竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
「……」
カツ、カツ、カツという足音が、暗い路地裏に響く。
明るい表を避け、ポケットに手を突っ込み、白い帽子を被った色白の洋服を着た男は、その赤光する瞳を闇の中へと向けている。
その男、鬼舞辻無惨は、先ほどまで自分の目の前で起こっていた事件について考えていた。
耳に花札のような耳飾りを付けた、赫灼の子供。緑と黒の羽織を羽織る鬼殺隊士。唯一、黒い日輪刀を持っていなかったのは、彼にとって幸いだった。
「……来い」
闇に向かって、ぼそりと呟く鬼舞辻。すると、どこからともなく、首に数珠を下げ、目を閉じている男が姿を現した。
鬼舞辻はその男に、振り返ることなくただ命じる。
「耳に花札のような飾りを付けた鬼狩りの首を持ってこい。いいな?」
「御意」
男は即答し、瞬時に姿を消した。
鬼舞辻もまた、その場を静かに去っていった。
「改めて挨拶を。私は珠世。こちらは愈史郎です」
「ご丁寧にどうも。……えっと、俺は竈門炭治郎です。こっちは妹の……」
「禰豆子です」
浅草での戦いの後、俺と禰豆子さんは珠世さんに連れられ、彼女の自宅で療養していた。
俺は傷を負った場所に薬を塗ってもらい、大分楽になっている。
それより俺が気になるのは……。
「えっと、そのぅ……」
「……分かっております。……愈史郎、炭治郎さんたちをそんなに睨まないで」
「はい! ……、」
こちらを睨む少年、愈史郎。俺が見てる感じではずっと不機嫌だ。
しかも、珠世さんの言葉に元気よく答えたのに、まだこちらをじっと見ている。
そんな彼に珠世さんはため息をつき、俺に謝ってくる。
「……すみません」
「え、あ、あぁ……、お気になさらず。……それより一つ、お伺いしたいのですが……」
「なぜ私が、……いえ、我々が鬼なのに、医者などしているのか? ですね」
珠世さんは目を伏せ、そして語った。
己が鬼舞辻無惨を滅ぼしたいこと、鬼舞辻の呪いを外していること、愈史郎を自分の力で鬼に変えた事、輸血によって血を少量飲むだけで無事になっていることを。
すると、珠世さんも禰豆子の事を聞いてきたので、少しだけ掻い摘んで説明した。
この辺りは俺も禰豆子も既知の知識だ。そして、俺が今から話すものも、どちらかと言うと確認の為に、問いかける。
「珠世さん。鬼になった人間を、再び人に戻すことはできますか? 禰豆子は……日の下を歩けるようになりますか?」
正直に言うと、これに関しては確実な情報が欲しかった。
この世界は漫画やアニメのようにいくとは限らない。だから、禰豆子が人間に戻れない可能性もあった。考えたくはなかったけど。
「鬼を人に戻す方法は……あります」
……ふぅ。よかった……。
どうやら、俺達の知識通りらしいなこれは。
「なら、お願いします! どうかそれを、教えてはいただけませんか?」
「どんな傷にも病にも、必ず薬や治療法があるのです。今の時点で鬼を人に戻すことはできませんが、それもきっと……。……ですが、私達は必ず、その治療法を確立させたいと思っています」
「……それは、俺が生きている間に確立できるのでしょうか?」
「……保障は出来ません。しかし、最善を尽くすつもりです」
じゃあ心配ない。俺は嘘の匂いとか嗅ぎ分けられないけど、きっと大丈夫だ。根拠はないけど、そんな気がする。
「……俺にも、何か手伝えることはありますか?」
「勿論。私からも、貴方にお願いことが二つありますから。一つは、妹さんの血を調べさせてほしい。二つ、できる限り鬼舞辻の血が濃い鬼から、血液を採取してきてほしい。治療薬完成には、沢山の鬼の血を調べる必要があるでしょうから」
「鬼の血……」
珠世さんは俺の呟きにうなずき、言葉を続ける。
