竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
伊之助に後ろを託し、目的地へと走る炭治郎。
木々をかき分けて進んでいき、ついに操り糸の鬼を見つける。
「いた!」
「⁉ ひぃ――!」
炭治郎の存在を確認した途端、凄まじい怯えようを見せる操り糸の鬼を見て少し困惑するが、刀を構えて技を使おうとする。
その時、
「俺の家族に……近づくなァァァァァァッッ‼」
「何っ⁉」
横合いからいきなり現れた、白い髪の、今までで一番蜘蛛のような顔をした鬼が、凄まじい巨体を惜しげもなく晒しながら、腕を振り回して近づいてくる。
炭治郎は咄嗟に飛び退き、自身に向けられた拳を躱しつつ、その腕に縦から刃を振り下ろす。
「はぁ!」
炭治郎の日輪刀が僅かに食い込み、少しだけ血が流れるが、全く堪えた様子を見せない巨大な鬼に、炭治郎が冷や汗を流す。
明らかに今までとは格が違う、圧倒的な力。それを肌で感じ、ガタガタと刀が振るえる。
(恐れるな! 大丈夫だ……俺なら勝てる! 自分を信じろ! 諦めるな‼)
「水の呼吸【弐ノ型 水車】ッ!」
縦に回転しながら、車輪のような動きをする炭治郎が放った斬撃で、鬼の二の腕が千切れ飛ぶ。
それを見た炭治郎が勝利を確信した。この鬼は斬れる。勝てない相手じゃない。
僅かに心に余裕が戻り、冷静な思考を巡らせる。
(この鬼……明らかに理性が飛んでる。攻撃も大雑把だ。躱すの容易!)
その考え通り、炭治郎は鬼の連続攻撃を完璧に見切って躱し、再び技を使って反撃する。
「【参ノ型 流流舞い】ッ‼」
水が流れるような動きで、鬼の手を斬り飛ばしつつ、その懐に潜り込んだ。
そこで技を止め、腕を手前で交差させながら鬼の頸元までジャンプする炭治郎。
「【壱ノ型 水面斬り】ッッッ‼」
勢いよく水平に放たれた横一線の刃が、いとも容易く鬼の頸を斬った。
鬼は後ろへ倒れこみ、体の節々が炭化していく。
炭治郎はその様子を流し見ながら、今度は操り糸の鬼へと目を向ける。
「……、」
その女性……鬼は、何故か先程と違い怯えの表情が失せ、逆に無言で頸を差し出してきた。
その行動にギョッと目を見張る炭治郎だったが、それを望むならと、構えを取る。
近くまで行き、間合いに入って刀を構え、技を放とうとした……その瞬間、
「――ッ⁉」
「ねえ、何やってるの、母さん?」
「……えっ?」
自身の首元に白い糸のようなものが飛んできて、咄嗟に身をかがめることでそれを躱し、距離をとる炭治郎。
そんな彼の事など無視して、突如介入してきた鬼の少年、累が、操り糸の鬼を、静かな怒りを込めた視線で射抜きながら言う。
「今、勝手に殺されようとした? 家族を見捨てて? それが母親のやることなの?」
「え、あ、いや……その、違っ――」
「――もういいや。
「……ちょっと待て。何を言っているんだお前は……?」
わなわなと肩を震えさせる炭治郎が、顔を俯かせながら問いかける。
すると、累はまだ居たのかという呆れた感情を滲ませながら、炭治郎の問いかけに答える。
「……何って、そのまんまだけど? 家族を置いて勝手にいなくなろうとするような母さんは、要らないって言ってるんだ」
「――ふざけるな! お前たちが家族……? 奴隷の間違いだろう! お前たちの間に家族の繋がりなんて微塵も感じない……お前たちは端から家族なんかじゃない、だからお前は逃げられるんだ!」
