大規模作戦に向けて、私の部隊は分かれて他の部隊に混ざることになった。私は期待より不安が大きかったけど
「なんか、変わり映えしないわね…」
「まあ、そう言わないでよ」
「よろしくっぽい」
白露型御一行と一緒でしかも
「頑張ろうね、叢雲ちゃん!」
ご丁寧に吹雪もついてきている。正直ホッとしたといえばそうなんだけど。
練度があることは分かっているし駆逐艦同士なら連携もしやすいから、楽なもの。
「ちょっと、私が一番なんだからね!」
「突撃できる私が先頭行くのが合理的でしょ!」
いろいろと騒がしいけど…
「楽しかったねー」
私と吹雪は部屋に戻った。一足先、他には誰もいない。ちょうどいい。言いたいことがあったから。それは演習後にしては気の抜けた感想ではなくて。
「あんた、夕立に何を言ったの?」
「え?」
「改二のことよ。あんた、なにか話した?」
「えっと…夕立ちゃんが改二を使えるようになりたいって言ってたから、一緒に頑張ろうって。って、私もよくわかってないんだけど――」
「ばかっ!」
吹雪の肩を掴むと吹雪はぼけっと私を見ている。なんでわかんないの?
「どんなに危ないことか分かってないわけないわよね。私もあんたも運が良かっただけ。なんでできるかも分からないのよ」
そう夕立には言い含めたはずなのに。吹雪なら分かってくれると思っていたのに。今日の演習は動きがおかしかった。まるで私が槍で戦い始めたころのように。
「でも…」
それでも吹雪は、そんな危険な道を正しいとするのだろうか。
「そりゃ私だって、助けられるものなら助けてあげたいわよ。だけど、私たちも分かってない以上どうしようもないじゃない」
「でも…私――」
「いいわね。それが夕立のためなんだから」
頭を冷やさせるため、冷やすため部屋を出て、一方的に話を終わらせた。
「――ねえ」
お風呂から上がって、新聞を読んでいるおじいちゃんに話しかけた。もちろん私達がやろうとしていることは伝えていない。
「どうした?」
おじいちゃんが顔を上げる。
訊くまでもないと思っていた。でも、なにもかもが少しずつ変わっていく。私達が生きている限り。だから確かめないといけなかった。
「あの島に帰りたい?」
息遣いも聞こえる沈黙が続いた気がした。新聞が畳まれる音が響く。こんな時だけ几帳面だ。
「俺は戻れない」
再び一瞬だけ訪れた静寂に聞こえた私の吐息はどんな意味を持っていたのだろうか。でも、その答えは分かっていたのだと思う。
「俺はたくさんの人に犠牲を強いた。お前たちにも――」
「違う!」
私は知らない。おじいちゃんが何をしてるのかなんて。その犠牲が艦娘を出撃させていることなのか、もっと前の戦争のことなのか、分からない。でも絶対に、私は違う。私たちは、絶対に。
「私はおじいちゃんに逢えてよかった。あの部隊に入れてよかった」
だって、諦めないでいられるから。戦い続ける力を持てるから。私だけじゃない。私たちの願いは他では手に入れられなかったから。
「私聞いたの。日向は幸運だって――」
「ありがとう」
その安堵の声で、私は知る。
誰が望んだわけではない。でも誰かがしなければいけなかった。ただそれだけだ。
それだけなのに、小さな平穏を享受することもできないほど、おじいちゃんはあまりに多くを背負いすぎた。
「それでも、俺は最後まで責任を果たさなくてはいけない」
そう告げるおじいちゃんがいない島に、帰れないとはっきり聞いても、それでも私は帰りたい。
――じゃあ私は、何を背負ったのだろう?
