お昼代契約ランチちゃん   作:昼飯用

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どうせ守れないのだから、もう予定を立てない事にした


10.林檎を剥くジャックナイフ

「マスター。起きてください、マスター!」

 

揺さぶられて、起きた。

どこか懐かしい夢を見ていたような気がしていたが、思い出せない。

寝ぼけ頭を覚醒させて、現状を確認する。先ずランが俺の肩を掴んで揺さぶっていた。もう起きてるから止めてほしい。

時刻は午前零時。日付は変わり、九月十九日となっている。亡者の学園の調査二日目の始まりだ。

 

「起きました?」

「起きてから大分揺さぶられた。……あぁ、よく寝た」

「あたしは身体が痛くて起きてしまいました。マスター、よくこれで寝られますね」

 

ランが伸びをして身体の凝りを解す。「んー」と気持ちよさそうな声を出している辺り、相当凝ったのだろう。

考えてみれば、ランが実体化して眠るのは初めてだった。今度実体のまま寝るんだったら何か用意してやった方がいいだろう。

 

「あ、そうだ。霊体に戻らないと。……よいしょっと」

 

契約によってランの実体が失われていくのが分かる。今のランは俺以外誰にも触れない。

 

「実体化するには数秒目を瞑ってたのに、戻るのは一瞬なんだな。それでも早い方だったけど」

「気を抜くだけですからねー。……でも、マスター。今気になったんですけれど、亡者の学園に登校する人達って、基本的に魂なんですよね?」

「あぁ。多分肉体を持ってるのは俺だけだ。それがどうかしたか」

「魂って、霊体って認識でいいんですか?」

 

俺は頷いて肯定する。随分と情報を確認するな。

ランは腕を組んでうんうん唸りながら、納得出来なそうに俺を見た。

 

「マスター言ってましたよね。霊体を見れるのは“魔眼”……? 持ちじゃないといけないって」

「あぁ。……そういう事か」

 

亡者の学園は霊体だらけなのに、どうして俺がここの生徒を見れているのか、ランは訊きたいのだろう。

当然俺は“魔眼”なんて持っていない。なのに俺は亡者の学園に蔓延る霊体を見れるし、認識も出来る。その理由は簡単だ。

 

「亡者の学園では霊体の性質がひっくり返ってるんだ。霊体の奴等は実体を持っている状態と同じになる。まぁ、俺とお前は登校したわけじゃないから適用されないけどな」

 

あくまでひっくり返るのは昇降口から登校してきた連中だけだ。

霊体は霊体同士干渉する事が出来るから、ジャックナイフやアリス、スプリンターはランの事を認識出来るのだろう。

だが性質がひっくり返っても、本質は変わらない。ジャックナイフに剥いてもらった魔力で構成された林檎がその証拠だ。

肉体を持っている俺が食べても魔力として吸収されるが味はしない。逆に魔力で構成されているランにとっては、普通の食べ物と変わらなかった。

容姿がない緑色達が俺達や壁を貫通していったのも同様だ。あいつ等は存在の濃度が薄過ぎて、ひっくり返した所で誰かに触る事は出来ないのだろう。

 

「特に気にする事じゃない。寧ろ俺があいつ等とコンタクトが取れてやり易くなったぐらいだ」

「そうですね。でも、皆の悩みを解決するのはあたしも頑張ります!」

 

気合いを入れるラン。やる気になっているのはいい事だ。

俺もこの学園の生徒が巻き込まれていると分かった以上、事態の解決に手を抜けない。

そんな俺達を歓迎するように、反転の鐘が鳴る。

そして次々と教室と廊下に明かりが灯る――――仕事の始まりだ。だが、放課後まで待つ必要がある以上、直ぐに空き教室から出る事はしない。

その間に今日の方針をランと相談しておく方がいいだろう。

 

「昨日と同じ順で回るぞ。ジャックナイフとアリスに関しては、あっち側で三葉と蓬生に会ったおかげで何か変化があるかもしれない。調べる価値はある」

 

俺達と会った事で何の変化があるかは分からないが、昨日と同じという事はないだろう。

 

「そして二人の悩みを知って、解決する。そうすれば、心の二人は亡者の学園に登校しなくなるんですよね?」

「確証は無いけどな。もしあいつ等がもっと強引な手段で魂を引っ張られているとしたら、別の手段を取る必要がある」

 

