天使と死神とチョコレート   作:第六位

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始めまして
誤字、矛盾点などありましたら教えてくださるとたすかります


転生前 0話

午前五時、アラームが鳴った。布団を剥ぎ取り起き上がる。

 

 部屋を出て一階に降りる。顔を洗って頭をスッキリさせると台所へ向かった。

 

 食材を複数取り出し料理をする。家族全員分の朝食に加えて自分と妹の弁当を作るのだ。

 

 味見をする。悪くない味だった。

 

 出来上がる頃には既に6時を切っていた。二階の自分の部屋に戻り家族が朝食を食べにくる6時半まで勉強をする。

 

 

 

 

 

「勉強の方はどうだい?」

 

「まあまあ、かな。頑張ってるよ」

 

「お父さんいつも兄さんばっかり心配して。しかもこれ何回目よ」

 

「いや……父さんは受験一度失敗してるから心配でな」

 

「それも聞いたよ! それに私の心配もしてほしいです。私もうすぐコンクールなんですよ?」

 

「そっちの方は大丈夫だろう? 父さんは全然心配してないよ。それともやっぱり不安なのか?」

 

「いやまあ? 私以外が金賞とるなんて1ミリたりとも思ってないですけども?」

 

「うん、叶恵ならきっと大丈夫だよ」

 

 

 

 こんなたわいない会話を朝食で交わす。

 

 

 

 身支度を済ませ家を出る。自転車の向かい風が心地よかった。

 

 途中すれ違う人によく声をかけられる。その全てに軽く対応する。これも朝の日常だ。

 

 

 

 

 

 

 

 学校に着く。席に座って一息つく。

 

 それから間もないうちに周りの目がこちらを向いてるのに気づいた。その内の一人が近づいてくる。

 

 

 

「ここ、解説が分かりにくいんだけどどういうことか分かる?」

 

「うん、それはーー」

 

 

 

 一人相手をすると流れるように他の人間もやって来る。彼らは皆難関大学の志望者だ。大抵は大学の過去問について質問してくる。教科を問わずだ。それらを嫌な顔一つせずに全て捌く姿は誰が見ても好印象だろう。

 

 

 

 彼の名は櫻田さくらだ亘流わたる

 

 全国一位の学力を持つ高校三年生。好きな事はーー努力

 

 

 

 

 

 櫻田の周りは常に一定の人数が集まっている。勉強だけではない、人の良さに惹かれてやってくるのだ。

 

 櫻田は勉学だけでなく運動神経も高い。小中高と運動部どころか部活に入ったことすらなかった櫻田だが各種目で常にトップクラスの成績を維持している。しかし彼はそれを誇示することは決してない。

 

 顔も悪くない。人も良い、能力も総じて高い、であればモテるのは必然であると言えるだろう。

 

 事実、一年前までは毎日と言っていいほど告白やラブレターをもらっていた。しかし一人としてその対象になった人間はいない。

 

 この高校は県内で一番偏差値が高い。であれば生徒の思考能力が普通より高いのは当然である。あらゆる女性との交際を断り続ける彼を見ていつしか「彼は付き合う気はない」という考えは皆に広まっていた。しかし誰もその理由を本人に聞くことはなかった。

 

 それくらいの空気は読める生徒が集まっていた。

 

 

 

 実際のところ櫻田は誰とも付き合う気はなかった。

 

 それどころか彼は女性が苦手であった。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、生徒会の手伝いをした後に他クラスの生徒の質問を一人一人捌いていく。そして全て終わった後帰宅する。

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 ドアを開けて玄関に入ると自分の部屋に一直線に行く。その途中にある階段に妹が立っていた。亘流は妹の叶恵かなえにもう一度「ただいま」と言った。

 

 

 

「おかえりなさい兄さん。今日も遅かったですね。今日は何人くらいの質問に答えたんですか?」

 

「なに、大した人数じゃないよ。それに皆の質問に答えるということは自分の能力向上にも繋がるしね」

 

「まあ……兄さんがそれでいいなら何も言いませんけどいつも言ってる通り無理はしないでくださいね? 一応全国一位とはいえ体壊して受からなかった―となると悲しいですから」

