竈門炭治郎になったけど妹まで同類だった 作:シスコン軍曹
今年もよろしくお願いします!
何故か冨岡が焦っていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
そう思い、炭治郎は一先ず、この裁判を乗り切ることに集中するために思考を切り替える。
「切腹するから何だというのか……死にたいなら勝手に死に腐れよ! 何の保証にもなりはしません!」
「不死川の言う通りです! 人を喰い殺せば、取り返しがつかない! 殺された人は戻らない!」
「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、証明ができない。ただ―――人を襲うということも、また証明ができない」
お館様の言葉に、否を唱え続ける二人が口ごもる……というよりも、不死川は驚愕で言葉が出ない。
「禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために三人の者の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。それに、私の子供に伝えておくことがある。……この炭治郎は、鬼舞辻と遭遇している」
その瞬間、柱の全員……冨岡までもが、驚愕に目を見開く。
「そんなまさか! 柱ですら誰も接触したことがないというのに、こいつが⁉ どんな姿だった⁉ 能力は、場所はどこだ⁉」
「戦ったの?」
「鬼舞辻は何をしていた! 根城は突き止めたのか⁉ おい答えろ!」
「黙れ! 俺が先に聞いてるんだ! まず鬼舞辻の能力を――ッ!」
質問攻めに遭う炭治郎だったが、お館様が口元で指を立てると、一瞬で静かになった。
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが私は、初めて鬼舞辻が見せた尻尾を、掴んで離したくない。おそらくは、禰豆子も鬼舞辻にとって予想外の何かが起きてると思うんだ。わかってくれるかな?」
「分かりません、お館様。人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です! これまで俺達鬼殺隊が、どれだけの想いで戦い、どれだけの者が犠牲になっていったか! 承知できない!」
不死川は引かない。
例え他の誰もが認めても、自分は絶対に認めない……そう言う確固たる意志を、炭治郎は感じた。
すると不死川は何を思ったか、自身の二の腕を浅く裂き、血を垂らす。
重力に従った鮮血が、不死川の足元の庭を赤く染め上げる。
「お館様、証明しますよ、俺が! 鬼というものの醜さを‼」
不死川が血の垂らす場所を、禰豆子の箱に変えた。
『くっさ! 酒くっさ⁉ ちょ、誰よこんなところで酒飲んでるやつ⁉』
怒号が箱の中から聞こえた。
まるで酒に酔った親父に怒鳴る娘のような声色だった。
「………」
不死川が固まる。
まさか、血を喰らうために扉を開けるどころか、酒臭いなどと言われるとは思わなかったのだろう。
『っていうか、太陽の光が穴から差し込んでるし! 肌に当たったら死ぬーーっ⁉』
「……ちっ、お館様。失礼仕る」
不死川は禰豆子の入った箱を担ぎ上げると、一足跳びで日の当たらない屋敷内に行き、箱を下ろす。
そして、外から一方的に三度、その刃を突き立て、無理やり箱を開いた。
「やめろお前ッ!」
「炭治郎、落ち着け」
「冨岡さん、でも――!」
「今は耐えろ」
「ぐっ……禰豆子……」
炭治郎は心配そうに禰豆子を見る。
そこでは、腕をぶんぶんと振る禰豆子が、心底疲れたような顔をしていた。
「どうした鬼? 来いよ。欲しいだろ?」
口元が避けるかのような笑みを浮かべ、これ見よがしに腕を見せつける不死川。
それに対し、禰豆子は――
「かぁぁ――ペっ!」
――べちゃっ、と。べたつくような音が聞こえる。
沈黙が、場を支配した。
「へっ、泣いて喜びな豚め」
下卑た笑みを浮かべる禰豆子が、嘲笑うように言い、箱に戻った。
不死川はまたしても呆然としながら、己の腕をじっと見つめている。
傷口に纏わりつく痰、唾……。
「……えっと、どうしたのかな……?」
目は見えなくても、音は聞こえるのだろう。
お館様は、困惑しながらも自身の娘たちに状況説明を求める。
「……鬼の女の子は、不死川さんの傷口に唾を吐きつけました」
「……何故か誇らしげに胸を張っています」
「……そうか、ではこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね」
お館様の言葉に、ほっと息をつく炭治郎。
信頼していなかったわけではない、ただ、ムカついたから殴る……そんな些細な事でも、あってはいけないのだ。
鬼はとにかく信用がない。故に、どれだけ傷つけられても、反撃してはならないのだ。
