基本設定としては
主人公:■■(ボク)。藤丸立夏ではない、どこにでもいる普通の一般人男子。大体13歳ぐらい。数奇な縁で沖田さんとお付き合いしている。実家が剣道場。
沖田さん:完全無欠の美少女天才剣士系ヒロイン。本作では19歳ぐらいをイメージ。凛々しく可憐なお姉さん。主人公の親とは知己でよく出稽古にやって来てくれる。病弱で稀にコフるけど、肺結核で命に関わる重病人いうわけではない。どちらかと言えばFGO時空よりも帝都聖杯奇譚の沖田さんの近い雰囲気をイメージ。
一応、現代パロのような世界観。
これらの要素があることに加えて、作者の沖田さんへの愛情と妄想と趣味趣向が融合合体した名状しがたい混沌のような内容になっているのを踏まえてお読みください。
正直キャラ崩壊しているだろうし、文体とか構成とかも酷いもんです。
でも、沖田さんへ捧げる愛情は本物だから!
お見苦しい稚拙な作品かと思いますどうぞよろしくお願いします。
「ボクと……お付き合いしてくれませんか!」
鮮やかな桜の花びらが舞い散る木の下でいまにも爆発しそうな胸の鼓動を抑えて、想いの限りに言葉を声にする。
初めて出会って縁を結んだあの日から芽生えたこの気持ち。
この気持ちが恋だと気付いてから、ずっとずっと募らせたこの想い。
緊張と昂りで倒れそうなぐらいに震えるボクの言葉に桜の花弁よりもずっとずっと綺麗で愛おしい彼女が初めて見せたきょとんとしたあの顔を忘れることは一生ないだろう。
子供の戯れだと笑い飛ばされても可笑しくはなかっただろうに、熱意ばかりのがむしゃらな行動だとボク自身も分かっていた。
ただこの気持ちを伝える前に彼女が他の誰かのものになってしまうのだけには耐えられなくて、想いだけでも直接届けたかったボクの言葉を彼女は静かに受け止めて――。
「――色恋沙汰には疎い私でも構わないと言うのなら、喜んで」
見惚れるほど儚げに微笑んで、けれど剣を握っている時と同じく鋼を思わせる揺るがぬ意思が宿った真剣な眼差しで答えてくれた彼女の言葉。
快活で優しげな沖田さんの声を聞いた途端に安堵感で答えの是非に関係なくボクが腰を抜かして倒れてしまったのは恥ずかしながら、いまでも良い思い出話だ。
忘れもしない。
今年の卯月のとある日のことだ。
そして、季節は巡る――。
※
八月の朝は既に照りつける日差しとけたたましい蝉の鳴き声の大合唱で騒がしい。
それに加えてのこの灼熱の暑さ。何も無い平凡な一日なら、あるいは実家が剣道場なんて営んでいなければボクもまだクーラーの効いた寝室でまどろんでいたのかもしれない。
だけど、今日は違う。
両親が結婚記念日の旅行で家を三日間留守にする間、密かにお付き合いしている恋人であり、出稽古の講師としての信頼も厚い沖田さんが保護者代理として我が家に泊まりに来てくれるのだ。これがときめかずにいられるわけがない。
そんなもので、待ち遠しさのあまりボクは朝の四時前から起きている。
両親の出発を見送り、約束の時間の30分も前から剣道場の正門で彼女がやって来るのを待っている。無用な心配かもしれないけど、この酷暑の道中で何かトラブルに遭っていないかな?なんて案じていると陽炎に揺らめく道の向こうから彼女の姿が見えてきた。
プラチナブロンドと言うのだろうか魅惑的な色彩の髪がサラサラと風に揺れている。後ろの方で髪の一房を結んでいる黒いリボンとぴょんっと跳ねた小振りなアホ毛は今日も変わらず可愛らしい。
その女性の名は沖田総司。
