竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
藤の花の家紋の旅館で一日を終えた翌日。
朝六時ほどで、炭治郎は目を覚ました。この日も日課の鍛錬をこなす。
「さて、と」
いそいそと着替え、顔を洗い歯磨き、身支度を終え、刀を持って庭に出る。
腕立て伏せ、走り込み。その他諸々の筋トレ。モブ厳の世界ではトレーニングは欠かせないのだ。
「ふぅ。しっかりと休んだからか、いつもより体が軽いな」
そもそも、全治一週間の怪我を放置した状態で戦闘を続けていたほうがおかしいのだ。
痛みを全く感じないわけではないし、間違いなく今までの戦闘に僅かでも違和感を覚えさせていただろう。
「ちょっと休憩……ん?」
「禰豆子ちゃぁぁぁぁぁんッ!」
一息入れようかと思ったが、善逸の奇声を聞いて部屋に戻った。
そこでは、
「結婚してぇぇぇぇぇえええええーーッ!」
「私より強い人じゃないと無理です」
「ゴフッ⁉」
禰豆子に求婚をきっぱりと断られた善逸が吐血していた。
しかしすぐさま起き上がり、部屋に戻っていた炭治郎に詰め寄った。
「俺に全集中の呼吸・常中を教えてくださいッ!」
「べ、別にいいけど……」
あまりにも必死すぎるその形相に、思わずドン引きの炭治郎。
すると、今の今まで寝ていた伊之助も起き上がり、
「おい権八郎! 特別に、俺に教えさせてやる!」
何処までも偉そうに言う伊之助だった。
そして、それから彼らの過酷な一週間が始まった。
「ぎゃぁあああああああーーッ!」
ある時、善逸は悲鳴を上げ……
「ぐぉぉおおおおおおおーーッ⁉」
伊之助は叫び……
「いいから休んでください。悪化させたいんですか?」
「……はい、すみません」
自分も訓練を怠らないのはいい事だが、今は休めと、医者に圧を掛けられる炭治郎。
そんなこんなで一週間は、あっと言う間い過ぎていった。途中、善逸が禰豆子に何度かアタックするも撃沈し、炭治郎が心でガッツポーズをし、伊之助は禰豆子のことをすっかり忘れ慣れてきた全集中の呼吸・常中の訓練に励んでいた。そう、彼らは僅か一週間で、常中を獲得しつつあったのだ。既に伊之助は15時間。善逸は13時間と、凄まじい成長速度で、炭治郎も目を見張るほどだった。
というか、炭治郎は「ここまで完成させるのに数か月かかっているので、自分には才能がないのでは?」と思っていたが、現代人の感覚が抜けきっていないのだから仕方がないのである。
つまるところ、現代人の感覚では、既に眠りながらでも出来る炭治郎は十分超人なのだ。
「完治です」
そんな時、炭治郎が医者に完治を言い渡される。
「……決して、無理はしない様に」
「はい!」
医者に健闘を祈られ、元気よく返事を返す炭治郎。
そして、いつもの隊服に着替え、出発の準備をした。
「北北東! 北北東! 次ノ場所ハ北北東! 三人ハ那田蜘蛛山ニ行ケ! 那田蜘蛛山ニ行ケ!」
「那田蜘蛛山?」
「既ニ調査ニ向カッタ隊士ノ数名ガ行方不明ニナッテイル!」
鎹鴉の伝令に従い、旅館を出る。
その前に……
「では行きます。お世話になりました」
そういって、炭治郎と善逸が頭を下げる。伊之助は意味が分からないのか、何もしなかった。
老婆はそれに眉一つ動かさず、懐から火打石を取り出した。
「では、切り火を」
「はい。……あ、伊之助、今からやるのは切り火と言ってだな……」
