竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった   作:シスコン軍曹

10 / 45
沼鬼との戦い

 ギリギリギリという歯軋りを鳴らしながら、ゆっくりと出てくる沼鬼。

 眉をひそめるその表情は、明らかに不機嫌そうだった。

 

「……お二人とも、俺の傍を離れないでください」

 

 俺はその鬼に刃を向けつつ、二人を背に庇うように立ちまわる。

 

(……今だ、行くぞ!)

 

 俺は気配のする方向に走り、複数で襲ってくるのを警戒し、捌ノ型の構えを取る。

 瞬間、俺の足元から、俺を沼へ引きずり降ろそうとする鬼が、()()現れる。

 

(なに⁉ もう一体は……⁉)

 

 もしかしたら……だが、今は目の前に二人に集中だ!

 

「……水の呼吸【捌ノ型 滝壷】ッ!」

「「ガ――ッ⁉」」

 

 取った!

 確かな手応えだ、確実に頸を切った!

 その俺の予想通り、二体の鬼は灰となって消滅した。

 

「動くな」

 

 すると、背後で声が聞こえた。

 慌てて振り返ると、先ほどの鬼と同じ姿をした沼鬼が、二人の頸筋に爪を突き立てていた。二人は恐怖で声も出ないようだ。

 

「刀を捨てろ。……まさか、俺が二人ともやられるとはな」

「くっ……!」

 

 人質。……迂闊だった。

 人数が少なくなっていて、前に踏み込み過ぎたんだ。俺の間合いから外れた二人を、危険に晒してしまった。完全に俺のミスだ。

 

「……ん? お前の背負っている箱、()()()()()()()? 先ほどまでは閉まっていたはず……」

「えっ……?」

 

 すると、沼鬼が俺にそんなことを聞いてきた。

 後ろを見てみると、確かに箱が開きっぱなしになっていた。

 ……ちょっと待て、じゃあ禰豆子はどこに……?

 

「よっこらせぇ!」

「ガハッ⁉ ……バカな、まだ仲間が……⁉」

 

 瞬間、何かが地面に叩きつけられる音と、何かが折れるような音とともに、沼鬼の絶叫と、禰豆子の叫びが響き渡る。

 どうやら、禰豆子が沼鬼にジャーマンスープレックスを掛けたようだ。

 けど、一体いつ外に…………、そうか! 俺が行動を起こすと同時に、箱から出て様子を窺っていたのか! 全く、抜け目のない奴だな。

 

「助かった禰豆子!」

「全く、しっかりしてよね」

「ああ! もう油断はしない!」

 

 日輪刀でなければ、鬼は殺せない。

 先程の禰豆子の一撃で、骨が折れる音が聞こえたが、向こうが堪えた様子はなかった。

 

「くっ、よく見れば、その女、鬼じゃないか! 貴様! 何故人間の味方をする⁉」

「貴方達の味方をするよりはマシなだけ……というか、私はお兄ちゃんの味方だから」

 

 おぉう……こうも正面切って言われると恥ずかしいな。

 

「くそっ!」

「あっ! 逃がすか‼」

 

 不利だと判断したのか、沼の中に潜って逃げようとする沼鬼。

 

「禰豆子! 二人を頼むぞ!」

「合点承知の助!」

 

 何それ……、まあいいや。

 俺は沼鬼の作った沼の中に入り込む。

 

(……沼の中だから呼吸は出来ないと思ってたけど、一応空気があるんだな。薄いけど)

 

 水の中ということで警戒していたが、全く行動できないわけではないらしい。

 まあ、呼吸が出来なきゃ技も使えないから当然と言えば当然か。

 

(⁉ これは、着物……?)

 

 沼の中には、大量の上質な着物が散りじりになって浮いていた。

 恐らく、沼鬼に殺された人の着物だろう。

 

(……助けられなかった……いや、悔やむのは後だ!)

「ハハハハっ! 苦しいか、小僧? この沼の中には、ほとんど空気もない。さらにこの沼の闇は、体にまとわりついて重いだろう? 地上のようには動けんのだ! ザマァみろ‼ 浅はかに自ら飛び込んできた、この愚か者が!」

 

 すると、下の方から沼鬼の声が聞こえた。

 舐めるなよ。鍛錬の方かがよっぽどきつかったぞ。

 

「べー」

「なっ⁉ 貴様ァ――ッ‼」

 

 俺は沼鬼に向かって、下を出し、目元を指で引っ張って挑発する。

 自分が優位に立っているときほど、挑発には乗せられやすい。沼鬼は単調な動きで俺に突進してくる。

 

(水の呼吸【陸ノ型 ねじれ渦】ッ‼)