沖田さん――ボクよりちょっとお姉さんの世界で一番大切な彼女さんだ。
「おはようございます。それでは三日間、不束者ですがよろしくお願いします」
「は……はい。こちらこそ」
桜色のハイカラな和装に身を包んだ沖田さんは涼しげに微笑を浮かべて、ボクに向かってぺこりと一礼する。汗一つかいていない清廉な雰囲気。まるで彼女の周りだけ滝が流れる森林の中のようだ。
もう何度も顔を合わせて、他愛のないお話も数え切れないぐらい交わしているけれど――何度目だって、沖田さんとこうして会える度に鼓動が早鐘を打って、外の暑さとは違う何かで体温がぐーっと上がって行くのを実感する。
沖田さんと同じ時間を過ごせることがボクはどうしようもなく嬉しいんだ。
「どうしました■■くん? 私の顔に何かついていますか?」
ボクの些細な異変に気付いた沖田さんが小首を傾げて聞いてくる。
いつも道場で年少の子供たちと接する時のような明るく愛嬌たっぷりの雰囲気とは少し違う、クールで凛々しくてどこか浮世離れしたような佇まい。
ボクと二人だけでいるときの沖田さんはどちらかというとこのカッコいい大和撫子なお姉さんモードのことが多い。
「だ、だって、沖田さんのいまのあいさつ。その、まるでお嫁さんに来てくれたみたいで」
「あはは、確かにそうですね。では、折角ですのでそういうことにしておきましょうか。ね、旦那さま?」
屈託ない朗らかな笑顔からの隙を生じぬ二段構えで沖田さんは恭しく大人びた声でそうボクの耳元で囁いた。
「ふふ……冗談はさておき。まずは何時もの日課と参りましょう」
声にならない声を出してあたふたと身悶えているボクをひとしきり楽しんでから、軽い足取りで一先ず荷物を置きに母屋へ向かう。そして、普段よりは少し遅めだが二人きりでの朝稽古の支度を始めた。
※
二人だけということもあり、午前の道場は何時もよりも無音で厳かな雰囲気が溢れていた。基礎練習を終えた後、地稽古形式で本格的に朝稽古を始める。
防具一式を身に纏ったボクの目の前には歴戦の雰囲気が漂う白い道着と黒袴に身を包み、髪をポニーテールで纏めた沖田さんが元立ち役として相対する。
身に付ける防具は籠手と胴のみ。面を被らないのは慢心や怠惰ではない、圧倒的な実力差が故の当然の帰結というべきか。
真っ直ぐに見つめるボクの視線の先にいる沖田さんの顔つきはとっくの昔に引き締まった抜き身の刃のような鋭いソレに変わっていた。
髪を纏めた時から?
道着に袖を通した時から?
剣を握った時から?
否、否――正門の敷居を跨いだその時から、彼女はもう侍なのだ。
「いいですよ。■■くんのお好きなように打ち込んで来て下さい」
「はい! お願いします!」
互いに一礼して、気を吐くように大声を上げながら、沖田さんの指示に従いボクは面を打ち込んでいく。だが、その一振りは届かない。
「仕掛ける動作がバレバレですよ! 呼吸で気取られるというのを意識しなさい!」
まるで別人のように声を荒げた沖田さんの激が飛ぶ。
言葉よりも速く彼女の籠手打ちがボクの面を阻み、竹が爆ぜたような乾いた音が小気味よく響く。
痛みは殆ど感じない。あるのは寒気のみ。
背筋が凍る悪寒と言ってもいい感覚が全身を駆け廻る。きっと、これが真剣ならボクの右手首は骨ごと見事に輪切りにされているだろう。
まだまだ未熟なボクでも、やっと摺り足を覚えたような初心者でも分かってしまう。沖田総司という女性がどれほど規格外の天賦の才を持った剣士なのかを。
