竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
ギリギリギリという歯軋りを鳴らしながら、ゆっくりと出てくる沼鬼。
眉をひそめるその表情は、明らかに不機嫌そうだった。
「……お二人とも、俺の傍を離れないでください」
俺はその鬼に刃を向けつつ、二人を背に庇うように立ちまわる。
(……今だ、行くぞ!)
俺は気配のする方向に走り、複数で襲ってくるのを警戒し、捌ノ型の構えを取る。
瞬間、俺の足元から、俺を沼へ引きずり降ろそうとする鬼が、
(なに⁉ もう一体は……⁉)
もしかしたら……だが、今は目の前に二人に集中だ!
「……水の呼吸【捌ノ型 滝壷】ッ!」
「「ガ――ッ⁉」」
取った!
確かな手応えだ、確実に頸を切った!
その俺の予想通り、二体の鬼は灰となって消滅した。
「動くな」
すると、背後で声が聞こえた。
慌てて振り返ると、先ほどの鬼と同じ姿をした沼鬼が、二人の頸筋に爪を突き立てていた。二人は恐怖で声も出ないようだ。
「刀を捨てろ。……まさか、俺が二人ともやられるとはな」
「くっ……!」
人質。……迂闊だった。
人数が少なくなっていて、前に踏み込み過ぎたんだ。俺の間合いから外れた二人を、危険に晒してしまった。完全に俺のミスだ。
「……ん? お前の背負っている箱、
「えっ……?」
すると、沼鬼が俺にそんなことを聞いてきた。
後ろを見てみると、確かに箱が開きっぱなしになっていた。
……ちょっと待て、じゃあ禰豆子はどこに……?
「よっこらせぇ!」
「ガハッ⁉ ……バカな、まだ仲間が……⁉」
瞬間、何かが地面に叩きつけられる音と、何かが折れるような音とともに、沼鬼の絶叫と、禰豆子の叫びが響き渡る。
どうやら、禰豆子が沼鬼にジャーマンスープレックスを掛けたようだ。
けど、一体いつ外に…………、そうか! 俺が行動を起こすと同時に、箱から出て様子を窺っていたのか! 全く、抜け目のない奴だな。
「助かった禰豆子!」
「全く、しっかりしてよね」
「ああ! もう油断はしない!」
日輪刀でなければ、鬼は殺せない。
先程の禰豆子の一撃で、骨が折れる音が聞こえたが、向こうが堪えた様子はなかった。
「くっ、よく見れば、その女、鬼じゃないか! 貴様! 何故人間の味方をする⁉」
「貴方達の味方をするよりはマシなだけ……というか、私はお兄ちゃんの味方だから」
おぉう……こうも正面切って言われると恥ずかしいな。
「くそっ!」
「あっ! 逃がすか‼」
不利だと判断したのか、沼の中に潜って逃げようとする沼鬼。
「禰豆子! 二人を頼むぞ!」
「合点承知の助!」
何それ……、まあいいや。
俺は沼鬼の作った沼の中に入り込む。
(……沼の中だから呼吸は出来ないと思ってたけど、一応空気があるんだな。薄いけど)
水の中ということで警戒していたが、全く行動できないわけではないらしい。
まあ、呼吸が出来なきゃ技も使えないから当然と言えば当然か。
(⁉ これは、着物……?)
沼の中には、大量の上質な着物が散りじりになって浮いていた。
恐らく、沼鬼に殺された人の着物だろう。
(……助けられなかった……いや、悔やむのは後だ!)
