竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
ぺろぺろ
「……、」
「……、」
鬼と鬼狩りが、互いに睨み合う。
そんな状況を、俺はただ呆然と見ているしかできなかった。目の前の現象を、まるで夢か何かの様に認識していた。
「う”ぅ”……!」
「禰豆子……? ……ッ⁉」
禰豆子が威嚇するように呻き声を上げる。
だが、俺は気づいた。彼女の息は荒く、足がガクガクと生まれたての小鹿のように震えており、どう見ても怯えていた。
そんな彼女の姿を見て、俺はハッと意識を現実に戻し、近くに会った斧を手に取りつつ、彼女を庇うように前に立って説得を試みる。
「待ってくれ! この子を傷付けるのはやめてくれ‼」
目の前の男性は恐らく、冨岡義勇。鬼殺隊の柱の一つ、水柱で、凄まじい実力を持つ剣士だ。到底、俺の敵う存在ではない。
だからこそ、どんな相手にも通じる言葉で対抗しようとしたが、
「断る。俺の仕事は人食い鬼を切ることだ」
当然だろう。冨岡義勇は鬼殺隊の任務に忠実だ。こんなことで納得するような人物ではない。
尤も、鬼殺隊であれば、鬼を庇う存在など誰も許しはしないだろう。そう考えれば、冨岡義勇はだいぶ譲歩しているほうだ。
「なら尚更待ってくれ! 禰豆子は生きてる人を食ったことなんてないし、これからも決して襲いはしない‼ 信じてくれ‼ お願いだから彼女を殺すのは――」
「ならそれをどうやって証明するつもりだ?」
………………これ以上は話して無駄だろう。
俺は冨岡義勇の言葉を聞き、無言で斧を構える。武器なんて……ましてや、斧どころかナイフだって振ったことのない俺だけど、禰豆子を守らないと。
たった一つの、繋がりなんだ。俺を独りぼっちにしない、唯一の存在なんだ。絶対に死なせはしない……!
「……そうか」
俺の戦う意思を汲み取ったのか、冨岡義勇も矛先を俺へと変えた。
「はぁっ!」
瞬間、俺は斧を横向きにし、スコップで削るように、雪を掻き出し、冨岡義勇へと放つ。
その瞬間、雪でしっかり隠れるように斧を上空へと投げ放った。よし、これで準備は整った!
「ちっ」
腕では防ぎきれないほどの雪の量に、思わず彼は少し後退した。
それでいい。なるべく禰豆子から離れれば、それだけ彼女の生き残る確率は上がる。
「……
俺は後悔の感情を滲ませた言葉を呟き、冨岡義勇へと駆けていく。
かつて、俺には妹がいた。頼りがいがあって、優しくて……自慢の妹。思えば、禰豆子になった女の子はどこか、俺の妹にそっくりだ。
だからこそ、あの子に抱かれた時、あんなにも安心したし、暖かいと思ったのだろう。
いざという時に緊張したり、怖がったりするところなんかもそっくりだった。けど、あの子は強がりだったから、絶対に認めようとはしなかったな。
……あの暖かさを、決して失わせない。……
(……ただ突っ込んでくるだけか)
そんな俺に、どこか呆れたような、失望の感情を顔に滲ませた冨岡義勇は、目にも止まらぬ速さで俺の背に肘打ちを放とうとする。
……やっぱり来た!
「?」
俺は全力でその攻撃を横にカッ飛んで躱す。来ると分かっている攻撃、しかも手加減されているのだから、避けることは……全力でやればなんとかなる。
再び俺に向かって構えなおす冨岡義勇だが、突如不審がって俺に聞く。
「お前、斧はどうした……まさか⁉」
「!」
冨岡義勇が上空へと目を向けた。
それと同時に、俺は全力で冨岡義勇に飛び掛かる。
「ちっ、面倒だ……なに?」
何度目かの疑問の声を漏らす冨岡義勇。俺は飛び掛かる直前で停止し、斧が冨岡義勇に降りかかるのを待った。
当然、と冨岡義勇は飛んできた斧を刀で弾くが、その僅かな隙の間に一気に冨岡義勇に飛び掛かり、彼の肩を掴む。
(よし!)