だが、物怖じする間も惜しんでボクは決死の思いで技を繰り出し向かって行く。沖田さんとの二人っきりの稽古なんて滅多に出来ることじゃない。一分一秒が惜しい。
「踏み込みが甘いです! それに上半身の動きが遅れています!」
竹刀を振り上げて踏み込むよりも前に見事な面を打ち込まれる。
「声が小さい! 気合いが足りていませんよ! 型だの技だのは二の次です!」
胴を決めるが沖田さんの面からの体当てに押し負けて後ずさる。
「男子でしょう! 意地を見せなさい! さあ、もう一本!!」
面を切り返されて、返し胴の一撃の天晴れさに思わず頭が真っ白になる。
本来は相手に当ててこそ稽古になる剣道だが沖田さんとの稽古はそれとは異なり、やられても力になるとボクは思っている。
天才的な技量から繰り出される一太刀、一太刀をその身に食らうだけでもそれはその人の糧となるだろう。それぐらい沖田さんの剣はすごいのだ。
だが、それを加味しても稽古中の沖田さんは飛び抜けて厳しい。
正直ちょっと怖い――ごめんなさい、訂正します。すごく怖い。
人が変わったように、では生易しい。
まるで戦国か幕末の剣鬼が乗り移ったのかと思えるほど激しく荒々しい。
稽古中に倒れ込むような者が現れるようなものなら、力づくで立ち上がらせるなんてのは日常茶飯事だ。小学生低学年あたりの年少者たちにはある程度の加減をしてくれるがそれが同世代や体力があり余った二、三十代の男の人であるならば「腑抜け者!」と道場の外へ放り出して水を浴びせて喝を入れることもある。
でも、その激しさの中には剣に懸けた想いがある。
でも、その荒々しさには剣に託した願いがある。
後輩たちへ剣を教えることへの真摯でひた向きな信念があることを誰もが知っているからボクを含めて実家の門下生たちはその厳しさを受け止めて尚、彼女を慕っているんだと思っている。
「ハァ……ハァ……まだ、まだぁ!」
「それです! 土壇場で気合を出せるかどうかが剣の真髄です! 丹田から気合を振り絞りなさい、ここが正念場ですよ!」
嵐の中で喰い合う獣のように激しく打ち合う間に(とはいえ、殆ど一方的だけど)あっという間にボロ雑巾のように揉まれて、ただでさえ暑い中で防具を纏ったボクの全身は滝のように汗を噴き出し、悲鳴を上げている。
籠手の中では汗で水溜りが出来ているだろう。足元も汗や皮が剥けて滲んだ体液でぬかるんでいる。
暑いし、痛いし、苦しい。
だけど、それ以上にずっとずっと楽しさと嬉しさが勝ってボクの体を動かしている。
沖田さんとの二人だけの稽古が……こうして、誰にも邪魔されずに剣を交えられることが嬉しくて仕方ない。
いまこの時間だけは正真正銘――大好きな沖田さんのことを独り占めできるんだから。
だけど――。
「ゼェ……ハァ……!」
だけど、だけど、だけど――。
ふと、思うことがある。思ってしまうことがある。
ボクなんかのために、沖田さんの時間を使ってしまって本当に良いのだろうか?
彼女の周りにはボクよりもずっと強くて恰好良い男の人なんて沢山いる。
なのに、彼女はボクを選んでくれた。
色んなところへ二人で遊びに行き、色んな景色を二人で観て、色んな事を二人で体験した。
彼女の笑顔を見て、彼女の声を聞けて、彼女と同じ時間を一緒に過ごせてボクは本当に楽しくて幸せだった。でも、彼女はボクと一緒にいる時間を本当に楽しんでくれただろうか?
ボクは沖田さんの大切な時間を無駄に使ってしまってはいないだろうか?
もっと沖田さんが幸せでいられる素敵な誰かがボクの他にいるのではないだろうか?