「禰豆子さんは今、極めて稀で特殊な状態です。2年間眠り続けたとのお話でしたが、おそらくその際に体が変化している。通常、それほど長い間、人の血肉や獣の肉を口にできなければ、まず間違いなく凶暴化します。しかし、驚くべきことに、禰豆子さんにはその症状がない。この奇跡は、今後の鍵となるでしょう」
すると、珠世さんは表情を暗くし、もう一つのお願いの説明を始めた。
「もう一つの願いは過酷なものとなるでしょう。鬼舞辻の血が濃い鬼とはすなわち、鬼舞辻により強い力を持つ鬼ということです。そのような鬼から血を取るのは、容易な事ではありません。それでも、あなたはこの願いを聞いてくださいますか?」
「勿論です」
こちらの即答に、珠世さんが目を丸くした。
まあ、そりゃ驚くだろう。ただでさえ鬼との戦闘は死と隣り合わせなのに、より自分が死ぬ可能性のある敵と戦えと言っているのを、あっさり了承するのだから。
俺はそんな彼女に微笑みながら言葉を続ける。
「禰豆子が人として生きていけるなら、なんだってやる。ずっと前にそう決めて、今までやってきたんです。それは、これからも変わりません」
「……禰豆子さんのこと、大切にしていらっしゃるのですね」
「えぇ、勿論」
そういって珠世さんが微笑む。それにつられて俺も思わず微笑み返した。
……その時――
「⁉ これは……!」
「珠世様! 術が破られました!」
「なんですって⁉」
今更だが、俺達のいる家は、愈史郎の血鬼術で隠蔽されている。
なので、普通は招かれない限り誰も入ってこれないのだが……。
「……外から気配を感じます。数は一人……先ほどの鬼よりも強いです!」
「どうしてここが……」
「決まっています! そこの鬼狩り達を連れてきたからです! 俺の目隠しの術も完璧ではないんです! あなたにもそれはわかっていますよね! 建物や人の気配、匂いは隠せるが、存在自体を消せるわけではない! 人数が増えるほど痕跡が残り鬼舞辻に見つかる確率も上がる! だから鬼狩りに関わるのはやめましょうって――ッ!」
「愈史郎!」
俺たちを非難する愈史郎に、珠世さんが声を荒げ、僅かに怒る。
……やっぱり、俺達のせいか。
「禰豆子、二人を頼む」
「……うん」
俺は部屋を飛び出し、外にいるであろう鬼のもとへ行く。
「……ほう。そちらから出てくるとは都合がいい。耳に花札のような耳飾りを付けた鬼狩り……お前で間違いないな」
そういった数珠を首からぶら下げる鬼は、俺に向かって両手を構える。
というか、もしかして俺、鬼舞辻にマークされてるのか? だったら好都合だ。アイツはよっぽどのことがない限り配下を使うから、戦えば戦うほど強い鬼が現れる。
そうすれば、珠世さんの条件も達成できる。正直、俺は狙われないんじゃないかと思ったが、この辺りも上手くいって何よりだ。
「あぐッ⁉」
突如、俺の体が不自然に飛び、建物に叩きつけられる。
背中から来る凄まじい衝撃に、俺は肺の中の空気をすべて吐き出して過呼吸に陥る。
だが、こんなものでは終わらなかった。
「ほれほれどうした? あのお方に名指しで始末するよう言われるから、どれほどのものと思ったが、よもやこの程度終わることはないよな?」
地面。壁。上空。様々な場所に空が勝手に飛ばされる。まるで何かに引っ張られるかのようにだ。今のところは向こうも手加減しているから、致命傷は負っていない。だが、このままじゃ、本当にまずい。
アイツは多分、矢印を使う鬼だ。原作にもいたのを覚えている。名前は確か……矢琶羽だ。矢印を使ってベクトル操作を行う敵……序盤に出ていい奴じゃないだろ絶対。
……にしても、矢印が見えないぞホント……! 何処からどんな方向に、どんな向きで攻撃が来るか分からないから、回避しようがない。
これ、初見じゃ柱でも苦戦するんじゃないか?
(くそっ……、どうすれば……!)
