竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
走る。走る。走る。
刺激臭の強くなる方向へと、足を進める。
暗い森の中を、黒い髪の、一人の少女……否、鬼娘が駆けていた。
「……迷った。……仕方ない」
鬼娘……禰豆子が空を見上げると、小屋のようなものが、白い糸でつるし上げられており、その周囲には同じく糸で吊られる、鬼殺隊士がいた。
一人は頭から髪が抜け落ちており、またある一人は手がクモのような方に変化しており、明らかに異常な光景だった。
その光景に思わず吐き気が込み上げてきた禰豆子だが、なんとか堪え、その下手人であろう鬼へと言葉を発する。
「やい! 出てきやがれインテリ野郎! こそこそ隠れて毒を撃ち込むだけって、恥ずかしくないんですかぁ⁉」
すると、その言葉を聞いて禰豆子の存在に気づいたのか、小屋の中から、まるで巨大な蜘蛛のような姿をした鬼が、逆さまの状態で姿を現した。
文字通りの人面蜘蛛。手足は六本で、尻のあたりから細い糸を垂らし、宙に浮いているかのような状態を演出している。
小屋や、辺りに張り巡らされた糸を見ると、まるでそこが、その鬼の巣であるかのようだった。
「何なんだお前? いきなりやってきて訳の分からないことを……というか、鬼だと? ……へっ」
鬼は禰豆子が鬼であると分かった途端、なるほどと言った様子で厭らしい笑みを浮かべ、こう切り出した。
「なるほど、お前も累の力を分けてほしいのか? いいだろう、俺から口利きして……」
「お前の弟の場所を吐け。私がぶっ殺してやる」
「……はぁ?」
本物の馬鹿を見るような目で、禰豆子を見つめる鬼。
そして、いきなり高笑いを上げて言った。
「ハハハハハッ! お前頭がおかしいのか⁉ 累を殺す? 鬼のお前が? 鬼狩りでもないのに? とんだ笑い話だぜ!」
「御託はいい。吐かないならアンタから斬る」
「おうおう、随分と強気だねぇ。まあ、聞けって。そもそも、俺達は同じ鬼だろ? 争ったって何の意味もない」
「意味はある。累を倒せば、お兄ちゃんに万が一が来ることもない」
「……はぁ。やっぱり馬鹿だな、お前」
心底呆れたようなため息を吐き、鬼は告げた。
「お前みたいな奴放っておいたら、累に何言われるか分かんねぇ。だから死ね」
そして、鬼同士の殺し合いが始まった。
先に仕掛けたのは敵の蜘蛛鬼だ。口から紫色の液体のようなものを、禰豆子に吐きつける。
彼女はそれを走って回避し、周りの木を盾にしながら、回り込むように走る。液体は地面に落ち、その土を溶かすことで、まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターが生まれる。
「チッ、木が邪魔だな。お前たち、やれ!」
鬼が何者かに指示を出す。
それに嫌な予感を感じた禰豆子が、慌てて後ろ振り返ると、
「クソッ、人面蜘蛛多いって!」
そこには、体がクモで、顔は人間、しかし頭から髪が完全に抜け落ちて禿げ上がっていた、謎の生物がいた。
禰豆子はその正体を知っている。
(彼らは、アイツに蜘蛛にされた鬼殺隊士だから、傷付けることはできない!)
そう。
あの鬼には、人を蜘蛛にすることが出来る毒がある。それは鬼である禰豆子にまで通じるのかどうかは分からないが、少なくとも、当たらない方がいいのは確実だ。
それにその毒は、目の前の完全に蜘蛛にされた人たちも扱える。
それ故、禰豆子は彼らにも気を付けねばならなかった。
毒には気を付ける。しかし、戦ってはならない。余りにも集中を使う行為であり、そして、それは禰豆子が行うにはあまりにも高度だった。
そして、それは致命的な隙を生む。
「ッ⁉ し、しまっ……!」
飛びついてきた鬼殺隊士を、思わず振り払う形で傷つけてしまった。幸い、死んではいないが、その事実は禰豆子を激しく動揺させた。
そして、そのことに動揺した禰豆子の隙を突いて、鬼が再び毒液を吐き出す。
「危ないっ!」
「えっ――」
「何っ⁉」
毒液が禰豆子の全身に降りかかる直前、雷光が彼女を掻っ攫った。
「大丈夫、禰豆子ちゃん?」
「……善逸、さん……?」
禰豆子は自分を救いだした少年の名を呼び、そして目を見開いて呆然としていた。
――――――
「おい三太郎。アイツに任せて大丈夫なのかよ?」
「善逸はいざという時はちゃんとやってくれるから、心配はいらない。それよりも……」
死に体の仲間から放たれる刃を打ち払い、その背中から伸びる糸を切り裂き、地面に群がる蜘蛛を踏みつぶした炭治郎は、
「くそっ、やっぱり蜘蛛を潰すのは駄目だ。次から次へと湧いて出てくる! 操っている鬼を見つけて、倒さないと終わらない!」
「チッ、だったら仕方ねぇ!」
伊之助は両手に持っていた刀を地面に突きさし、まるで壁に手を付けるような構えで、技を発動する。
「獣の呼吸【漆ノ型 空間識覚】」
優れた触覚をさらに研ぎ澄まし、大気の微細振動を捉える事で、幻惑の術の類を無視して広範囲の索敵を行う技。
これにより、伊之助は敵の位置を正確に捉える。
「見つけたぜ! あっちだ!」