ふと、立ち止まって考えを巡らせるとそんな不安を抱いてしまう。
「動きが雑になっています! 正念場だと言ったのを忘れましたか!」
「ハッ! ハッ…ィ…やあああああ!!」
沖田さんの険しい叱責の声にハッと我に返る。
思わず湧き上がってしまった後ろ暗い気持ちを振り払って無我夢中で振り払い、竹刀を振り上げると沖田さんもそれに合わせて縦一閃に得物を振り下ろして鍔迫り合いの形になった。
「え……?」
予想していなかった状態にボクは思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
この一太刀だけは沖田さんは明らかに手加減をしている。
そうじゃなきゃ、ボクと沖田さんとで鍔迫り合いになるなんてあり得ないことだ。沖田さんの剣は並みの剣士では鍔迫り合いに持ち込むことなんて不可能なほどに速いのだから。
「どうしました。ついさっきまであんなに良かったのに、剣に淀みがありますよ」
ボクよりも小さくて華奢な体格で、それでもまるで鉄の壁のようにビクともしない沖田さんの声が心に突き刺さる。
まるで不甲斐なさや情けなさが押し詰められたいまのボクの心の裡を全て見透かされてしまったような、後ろめたい気持ちが加速する。
そう考えてしまった途端にいつもいつでも、ずっと目に焼き付けていたいと思っている沖田さんの顔も瞳も見る勇気が出せない。
「いまは私だけを見なさい!」
「――ッ!?」
ボクの葛藤を知ってか知らずか竹刀を通じて感じる違和感だけでそう凛々しい声を張り上げて言う沖田さんの言葉にまるで風穴を空けられたような感覚になった。
「私も■■くんもいまこの場では等しくただの剣士です。だから、もしも何か言葉では言い難い物があるのなら全ては剣で伝えなさい。それが
沖田さんの言葉を受けて、心に刺さった棘が抜けるような気がした。
心の中にずっと漂っていた黒雲が一瞬で霧散したような爽やかな気持ちがした。
「ハイ――!!」
腹の底からとびきり大きな声を出して沖田さんに応える。
そうだ。何を弱気になっているんだ。
ボクは彼女のことが世界で一番大好きだと伝えて、彼女はボクを選んでくれた。
他の男の人なんて気にする必要なんてない。そんな暇があったら、自分を鍛えて彼女を世界で一番幸せにする方法を考えるのが筋だろう。
前を見ろ。
前を見て、進め。
前を見て、突き進んで、思いっきり伝えろ。
沖田さん――貴女のためにも強くなる。
貴女に相応しい男になって見せると言う決意を剣に込めて、届けるんだ。
「うあああああ! めぇえええんんッ!!」
「まだ――!!」
心技体のうち、心に全振りしたような我武者羅な一撃は鮮やかな返し技で捌かれて、あべこべに沖田さんの得意手である突きを胴に受けて、ボクは宙を舞っていた。
「お見事――とはまだまだ言ってあげられませんがいまの面は良かったですよ。太刀筋に気持ちがよく宿っていました」
「あ……ありがと、ございます」
弾き飛ばされて今度こそ大の字で倒れたまま動けないボクに手を差し伸べて、沖田さんはいつもの朗らかな笑顔で褒めてくれた。
「少し稽古に熱が入りすぎてしまいましたね。母屋の方から飲み物を取ってきますので少し休んでいてください。ほら、団扇をどうぞ」
四苦八苦しながらどうにか面を脱いで、沖田さんから受け取った団扇を扇ぐ。
こんなにも体力を使ったのは久しぶりだと思えるほどに体中から脱力していた。
そんなボクを微笑ましそうに見届けて、沖田さんは自前の手拭を首にかけつつ、母屋目指して道場を出た。
彼女の気配が遠くなるのを確認して、ボクはついに我慢を続けることを出来ずにだらしなくその場に寝そべってダウンした。
折角手渡された団扇を扇ぐ余力も殆どなかったが熱気が途切れた道場には風が吹き込んで来て心地良く、ボクはしばらくぼんやりと稽古後の虚脱感に浸る
※
「沖田さん……遅いな」
沖田さんが戻って来るが遅いので要らぬ心配かもしれないが近くを探すことにした。
行き違いになるのも不味いので道場から母屋へと続く道筋を辿っていくと中庭に人の気配を感じた。そして、ぱしゃーんという気持ちの良い水音も。
我が家の中庭には現役の井戸がある。
井戸水は酷暑が続く八月でも水道水よりも遥かに冷たく、毎年この時期になると野菜や果物を冷やしたり、大きなタライに並々と水を溜めて、足湯ならぬ足水として門下生の仲間たちと涼を取ったりと重宝する。
井戸が見えてくると物陰に隠れがちだが確かに沖田さんの姿も見えて一安心。
彼女のすぐ傍には水の注がれた小さな木桶に二本のペットボトルが浮かんでいる。きっと、少しでも冷やした状態で持ってくるつもりだったのだろう。
「沖田さ……!」
沖田さんの優しい心遣いに胸をぽかぽかと熱くさせながら、声をかけようとした時だった。彼女の異変に気付いたのは――。
ボクの視界に映る沖田さんは真っ白で傷一つない綺麗な後姿を見せながら、打ち水なんかに使う大きな桶で井戸水を汲んでいた。
華奢でありながらよく鍛えられ、くびれもくっきりとある女性らしい背中が――あれ?