具体的にはあっちの側の校舎で事情を説明し、直接魂が抜かれる瞬間を見て対策を講じなければならない。

魔術を隠蔽する事を目的とする“制隠協会”のやり方にも反するし、俺だけじゃ対処出来ないかもしれない。そうなれば、秋月さんの手も借りなければならなくなる。

 

「たらればの話を仕方がない。今はやれる事をやるだけだ」

 

要らない事を言ってしまった。ランの迷いにならなければいい、と思って付け足したが、それは杞憂だった。

 

「大丈夫です! 皆が夢から覚めるまで、あたしはへこたれませんから!」

 

ランは寧ろ更にやる気を出していた。

それはそうだ。ランは魔術師じゃない。あるかどうかも分からない可能性に惑わされる前に、やるべき事を分かっている。

一眠りしたおかげでメンタル面も大分安定しているようだ。安心して調査に入れるだろう。

亡者の学園が放課後になるまで、暫く待つ。と言っても、亡者の学園の時間は放課後が殆どだ。体感二十分もしない内に放課後が始まる。

この“結界”を張った人間が設定した時間の流れかどうかは分からないが、放課後に重きを置かれているこの時間の歪みは異常だ。

さて、そろそろ時間だ。俺は立ち上がり、懐から取り出した眼鏡を掛ける。

 

「――――行こうか、ラン」

 

思考が切り替わる。本質は変わらないけれど、少しばかり冷静だ。残酷と言ってもいい。

今回は昼に肉体側と接触している。魂にどんな影響があるかは分からない以上、冷静である事は何よりも重要だった。

特に一番最初に会おうとしているジャックナイフは、彼女の性格からして注意した方がいいのは明白だった。

 

「はい」

 

ランも立ち上がり、僕と共に空き教室を出た。

亡者達は教室から出て廊下に蔓延っている。きちんと放課後になっているようだ。

初日の最初の方は怯えていたランも、今日は初めから慣れている。

 

「本当だったら、この人達も慰霊塔で眠っていた筈なんですよね」

「……うん、そうかもね」

「行きましょう、マスター。先ずは家庭科室ですよね」

 

僕を置いてずんずんと進んでいくラン。

その背中に揺れる薄青の髪。背中まで伸びた髪が拡がる度に、何時かの終わりを思い出させた。

目の前の錯覚を振り払って、僕はランの後を追う。だけど、僕の足が遅いのか、ランの足が速いのか。中々追い付かない。

二階の渡り廊下まで進み、ランに追いついた。

――――ランがまた、桜を見ていた。

 

「……やっぱり、一本だけ枯れてますね。いや、咲いてないんですっけ」

「そうだよ。……今思えばここの桜が咲いているのも、ひっくり返っているからなのかもね」

 

今の暦は九月だ。ここから半年引いても、半年足しても、暦の上では三月になる。桜が咲いてもおかしくない。

だけど、今はそれは問題じゃない。慰霊塔の事も気になっているだろうけれど、それはまた今度だ。今は家庭科室に向かおう。

ランの肩を叩いて先を促すと、大人しく着いて来てくれた。

家庭科室の前まで来て、僕達は足を止める。――――否、足を止めざるを得なかった。

 

「中から声が聞こえる」

 

呟けば、ランは神妙に頷く。

中にジャックナイフが居るのは間違いない。間違いないのだが、だからこそ中から声がするのは異常だった。

それだけじゃない。中からは何か激しい念の様な何かを感じる。簡単に言えば空気が淀んでいる。随分と穏やかじゃない。

僕は眼鏡を外す。魂が昂ってきた感覚を自覚して、“身体能力強化”の魔術を使っておく。

 

「――――ラン、開けてくれ」

「分かりました。気を付けてください」

 

ランが鍵穴に触れ、小さく願う。

鍵が開いた音がして、俺は扉をゆっくりと開けた。

 

「よう、ジャックナイフ。邪魔する――――っと」

 

扉を開けた瞬間――――視界に飛び込んできた何かを、ぎりぎりで掴む。掴んだ何かを確認して、俺は小さく口角を上げた。……らしくなってきたじゃないか。

挨拶への返事は、ジャックナイフだった。つまり敵対しようとする合図。あぁ、そうだ。ここはまともじゃない。亡者が通う学園だ。

 

「マスター! 大丈夫ですか!?」

「問題ない。刃の側面部分を掴む芸当をさせられるとは思ってなかったけどな。……さて」

 