 

「うん、いつもそれは心掛けてるよ。でも最近は俺がよく教えてる人が手伝ってくれたりしてるから楽だったりするよ」

 

「ふーん」

 

「それより叶恵はさっき帰ったばかりなのか? 制服のまんまだけど」

 

「いいえ、たまには兄さんを制服姿で出迎えようという妹の気遣いです」

 

「ははは…… それにしては少しだらしない着方になってないか?」

 

「あら? ほんとだ、兄さんよく気づきましたね。それとどうです? このラフな格好の妹は」

 

 

 

 そう言うと叶恵は小悪魔っぽい表情を浮かべながらスカートをちょっぴりたくし上げる。

 

 

 

「なんて冗談です」

 

 

 

 1㎝ほどたくし上げたところで指を離した。

 

 

 

「夕ご飯、出来てますよ。荷物を置いて着替えてきたら降りてきてくださいね」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 

 言われた通りに階段を上り、荷物を床に置いて制服から部屋着に着替える。

 

 父親の義次よしつぐは仕事の関係で夕飯を家族全員で食べることができない。母親の蜜柑は昨日から会社に泊まり込みだった。間もなく二人は帰ってくるだろう。しかしその時間まで待つ必要はないと事前に言ってあるので二人だけの食事になる。

 

 

 

 夕飯も妹とたわいない話をしながら食べ終わる。今日はつけていたテレビの内容が叶恵にドンピシャだったようで叶恵の箸が中々進まないでいた。

 

 

 

  先に食べ終わった亘琉は先に部屋に戻りすぐさま勉強を始める。あと数か月で大きな試験がある。それで既定の点数を上回らないと第一志望の大学に受かる確率が下がってしまうので不味い。この日は就寝する日付が変わるまで勉強をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さんって特段好きな食べ物とかないですよね」

 

 

 

 妹の叶恵が聞いてきた。何の脈略もなかったので少々困惑した。

 

 

 

「え? 一応あると言えばあるけど。うどんとか」

 

「うーん、私が言いたいのはですね、『いくらでも食べたい!』って思えるような食べ物です。明らかに優先順位と言うか格付けがされてると言うか」

 

「確かに特段何かの料理とかに執着とかはしないね。でもどうしていきなり聞いてきたの?」

 

 

 

 叶恵は置いていたペンを持つとそれをどうやってかクルクルと指の間で回した後ビシッとこちらに先を向けた。

 

 

 

「学校からの課題なんです。おのれ学校め、私が料理下手なのを承知の上での嫌がらせか」

 

「別に難しい料理とかじゃなくてフレンチトーストとかでいいと思うよ」

 

「難易度☆7です。卵の殻が混ざる確率大です」

 

 

 

 ええ……、フレンチトーストが駄目なら大半の料理が駄目な気がするけど。と思った亘琉だがそれは胸の奥にしまっておくことにした。

 

 

 

「あ、そうだ。味噌汁にしてみるのはどうでしょう。ほぼ毎日兄さんの作ったのを食べてるのできっとすぐ上手くなりますよ」

 

「味噌汁か、覚えといて損はない料理だしきっと叶恵が大人になったら作る機会多そうだしいいね」

 

「兄さんの為なら毎朝作ってあげますよ? どうです? 私もヒロインレースに参加しちゃいますよ」

 

 

 

 少しいたずらな目をしてこちらの顔を見る叶恵。ペンの先を頬につけてあざとさを出してた。叶恵の容姿も相まって耐性がない人ならコロっといってしまいそうな可愛さだ。叶恵は数年前からちょくちょくこういった行動をしてくる。一度風呂に入ってた時に「お背中流しましょうか」と言ってきた時は流石に驚いたな。

 

 

 

「でも難易度から言ってフレンチトーストの方がいいんじゃない? ……この前目玉焼きで失敗してたし」

 

「あのことは忘れてください……。でもでも昨日の私より今日の私、今日の私より明日の私は少し成長してるんです! 次はきっと失敗しません!」

 

 

 

 ちなみに叶恵は目玉焼きを3回作ったことがあるが一度もうまくいったことはない。亘琉は「がんばって」としか言いようがなかった。

 

