波濤の記憶 ~月に叢雲、花に風~   作:COOH

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今後考えてるサイドストーリーの準備だったり、叢雲と外れた話を補足したりする回です。
たまに挟んでいく予定です。


閑話①

「お久しぶりです、元帥」

確かにずいぶんと時間が経っていたが、同じ言葉を聞いた船の上が本当に久方ぶりだったので、少しばかりしっくりと来ない。

ああ、と頷いて席を勧めると亜庭は遠慮もなく座った。敬意は見せても謙遜も遠慮もないふるまいは昔から変わっていないようだ。

 

「どうだ?提督というものは」

幼い時から見ていた彼女と同じ提督として向かい合っているのは偶然なのか、必然なのか。

そのどちらであろうと、それが彼女にとって良いものであることを願って問いかけた。

「向いてませんね、私には」

願いなど、簡単に叶うものではない。それが努力や苦労の代価を払っていない無責任な願望ならなおさらだと分かっていても、申し訳なさそうに笑みを作る彼女を見たくはなかった。

「出撃していた時は、安全なところからぬくぬくと命令しやがって、とか思ってましたけどね」

顔に出てしまっていたのか、亜庭は冗談めかして笑う。

「出撃していたほうが気が楽でしたね…」

もう戻れない日々を惜しむような、それでもどこか安堵している自分をたしなめるような。ソファーの背にもたれて漏らした息は複雑だった。

 

 残念ながら、その思いを全ての提督が共有するものではない。自ら出撃したことがないのは当然だが、艦娘という存在を1人の少女であるとみなさないものも多い。どちらが正しいのか、目の前の彼女を見ていると分からなくなる。

「君の艦隊だ。どう運用しようが口出しをする気はない」

そのために、提督に任じたのだ。艦娘と接点も持ちすぎてしまった彼女の決断を知りたかった。

「…たとえ、出撃を行わずとも」

暗に、で終わらせるのは卑怯だろう。そう思いなおして口に出した。

「輸送任務ばっかりの鎮守府に配属させてもらって、そこまで甘えさせてもらうわけにはいきませんよ」

だが亜庭はあっけらかんと笑う。

「ま、お言葉に甘えて補給部隊として、のんびりやらせてもらいます」

昔から見慣れたいたずらっぽい亜庭に安堵を覚えるのは、我ながら安易だと思う。

 

「で、せっかくお呼ばれしたので私からもお話しがあるんですが」

ただのついで、といった軽い口調で身を乗り出した。それでも声はどこか切実だ。

「私の先輩で、かなりどころじゃなく優秀な人がいるんですが。それも指揮官向きで。その先輩、提督に引き抜いてこれませんかね?」

「ぜひ、といいたい提案だが、君の先輩ということは当然だが海軍の人間だろう?優れた人材をそう簡単に渡してはくれまい」

「そこは大丈夫ですよ。先輩、お偉方にかーなり嫌われちゃってますから。くれって言えば一つ返事でもらえます」

そう聞かされると引き抜ける抜けない以前の問題に思えるが。だがその反応を見越していた亜庭は手を振って否定する。

「先輩は真面目過ぎるだけですよ。あとつれないです。私とは逆に」

 

「逆、か…」

そこに含まれる意味を深読みする。

 自ら述べるように、亜庭は指揮官には向いていない。能力としてではなく、性格として。

 艦娘に向き合わない提督が多いのは、彼女達を理解しようとした提督たちが耐えられなかったからだ。目の前で話していた少女を死地に向かわせる責任に。少なくとも、閑職で、天下り先で行うことではなかった。だから、艦娘を兵器として扱える者だけが提督として残った。

 だが、艦娘を軍の所有物として扱うのなら、それは無関心からではなく職務への忠誠からであるべきだ。亜庭のいう者がそうであるというのであれば――

 

「いや…」

漏れた声が独り言にもならなかったのは、これまでの思考を否定したわけではなかったからだ。

 艦娘として、提督として艦娘に触れた亜庭が必要としたもの。そして――

――戦えって、言って…

それは大切な家族に与えられなかったもので、亜庭も持ちえないもの。

そう。艦娘とは一人ひとりが違う。だから、正しさも当然のように違う。亜庭には叶わぬ正しさを持っているというのなら――

「詳しく聞かせてくれ」

亜庭に正対し腰を据えた。

誰であろうと変わらない。提督たちが艦娘の命を使う責任を、その責任を負わせた業を、これからも積み重ねていくことには。

 

 

 

 

「吹雪さん…」

不安を隠しきれないのは仕方ない。だって、初めての出撃だから。私がそうだったのは、もうずいぶん昔みたい。いや、今だって怖いのは変わらない。

 私がここにいるのは、みんなのおかげだ。まっすぐに進むことすらできなかった私を助けてくれたみんなの。でも、私で良かったのか、そんな想いがいつも頭をよぎる。だって…

 ――私は誰も救えない。

 どれだけ伸ばしても届かない手。ようやく伸ばせられるようになったと思っても、結局なにも変わらなかった。ここにいるのがあの人なら、――さんなら…

 出撃のたびに動悸が激しくなる。また誰かいなくなるんじゃないのか、私は何もできないんじゃないのか?

「吹雪さん?」

これ以上心配させないために、頑張って笑ってみる。私にはまだ、その不安から救ってあげることができない。だから、そんなものなんてないんだと、気づかないふりして笑顔を作る。

 私でも、いつか誰かを助けられたらいいな。

そんな、遠い遠い願い。私なんかには無理なんじゃないかと怖くなる。

でも、約束したんだ。

――強くなるって。

だから私は戦い続けなくちゃいけない。この怖さを乗り越えるために。

「大丈夫だよ」

そんないつかじゃない今、震える手を必死に抑えて手を握る。

「私がやっつけちゃうんだから!」

 




前作で宗谷って名前を提督で出していたんですが、ゲームのほうで実装されましたね。
オリジナルキャラの名前は船の名前からとっているので予想できていたことではあるんですが…今後どうするか…
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