心配するランを宥めて、視線を家庭科室の奥に向ける。そこには刃の主が居た。

彼女の姿勢は何かを投擲した後で、投擲した何かは今俺の手の内にある。

かなり興奮している様子だった。金色の瞳は狂暴に支配されている。およそ冷静とは縁遠い。

今直ぐやり返してやりたいのが本音だが、残念ながら俺達は話をしにきたのだ。ここは肉体持ちらしく、自分を抑えておこう。

とりあえず話が出来ないと不味い。俺はナイフを適当に放り投げて、敵意が無い事をアピールした。

 

「随分と派手なお迎えだな、ジャックナイフ。理由なんかどうでもいいけど、大分機嫌が悪そうだ」

「……は、ぁ。何、花と昼飯じゃない。あんたが言った通り、生憎私は機嫌が悪いの。皮剥きの練習台になりたくなければ、とっとと失せてくれる?」

「マスター……」

 

今の発言からして、ジャックナイフは誰でもいいから狂暴になりたかったのだろう。彼女の物騒な発言に、ランが不安そうにこちらを見てくる。

いきなりの事で驚いているのだろうが、別に怖がらなくていい。この程度なら慣れている。

 

「安心しろ、物理的に取り押さえるだけなら簡単だ。……お前が話してみるか?」

 

問えば、恐怖心と戦いながらもランは頷く。

不機嫌にこちらを睨んでくるジャックナイフに向かって、ランは向き直った。

 

「ジャックナイフさん。いえ……三葉(みつば)恵理(えり)さん。それがあなたの本当の名前……ですよね」

 

直球勝負にも程があるランの言葉に、ジャックナイフは面食らったように一瞬止まった。

あぁ、気配が変わった。さっきまででも十分危なかったくせに、これからはもっと狂暴だ。

 

「ふ、ふふひ、ひあはははははははは!! あぁぁははははははははは!!」

「ひっ」

 

急に笑い出したジャックナイフに、ランが怯えたように息を呑む。

あぁ、これは怖いな。俺だって怖い。別に幽霊とかゾンビとか、そういった怖さじゃない。

感情が膨らんで、今にもはち切れそうな危うさ。今はこちらにナイフを投げてこない事が奇跡に思える。

――――何時だって、最後に怖いのは人間だ。それも感情に左右されて動物に戻ってしまった、人の皮を被った獣。何をするかなんて、最後にしか分からない。

そして目の前で笑っている存在は、その皮さえ脱ぎ捨てて魂だけとなり、剰えひっくり返る事を選んでしまった存在である事を今更自覚する。

一頻り笑い終わって満足したのか、それとも酸欠にでもなったのか。顔に手を当ててよろめいて、静かに踊るような動きを見せる。

開いた手から覗く瞳はまるで野生動物の様だ。金色の髪と金色の瞳が獅子を連想させた。

 

「なぁんだ。やっぱり気付いていたのね」

「き、気付いたのは今日の放課後です。どちらのあなたにも初めて会った時、あたしは全然気付きませんでした」

 

ランの言葉に、ジャックナイフはちらりと俺を見た。

鋭い眼光が俺を射貫くが、長くは続かずランの方へ視線を移していく。

 

「それで、気付いたからなんだっていうの? 私はあの子の中身に似つかわしくないから、消しに来たってところかしら?」

「違います! あたしはあなたを――――むぐっ」

 

咄嗟にランの口を手で塞ぐ。成程、ランは少し素直過ぎる事を忘れていた。

 

「いきなりやってきて正体突き付けてきた相手の『助けたい』なんて言葉、信用するわけないだろ」

 

ランの顔を寄せて小さな声で注意する。ランは、はっとしてこくこくと頷いた。

こういった真っ直ぐな性格は美徳だとは思うが、そう親しくはない相手にぶつけるにはその感情は眩し過ぎる。

もう大丈夫だろう、とランを解放すれば、少し顔を赤くしながらジャックナイフと向き直る。

 

「お話しに来たんです。昨日マスターが言いましたよね、あなたと友達になりに来たって」

「それなら、あほくさって答えたと思うんだけど。はぁ……私、言わなかった? 私に近付くと傷付くだけだって。あんたも、そこの花も、頭悪いの? あたしの名前はジャックナイフ。優しい彼女の反転後。うっかりしてると、あんた等もこっちの仲間入りよ?」