ボクの目には沖田さんのうなじが見えた。
きめ細かい白い肌の背中が見えた。
腰から黒袴に両肌脱ぎで垂れ下がる、白い道着が見えた。
見えてしまった。何もかも――丸見えだった。
「ひゃー! 冷たいけど、サッパリしますね。多摩の川で飛び込んで遊んでいた子供の頃を思い出しますとも」
頭から豪快に桶の水を被って、沖田さんは無邪気な様子で眩しい笑顔を見せた。
舶来の美術品のような白金色の髪は水に濡れたことでより艶やかになって、水遊びをする子犬のように沖田さんが身体を震わせるのに合わせて夏の空に揺れる。
それと同時に沖田さんの胸元で熟れた枇杷のように形の良い、二つの大きなおっぱ――胸もまた無防備かつ暴力的に踊っている。
「■■■■■――!?」
沖田さんの名前を呼んだつもりが、思わず狂戦士のような絶叫を上げてしまったのかもしれない。そんな些細なことはどうでもいいや。
確かなのはいま目の前の光景を一目見て、ボクの健全な青少年の理性は水風船のように吹き飛んだ。
「あ、すみません。汗臭い女が傍にいては落ち着かないかと思いまして。この時期でも井戸水は冷たくて気持ちいですね。■■くんもどうですか?」
言葉にならない絶叫でボクに気付いた沖田さんはちょっと的外れな気遣いをしてくれながら、涼やかで凛々しい物腰のまま、当たり前のように上半身裸でこちらへと正面を向いた。
全部見えた。
普段はサラシに隠された東洋の神秘としか表現できない、年上の綺麗なお姉さんの大きな■■■■(自主規制)
薄らと鍛えられた腹筋の存在を感じるすべすべな肌をしたお腹とおへそ。
こんな明るいうちからボクの年齢では絶対に見られないし、見てはいけない美しい光景が向こうの方からノーガードで飛び込んできた。
「お、おおお……沖田さん! 服ぅううう―――!!」
「福? あ……これはすみません! お見苦しい物をお見せしてしまって、つい普段の癖で……」
いくら他に人が居ないとはいえ、まだ明るい正午前の屋外で流石にそれは不味いですよ。
両目に手を覆わせて叫んだボクの言葉に、はてと気付いた沖田さんは申し訳なさそうに右腕で胸元を隠して困ったように笑っている。
うん。ボクが想像していたリアクションとはかなり違う。
お見苦しいどころか、眼福ですと拝み倒してもまだ足りないものを見てしまった。
不甲斐ないの極みだけど、本当はもっと見たかったけどそこは理性が辛勝した。
薄々気付いていたけど、沖田さんは自分の容姿やスタイルの良さにビックリするほど自覚がないのだ。
「あばばばば……あ!?」
「■■くん、大丈夫ですか? 顔が赤過ぎるようですが……?」
沖田さんが何かを喋っているようだけど、おかしいな。こんな近くにいるのによく聞き取れない。というか、血が頭に回っているのかこめかみあたりの血管がビクビクして、なんだか気持ち悪い。
「いえ、その……あの、ありがとうござい――ます」
「ちょっと!? ■■くん!? しっかりして下さい!」
なんだか、いまボクはすごく不謹慎で男子としてあまりよくないことを言った気がするけど、おかしいな。目の前は霞んで見えるし、頭がぼーっとして何も考えられないような。
沖田さんの声が更にどんどんと遠ざかっていくような感覚になって、ぷつりとボクの意識は途切れた。
※
「う……ん? あれ」
「よかった。気が付きましたか?」
一定のリズムで吹いてくる気持ちの良いそよ風と頭に感じる柔らかくて、やや筋肉質な感触でボクは目を覚ました。
ちょっと悲しそうな沖田さんの顔がすぐ近くにある。どうやら、ボクを膝枕してくれているみたいだ。袴ごしに伝わる彼女の太ももの感触がすごく気持ちよくて、またすぐに深い眠りへ落ちてしまいそうになるぐらいだ。
「ボク、気絶してました?」
「はい。軽い熱中症でしょうか、ごめんなさい。こんな暑さの中で稽古の合間にちゃんと水分を摂らせなかった私の落ち度です。ご両親に貴方を任されておきながら不甲斐ない」