 上機嫌で勉強を再開しだす。数学の問題の答えに味噌汁と書かれていた。そこはア~エで答える形式の問題だけど。

 

 

 

 

 

 櫻木亘琉、成績優秀品行方正、常に努力することを忘れず人望も厚い彼が女性の事を”苦手になった”のには母親が深く関係していた。

 

 

 

 彼の前の母親、櫻田美月は幼いころから小学の高学年までにかけて虐待をしたいた。

 

 今は当然離婚、叶恵も亘琉ももう長らく会ってないが父親の義嗣よしつぐは時々会って今の状況を話したり教育費を受け取ったりしている。義嗣は美月を一生許すことはないが昔愛した女として、一時期は子供を幸せにすると誓い身を粉にして頑張った彼らの生みの親として子供たちの今を話すべきだと思っている。

 

 

 

 美月は出会ったころと比べてすっかりやつれてしまっていた。過去の写真を持ってきても同一人物だとはわからないだろう。

 

 暴力、暴言、成長の妨害、ありとあらゆる虐待を亘琉は受けていた。何故だか妹の叶恵の目の前で虐待することは少なかったため叶恵が真実を知った時は目をこれでもかと開いて驚いていた。

 

 亘琉は他人に虐待の事を言うことをしなかった。母親と息子の関係はそういうものだと思っていたし何より他人に言ったことを母親が知った時どうなるかわからないという恐怖があった。

 

 家での虐待もあって小学生の頃の成績は最低だった。友人と話すことも少なくなる。

 

 虐待が発覚したのは5年生の時だった。その時の担任は女性、若くて優しく人気のある先生だった。担任は亘琉が自分に対してとめどない恐怖を持っていたことに気づき何度も他の先生を通じて彼と話をした。

 

 美月は目に見える傷を残すことをしなかったため彼が暴行を受けていることが発覚するのには時間がかかった。

 

 そのころ義嗣は朝早くに家を出て夜遅くに帰る日々だった。出張もたくさんあったし家族と触れ合う時間がもの凄く少なかった。そんな彼には美月はいつも疲れた体を癒してくれる良い妻だった。

 

 だから母親の虐待が発覚した時は誰よりも驚いたし憤慨した。同時にそれに気づかなかった自分を攻め立てた。

 

 その後は転勤し給料は前の仕事より少ないが家族の時間を多くとれるようになった。

 

 

 

 亘琉の女性嫌いは父親の義嗣よしつぐと叶恵かなえと本人だけの秘密だ。そして二人は誰よりも亘琉に優しくする。その効果もあって今の亘琉がいる。

 

 特に叶恵は今もなお治らない女性嫌いを少しでも軽くしようと毎日嫌われる覚悟て積極的に亘琉に絡んでいた。

 

「……そうだね。次の休日開いてるなら一緒にどう? あ、もちろん叶恵にはほとんど任せるけど」

 

「え、いいんですか? あ、でも兄さん受験勉強で忙しいんじゃ」

 

「大丈夫だよ。それにたまには兄として妹に何かしてやりたい」

 

「…………いえ、やっぱり一人で頑張ります」

 

「そう? でも気が変わったら言ってね」

 

「はい、その時はお願いしますね兄さん」

 

 

 

 部屋に戻ろうとするが立ち止まり振り返って言った。

 

 

 

「そこの問題の答えもう一回見てごらん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本格的に寒気が出てきた季節に学生にとってはビックイベントが発生していた。

 

 センター試験の当日である。

 

 進学を希望している学生はみなこの日の為に何十、何百日かけて努力してきた。その結果が形になる日である。

 

  櫻田亘流は万全の状態で試験を受けた。結果は――

 

 

 

「うん、よくできたよ」

 

「やったね兄さん!」

 

 

 

 電話で手ごたえを報告する。体感では間違いはほとんどない。全ての試験を終えた時亘流は珍しく安堵した。亘流は学校の定期試験や模試ではめったに解き終わった後に自信が出たことはなかった。久しい感覚に思わず笑顔がこぼれた。

 