「似たような事を言われた気はする。まぁ、安心しろよ、お前は俺の事を傷一つ付けられない。ランだってな。そっちの仲間入りは当分先だ」

 

威嚇のつもりで言葉を返せば、少しぐらいは作用してくれたらしい。ジャックナイフは八つ当たりをするように椅子を蹴り飛ばして、キッチンの一つに寄せてから乱暴に座る。

だが、先程までの熱は感じられない。浮き沈みが激しいのは分かっていたが、ここまで行くと行き過ぎだ。

 

「で、話って何」

 

短く告げられた言葉は一応の了承だった。

ランはジャックナイフが座っているテーブルに向かって歩き出しながら答える。

 

「別に、何でもいいんです。唯ジャックナイフさんとお話がしたくて」

「はぁ? あのねぇ、それは特に用が無いって言うのよ。くっだらな」

 

ジャックナイフは呆れ果て、またどっかから出した林檎を剥き始めた。

どうやら林檎の皮剥きは暇潰しの域に達しているらしい。“結界”が出来始めてからずっと剥いてれば無理も無いか。

ランは椅子に座った後、腕を組んで悩みながら話題を考え続けていた。が、長考に入ってしまったらしい。

ジャックナイフがこちらをちらりと見た。金色の瞳が『本当に何も無いのか?』と問うてくる。

俺が頷きで返せば、ジャックナイフは嘆息した。

そして長考の末に思い付いたのか、ランは顔を上げた。

 

「あ、そうでした。どうしてさっきはあんなに苛立っていたんですか?」

「……散々長考しておいてそれ。天然って怖いわね」

「お前、今度から俺にデリカシー無いって言うの禁止な」

 

とんでもない爆弾発言だった。折角落ち着いてくれたのに、またナイフを投げられたら面倒なんだが。

 

「だって、友達があんなに荒れちゃうなんて気になるじゃないですか。理由ぐらい、知っておきたいです」

「知らない間に友達になってるんだけど。花、あんたどうにかしなさいよ」

「どうにかしてどうにかなるんだったら、もうやってるよ。諦めた方が精神に優しいぜ。どうせこの放課後だけの付き合いだ」

 

ジャックナイフはランを睨むが、ランは意地でも怯まない。

暫くそれを続けて、やがてジャックナイフは溜息を吐く。

 

「……面倒なのに目を付けられたわ」

「始まりはそういうもんだ。それに、そういう始まりの方が長い付き合いになる」

「何それ。経験論?」

「残念。友達は居ないよ。……今はな」

 

俺の返答に、ジャックナイフは「どっちも面倒……」と呟いてランの方を見た。どうやらランの方がましだと判断したらしい。

 

「私が苛ついてた理由だっけ? そんなの簡単じゃない。苛ついたからよ」

「何に、ですか?」

「私に。それとあいつに」

「あいつ……?」

 

首を傾げ、俺を見てきたラン。俺に訊かれても知らん。

流石にこれでは説明不足だと思ったのか、ジャックナイフは面倒そうに続けた。

 

「あんたさぁ、三葉(みつば)恵理(えり)に出会ってどう思った?」

「どうって……林檎が美味しかったです」

 

あんまりにもあんまりな感想に、俺とジャックナイフの溜息が重なった。

そういえば三葉に会った時、こいつは林檎で機能停止していたんだった。

もしかして本当にそれ以外憶えていないのかと勘繰ったが、流石にそういうわけではないらしい。

慌てたように手を振ってランは続ける。

 

「優しい人でした。クラスメイトだったマスターは別としても、いきなりやってきて七不思議を調べたいって言ったあたしにもちゃんと答えてくれて。林檎まで剥いてくれましたし」

 

俺の感想も大概そんな感じだった。寧ろ俺はクラスメイトを憶えていないという酷い相手だったというのに、三葉はフォローまでしてくれていた。

だが、そんな好印象がジャックナイフは気に食わないらしい。……いや、三葉(みつば)恵理(えり)の魂か。

苛立たし気に、ジャックナイフは剥き終わった林檎をナイフで割る。相も変わらず、皮には実が殆ど残っていない。

キッチンの引き出しに紙皿が入っている事は分かっていたので取り出してぶん投げると、それもジャックナイフは気に食わないらしい。気を遣われるのが嫌なのだろうか。

 

「ほーんと、ばっかみたい。いい子続けちゃって。くだらないのよ。昔の事引き摺って、善人に留まって。そのくせ抱えて、膨らませて、爆発させる事も出来ない中途半端。それが三葉(みつば)恵理(えり)なの。きっと一生変わらないわ」

