いくら修練を積もうとそれが成果に結びつくかは別問題だ。どれほど槍を振っても手合わせで勝てるようにはならなかったし、薄い鉄すら誰も斬れるようにならなかった。そんな停滞の中でも、変わらず出撃はやってくる。
「――なんなのよ!」
変わらない天龍はいくら損傷しても敵艦隊の正面に立つ。そしてどれほど出撃を重ねても、私の脚は踏み出せなかった。敵の懐に入り込めなければただの艦娘と変わらない。なまじ本来の距離感を忘れただけ厄介だ。そんな理性もなんの解決を示してくれない。
吐き出した苛立ちも動力にならないで、戦闘は終わる。ただ今回は、救援した船の行先が鎮守府と近かったために送ることになった。何ということもない任務であり、実際深海棲艦に遭遇することもなく港に着いた。
また削られた人類の領土からの輸送船には子供たちがたくさん乗っていた。といっても私とあまり変わらないけれど。降りてきた子供たちは天龍に集まっていく。本人がどう思っているかは知らないけれど、親しみやすい感じは確かにある。
そんな光景になぜか肺が縮こまり、息が早くなった。
子供たちに群がられ、頭を撫でながら笑う天龍は間違いなく英雄で、私が馬鹿だと付した言葉も信じてしまいそうになる。私の言ったことなんか気にも留めず信じている彼女がまぶしくて、だからこそ――私は深淵に沈む。
私は気づけば天龍の前にいた。背の高い天龍に比べれば、私は子供たちにまぎれてしまう。なのに、私だけが違った。
「なんでよ…」
胸ぐらを掴んだと思っても、突き上げられる力は出なかった。崩れ落ちそうな体で縋り付く爪は服越しでも手のひらを傷つけた。私は信じない。だって、英雄なんてものが本当にいるのなら――
「なんであの時いてくれなかったのよ!なんで助けてくれなかったの!」
見上げた彼女の表情は日差しの陰になって分からない。
「…悪い」
ただその答えだけが降ってきて、私は思い知る。
「世界を救うって言ったじゃない…なのに、なんで…なんで私は――っっ」
――救われないの?
絶望が叫びに変わる前に、背後から肩を掴まれて私は地面にたたきつけられた。
「龍田!おまえ…」
「天龍ちゃん、行きましょう」
天龍が私を見下ろす龍田を咎めるが、当人は何も言わずに背を向け、ためらいを見せていた天龍も後を追う。だれもいなくなった港で、私は起き上がることもできずに天を見る。雲一つない空なのに、港の舗装が私の背から体温を奪う。
ずっとあの島で居たかった。おばあちゃんがいなくても、おじいちゃんと2人でただ何でもない日々を過ごしていきたかった。戦いなどない世界で、育てた野菜の出来や釣果に喜んだり怒ったり。
――それが、たったそれだけが、私の願い
誰もいない港で、私は目を袖で覆う。
奇跡のような時間を、あの島を取り戻したいのなら戦うしかない。
そんなの分かってる。はずなのに…
すべてを奪われた恐怖が、何もできなかった無力感が否定する。雨でかすむ向こうに見えた深海棲艦の大群が、叶わない願いだと突きつける。
だれも知らない島で生まれた叢雲の世界はあの島だけで、だれも知らない世界だ。だれも分かってくれない世界をかけた、私一人だけの戦い。
「助けてよ…」
か細いそれは、私の耳にすら届かなかった。