「やーやー、叢雲」
屋上で寝転んでぼけっとしていると無遠慮に声をかけられた。顔を上げる(?)とさかさまの白露が映った。
「なによ」
「こんなところで何してんだろと思ってさ」
断りもなく隣であぐらを組んだ。はしたない。
「どうよ?夕立とはうまく行ってる?」
「なんとも、って感じね」
その話か。面倒見のいい白露としては気になるところなのは分かるが、良い返事は返せない。
「午後からブリーフィングだって。早めにご飯食べといたら?」
「そうだったかしら」
「私たちだけね。結構やりくりが大変みたいだから作戦はちゃんと確認しとかないとね」
司令官のお墨付きがもらえたところで本来は必要ない作戦であることには変わらないし、流石に関係ない艦娘を巻き込むわけにはいかない。
いや、そもそも巻き込みたくないと考えることが傲慢なのかもしれない。だってこうして隣にいるのだから。
「ねえ――」
なんとなく
「なんであんたは助けてくれるのよ」
ほんとうになんとなく口に出してみる。そこに疑念も遠慮も、不思議なことに感謝すらなかった。
どんな答えの待つ気もなかったが、白露は脚をそろえて膝を抱え込む。はしたなさはなくなったが、このかっこも意外と無防備なんじゃないかとか、私も気を付けようとか、そんなことが腑抜けた頭にめぐる。
「…ごめんね」
白露の小さなつぶやきがそんなどうでもいい思考に水を差す。
「なによ…?」
思いがけない言葉に驚きはした。驚いてはいるけれど、返す声はさっきと変わらない。身構えるでもなく予想するでもなく、なんとなく先を促す。意識は青い空の中にあるような、心地よい無気力さ。
「私じゃ夕立の助けになってあげられないから。でも、叢雲や吹雪だったら何とかしてくれるんじゃないかって…」
ゆっくりと漏れ出るような声は、白露には似合わないな、なんて。
「私が協力したら叢雲は夕立を助けてくれるかもって…」
そんなこと、考えてたんだ…
「嫌な子だ、わたし…」
「別にいいじゃない」
私には白露のうつむくわけがよく分からない。だって
「そんなものでしょ?交換条件なんて、分かりやすくていいじゃない」
私たちの部隊が結んだ単純な契約。信頼でもない利害関係だけど、それは私が戦う意味で、戦い続けてきた理由だ。あんな連中と仲良くやるなんてなんだか寒気がする。
でも、違うのね…
白露にとって、そんな取引なんて考えたことすら否定したくなるほど卑怯なこと。だって、困っている人を助けるのは当たり前のことなんだから。そんな子だってことだけは分かるから。
「あんたは夕立と関係なく私を手伝ってくれたわよ」
私なりに頑張って言葉を紡ぐ。
「あんたがいなくても私は夕立の面倒を見てあげたし」
…それはどうなのかしら?言い切ったものの、不安になる。私はまだそこまで私を信じることができない、けど。
「それでいいじゃない」
「…うん」
白露が少しでも笑って頷いてくれたからいいとする。もう一度青い空を見つめる。そろそろ太陽が視界に入ってきて見上げられなくなる空を。
ひとつだけ分かったことがある。この感情と無気力の正体。助け合うことも一緒にいることも、それに感謝することも当たり前のことだから。そんな、白露にとって、吹雪たちにとっての日常になじんできてしまった私。
でも、彼女たちのようにはなれないから。いつか日常になってしまうまでは、この私だけが気づける幸せをかみしめていよう。
「ねえ」
でも、代わりにちょっとした疑問も出てくる。
「1番艦ってそんなに大事なものなの?」
私にとってはどうでもいいけど、白露にとっては潰されそうなほどの罪悪感なのだろう。言わなければすむ話なのに、黙っていることに耐えられないほどの。だけどそれは夕立の、血のつながらない妹のためで。
「あんたといい吹雪といい」
がんばるのに、姉だから、なんて理由になるのだろうか?…まあ、吹雪はうるさいだけだけど。
「私、ひとりっ子で、ずっと妹欲しかったんだ。だから1番艦になったときはうれしくてさ」
白露はまた膝を強く抱え込む。
「でも、みんなすごいのに私にはなんにもなくて。結局1番艦ってことしかないから…それだけでも頑張りたいんだ」
「私は、あんたが白露で良かったと思う」
私はようやく体を起こす。
「時雨や夕立だってそう思ってるんじゃない?」
こんなこと、顔を見られながらじゃ言えないから。
「ありがと」
白露がどんな顔をしたのか分からないけど
「叢雲も妹ができたら分かると思うよ」
その言葉だけは看過できない。それじゃまるで私が世話されてるみたいじゃない。あの吹雪たちに…
「もうすでにできの悪い妹4人抱えてるようなものなんだけど」
ようやく目があって笑みをかわす。
本当に妹、吹雪型の6番艦がくればまたちがうのだろうか。そんな不確定な未来も楽しみになってくる。
「ひとまずは夕立の面倒を見ないといけないわね」
白露が眉をよせる。
「ちょっと、夕立の世話を一番みるのは私だからね」
…まったく、どいつもこいつも
「めんどくさいわね…」