 

そしてその魂は苛つくと人にナイフを投げてくる、と。いい具合に狂っていた。

それにしても、いい子。善人か。それのどこがいけないのか分からないが、とにかくジャックナイフはそれが気に食わないようだ。

話せば話すだけ、ジャックナイフのボルテージは上がっていく。

 

「包丁使いが上手って? 当たり前よ。どれだけ練習したと思ってるの……! あんたが美味しい、嬉しいっていうから練習して! いっぱい怪我をして! 何が『見てて安心出来る』よ! あぁぁぁぁ!! むっかつく!!」

 

苛つきを表現するが如く、割った林檎を勢いよくナイフで刺した。

机に振動が起き、目の前で起きた林檎スプラッタにランが怯えていた。

ジャックナイフは舌打ちをしてナイフを引き抜いて、そのまま俺達に真っ二つになった林檎を渡してきた。

ランがこちらを見てくるが、俺は「要らん」と断った。味の無い林檎を半分も食べるのは拷問でしかない。

おずおずと林檎を食べ始めたランを見て、流石にジャックナイフの相手を全部するのは無理だと判断する。

 

「包丁使いが上手……? 何か放課後に聞いたワードだな。……あぁ、思い出した。あれだあれ。誰だっけ」

「もしかしてあんた、晴の事言ってんの?」

「あぁ、そうだ。思い出した。山中(やまなか)(はる)。二年の吹奏楽部だったっけか」

「自己紹介されたでしょう、あんた。どれだけ興味無いのよ」

 

ジャックナイフの苛立たし気な表情に、「ちょっと物忘れが激しくてな」と誤魔化す。

『微塵も興味が無かった』と言うと、俺がジャックナイフに微塵切りにされそうだから黙っておく。

とにかく、三葉は実は山中に『見てて安心出来る』と言われるのが嫌なんだそうだ。そういえば俺が『手際がいい』みたいな事を言った時も三葉の表情が沈んでいた。

魂がこんな風に暴れるぐらいなんだ。余程嫌なのだろう。

 

「……危な気が無くて都合がいい女なんて、馬鹿みたいじゃない」

「ジャックナイフさん……」

 

苛ついた後はしょぼくれたのか、ジャックナイフは目を伏せた。ランもさっきまで怯えていた相手に向かって、心配そうな視線を向けている。

忙しい奴だとは思うが、これが三葉(みつば)恵理(えり)の魂が反転した姿、ジャックナイフなんだろう。

三葉は落ち着いた柔和な奴だった。嫌な事を言われなければへこまないし、それこそ山中に禁句を言われない限りは大体動じないのではないのだろうか。

だから反転したジャックナイフはこんなにも揺れる。振り子の様に、行ったり来たり。振れ幅はその衝撃の分だけダイレクトに。

……もうそろそろ切り上げた方が良いだろう。しょぼくれてる今なら、後ろから襲われる心配も無いだろうから。

 

「……そっちの苛ついてる事情は分かった。また今度苛ついてたら話してくれよ。俺じゃなくてランにな。――――行くよ、ラン」

 

俺は眼鏡を掛けて思考を切り替える。今回はジャックナイフが物理的に危険だから外していたけれど、亡者の学園内ならこっちの方が冷静に行動できる分安全だ。

 

「あ……はい。ジャックナイフさん、またお話してください」

「……そっちの花の胡散臭い反転を止めてくれたなら、考えなくもないわ」

 

ジャックナイフが突き付けた条件に、ランは苦笑いする。どうやら僕は最初から胡散臭く思われていたらしい。無理もない話だ。

僕等はジャックナイフに見送られ、家庭科室を後にした。




人物メモ

深花(しんか)芳乃(よしの)
魔術師。
一応“執行者”は魔術師と戦う魔術師なので、戦闘能力はある。

ランチ
お昼代精霊。
ジャックナイフの相手を完全に一人でするのは流石に無理そ――――林檎スプラッタ、怖かったです……。

ジャックナイフ
何個か足りない七不思議の一つ、“林檎を剥くジャックナイフ”。
三葉(みつば)恵理(えり)の魂が反転した姿。
『見ていると安心する』と言われたり思われたりするのが頗る嫌なようだ。
あとは昔の事を引き摺ってとかどうとか言っていた。
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