竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
那田蜘蛛山から帰還した(という名目で拉致された)炭治郎は、いつの間にかどこかの屋敷のような場所の庭に連れられていた。
そして、そんな彼の目の前には、
「頭悪そう……帰っていいですか?」
「ふざけんなッッ‼‼」
「べぶらっちょ⁉」
開口一番に炭治郎が言い放った言葉に、近くにいた
今、彼は鬼殺隊の「柱」という最高の地位にいる者たちによって、裁判が行われていた。
その状況で帰っていいかなどと、ふざけたことを抜かす炭治郎は相当疲れているのだろう。
「お、おま、お前‼ は、柱の方々になんてことを……‼ 取り消せバカ野郎ッ‼」
「いてて……」
「ハハハッ、随分と図太い野郎だなオイ!」
「炭治郎君、でしたっけ? 流石に目上の相手に対する態度がなっていないですよ?」
「嗚呼……、礼儀も知らないとは、なんと可哀そうな子供なんだ……」
「うむ。最早語るに落ちる! これ以上の裁判は必要ない! 鬼諸共、斬首にするべきだ‼」
上から順に、顔や体にきらびやかなメイクや飾りをした男、音柱・宇随天元。
那田蜘蛛山で出会った、胡蝶しのぶ。
額に傷のある、数珠を手に持つ大男、岩柱・悲鳴嶼行冥。
燃えるような赤い髪の炎柱・煉獄杏寿郎。
他にも、様々な「柱」たちが出揃っていた……ただ一人、風柱を除いて。
「そんなことより、冨岡はどうするのかね。拘束もしてない様に、俺は頭痛がしてくるんだが? 胡蝶めの話によると、隊律違反は冨岡も同じだろう」
遠くの木の枝に寝そべっている蛇柱・伊黒小芭内が、離れた場所で一人佇む冨岡を指差して、そう言った。
「どう処分する? どう責任を取らせる? どんな目に遭わせてやろうか? ……なんとか言ったらどうだ、冨岡?」
「……、」
「と、冨岡さん! す、すみません……! 俺のせいで、巻き込んでしまい……‼」
「……気にするな。問題はない」
「オイ、こいつ俺たちのことは舐めてるくせに、冨岡には敬語使ってるぞ……」
「私たちは冨岡さんより下ということですか。これは舐められてますね。そこの隠の方、少し強めに小突いください」
「えっ」
ゴスッ‼ と。
見事な拳骨が炭治郎の脳天に突き刺さった。炭治郎はあまりの理不尽さに泣いた。
しのぶは隠の男に礼を言い、炭治郎に向き直って言った。
「冨岡さんは大人しくついて来てくれましたし、後で構いません。それよりも、私は坊やの方から話を聞きたいですよ。坊やが鬼殺隊員の身でありながら、鬼を連れて任務に当たっている。そのことについて、当人から説明を聞きたい」
「……あれは、今から二年前のことです」
「そんなところから長々と話されても困ります。もっと簡潔に話してください。冨岡さんといい、どうしてそう二年前から話したがるんですか?」
と言っても、全ての始まりが二年前であること。
炭治郎と冨岡、禰豆子が接点を持ったのは二年前の時からそれっきりであり、それがすべての始まりである以上、そこ以外の話はする必要が無いのだが、知らない人間には伝わらない。
故に、炭治郎は至って簡潔に、短く説明する。
「……冨岡さんに発破をかけられて鬼殺隊になる決心をしました」
「冨岡さんは切腹でいいですね」
「えっ」
「え、あっ。い、いやそうじゃなくて⁉」
まさか売られるとは思っていなかった冨岡はつい間抜けな声を漏らし、しのぶの無慈悲な宣告を聞いて、言い方がまずかったのかと慌てて言いなおす。
「……妹と一緒に家の前で今後について話していたら、冨岡さんが乱入してきて、それで発破をかけられて、俺は鬼殺隊に入り、妹と一緒に鬼と戦う決心をしたんです!」
「鬼を見逃したのなら、冨岡さんは斬首でいいですね」
「あれ⁉」
何故か伝わらなかったようで、声を上げて驚く炭治郎。しかし、柱である人物が鬼を見逃したとなれば、重大な隊律違反であるのは事実なので、否定はできない。
そこで、恋柱の甘露寺蜜璃が聞き捨てならないと言った風に、口を挟む。
「
「! は、はい。そうです! 妹は戦えるんです! 俺と一緒に、鬼殺隊として‼」