「……力比べで俺に勝てるつもりか? 浅はかだぞ」
「分かっている。……だから!」
だから……俺がこの状況で、唯一この男に勝っているものを使うしかない。
「はぁぁぁぁぁぁッッッ‼‼‼」
「ぐっ……! 頭突き……⁉」
俺が冨岡義勇に勝っているもの。確証はなかったが、それは竈門炭治郎本人が持つ頭の固さだ。
しかし、頭突きした俺も痛い。俺だから、本人のような頑丈さは出せないのか?
「関係……あるかぁぁぁぁぁぁ―――――ッッッ‼‼‼」
俺は再び二度目の頭突きを放とうとする……が。
「ガフッ⁉」
「……二度も同じ手は食わん」
その言葉を最後に、俺の意識は刈り取られた。
……禰豆子は……もう……、逃げ…た……かな?
何をしているのだろう、私は。
冨岡義勇の狙いは私。私が首を差し出せば、それだけ彼は危険の目に遭わなくて済む。
なのに……今、絶対に敵わない相手に向かって立ち向かっているのは、力がある私ではなく、ただの人間である炭治郎だ。
そして、そんな彼の奮闘虚しく、冨岡義勇によって意識を奪われ、彼の足元で倒れ伏す。
「……、」
思わず自分の手を見た。ガタガタと震え、足は無意識にこの場を離れようとしている。
怯えているのだ。言葉にしなくても、心で理解してる。あれには勝てない。今すぐ逃げろと、本能が訴えてくる。
「……嫌だ。
思い起こされる
かつて、私には兄がいた。頼りなく、泣き言も多い。けど、いざとなれば頼りになる兄が。
今にして思えば、私はどこかで、自分の兄と、炭治郎に憑依したという男を重ねていたのかもしれない。彼が膝をついて弱音を吐く姿が、兄にとてもそっくりだったから。ついいつもの様に抱きしめてしまった。
そんな弱々しい彼は、肝心な時に怯えている私を守る為に、今あそこで倒れている。
「………ァ”、ァァ”、ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ッッ‼‼」
まるで獣のような咆哮とともに、己を鼓舞して冨岡義勇……の近くで倒れる炭治郎のもとに駆け寄り、一瞬で彼のもとから引き剥がす。
本来の彼ならそんな行動を見逃すはずもないだろう。だが、私の行動が予想外だったのか、それとも炭治郎の事など既に眼中にないのか、彼は大して抵抗もしなかった。
「……傷つけさせない……絶対に‼」
「⁉ ……お前は……」
炭治郎を庇いながら、烈火の如く冨岡義勇を睨みつける。こんなことをしても、彼が怯みはしないのは分かっている。それでも、戦わないといけない。
私と炭治郎は、例え血で繋がっていても、兄妹ではないのだろう。……でも、それでも、私のたった一つの繋がりで……私を守ってくれた人なんだから。
私たちの行動を見て何を思ったのか、冨岡義勇は刀を鞘に納める。その動作を不審がったが次の瞬間、冨岡義勇の姿が消える。
辺りを見渡して捜索しようとするが、
「うぐっ⁉」
首筋の衝撃によって、私は意識を手放した。
「……、」
雪の上で倒れながらも、
(……俺が敵になると分かった途端、説得をやめ、俺に生殺与奪の権を握らせないよう立ち向かう兄。敵わないと分かっていながらも、咄嗟の機転で、俺の油断を見抜き一撃を与える行動力と洞察力、そして幸運。そして、俺の不意打ちから咄嗟に兄であろうこの少年を守る為に動き、俺の気迫に怯えながら何も出来なくなっていたのが、こいつを倒した途端、猛然と拳を振るってきた鬼の少女。……恐らくこの鬼の少女は、つい先ほど変質したばかりで、飢餓状態にあるはずだ。それを押し殺し、兄の為だけに己を奮い立たせ、立ち上がる心持ち……)
「……この二人は、何か違う」
そんな、根拠の無い確信をもって、冨岡義勇は呟いた。
富岡パート少なすぎワロタ
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