炭治郎が伊之助は知らないだろうと思い、切り火について説明する。そして案の定、伊之助は知らなかったようで、善逸が引いていた。
老婆にお清めしてもらい、次の任務の為に走る炭治郎たち。
「なあ伊之助。そう言えば聞いてなかったんだけどさ」
「なんだよ」
「伊之助はどうして鬼殺隊に?」
「……鬼殺隊の隊員って奴が、俺の山の中に来やがったから、力比べして刀を奪ってやった」
(その鬼殺隊士は不幸だな……)
(というか、やってること山賊じゃないか)
そして、その時にその鬼殺隊士に最終選別の存在を聞き、飛び入り参加したという訳だ。
更に伊之助は、他の生き物との力比べだけでが唯一の楽しみだという。
「だから! 俺はいずれお前に勝つぞ権八郎!」
しばし悩んだ炭治郎は、
「うーん、そういうことなら、偶にはいいけど……」
そういって伊之助の挑戦を了承する炭治郎。
だが、味方同士での戦いというのは拒否感が出るな、とも思った。
そして、山道を進んで数時間。すっかり日も暮れ夜になり、
「待ってくれ! ちょっと待ってくれないか!」
絶妙に決まった顔で炭治郎たちに待つよう促す善逸。
「無理」
「ヤダ辛辣! というか怖いんだ! 目的地が近づいてきてとても怖い!」
「何座ってんだこいつ? 気持ち悪ぃ奴だな」
「お前に言われたくねぇ猪頭!」
善逸は座り込んだ状態で、先に続く那田蜘蛛山を指差し、叫ぶ。
「目の前のあの山から何も感じねぇのかよーーッ!」
「そんなこと俺に言われても……ぶっちゃけ鱗滝さんの鍛錬の方がよっぽど怖かったし」
「どんな鍛錬してたんだよ⁉」
「やっぱ気持ち悪ぃ奴」
「気持ち悪くなんてない! 普通だ! 俺は普通で、お前らが異常だぁぁッ!」
いや、鬼殺隊が鬼の出ると言われた場所でしり込みするのは異常だと思うが。
そんな感想を抱いた炭治郎だったが、流石にらちが明かないので無理やり善逸を引っ張ることにした。
なにしろ、状況が状況だ。禰豆子に聞いた限りでは、この山では十二鬼月が出るらしい。
それも、相当強い上に、群れて行動しているらしい。
鬼は基本群れないという前提を知っているからこそ、逆に異常な存在である十二鬼月の鬼に、炭治郎はゾッとするが、先ほども言ったようにしり込みしていても仕方ない。
「……ん? 人の気配……?」
「おい、何かいるぞあそこに」
「えっ……?」
伊之助が指さす方を見てみると、体中血塗れでボロボロの、鬼殺隊の隊服を着た男性が、涙目で俯せになり倒れていた。
思わず炭治郎が、「大丈夫ですか⁉」と駆け寄ると、
「あ…助け―――うわぁぁぁぁぁぁぁッッ⁉ 繋がっていた⁉ 俺にも……た、助けてくれぇぇぇえええええッッ‼」
「あ、待て!」
炭治郎が手を伸ばすが、みるみる距離が離れていく。
「私が行く」
すると、女性の声が響き、それを聞いた炭治郎は誰かに頭を踏まれて倒れる。
「はぁ!」
「えっ―――うわぁぁぁぁぁッッ!」
危うく山の中に連れ去られるところだった隊士は、間一髪のところで、炭治郎の背負っていた箱の中から飛び出した禰豆子に救われる。
禰豆子に抱きかかえられた隊士は、白目をむいて気絶した。
「おい、気ぃ失ってるぞ。使えねぇ」
「そう言うな伊之助。きっと強い鬼が居て、命からがらここまで逃げてきたんだ」
言って、白々しいと炭治郎は内心自嘲する。
鬼がいる。そんなことは分かっている。もっと早くここに来れば、この人がこんなに傷つくこともなかったのではないか。
そう思わずにはいられない。
(――悔やむのは後だ。今は俺のやるべきことを……!)