「おい! 何やってるお前! 矢印を見ろ! ……ったく」
いきなり、後ろから声を掛けた愈史郎が、俺に向かって紙のようなものを投げつける。その紙が俺の額に張り付くと、あちこちから迫る矢印を捉えることが出来た。
俺は右から迫ってくる矢印を回避しつつ、愈史郎に礼を言う。
「助かった! 迷惑かけた分の借りは返す!」
「……フン。御託はいいから、さっさとその鬼を切れ!」
「ああ!」
俺は矢琶羽に向き直り、刀を構える。それに対し矢琶羽は再び大量の矢印を放ってくる。俺はそれを躱し、一気に懐に入り込む。
こいつのベクトル操作は、見えないから厄介だったが、見えればこっちのものだ。触っても無駄など、他にも情報はこちらにある以上、負ける理由はない。
……そう、思っていた。
「儂の傍に寄るな!」
「な――ッ⁉」
刀を振るった瞬間、自分のいた場所が、文字通り後ろにスライドし、矢琶羽の目の前で振り下ろされる。
しまった。死角からも矢印を飛ばせるのか。情報で勝っていると言ったが、よく考えれば名前も忘れかけるほどの朧げな記憶じゃ無理があった。
しかも、ベクトル操作ともなればそんな簡単に行くはずもない。
「くっ!」
更に横合いから飛んでくる矢印を躱すが、そっちに気を取られ腕に巻き付く矢印に気づかなかった。
巻き付かれた右腕が、凄まじい力でねじれていく。
「すべて儂の思う方向じゃ! 腕がねじ切れるぞ!」
「チッ!」
俺は舌打ちしながらその場で跳躍し、矢印の方向に回転する。すると、矢印が唐突に消失した。
この矢印は、役割を終えると消滅するというのが弱点だ。こういう攻撃をされても、ずっと回り続けなければいけない訳じゃないから、幾分かやりやすい。
だが、実際どうする? アイツの矢印は結構早い。目に見える矢印を躱すのは問題ないが、矢印に気配を感じないから、死角からの矢印を回避できない。
その上、矢印自体は俺に当たるまで消えないし、触れたら矢印の方向に飛ばされる。
(……横水車。これしかない!)
水の呼吸【弐ノ型・改 横水車】。原作炭治郎が編み出した、水車の横バージョン。
原作ではこれを使い、矢琶羽を倒していた。ならば、これを使うしかないだろう。
(……あれ? この技、どうやって使うんだっけ?)
……終わった。えっ待って。確か【ねじれ渦】と【水車】……あともう一個……、なんだっけ?
横水車は無理そうだな。……他を考えるか。
(そうだ。矢印を出ないように、あの手の目玉を潰せばいいんだ!)
矢琶羽の手には、矢印のマークがついた目玉がある。それが彼の血鬼術の源。ならば、それを切ってしまえば、矢印を使えないはず!
なら、アイツの手を切るにはどうすればいい? 俺はそれを探るために、奴の手を見るが……。
(キモイ! 何だあの目? 原作では気にならなかったが、実際に見るとリアルで気持ち悪い!)
そんな感想は要らないと分かっているのに、どうしても思ってしまう。
そして、その隙が仇となった。
「ガッ――⁉」
矢印……それも、今までよりも一際強い矢印に引っ張られる。これをそのまま食らえば、体がグチャグチャだ。何とか技で受け身を取らないと。
「【壱ノ型 水面斬り】ッ!」
背後に迫る壁に対し、技を使って威力を殺す。だが、完全には消しきれず、僅かに体に衝撃が来た。
クソッ、こんなに強かったのか矢琶羽は。正直、十二鬼月じゃないと侮っていた。それに、朱紗丸を倒したこともあって己の力を過信していた。
俺は十分強いと思っていたが、向こうからすれば全然そんなことはなかった。事実、俺は結構追い詰められている。矢印が見えれば勝てると思ったのに、状況がまるで変っていない。
「くたばれ! 汚らしい小僧めが!」
矢琶羽が再び矢印を放った。俺はそれを回避しようとするが、ダメージで足が縺れて倒れこんでしまった。
俺は目の前に迫る矢印に対し、目を閉じて身を固くすることしかできず――
「危ない!」
そんな俺を、誰かが抱きかかえていった。
目を開けると、目付きが鋭く、闘気を見せる禰豆子がいた。
「禰豆、子……?」
「私も戦う」
禰豆子は俺を下ろすと、矢琶羽に対し拳を構える。
……あぁ、そっか。俺は、一人じゃないもんな。
「……すまない。頼むぞ、禰豆子!」
俺は立ち上がり、刀を構える。いつもよりも体が軽い。誰かと一緒に戦うのは、こんなにも心強いのか。
二人で同時に駆けだし、左右から挟むように攻め込む。禰豆子の額には、俺と同じ紙が張り付いていたから、矢印を捉えることはできるだろう。
「チッ、何故鬼が鬼狩りと……近寄るな汚らわしい!」
再び大量の矢印を放つ矢琶羽。だが、俺たち二人に放つ分、一人一人に向けられる矢印の量が少ない。これなら十分躱せる。
矢印を躱している間に禰豆子のほうを見るが、向こうも問題なく回避出来ていた。
「はぁぁぁぁ――っ!」
「ガハッ‼ き、貴様――!」
禰豆子のパンチが鳩尾に入り、怯む矢琶羽。そして、彼女に気を取られているうちに、俺が一気に勝負を決めるために技を繰り出した。
(全集中……水の呼吸【壱ノ型 水面斬り】ッ‼)
腕を十字に、薙ぎ払うように刃を振るうと、矢琶羽の頸が一気に刎ね飛んだ。よし、何とか倒した!