「ハハハハっ! 苦しいか、小僧? この沼の中には、ほとんど空気もない。さらにこの沼の闇は、体にまとわりついて重いだろう? 地上のようには動けんのだ! ザマァみろ‼ 浅はかに自ら飛び込んできた、この愚か者が!」
すると、下の方から沼鬼の声が聞こえた。
舐めるなよ。鍛錬の方かがよっぽどきつかったぞ。
「べー」
「なっ⁉ 貴様ァ――ッ‼」
俺は沼鬼に向かって、下を出し、目元を指で引っ張って挑発する。
自分が優位に立っているときほど、挑発には乗せられやすい。沼鬼は単調な動きで俺に突進してくる。
(水の呼吸【陸ノ型 ねじれ渦】ッ‼)
「ガハァッ⁉」
ねじれ渦は、水の中でも十分な威力を発揮する技。
沼鬼が単調の動きだったというのもあり、簡単に頸を取ることが出来た。
(よし、戻るか――⁉)
やばい。超苦しい。調子乗ってたけど普通に辛いわ。
俺は大急ぎで地上へと戻る。
「ブハッ⁉ ゲホッ、ゲホッ! ……ふぅ、生きてるな、俺……」
「お兄ちゃん!」
何とか戻ってこれた俺に、禰豆子が駆け寄ってくる。
「……大丈夫? 何処か痛むところとか」
「大丈夫だよ。どこも怪我してない。みんな無事だ」
そう。みんな無事だ……ここに居る者は。
(……どうか、安らかに)
俺は先ほどまで沼があった場所に、手をついて黙祷をささげる。
助けられなかった。間に合わなかった。……俺に出来るのは、彼女たちの来世を祈ることだけだ。
「……禰豆子、あの二人は?」
「気絶させた」
「えっ」
禰豆子の発言に思わず振り返ると、白目をむいて壁にもたれかかる和巳さんと、その彼にしなだれかかる里子さんがいた。
「えっ、なんで? 何やってるの?」
「……ダメだった?」
「あ、大丈夫です」
頼むから涙目にならないでくれ。何でも許せちゃうから。
仕方ない。あの様子じゃ多分朝まで起きないと思うけど、俺達じゃどうしようもないし、生きてるんだから大丈夫だろ。
そう思い、この場を見られない様にそそくさと逃げるように去る。
「ほら、禰豆子」
「ん……」
俺は背負っている箱を開き、禰豆子に入ってもらう。
「……さて、次はどうすればいいんだ?」
『鎹鴉が新しい任務を持ってくるまで適当に時間を潰したら?』
適当にって言われても……特にやることないんだよな。
『あ、じゃあ、鍛錬の時とか、最終選別の話が聞きたい!』
「えぇ……でも、禰豆子は知ってるだろ?」
『いいじゃん! 原作とは違うんでしょどうせ』
どうせって……まあ、違うんだけどさ。
仕方ない。暇だし、カラスも来ないから話すか。
『山下りはどうだったの?』
「大変だったぞ? 罠の場所を覚えようとしても、鱗滝さんは毎日毎日罠の場所を変えるせいで、覚えても無駄だったし」
『へぇ~』
「だから、とにかく罠の気配を察知しようと思って」
『ちょっと何言ってるか分かんない』
……確かに。
今にして思えば、罠の気配ってなんだ? 無機物に気配なんてあるのか? まあ、感じ取れたんだが……。
『ついに人間やめちゃったんだね』
「失礼だな⁉ ……まあ、そう言う訳だ。そして、鱗滝さんに岩を切れって言われた」
『おぉ……それでそれで?』
「岩は何故か俺の五倍くらいあってな」
『五倍⁉ 原作より大きいじゃん!』
そうなんだよ。
正直普通にくじけそうになった。
「全集中の呼吸・常中とか、鍛錬をよりハードにするとか、色々頑張ったんだが、どうにも切れなくてな」
『それだけやってどうして切れないの?』
「そしたら、いつの間にか、狐の面を付けた男が現れたんだ!」
『錆兎だね。でも、どう考えてもお兄ちゃんのほうが強いと思うけど……』
そうでもないぞ? なにしろ、俺は錆兎には九か月経たないと勝てなかったんだしな。
俺の剣には余分なものが多すぎて、剣に力が乗り切ってなかったんだ。
『……九か月って、大丈夫だったの? 最終選別の時間に間に合ったの?』
「錆兎と出会ったのが三か月後だったし、十分間に合ったぞ。……ん?」
遠くから、鎹鴉がやってくる気配を感じた。
その方向に視線を向けると、やはり鎹鴉が俺の方へとやってきて、肩に止まり叫ぶ。
「次ハ東京府、浅草! 鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ! カァー!」
「うげっ、もうかよ……」
まだそんなに時間経ってないのに……。
しかし、任務なら行かざるを得ない。
「……じゃ、出発だ」
『うん。おやすみ』
そう言って、禰豆子は眠りにつく。
それと同時に、太陽の光が差し込んでくる。
「さて、頑張りますか!」
必ず、禰豆子を人間に戻して、普通の生活を送れるようにするために!
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