「行こう、伊之助、善逸」
「俺に命令してんじゃねぇ! そういうお前こそ、ガクガク震えながら後ろをついてきな。――腹が減るぜ」
「腕が鳴るだろ……」
「……ははっ」
思わず口元から笑みがこぼれる。
そんな炭治郎を無視して、伊之助は意気揚々と山の中へと入っていく。
炭治郎もそれを追って善逸を引っ張りながら走っていく。善逸は終始泣き叫んでいたが、誰も聞き入れはしなかった。
そして、入り口に入ってすぐ、ついてきた禰豆子が
「……それにしても、凄い量のクモの巣だな」
「邪魔くせぇな」
「てか、クモの音カサカサして気持ち悪いんだけど!」
炭治郎が周囲を見回して呟き、伊之助が腕を振り回して纏わりついたクモの巣を取り払い、善逸は泣きながら耳を塞ぐ。
そうこうしていると、生き残りの隊士の一人が脂汗を滝のように流しながら、周囲を警戒しているのが見えた。
炭治郎たちは状況確認のため、その隊士のもとへ走る。
「応援にきました! 階級癸、竈門炭治郎です!」
「⁉ ……癸? ……癸⁉ なんで柱じゃないんだ⁉ 癸なんて何人来ても同じだ、意味がない!」
瞬間、伊之助の放ったグーパンチが、隊士の顔に突き刺さる。
「ハァ⁉ おま、伊之助おま、何やってんのマジで⁉」
「うっせぇ! 意味のあるなしで言ったら、お前の存在自体、意味がねぇんだよ! さっさと状況説明しやがれ弱味噌が!」
「な、何なんだこいつ……俺の方が先輩なのに!」
突然の伊之助の奇行に驚愕する善逸を他所に、伊之助は隊士の頭を掴み、状況説明をせがむ。
そして、仕方なく隊士は説明を始めた。
彼が言うには、鴉からの伝令で、十人ほどの隊士と那田蜘蛛山に入り、しばらくすると、隊士の中の一人が殺し合いを始めたらしい。
その後も、他の隊士も刀を抜いて仲間を斬り始め、混乱状態になったそうだ。
「なあ、炭治郎。さっきから気になったんだけどさ」
「どうした善逸?」
「変な音しないか? なんか、凄いカタカタ言ってるんだけど……」
「ヒィィ⁉」
すると、善逸の発言に、隊士が情けない声を上げて縮こまる。
「ど、どうしたんですか⁉」
「そ、その音だ! その音が聞こえたら急にみんなが……!」
「おい、俺にも聞こえてきたぜ」
伊之助がそういうと、炭治郎の耳にも
「……な、なあ、炭治郎……」
「……なんだ?」
「あ、あれってさ、み、味方だよな? 俺たちの所まで逃げてきたんだよな?」
善逸が震える声で、ある方向を指差す。
その方向に三人が目を向けると、
「……俺としても、その方がよかったよ」
炭治郎が、目の前にやってきた、何処か人形じみた動きの鬼殺隊士たちを見て、そう言った。
その次の瞬間、彼らが突如、炭治郎たちに牙を剥く。
「うわっ⁉」
「ははっ、こいつらバカだぜ! 隊員同士でやり合うのはご法度だって知らねぇんだ!」
「いやつい最近覚えたばっかのお前が何言ってんだ⁉ ててて、っていうか、これってやっぱりあれなのかな⁉ 鬼の血鬼術なのかな⁉」
善逸が叫んでいるのを聞き流し、炭治郎は隊士たちを観察する。
そして、彼らに違和感を感じ、その正体を瞬時に掴んだ。
「はぁッ!」
炭治郎は隊士の一人……その
すると、文字通り、糸が切れたように、その隊士は倒れこんだ。すでにこと切れているようで、起き上がる気配はない。
「二人とも、糸だ! 彼らは糸によって操られている。背中の糸を斬れば彼らの動きは止まる!」
「めんどくせぇ! 全員ぶった切ればいいだろーが⁉」
「駄目だ! まだ生きてる人も混じってるんだ! それに、彼らは仲間。その死体を傷つけるのは……なんていうか、よくないと思う! 祟られる気がする!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろバカ! は、早く何とかしてぇ!」
「善逸も戦ってくれ! 糸を斬るだけでいいんだ! 動きも遅いし、そもそも相手は鬼じゃない!」
「そうじゃないんだって! この人たちの糸を斬っても意味ないんだよぉ!」
どういうことだ? と、炭治郎が尋ねると、善逸は涙目で、足元で動き回る白い体表のクモを指差した。
「こいつら、さっきから俺に飛びついてくるんだ! しかも、何か糸巻き付けてきてさァ! 多分だけど――」
「……そのクモたちが糸を出してる……? じ、じゃあ――!」
炭治郎が、既に糸を斬って倒れた人たちを見る。
そこでは案の定、倒れた隊士が再び、操り人形のような動きで迫ってきていた。
「なら、そのクモを皆殺しにすればいいんだな!」
「出来るわけないだろバカ! 何匹いると思ってんだ⁉ しかも、こいつら凄い小さいし!」
「……くそ、どうしたら……? ね、禰豆子、何か……あれ? 禰豆子?」
自分より知識のある妹に頼ろうと、その名を呼ぶ炭治郎だったが、何故か返事は帰ってこない。
慌てて周囲を見渡すが、禰豆子はどこにもいなかった。
さて、禰豆子はどこにいったんでしょうかねぇ