、正気を保っている少年、君月士方に威圧的に話しかけた。

 

 

 

「なんでもするか?」

 天使ではなく、悪魔は傷ついた少年に微笑んだ。

 

 

 

 

「ああ、なんでもしてやるよ、その代わり……教えろ」

 

 

 

「いいだろう、ついて来い」

 少年は、悪魔との契約を結んだ。そして、少年は鬼になった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ヤン! 久しぶり!!」

 

 

「ああ、久しぶりだな。優一郎」

 

 

 

「にしても、ヤンは第一の方なのに。間違えるなんておっちょこちょいだなぁ」

 

 

「ハハ、まあ、焦ってたんだよ」

 

 

「にしてもだ。君は帝鬼軍の組に正式に入ったのか?」

 

 

「ああ。ようやくだぜ。グレンの野郎がまた酷くてな……」

 優一郎の楽しかったこと、疲れたこと、嫌だったこと。大袈裟で稚拙なのかもしれないが、ワクワクに溢れている彼の口調は間違いなく面白かった。

 

 

「そういや、君月ってやつがいるんだけどな、最近はこねぇのよ。どっかに移動になったらしいし、最後に見たときのあの目……」

 

「目がどうしたって?」

 

「……あ、いや、ちょっと不安に思っただけ。元気にしてっかな?」

 

「してるんじゃない?」

 

 

「そう、だよな」

 

 

 

 

 

 

「あら、優さんと……どなたでしょう?」

 

「シノアか。こいつはヤン。第一の方に通ってるんだ。おっちょこちょいだけど、いいやつだな」

 

「おい、おっちょこちょいは余計だ。あ、これはどうも、シノア……さん?」

 

「……初めまして、柊シノアと申します。」

 

 

「ヤンって言います。どうぞよろしく、同級生かなんか?」

 

「はい! 優さんとはとってーも仲良くさせてもらってますよ」

 ニコッと蠱惑的な微笑み、優一郎は真っ直ぐ過ぎるから好かれるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 その時、突然にサイレンが鳴った。

 

 

 

「外敵が侵入しました。市民の皆様は外出を控え、避難誘導に従って下さい。繰り返しますーー」

 

 

 

 

「シノア」

 

「ええ、出番です。ヤンさんは、あちらの方にシェルターがあるので避難を」

 

「うん、気をつけて」

 どうやら敵が市街地へ侵入したらしい。帝鬼軍所属の二人は仕事をするべく、現場へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だなぁ……」

 面白そうな二人が居なくなって毎日が日曜日状態の俺は、娯楽に飢える。ごろんと芝生の上に寝そべった。

 

 

 

「うるさくて目も閉じられないよ。暇だ暇」

 サイレンは相変わらずウーウー!!と耳障りな音を流している。

 

 

 

 

「やっぱり、京都の方にいればよかったかな……」

 特別変わり者の友人の顔を思い出し、俺は居眠りを始めた。

 

 

 

 

 

 

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「何ですかな、暮人殿。我々も決して暇では無いのですよ」

 

「貴方のことだ。無駄な事は無いと分かっているが、もう少し早めに通達してくれ。こちらにも色々とあるのだ」

 なんだかんだと文句を言いながら彼らは席についた。

 

 

 

 

「では、始めようか」

 一人の男が言うと、柊暮人の従者、三宮葵がパネルを操作した。

 

 

 

「これは、この間の病院倒壊事故の際の映像です」

 ギリギリ残っていたかなり荒い映像には、柊暮人ととある少女、青い異形が居る。

 

 

 青い異形は身体が縮んでいき、身長170センチほどの人型へ変態した。

 

 

 

「な……」

 

「いや、どうなっている!?」

 

「計画はどうされるおつもりか!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 柊暮人は壁を叩いた。頑丈なはずの壁には大きな亀裂が走る。

 

 

 

「あのバケモノが去った後、非常に面白い物質が落ちていた。持って来い」

 合図と共に厳重な密閉を施された透明なカプセルが運ばれていた。

 

 

「これは……何かね?」

 

 

「あの蜘蛛は、人型へと変化する際に言わば老廃物に似た物質を残しています。その老廃物を使用した実験映像をご覧ください」

 

 

 ピ!とパネルのボタンをを彼女が押す。2番目の実験映像が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……柔らかいだと?」

 

「しかし、先程は異様な頑丈さを見せたのでは無いかね?」

 今はブニョブニョとしている状態だが、先程見た物は異様な頑丈さで、低級の鬼呪装備では歯が立たないくらいの硬度だった。男たちの目には未知の物体への好奇心に溢れ、目を子供のようにキラキラと輝かせていた。

 

 

 

 

 

「調査によると、この物質は地球上には存在しない未知の有機体で、計算上では本体の外皮はどんな物質よりも『柔らかく』そして『硬い』そうです」

 

 

「素晴らしいな、転用の目処は?」

 

「既に」

 

 

 

「なら良し、我々も協力する」

 会議はお開きとなった。そこから出て行った男たちは、上機嫌な者ととても不機嫌な者の二種類に分かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今後の参考に

  • 暴れよう
  • 大人しくする
  • 引っ掻き回す
  • 全滅させる

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