気配から、炭治郎は察していた。
操り糸の鬼が累を恐れていること。そこに強い悲しみと恐怖の感情が渦巻いていることを。死を渇望するほど、苦しんでいることを。
故に、解放しようとした。だが、それすらも許さないのか、この鬼は。
「……ねえ、今、何て言ったの?」
瞬間、周囲の温度が数度、下がるのを肌で感じた。
今まで感じなかった圧倒的な重圧、空気が重くなるのを感じる。その変化の差は、まるで眠る前の善逸が眠った時のようだった。
ドス黒い気配、強烈な殺気を炭治郎に向けながら、半場脅すかのように累が言う。
それに対し無言で刀を構える炭治郎。
「おっ、丁度いいくらいの鬼がいるじゃないか」
突如として、一触即発だった彼らの間に割り込んできた鬼殺隊士。
僅かに笑みを浮かべ、小物臭い言葉を吐きながら、腰に携えた刀を抜き放つその少年に、全員の意識が向けられた。
「こんなガキの鬼なら、俺でもやれるぜ」
「な、ちょっと待て!」
その言葉は聞き捨てならない。
累の力は炭治郎が今まで戦ったどの鬼よりも強い。それは、先ほどの威圧感からすぐに分かった。
そして、介入してきた隊士は、お世辞にも強いとは言い難かった。少なくとも、炭治郎より弱いというのは間違いない。
故に、声を掛けた。無惨に命を散らして欲しくないがゆえに。
だが、
「お前は引っ込んでな。俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃ、上から支給される金も多くなるからなァ。俺の隊は殆ど全滅状態だが、とりあえず俺は、そこそこの鬼を一匹倒して下山するぜ」
そういって聞く耳を持たない。
そこにいるのはそこそこの鬼などではない。そう叫びたいが、少年の傲慢な態度から、今の自分が何を言っても聞かないだろうというのは目に見えていた。
なんとか彼に、累の力を伝え、助けを呼ぶよう頼めないものか。そう、炭治郎が思考を巡らせていると、
「オラァ!」
「なっ、よせ――ッ!」
思わず手を伸ばすが、遅い。
「え――」
少年の全身に、蜘蛛の巣を形作った糸が投げやりに放たれる。
間抜けな声を上げ、一瞬で細切れにされた少年。そのバラバラの死体を見ながら、思わず口元に迫る吐き気を堪える。
初めて見た、人が殺される瞬間。今までも死体は見たが、それは既に事が済んでいるものだったし、それ以外でも瀕死の重傷を負うものとも会ったが、何とか助けることが出来ていた。
気分の悪さに涙目になるが、ギリギリで吐くのを耐えて累を睨む。
「……ねえ、もう一度言ってよ。君、今、何て言ったの?」
「分からないなら、何度でも言おう。……お前は間違っている! 今のお前は独りぼっちだ。お前に……お前の傍に、本物の家族なんていない‼」
ブチリ、と。何かが切れるような音が聞こえた気がした。
「……お前、簡単には死ねないよ」
それが、開戦の合図だった。
一瞬で、炭治郎の視界全体に、大量の赤外線センサーのように張り巡らされる白い糸。それが一気にあらゆる角度から、順番に炭治郎へと押し寄せてくる。
最初のうちは何とか躱せるが、少しづつ体に掠るようになってきた。それに危機感を覚える。
このままでは、いずれは四肢も切られて……。
「チッ! 【陸ノ型 ねじれ渦】ッ‼」
体を捩り、回転しながら斬撃を繰り出す。
四方八方からやってきた糸が、一瞬で切り裂かれた。
(今だ!