だが、油断してはならない。原作ではここから相打ちに持ち込もうと血鬼術を使ってくる。俺は慎重に、矢琶羽の手の目玉を潰した。
「おの、れ……おのれ、おのれおのれおのれッッ‼‼ お前の頸さえ持ち帰れば、あの御方に認めていただけたのに‼ おのれぇぇぇぇぇぇぇええええええッッッ‼‼‼」
断末魔を上げ、恨み節を俺に吐きつけながら、矢琶羽は灰となって消える。
その寸前、矢琶羽の体に小さなナイフのようなものが刺さり、彼の血を吸い取った。
血を吸い取られたことにも気づかない矢琶羽は、そのまま消えていき、地面には血を吸い取ったナイフがポツンと落ちていた。
珠世さんが、そのナイフを手に取り、呟く。
「この血が治療薬を作るための、手掛かりになるとよいのですが……。炭治郎さん、間もなく夜が明けます。一度、屋敷の中へ」
「……はい」
俺と禰豆子は珠世さんに連れられ、屋敷の中へ移動する。
「一つ、お話が。……私達は、この土地を去ります。鬼舞辻に近付き過ぎました。早く身を隠さなければ危険な状況です」
愈史郎の血鬼術が破られたからか。……俺のせいで。
思わず俯く俺に、珠世さんが優しく諭す。
「貴方のせいではありません。気にしないでください。……炭治郎さん、禰豆子さんは私達がお預かりしましょうか?」
「えっ⁉」
珠世さんの提案に、俺ではなく隣にいた愈史郎が驚愕し、こっちを睨んでいる。絶対にやめろと、目が訴えている。
……彼女に預ける方が禰豆子が安全なのは間違いないだろう。
禰豆子がじっとこちらを見ている。……俺の判断に任せるってことか。
「……提案は本当にありがたいです。けど……うん。やっぱり、俺は禰豆子と離れたくない。……一緒にいたいんです」
嘘偽りない、俺の気持ちを伝える。別にシスコンを拗らせたわけじゃない。ただ、今は傍にいて欲しい。いつかいなくなると分かってるけど、それでも、今だけは……。
俺の返答に、珠世さんはただ、そうですかと言って頷く。
「では、武運長久を祈ります」
「じゃあな! 俺達は痕跡を消してから行く。お前らはさっさと行け………………気を付けろよ」
「! ……はい! 行くぞ禰豆子!」
「うん!」
俺の呼びかけに、禰豆子は笑顔で答える。
そして、いつもの箱を背負い、禰豆子を入れて出発した。
「カァー!」
すると、すぐさま鎹鴉が飛んできて、次の指令を伝えに来た。
「南南東! 南南東‼ 南南東‼ 次ノ場所ハ南南東‼」
「相変わらずブラック‼‼」
俺一応怪我してるんだけど、この仕事にはいつ休みが入るんでしょうか?
……次辺りに休みが入ることを信じながら、俺は南南東へと向かった。
矢琶羽がなんか滅茶苦茶強かった希ガス
どっちがいい?
-
一人称視点
-
三人称視点