 亘流は努力をこう思っている。「努力とは結果が出た時にのみそれをしたと言える。結果が出なかった時はそれはただの過程、一種の間違いである。だからこそ反省し次は上手くいくように考える」 これは小学校の校長先生が亘流に言った言葉だ。最初は言ってる意味がよく分からなかったが一年もすればその意味は理解できるようになった。最初にした努力はこの言葉の意味を理解する、努力である。

 

 だから

 

 

 

「頑張ったからね。次は叶恵の番だよ」

 

「はい、頑張ります。色々と用意してるので楽しみにして帰ってくださいね」

 

「ありがとう」

 

 

 

 そうだ、父さんにも連絡しないと。でも今仕事中だしどうしよう? ……メッセージだけでも送っておくかな。

 

 

 

『センター試験終わったよ。上手く出来たと思う』

 

 

 

「……あ、それから母さんにも送らないと」

 

 

 

『無事試験は終わりました』

 

 

 

 よし、こんなものかな。叶恵が色々やってくれるらしいし少しどこかに寄ってから帰ろうかな。

 

 

 

 

 

 県内の国公立大学に通っている一つ上の生徒会長と合流し受験のことや大学の話、今の生徒会の話等をして叶恵の「帰ってきていいよ」のメッセージを合図に解散する。

 

 どんな準備がされているのだろうか。とワクワクしながらドアノブに手をかけようとした。

 

 

 

「あれ? 若干開いてる……?」

 

 

 

 バタバタしたのだろうか。廊下は少々乱れていた。不信感を抱きながら居間に入る。

 

 

 

 まず目に入ったのは壁についている赤いなにかだった。立ち尽くしながらその原因を目で追っていく。

 

 心臓の鼓動が早くなる。それにつれて息も荒くなっていった。そしてそれが最高潮となった時――

 

 

 

 僕の腹に何かが突き刺さった。

 

 

 

 消えゆく意識の中で無残な姿の妹と母親を見た。複雑な感情だ。驚き、苦しみ、怒り、恐怖、、、、

 

 

 

 

 

 それらの感情は櫻田亘流の意識を覚醒させた。

 

 

 

 

 

 

 

背中に突き刺さった何かを前進することで引き抜く。大量の血液で床が赤く染まる。

 

 「痛い」というより「熱い」という方が正しいだろう。亘流の体は確かに燃えていた。灼熱の炎を吹き消すように半回転する。右手には赤く塗れたナイフが握られている。

 

 「こいつが刺したのだ」そう思うより先に本能が理解した。亘流は最後の思考を終えた。これより先は本能で行動すると決めたのだ。前方に体を倒した。それに驚いたのか右手のナイフが相手の体側に引かれた。が、それを掴む。全体重をかけ、手首を捻った。

 

 ナイフがこれらの手に渡った。右足で踏ん張る。出血がさらにひどくなった。ふらつく相手の顎を左手で若干上に押し上げると顔と首の間の部分に精一杯突き刺した。

 

 一瞬、相手の意識が飛んだ。そしてそれが命取りとなった。引き抜こうとして抑えた手によって支えられていたナイフは床に激突することでさらに奥へ食い込んだ。ピクリとも動かない。絶命した。

 

 不思議と亘流の身体はまだ動いた。その足で妹の元へ向かう。前髪をどかして瞼を下ろした。綺麗な死に顔だった。その後母の元へ向かい同じことをした。

 

 死ぬなら今だ。思考が戻った。理性が襲う。それらから逃げるように目を閉じようとしたが———

 

 

 

「これはどういうことだ!」

 

 

 

 振り向くともう一人、黒服の男が立っていた。うつぶせになった首にナイフが刺さっている死体を眺めている。

 

 

 

「最後に起きたのはこのためか」

 

 

 

 駆ける。咄嗟に男はナイフを構えた。が、それを体に受けながらも壁に押し倒す。残る力の全てを使い相手の気道を両親指で押した。徐々に力が抜けていき相手の体は床に倒れる。最後に自らの胸に突き刺さったナイフを抜き、首に突き刺した。

 

 小さな破裂音が響き、それと同時に自分の身体も倒れ、今度こそ本当に意識が消えた。

 




不定期更新です
少し付け足しました

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