伊之助はある方角を指差し、得意げに叫ぶ。
「ありがとう伊之助! こっちはこっちで何とかする。それから、えっと……」
炭治郎が、一緒に戦っている地味な鬼殺隊士に目を向ける。
向こうもそれに気づき、名乗りを上げた。
「……む、村田だ!」
「村田さん、ここは任せても大丈夫ですか⁉」
「あ、ああ! これ以上情けないところは見せられないからな。先に行ってくれ!」
「ありがとうございます! 伊之助、案内してくれ!」
「へっ、親分についてきな!」
伊之助が先行し、それに炭治郎がついていった。
「あん?」
「どうした、伊之す……」
突如、伊之助が立ち止まり上空を見上げたので、炭治郎もつられて見上げる。
その先には……、
「……僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」
月の光に照らされる、少年の姿をした鬼がいた。足元には糸が張り巡らされており、まるで宙に浮いているかのようだった。
特別強い気配は感じない……だが、それ故に不気味だと思った炭治郎。
「お前らなんて、すぐに母さんが殺すから」
「母さん……? それが、操り糸の鬼か!」
「オラァッ!」
すると、伊之助が木を足場に跳躍し、少年に刃を振るう。
だが、あと一歩のところで届かず、伊之助の攻撃は空振りに終わった。
それを一瞥し、完全に興味を失ったのか、少年は無言で立ち去っていく。
「くっそ! どこ行くんだテメェ⁉」
「待った伊之助! 操り糸の鬼を倒すのが先だ!」
「……チッ」
頗る不機嫌な様子で舌打ちし、渋々操り糸の鬼の居場所を目指して走る伊之助と、その後に続く炭治郎。
すると、再び糸が背中から伸びる鬼殺隊士と遭遇した。
「また出やがったぜ……」
「駄目……こっちに来ないで。……誰か、階級が上の人を連れて来て……そうじゃないと、みんな、殺してしまう……!」
髪を後ろで結び、涙を流しながら懇願する女性隊士。
その周囲には、彼女の仲間のものであろう屍が、無造作に散らされていた。
「――逃げて!」
女性が叫んだ……その瞬間、素早い動きで刀を振るう……否、振るわされる女性隊士。
その一撃を防ぐ炭治郎に、女性が言う。
「操られてるから……動きが全然、違うのよ! 私達、こんなに……強くなかった! あ、あぁぁあああッ!」
グギゴギッ、と。
鈍い音が響き、女性隊士が嗚咽をもらす。
無理やり動かされているから、体に異常が起ころうとお構いなしなのだろう。
しかし、それでも倒れない炭治郎達に業を煮やしたのか、倒れていた隊士たちも立ち上がらされた。
「こ…殺してくれ……!」
まだ息のある隊士が、歪な形になった腕で刀を振り回しながら、そう頼んでくる。
どうやら、手足の骨だけでなく、内臓もやられているようだ。このままでは、いずれは息絶えてしまうだろう。
「……伊之助、走るぞ」
「あァ?」
「ここに居る人たちを無視して、一気に鬼のもとに行くんだ!」
「それが出来たら苦労はしねぇよ! さっきの奴らならともかく、こいつら地味に速ぇんだよ!」
「……糸を斬れば、また繋げ直すのに少し時間が掛かるはずだ。その間に切り抜ける!」
そういった炭治郎は、迫ってきた隊士たちの糸を斬り、全速力で駆け抜けた。
伊之助も置いていかれないようにそれに続いていく。
「おぉ! 抜けたぜ! よっしゃー! このままいくぞ、ついてこい紋次郎!」
「炭治郎だ! ……でも、意外と上手くいってよかった」
「けど、アイツ等放っておいていいのか?」
「操り糸の鬼を倒さないと終わらないんだ。仕方がない……」
そう言って、顔を俯かせる炭治郎。
すると、近くから物音が聞こえてくる。
「なんだ?」
「へっ、やっぱり出たな……って、あァ⁉ こいつ、
伊之助の言う通り、物陰から現れたのは、頸のない鬼だった。
腕はまるで刃物のような形をして、カマキリを連想させた。
頸無し鬼は、その両腕を振るって伊之助たちに攻撃を仕掛ける。
「チィッ!」
伊之助は二本の日輪刀を使い、その攻撃を受け流す。
そこへ脇から飛び出した炭治郎が、水の呼吸【弐ノ型 水車】を使い、右腕を切り落とした。
それで隙を見せた鬼に、今度は伊之助が、残った左腕を切り落とした。
「よし、一気に決めよう!」
「けど、こいつ頸ねぇぞ! ないもんは斬れねぇ!」
「頸がなくなれば鬼は灰になる! この鬼には、まだ頸と呼べる部分が少し残ってるんだ! だから、そこを切り落とせばいい!」
「……なるほど。で、どうすればいいんだよ?」
炭治郎はじっくりと頸無し鬼を観察し、
「袈裟斬りにするんだ! 右の首の付け根から左脇下まで斬れば、きっと!」
「なるほどな。じゃあ、こいつは俺が斬ってやるよ。操り糸の鬼は、あっちの方向にいる。お前はさっさとぶった斬ってきな!」
「えっ、いいのか⁉ なら、任せるぞ伊之助!」
そういって、伊之助が示した方向へと走っていく炭治郎を見届けながら、伊之助は、腕を無くして蹲る頸無し鬼へと刃を向ける。
「テメェの相手はこの俺、嘴平伊之助様だァ!」
えっ、禰豆子が累のところに行くと思った?
いきませんでしたすみません