「ガハァッ⁉」

 

 ねじれ渦は、水の中でも十分な威力を発揮する技。

 沼鬼が単調の動きだったというのもあり、簡単に頸を取ることが出来た。

 

(よし、戻るか――⁉)

 

 やばい。超苦しい。調子乗ってたけど普通に辛いわ。

 俺は大急ぎで地上へと戻る。

 

「ブハッ⁉ ゲホッ、ゲホッ! ……ふぅ、生きてるな、俺……」

「お兄ちゃん!」

 

 何とか戻ってこれた俺に、禰豆子が駆け寄ってくる。

 

「……大丈夫? 何処か痛むところとか」

「大丈夫だよ。どこも怪我してない。みんな無事だ」

 

 そう。みんな無事だ……ここに居る者は。

 

(……どうか、安らかに)

 

 俺は先ほどまで沼があった場所に、手をついて黙祷をささげる。

 助けられなかった。間に合わなかった。……俺に出来るのは、彼女たちの来世を祈ることだけだ。

 

「……禰豆子、あの二人は?」

「気絶させた」

「えっ」

 

 禰豆子の発言に思わず振り返ると、白目をむいて壁にもたれかかる和巳さんと、その彼にしなだれかかる里子さんがいた。

 

「えっ、なんで? 何やってるの?」

「……ダメだった?」

「あ、大丈夫です」

 

 頼むから涙目にならないでくれ。何でも許せちゃうから。

 仕方ない。あの様子じゃ多分朝まで起きないと思うけど、俺達じゃどうしようもないし、生きてるんだから大丈夫だろ。

 そう思い、この場を見られない様にそそくさと逃げるように去る。

 

「ほら、禰豆子」

「ん……」

 

 俺は背負っている箱を開き、禰豆子に入ってもらう。

 

「……さて、次はどうすればいいんだ?」

『鎹鴉が新しい任務を持ってくるまで適当に時間を潰したら?』

 

 適当にって言われても……特にやることないんだよな。

 

『あ、じゃあ、鍛錬の時とか、最終選別の話が聞きたい!』

「えぇ……でも、禰豆子は知ってるだろ?」

『いいじゃん! 原作とは違うんでしょどうせ』

 

 どうせって……まあ、違うんだけどさ。

 仕方ない。暇だし、カラスも来ないから話すか。

 

『山下りはどうだったの?』

「大変だったぞ? 罠の場所を覚えようとしても、鱗滝さんは毎日毎日罠の場所を変えるせいで、覚えても無駄だったし」

『へぇ~』

「だから、とにかく罠の気配を察知しようと思って」

『ちょっと何言ってるか分かんない』

 

 ……確かに。

 今にして思えば、罠の気配ってなんだ? 無機物に気配なんてあるのか? まあ、感じ取れたんだが……。

 

『ついに人間やめちゃったんだね』

「失礼だな⁉ ……まあ、そう言う訳だ。そして、鱗滝さんに岩を切れって言われた」

『おぉ……それでそれで?』

「岩は何故か俺の五倍くらいあってな」

『五倍⁉ 原作より大きいじゃん!』

 

 そうなんだよ。

 正直普通にくじけそうになった。

 

「全集中の呼吸・常中とか、鍛錬をよりハードにするとか、色々頑張ったんだが、どうにも切れなくてな」

『それだけやってどうして切れないの?』

「そしたら、いつの間にか、狐の面を付けた男が現れたんだ!」

『錆兎だね。でも、どう考えてもお兄ちゃんのほうが強いと思うけど……』

 

 そうでもないぞ? なにしろ、俺は錆兎には九か月経たないと勝てなかったんだしな。

 俺の剣には余分なものが多すぎて、剣に力が乗り切ってなかったんだ。

 

『……九か月って、大丈夫だったの? 最終選別の時間に間に合ったの?』

「錆兎と出会ったのが三か月後だったし、十分間に合ったぞ。……ん?」

 

 遠くから、鎹鴉がやってくる気配を感じた。

 その方向に視線を向けると、やはり鎹鴉が俺の方へとやってきて、肩に止まり叫ぶ。

 

「次ハ東京府、浅草! 鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ! カァー!」

「うげっ、もうかよ……」

 

 まだそんなに時間経ってないのに……。

 しかし、任務なら行かざるを得ない。

 

「……じゃ、出発だ」

『うん。おやすみ』

 

 そう言って、禰豆子は眠りにつく。

 それと同時に、太陽の光が差し込んでくる。

 

「さて、頑張りますか!」

 

 必ず、禰豆子を人間に戻して、普通の生活を送れるようにするために!

 

 

どっちがいい?

  • 一人称視点
  • 三人称視点
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。