「そんなこと気にしないで沖田さん。ボクも沖田さんとの稽古に夢中になってそんなこと気にもしてなかったのも悪いんだから」
「ですがそれでは私の気が収まりません。何かちゃんとお詫びをしなければ」
「なら、あの……ひとつお願いがあるんですが」
「なんでしょう? 私に出来ることなら何でも言ってみて下さい」
「もうちょっと、このまま膝枕してもらっても? 沖田さんの膝枕、すごく気持ちいいです」
膝枕の姿勢を崩さないまま、沈んだ声で頭を下げる沖田さんに思わずボクはそんなことを口走ってしまった。
沖田さんはボクの言葉に一瞬目を丸くしたかと思うと小さく照れ臭そうに口元を綻ばせ「お安い御用ですとも」と優しくボクの頭を撫でてくれた。
お言葉に甘えて、彼女の膝枕にたっぷりと耽る。
世界がすごく静かで冷やかな空間になったような気分だった。
相変わらず外も道場の中も照りつける太陽の日差しで暑いはずなのに爽やかで。
喧しく命の音を掻き鳴らす蝉の鳴き声は聞き心地が良い。
沖田さんと一緒にいるからだろうか?
自然と瞼が閉じて、すぐ傍に居てくれる彼女のことを肌で感じる。
「これは私の独り言のようなものなので……」
不意に「聞き流してくれて構わない」と前置きを入れて沖田さんがぽつり、ぽつりと話し始めた。
「試衛館に出入りする子供たちも、ここの門下生の子供たちも他の人たちもみんな……ある程度、歳を重ねて剣についてのイロハを学んでくると私から離れていくんですよね。その、稽古に来ないとかそういうのではなく――心が遠ざかっていくと言いますか」
寂しさも、怒りもない。
まるで無感情な乾いた声色だった。
「土方さんたち小さな頃からの古馴染みの皆さんはそれほどでもないんですけど、みんなが私を違う生き物を見るような感じを気配で察してしまうと言いますか」
悲しさも、憤りもない。
まるで透明で消えてしまいそうな声色だった。
「剣しか取り柄のない女だと、自覚はしていたんですがこう……みんながみんなにそんな風に思われると自覚してしまうと少々堪えるものがなかったと言ったら嘘になりましたね」
目を閉じていても、いま彼女がどんな顔をしているのかが手に取るように分かるような気がして。何よりも彼女がそんな風に思っていたなんてこれっぽっちも考えていなかった。
そんなことはないと瞳を開いて叫ぼうと飛び起きようとした時だ――ボクの頭を撫でていた沖田さんの手に少し力が入る。まるでボクを抑えるように。
「そんな時でした。君に出逢ったのは……幾つになっても、立派に自分の剣の道を見つけ始めて成長しても、変わることなく私に気安く接してくれたのは――■■くんが初めてだったんです」
温かくて、親愛の込められた声がボクへと降りしきる。
「ありがとうございます。私の間合いにいつも変わらず飛び込んで来てくれる君が居てくれることが本当に嬉しかった」
凛とした声に深い懸想の詰まった熱情が織り交ぜられたその言葉がボクの全身に沁み込んでいくようだった。そんな風に思われているだなんてことも、これっぽっちも考えたりしていなかった。
「君が私に恋慕の想いを伝えてくれた日……■■くんを万が一にも他の誰かに盗られてしまうのが嫌で我慢ならなかったので本当なら歳の差とか色々と年長者として憂慮しなければいけないのを全部投げ捨てて――君のことを鴨が葱を背負って来たとばかりに手に入れてしまいました」
「沖田さん……ボクはっ」
「今日の稽古は私の期待以上によく頑張りました。修行熱心な者には褒美をあげないといけませんね」
頭上に映る、沖田さんの綺麗な顔がすっと降りてくる。
ゆっくりと、でも確実に距離が詰められて――そっと、沖田さんの唇とボクの唇が触れあった。
キス。
チュー。
口づけ。