ようやく見つけた突破口。逃しはしないと、炭治郎は禰豆子を鬼殺隊に残す利点を懸命に伝えようとする。
「ふん。くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも、身内なら庇って当たり前。言うこと全て信用できない。俺は信用しない」
「嗚呼……鬼に取り憑かれているのだ。早く、この憐れな子供を殺して解き放ってあげよう」
「鎹鴉がっ! 鎹鴉なら、そのことについて正しく話せるはずです!」
鎹鴉は、鬼殺隊士が虚偽の報告をしないための対策としても存在する。
つまり、鴉の言うことには正当性があるのだ。それを、訴えられている側の炭治郎が切り出すということは、余程の自信があるのだろう。
伊黒と悲鳴嶼が押し黙るが、
「おい。鴉が証明できるのは、お前が鬼殺隊になってからだけだろ。さっきのお前の話じゃ、妹が鬼になったのは二年前。そこから鬼殺隊になるまでの間に、妹が人を喰わなかったことを証明できるのか? そもそも、これからも妹が人を喰わないというなら、口先だけじゃなくてド派手に証明してみろ」
宇随の言うこともまた、正論だ。
(いや、裁判って話し合いだから口先が一番重要なんじゃ……そもそも禰豆子いないから証明もなにもないんだが……)
そう思ったが、口には出さない炭治郎。
すると、再び甘露寺が口を挟んだ。
「あの~……でも、疑問があるんですけど。……お館様が、このことを把握してないとは思えないです……勝手に処分しちゃっていいんでしょうか? いらっしゃるまでとりあえず待った方が……」
「ぴ、ピンクの人さん……!」
「ピンクの人⁉」
「おい貴様、甘露寺を変な名前で呼ぶな殺すぞ」
甘露寺が唐突につけられた渾名に驚愕し、伊黒が炭治郎に殺気を向ける。
しかし、そんなことは気にもせず、先程から何度も助け船を出してくれる甘露寺に、炭治郎の好感度はマックスだった。
別に女性として好きになるわけではないが、尊敬具合は冨岡レベルだった。
そして、気づいた。
「……あれ、禰豆子の気配が……」
「おいおい。なんだか面白い事になってるな……鬼を連れた馬鹿隊員ってのァそいつかい? 一体全体、どういうつもりだァ?」
現れたのは柱最後の一人、風柱・不死川実弥だ。その手には、いつも炭治郎が背負っている禰豆子が入る箱があった。
「……不死川さん、勝手なことをしないでください」
「鬼が何だって坊主? 鬼殺隊として人を守るために戦える? ――そんなことはなぁ……有り得ねェんだよ馬鹿がッ‼」
グサリ、と。
日輪刀を逆手に持ち、箱越しに禰豆子を突き刺す不死川。
箱の中から、禰豆子の声にならない悲鳴が聞こえた。
そしてその瞬間、炭治郎の頭に血が上った。
「やめろーーッ‼」
ブチィッ‼ という音とともに、手に掛けられていた縄を引き千切って、不死川に向かっていく炭治郎。
それを見た不死川は、むしろ待ってましたと言わんばかりに刀を構え――
「くッ!」
「なっ――!」
炭治郎は足元の地面を蹴り、砂を巻き起こして不死川の視界を覆う。
普通ならば、絶対にありえないことだ。今彼らがいるのは、鬼殺隊の頭の屋敷。それを踏み荒らすどころか目くらましに使うなど、彼らからすれば正気の沙汰ではない。
実際、それを眺めていた柱のものは、顔をしかめ、中には刀を抜こうとしているものまでいた。
(チッ、今はそれは後回しだ! こいつはどっちからくる……右か、左か⁉)
お館様、産屋敷家の庭を荒らしたこと、その絶対にありえない行動が、不死川の判断を鈍らせていた。
「はぁーーっ‼」
「なっ、正面……ガハッ⁉」
炭治郎は巻き上げた砂の中を通り、不死川の刀を持つ手を抑えたうえで、その左頬を右の拳で殴りつけた。
殴られて、箱を落とした不死川が、壁に叩きつけられる。
そんな彼を見下ろしながら、炭治郎が叫んだ。
「俺の妹を傷つけるなら、例え柱であろうと容赦はしない‼ ……貴方の意見が間違っているとは思わない。それでも、俺は戦う。俺は、俺の妹を守る為なら、誰とだって戦うッ‼」
「て、メェ……‼ ぶっ殺してやるッ!」
炭治郎が拳を構え、不死川が刀を向ける。
一触即発の中、互いが動く……その時、
