気が付けば屋上で膝を抱えていた。港と海が一番よく見える場所。人工的なものが多くて、どうしても島の山から見た景色と比べてしまう。でもこれが、これから私が見る世界だ。そう何度も言い聞かしたはずなのに。
「なんで――」
いつの間にか濡れていた目元を拭う。私は幸せなんだと、やっぱり思う。こんな私を思ってくれる人がたくさんいて、だからこそ平気なふりをしないといけなかった。諦めることに後悔なんてほんとにないし、そう伝えたかった。だけど、現実はこうして1人で不貞腐れている。
ずっとあこがれていた。吹雪のどんなに辛くても笑っている強さに、悲しみに気づかないふりをして笑いかけられるやさしさに。
私はできなかったから。誰のせいでもない不幸を振りかざして、1人で傷ついて傷つけた。謝らなくちゃいけない人も、もう謝れない人もたくさんいる。こんなにたくさん失敗しても、変われなかった。
私はやっぱり私が嫌いで、みんなも私が嫌いだったらいい。
こんな私に愛想つかしてくれれば、それでいい。私のために馬鹿な作戦をやろうとなんてしなくなれば元通りだ。
…そんなことも、本気で思えない、情けない私。
自己嫌悪が引っ込んでくれるまで、しばらくただこうしていたいのに――
「叢雲ちゃん!」
吹雪型はプライバシーもなければデリカシーもないみたい。
「ここにいたんだ。私もここ好きなんだー」
私の気など知らないで私を追い抜き、私と同じ景色を見下ろす。
「きれいだよねー」
うっすらと浮かんだ汗が振り返った勢いで弾け、強い日差しを反射した。吹雪はまっすぐに私を見る。
「叢雲ちゃん」
――ずっと
「私は諦めないよ」
――ずっとあこがれていた。
「だって、叢雲ちゃんに笑ってほしいから」
どんなに辛くても笑っている強さに、悲しみに気づかないふりをして笑いかけられるやさしさに。それが吹雪の強さ――だと思っていたから。
「叢雲ちゃんが頑張ってるから、私は力になりたいんだ」
でも、吹雪は違った。
泣きたかった。気づかないふりなんてしたくなかった。
「私は叢雲ちゃんと、みんなと一緒にいたい。誰が無理だって言っても、諦めたくない、ううん――」
優しさで作った笑顔なんかじゃなく、本当に笑いたかったんだ。本当に笑ってほしかったんだ。
「絶対諦めない」
だから、頑張ったんだ。ずっと、私が追いつけないくらい、ずっと――
「だから叢雲ちゃん、力を貸して」
手が差し伸べられる。小さくて暖かくて、力強い手が。
これは、ずっと諦めてきた吹雪が頑張って、闘って、ようやく手に入れたわがままだ。だから私の気持ちなんてもので、幸せなんて理由で諦めさせてくれないんだ。
「だめ…かな…?」
首を傾げた吹雪から、別れの朝が覗いた。触れた指から小さな震えが伝わる。
――怖いんだ
手を伸ばす、ただそれだけなのに。私が小さな島を希うように、吹雪にとってこれは、ようやく届きそうな、なんでもないはずの願い。
伸ばすことすらできなかった手を
伸ばしても掴むことができなかった手を
それでも伸ばしてくれた手を、私は握る。それだけで、立ち上がるには十分だった。
「あんた、強くなったのね…」
「うん!」
その笑顔まで私が届くのはいつになるのだろう。だって私は
「ありがと…」
こんなことも、目をそらさないと言えないのだから。でも、いつか――
そう。あこがれてしまったのだから、私も諦めるわけにいかないじゃない。
「叢雲ちゃん、早くみんなのところに戻ろ!」
「――んっ」
ためらう私を不思議そうに見る吹雪はやっぱりデリカシーってものがない。どんな顔をして会えばいいのだろう。ここでのこのこ戻るのは、なんだかとってもかっこ悪いような――
そんなこと考えている私に笑えてくる。
「いまさらか…」
引かれて踏み出した一歩は想像よりずっと軽かった。
そう。私は弱くて情けなくてかっこ悪くて、自分勝手で誰かを傷つける。
私が私を好きになれるのはきっとずっと先だ。
でも、諦めなかったから――諦めさせてくれなかったから
これから始まるのは、私たちの奇跡の物語――
この話で吹雪の物語は完結になります。
…吹雪のです、叢雲ではなく。
もともと本編(前作)で戦いの中で友達を助けることができた吹雪が、はっきり決意をもって助けることを選ぶ、という筋書きを考えていました。
そんなシーンが成立するまでを考えていった結果、ここまで長くなってしまいました。
長くなっているうちにいろいろと話が広がってしまったので、あと1章分続きます。
ぜひお付き合い願います。