波濤の記憶 ~月に叢雲、花に風~   作:COOH

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第1章 第3話 Clock Work

何もない海の上でただただ時間を潰す。太陽の光を受けて光る水面も見慣れてしまえば日差しの暑さにうんざりするだけだ。海なんて広いだけで変化の乏しいものの代表だろう。独りで海に出て改めてそう思った。

 

一人だけしかいない鎮守府で与えられる任務など、当然偵察だけだ。駆逐艦一隻の索敵能力など知れているし、そもそも人類の勢力圏ぎりぎりで常時哨戒や衛星による監視が行われている。連絡がこないならこんなところで偵察するまでもなく深海棲艦は来ていない。

 

平和と言えば聞こえはいいが、結局は無駄な行動だ。無駄と分かっているのに律儀に従うのは艦娘としての義務感ではなく、退屈でも時間を潰せる場所を求めてだ。とりとめのない思考を巡らせるうちに時は過ぎるが振り返ればなにも思い出せない、そんな無意味な1日を過ごしていると燃料が尽きる。観念してついた溜息が今日海に出て私が発した最大の音だ。

 

港に戻って艤装を取り外す。来た時に見た古びた小屋が泊地の機能全てだったこと以上に、艤装を自分で取り外しできることが驚きだ。鎮守府にいたときは、艤装は飛んできて飛んでいくものだと思っていたけれど。そんな粗末な設備でも艤装を預けておけば補給も、使ったことはないが修理もしてくれるらしい。電気があることにすら驚けるこの離島で、だ。初めて補給された艤装を見たときには艦娘の技術には妖精がかかわっているなんて与太話を信じそうになったものだ。

 

 

まだ時間があるのを確認して寄り道を決める。かつては整備されていたであろう遊歩道を辿りこの島唯一の山を登った。崩れた道の分岐、もはやけもの道でしかないわき道を進むと開けた野原に出る。遮られていた夕日が再び肌を焼く。顔をしかめながらもすぐに明るさに慣れた瞳が赤く焼かれた風景を見下ろす。高い視点から先ほどまでいた海が一望できた。島の半分を景色に含んだところで、夕日に照らされたところで、海は海だ。変わりばえのない景色で、それでも私はなぜかここに立っていた。

 

艦娘として燃料切れがあるように私は人間としての空腹がある。暗い遊歩道を歩く自信がない私は山の早い夜から逃げ降りる。

「遅かったな」

玄関を開けると有賀が顔を上げた。

「ただいま」

私はそれだけ言うとろくに目も合わせず靴を脱いで部屋に向かう。有賀はクーラーボックスから魚を取り出していたところだった。しばらく過ごして分かったが、この家で出てくる主菜の魚は釣りで調達したものだ。今や貴重な水産資源もこの島では個人の分なら自由に取れるらしい。

 

 再び無為な時間をしばらく過ごすと夕食に呼ばれる。のそのそと歩いていくと仏壇にご飯を供える背中が見えた。ここでしばらく過ごしてもう1つ分かったこと、いつも手を合わせている相手は並んだ遺影の端、新しい写真の若い男女と少女なのだろう。

 

 その様子を目の端で捉えながら食卓に向かうと、有賀が食器を机に置いた。彼がする料理は刺身だけなので、久しぶりに煮つけでないことを知る。生返事をしながら味の薄い夕飯を食べ、あとは風呂に入って寝るだけだ。

 こんなのが私の1日であり、繰り返されるすべてだった。

 

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