私は何が変わったのだろう。
「ちょっとちょっと、2人とも」
吹雪と歩いていると白露が呼び止めてきた。何の用かと尋ねる前に単刀直入に迫られる。
「なんか、隠し事してない?」
「えっ…と、何のことよ?」
動揺を抑えてなんとかごまかすが――
「してるよね、吹雪」
「えっ、なんでばれて――ちがっ、なんでもないよ!」
頭が痛くなる。これじゃ答え合わせだ。
「このバカ…」
「いや、叢雲も分かりやすかったけどね」
そんなことはないはずだけど…
「で、なんなのさ?」
「知ってどうするの?」
「あのね――」
「バカ!」
自白も早い吹雪の口を慌てて抑える。白露が私たちを陥れようとすることはないだろう。けど、だからこそ止めようとするかもしれない。だから、話さないほうがいい。話してしまえば多少なりとも巻き込んでしまうのだから。
「言ってくれないなら提督に告げ口するよ?叢雲たちが悪いこと考えてるって」
私の気も知らないでにやにや笑う白露に怒りが湧いてくる。
「私はあんたたちのことを思って――」
「だったら教えてよ」
額をぴんっとはじかれる。
「よく分かんないけどさ、大変なんでしょ?だったらほっとくわけにもいかないじゃん」
おでこをぐりぐりされながら、勝ち誇った顔をする。
「私たちの部屋あんなにしたことは不問にしてあげるからさ」
そう言われても――
「危険なのよ。沈まない保証は――」
「だから、ほっとけないんだって。これで叢雲たちになにかあったら私はずっと後悔するよ。だからほら、私を助けると思って」
ほら、こうやって。私の気持ちや思いやりなんて簡単に無視して勝手な優しさを押し付けてくる。
「叢雲ちゃん、お願いしようよ。みんなに手伝ってもらったほうが絶対いいよ」
吹雪はのんきなもので、私たちが何をしようとしているのか本当に分かっているのか不安になる。でも――
「分かったわよ」
諦めて私たちの部屋に招き入れた。
「と、いうわけで!白露型一同、作戦に参加します!」
「ちょっと待ちなさいよ!?」
ずっこけそうになった私の言いたいことは白露には伝わらなかったようだ。
「あんただけじゃないの!?何人連れてきてるのよ!」
「いやいや、こんなの私1人でどうにかなるもんじゃないじゃん」
あっけらかんと笑われる。…まあそうかもしれないけど。
「こっそり抜け出せる人でやるしかないんだから、数は多いほうがいいよね。てか、そこらへんはどう考えてるの?」
そう言われると返す言葉がない。結局私たちの作戦は、作戦と呼べないほど不確定要素が多い。
「ずいぶん大所帯になったな」
「あ、木曾さん、よろしくっぽいー!やっぱりかっこいいっぽい!」
「そうか、ありがとな」
「こら!私がかっこよさだって1番なんだからね!」
こんなに騒がしくなったら、もうなにの集まりだったか分からない。
「おい」
後頭部を小突かれた。振り返ると――振り返らなくても分かっていたけど――やっぱり天龍だ。
「なによ」
「お前がボケっとしてんじゃねーよ」
そりゃそうなんだけど…
「なんだかねー」
緊張感がないどころか、気が抜けてしまった。
「あんたはいいの?秘密の会議なんてものじゃなくなってるけど」
「ま、いいんじゃねえか。こんなのも」
天龍は見まわす。まだまだ広い道場を。
「ずっと6人だったんだからな」
「そうね…」
6人で広いとも、寂しいとも思わなかった。私も天龍も2人から始まったのだから。なのに、こんなに騒がしい空間にまだ空白を見つけてしまう。
誰にも理解されないと思っていた願い。いや、理解をしてくれてなんていないのかもしれない。でも、こうして近くにいてくれる。
「せっかくですし、集合写真撮りましょう」
白雪がカメラを取り出した。なにがせっかくなのか分からない。単に買ったものを使いたいだけだろうけど。これじゃ誰がこの計画を知っていたか、一目瞭然だ。
「血判状みたいね」
「ますます秘密組織じゃねえか」
…こいつの秘密結社観がどうなってるのかもよく分からない。
押されるがまま、真ん中に座らされる。タイマーの点滅が早くなる。
こうしてまた、私がここにいた記録が増えていく。