「そこまでだ。もうじき、お館様がいらっしゃる。これ以上は許されないぞ」
「炭治郎、拳を引け。お前の気持ちは分かる……だが、庭を削るのはやり過ぎだ。後でお館様と庭に謝っておけ」
それを止めるために、煉獄と冨岡が動いた。
「えっ、庭にも謝らないといけないんですか⁉ す、すみません庭さん!」
何故か地面へと頭を下げるという奇行を行う炭治郎だが、柱の中にはむしろ当然だと言わんばかりの表情をするものもいた。
どうやら、鬼殺隊は異常者の集まりらしい。
「「お館様の、御成りです」」
ほとんど同じ声帯が、庭に響く。
その声を聞いた瞬間、全ての柱が跪いて、冨岡も無理やり、戸惑う炭治郎に頭を下げせた。
「――よく来たね、私の可愛い
「あっ、す、すみません! お館様のお庭を荒らしてしまい……!」
「炭治郎か。なぁに、気にしないでくれ。庭なんて幾らでも直せる。君も元気いっぱいで嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます!」
庭の件を許してもらえ内心喜ぶが、同時に疑問に思った。何故、この人は自分の名前を知っているのだろうか。
しかし、それには答えてもらえないまま、話は進む。
「お館様におかれましても、ご壮健でなによりです。益々のご多幸を、切にお祈り申し上げます」
(私が言いたかった! お館様にご挨拶……)
「――恐れながら、柱合会議の前に、この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますが、よろしいでしょうか?」
「そうだね。驚かせてしまって、すまなかった。炭治郎と禰豆子の事は、私が容認していた。そして、みんなにも認めてほしいと思ってる」
炭治郎、冨岡を除く全員が、驚いた顔でお館様、産屋敷耀哉を見る。
「嗚呼……例えお館様の願いであっても承諾しかねる……」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない!」
「私は、全てお館様の望むまま従います!」
「僕は反対です。お館様の庭を傷付けたソイツは、許せない」
ここで初めて喋った霞柱・時透無一郎が、否を唱えた。
「無一郎、それは私が許したから、もういいんだよ」
「……なら、僕はどちらでも」
一時的には、従うようだ。
そして、しのぶと冨岡は無言を貫き、
「信用しない信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ」
「心より尊敬するお館様であるが、理解できないお考えだ! 全力で反対する‼」
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門・冨岡両名の処罰をお願いします」
反対派が多い、というかほぼ反対派しかいない。
「――手紙を」
「はい……こちらの手紙は、元柱である鱗滝左近次様から、頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」
『炭治郎が鬼の妹と共に在ることを、どうかお許しください。禰豆子は、強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わず、さらには人間の頃の記憶を保ったまま。その状態で、二年以上の歳月が経過しました。にわかには信じ難い状況ですが、紛れもない事実です。もしも、禰豆子が人に襲い掛かった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次及び冨岡義勇が、腹を切ってお詫びします』
かつての師が、己が兄弟子が、自分たちの為に命を懸けていたという事実に、感謝しか出てこない。
炭治郎は礼を言おうと冨岡のほうを向き、
「冨岡……さん……ありが――……あれ、あの……、なんか汗かいてません?」
「…………………………………………………気のせいだ」
炭治郎が思いのほかやらかしてて草。
というか、庭に謝るって何?
冨岡さんが焦っていたのか、それとも何か別の理由があるのか……それはご想像にお任せします。
一応独自解釈タグ付けてるので……