ゴオオオオッッ‼ と。
今までとは一風変わった呼吸音に、累が少し警戒する……が。
「……クソ、
「……なんだ、コケ脅しか」
ヒノカミ神楽。
原作の竈門炭治郎の切り札とも呼べる技を、今の炭治郎は使えなかった。勿論、失敗したのは、今日が初めてではない。
今までも何度か、ヒノカミ神楽を使おうとし、失敗してきた。使えないのだ、炭治郎は。どれだけ己を磨いても、記憶の中の呼吸を、舞を再現しても。
今まではそれでも、水の呼吸で何とかなってきたが、今回は難しい。糸は斬れたから、絶対に無理とは言えないが、それでも不安は残る。
「君、さっきの奴より僕のこと舐めてるよね?」
「くっ、うるさい! 水の呼吸【玖ノ型 水流飛沫・乱】ッ!」
木を足場に、回り込むように動き死角から累へと刀を振るう。
その刃が頸に届く……その時、
「ふんっ」
「⁉ がァッ……!」
無造作に振るわれた右腕に、右頬を殴られる。
咄嗟に受け身を取ってダメージは減らしたが、頬のズキズキと来る痛みに少し集中が途切れそうになる。
「……お前はあとでいいや。先に母さんを縛らないと。逃げられたら困るし」
「えっ……?」
ふと、思い出したように、腰が抜けて倒れこんでいた操り糸の鬼へと視線を向け、右手を向ける。
その手から放たれた糸が、操り糸の鬼の四肢に巻き付き、引き千切れそうなほど縛り付ける。
激痛で声にならない叫びをあげる操り糸の鬼だが、累は関係ないと言わんばかりに力を強めた。
「やめろォッッ‼ 【肆ノ型 打ち潮】ッッ‼‼」
連続で繋がった斬撃が、操り糸の鬼を縛る糸を切り裂いていく。
それを見た累が、まるで珍種の生物を見るかのような目で炭治郎を見て、問いかけた。
「何なの、お前?」
「……こっちが聞きたい」
静かな怒りを滲ませて、炭治郎が言葉を返す。
「なぜ、彼女を狙う? 彼女は俺たちの戦いに関係はない、少なくとも、今、傷付ける必要はないはずだ!」
「戦い? 変なことを言うね。僕がやってるのは処刑だよ、勝負じゃない。それに、
あっけらかんと、むしろ当然のことを聞かれて逆に驚いたように言葉を返す累。
「……ふざけるな」
「僕は至って真面目だけど」
「黙れッ! やはり俺は間違っていない! おかしいのはお前だ‼」
「……よっぽど死にたいみたいだね。でも、僕は優しいから、その言葉を取り消すなら、一息で殺してあげるよ? まあ、取り消さないなら、苦しめるけど」
まるであやとりでするかのように手元で糸を操りながら、再び炭治郎へと攻撃を仕掛ける累。
炭治郎は操り糸の鬼を抱きかかえ、糸を回避して距離をとる。
「……どうして」
「ん?」
「どう、して……私を助けるんですか? 貴方は鬼狩り……私を殺しこそすれど、守る理由なんて……」
糸が上空から炭治郎の脳天に振り下ろされる。それを咄嗟に回避し、巻き上がった土煙を利用して操り糸の鬼を木陰に隠す。
そして、木を盾にしながら累を監視しつつ、質問に答えた。
「確かに、俺は君を斬るよ。俺は鬼狩りだ」
「……、」
「だけど、苦しませない」
「えっ……?」
炭治郎は操り糸の鬼の手を取り、真っ直ぐ目を見て訴えかける。
「君はきっと、今までもたくさんの人を殺してきたんだと思う。それは許されないことだ。だけど、死を望むというのなら、俺はそれを拒絶しない。君が自分の行いを悔いているなら、俺が優しく殺す」
「……、」
「……目の前で殺害予告されたらちょっと奇妙かもしれないけどさ。……俺は
それだけ伝えて、炭治郎は木の陰から出る。すでに土煙は晴れ、見渡しはよくなっていた。
そんな炭治郎の後姿を見ながら、操り糸の鬼は思う。
(分からない……彼は、私を殺す。勿論、この苦しみから解放されるなら、死んでもいい! ……でも)
胸が熱い。心が、今までで一番軽い。
(心地良い……彼に守ってもらえてるのが嬉しい……どうしてなの? こんなの、知らない……!)
それは、母親であるなら、必ず知っていないといけない感情。そして、長らく傷つけられて忘れていた、守られることの安心感。それが、彼女の傷ついた心を少しだけ、癒していった。
偽物とはいえ、家族にも守ってもらえなかった少女は、皮肉なことに、自分を殺しに来た鬼狩りによって守られ、救われたのだった。
操り糸の鬼は、自分の高鳴る胸を抑え、戦闘へと目を向けた。
因みに、累が力を与えた鬼を殺したら、累に力が帰ってくるって言うのは独自設定。
っていうか、妙なフラグが立ってるんだが……?(因みに作者は恋愛初心者だからラブコメと化したら大体失敗する)
サイステ先輩は救済対象外です