彼氏と彼女――つまりは恋人。愛し合う二人が、その愛情を確かめ伝えあうためにするソレをいまボクと沖田さんは初めてしている。それを自覚するのに数秒はかかった。
まるで世界の時間が止ったような気分だった。
この時間が永遠に続いて欲しい気持ちだった。
いまこの星で誰よりも幸せだと胸を張って言える心地だった。
ボクが心の裡で決壊しそうなぐらいに押し寄せる幸福感に頭の中でてんやわんやしている間に彼女の唇が静かに離れていく。
熱い吐息が聞こえ、わずかに頬を紅潮させた沖田さんがボクのことをじっと見つめて微笑んでいた。
「えっと、我ながら少し大胆かと思ったのですがどうでしたでしょうか? その、土方さんがどこからか知り合っては仲良くなってる女性たちにやってたのを真似してみたのですが?」
「――沖田さん」
どこか所作なさげに、珍しく目を泳がせていう沖田さん。
その姿はとても新鮮でやっぱり可愛いと思えるのだけど、このご褒美は刺激が強すぎた。既に図らずも彼女のあられもない姿を見てしまい、ガタガタになっていた理性が消し飛ぶのと同時にふとボクの心の奥底で黒い感情が湧き上がってしまう。
「あの、もしかして嫌な気分にさせてしまいましたか?」
むくりと起き上ったボクは据わった目で彼女を見つめていたんだろう。
驚いて凛々しい顔を崩して戸惑う彼女の綺麗な顔がその証拠だ。
さっき、沖田さんがしたように先手を取ってぐっと二人の顔の距離を詰める。そして、右手は彼女の背中に、左手はきめ細やかな白金色の髪に、それぞれ彼女を抱きしめるように腕を伸ばす。
「いま、他の男の人の名前なんて言わないで下さい」
「え……?」
「お返しです」
自分でも驚くほど低い声で短く呟いて、今度はボクの方から彼女にキスをした。
唇に唇を押し付け、猛る情愛に任せて舌で無理やり沖田さんの口をこじ開ける。
「んちゅっ、んん……はぁ、あむ……ぷはっ……ちゅうぅう」
「っ――んあ、はむ……ちゅっ、ぅふん……ずじゅる、んん」
幸い、拒絶は無かった。
むしろ、彼女の方もボクの大胆な思いきった行動で箍が外れてしまったのか負けじと燃えるような熱を帯びた舌先を激しく絡めてくる。
技だとか、上手い下手の概念はなかった。
剣と同じく口づけという相手に想いを伝える唯一の術にありったけの愛情を宿して、愛する者を互いに貪り合うようなボクと彼女の姿があった。
唾液で艶っぽく激しい水音を遠慮なく道場内に響かせて、一心不乱にボクと彼女はキスをし合う。だけど、そのうちに段々と呼吸が苦しくなって流石に一度互いの唇を別れさせる。そうして唇と離すと熱く濡れた舌と舌を細く煌めいた銀のかけ橋が繋ぐ。
「好き。すき、すき……大好きです、とも。君のこと、あたまが可笑しくなってしまうぐらい大好きです」
「ハッ……ハッ……ハッ……ボクも、ボクだって、世界で誰よりも一番っ、沖田さんが大好きです」
ボクと沖田さんを繋ぐ唾液の架け橋が切れてしまっても、ボクたちは頬も耳も真っ赤に染まっただらしない顔で見つめ合って、羞恥をかなぐり捨てて愛を囁き合う。
ポニーテールにしていることで普段以上にキリっと引き締まって、凛としているはずの沖田さんの顔はふにゃふにゃに蕩けきっている。
ボクのことを見つめる爛々と輝き潤んだ瞳にまるで吸い込まれそうになる気持ちになって、どちらが言い出すわけでもなく、二人はまた唇を重ね合う。
「ん、っぷぁは……■■くん。もっと、もっと、貴方をください。沖田さんに……くちゅ、あふっ……んちゅっ、じゅぅぅ」
「すき。好きです……沖田さん……っは、おきたさぁん。あ、ぅうん……ふぁあっ……あむっ、んじゅるっ、あぁぁ」
キスと言うにはそれはあまりにも乱暴で艶やか過ぎた。
接吻、口吸いと表現するのが正しいような情熱的な愛撫をひたすらに行う。
二人とも蕩け切った意識の中で溶けて一つになってしまうんじゃないかというぐらいに密着して、瞳を見つめ合ったまま無意識に互いの手がおっかなびっくりな動きで道着の襟元へ伸びていく――。
「にゃー」
そんな時、不意に近くを通りかかった野良猫の鳴き声でボクと沖田さんはハッと我に返って、無意識に距離を取った。
愛おしさや嬉しさ、恥ずかしさ、気持ち良さにイケないことをしてしまった罪悪感。そんな沢山の気持ちがバケツの中で滅茶苦茶にかき混ぜられた気分だ。
沖田さんもボクと同じ心境なのかまだ顔を耳まで真っ赤にしたままそっぽを向いている。さっきまで貪り絡め合っていた桜色の唇は固く真一文字に結ばれて、微かに二人の混じり合った体液で濡れている。
「あ、あの……いまのはその、暑さで蜃気楼か何か幻を見ていたことにしませんか? 沖田さんにも■■くんにもこの先のことはまだちょっと手に余ることだと思いますので。精進が足りないと言いますか……ははは」
「そうですね。さ、賛成です」
沖田さんがぎこちない口調で早口に捲し立てた助け船にこれ幸いと乗り込むようにボクも首縦にぶんぶんと縦に振って答えた。
恐る恐る、気取られないように横目でチラリと彼女の方を見ると沖田さんはスーハースーハーと何度も深呼吸して、平常心を取り戻している最中だった。
健全な男子中学生の本心で言えば、少しだけ心惜しいさがないわけではないがそれよりも沖田さんを困らせたくないという気持ちが勝ってボクも少しずつ、茹り切った思考回路が元に戻っていく。
本当にあの野良猫には感謝しなければいけないなと思うと何処からか「本作品はR-15。利用規約やコンプライアンスを守って、健全な恋爛漫を謳歌するのだワン!」という謎の声が聞こえた気がした。猫なのにワン?
兎に角、少しぐだぐだとしてしまったがどうにか何時もの二人の空気を取り戻せたボクたちは慌ただしく道場の片づけを済ませた。
「たはは。少し、妙な脱線をしてしまいましたがもうこんな時間です。折角ですのでお昼は外食にしてみませんか? 斎……知人から美味しいお蕎麦のお店を教えてもらったんですよ」
はにかみながら、そう言う沖田さんの言葉に道場の時計を見るとすっかりお昼を過ぎていた。確かに正気に戻ったらなんだかすごくお腹がすいてきた。
「是非いきたいです!」
「それは良かった。こんなに暑いとサッパリしたものが美味しいですからね。帰りにその……甘味処なんかも寄ってみたいのですが、お付き合いしてくれますか?」
子供のように無邪気に笑って、ちょっとだけ照れながら問いかけてくる沖田さんの言葉にボクは迷いのない全身全霊の想いで答えた。まるでこれからの自分の在り方のように。
「沖田さんとなら、どこまでも!」
しゃんと背筋を伸ばして、見惚れるような静かで流れるような一挙手一投足で道場を後にする彼女の背中を離れないように付いていく。
いまはまだ追いかけるので精一杯かもしれないけど、いつかはちゃんと貴女の隣を、胸を張って並び歩けるようなるんだと誓って。
「ありがとうございます。お夕飯は沖田さんが腕によりをかけて美味しい手料理をご馳走してあげますからね。楽しみにしていて下さい」
「ハイ!」
ボクの心を知ってか知らずか、沖田さんは真夏の青空よりも快活で、春の桜のように優しげな笑顔を見せてくれる。
彼女と一緒にいられることの幸せを噛みしめながら、この日々が少しでも長く続いてくれることを――沖田さんのことを少しでも今よりもたくさん、幸せにしてあげられるような男になれること、誰でもない貴女に誓いたい。
世界で一番愛している、ボクの大切な沖田さんへ。
いま、こうしてあとがきを書いているわけですが悟りを開いたと言いますか
色んな感情を放出して限りなく無に近い心境です。
本当にSSとしての体裁をギリギリ保っているのかも怪しい本作ですが
一応、一人称視点での小説を書くための練習と言う側面もあったりしました。
もしもよろしければ、後学のためにご意見、ご感想をお願いします。