理不尽な話だ。人間はどれだけ鬼を傷つけても許されるのに、鬼が人間を傷つけるのは許されないなんて。
「炭治郎。それでもまだ、禰豆子の事を快く思わない者もいるだろう。鬼がもたらした
「……分かっています。それでも、諦めるつもりはありません。必ず、禰豆子を人間に戻し、鬼舞辻を倒します‼」
炭治郎は再びお館様に頭を下げ、はっきりと言う。
その返しに、お館様は嬉しそうに微笑み――
「うん。流石に、入隊して僅かで十二鬼月を倒しただけあるね」
その言葉に、驚愕したのは冨岡を除く全員だった。
当然だろう。炭治郎の階級は最下級の癸。しかもまだ入隊して一月も経っていないというのに、十二鬼月に遭遇し、あまつさえ倒したというのだから。
柱になる条件の一つに、十二鬼月を一人倒す、と言うものがある。
そして、それは決して簡単な事ではない。今この場にいる柱達も、入隊前も、その後も。たゆまぬ努力の末に、十二鬼月を倒したのだ。
無論、炭治郎が努力をしなかったという訳ではない。
慣れない剣術を、ひたすら錆兎との打ち合いで磨き、適性の違う呼吸で無理を続け、死の間際に限界を超えた力で、漸く己にあった呼吸を編み出し、下弦の伍を撃ち滅ぼした。
結局、十二鬼月を倒したというのは、それだけでその剣士の見方を変えるのだ。
「こんな奴が、十二鬼月を……?」
「ふーん」
「思ったより派手じゃねぇかテメェ!」
「えぇっと……」
いきなり自身を見る目が変わったことに、困惑するしかない炭治郎。
そんな炭治郎に、お館様が――
「鬼殺隊の柱達は、当然抜きんでた才能がある。血を吐くような鍛錬で、自らを叩き上げて死線をくぐり、十二鬼月を倒している。だからこそ。柱は尊敬され優遇されるんだよ。炭治郎、君も口の利き方には気を付けるといい。十二鬼月を倒したといっても、それは柱への条件の一つに過ぎないからね」
「は、はい」
「それから実弥。余り下の子に意地悪しないこと」
「…………御意」
不死川が膝をつき、答える。
「炭治郎の話はこれで終わり。下がっていいよ」
「――でしたら、竈門君は私の屋敷でお預かりしましょう」
「えっ? い、いや、そんな悪いですよ……俺は別に――」
「はい、連れて行ってくださーい」
「あ、いや、だから別にぁぁあああああああああああ―――ッ⁉」
あっという間に隠の男に担がれ、連れ去られる炭治郎と禰豆子。
「ちょ、痛いから! 死んじゃう! 長男だけど我慢できないの俺! 死ぬって⁉」
「うるさい! 柱の人凄い怖いんだよ! なのに堂々と喧嘩売ってさぁ⁉ アンタの妹もそうだよ! なんで唾なんて吐きつけるの? もう意味分かんない! 謝れ!」
「謝れ!」
「えぇ……それは禰豆子に言ってくださいよ……」
「うるさい! 下の責任は上が取るもんでしょ! 謝れ!」
炭治郎は思わず天を仰いだ。
空は快晴だったが、炭治郎の心はどんよりしていた。
担がれながらの移動で、どれだけの時間がたっただろうか。
気が付けば、大きな屋敷の前で停止していた。
「ごめんくださいませー! ごめんくださいませー! ごめ……はぁ」
「全然誰も出て来ねぇわ」
「庭の方回って見ましょう」
「あの、まだですか? なんか今になって体が凄い痛くなってきたんですけど……もしかして痛み止めの効果切れてきてません?」
「そんなの打ってないけど?」
「えっ?」
「えっ?」
沈黙。
圧倒的沈黙が、場を支配する。
「や、やばいんじゃないのそれ⁉ 痛みを感じないほどの傷って、え? これ、どうしたらいいの⁉」
「は、早く誰か見つけないと!」
「し、死ぬぅ……!」
「ちょ、長男なんでしょ⁉ 耐えなさい!」
「いや無理。長男でも無理。……死んだら遺言にお二人の名前書きますね、名前教えてください」
「こんなに名前を教えたくないと思ったことはないんだけど⁉ 誰かーっ⁉」
あせあせとしながら、庭を駆け回っていると、沢山の蝶に群がられている少女を発見する。
「あれ? アイツは……」
「えっと……そうだ。継子の方だ。確か名前は……そうだ、栗花落カナヲ様だ」
「なんで蝶に襲われてんの? 樹液の風呂に浸かってんのか?」
「お、お前! どこまで無礼なんだよ! 継子ってのは柱が育てる隊士だぞ⁉ 相当才能があって、優秀じゃないと選ばれないんだ」
へぇー、と。
話半分に聞き流す炭治郎。
「失礼します。栗花落様、胡蝶様の言いつけにより参りました。お屋敷に上がっても、よろしいですか?」
その言葉に、ニコっと笑みを浮かべるカナヲ。
……………。
「いやなんか言えよ!」
「どなたですか⁉」
思わず炭治郎が叫んだ直後、背後から大声を掛けられ、ビクッとする三人。
「隠の方ですか? 怪我人ですね、こちらへどうぞ」
蝶の髪飾りで髪をツインテールに結んだ少女、神崎アオイが、屋敷へ入るよう促す。
「……あ、ごめんもう無理」
「えっ、おいちょっと⁉」
ついに色々と限界を迎えた炭治郎は、その場で意識を失った。
蝶屋敷編で何したらいいんだろう。
もう常中はマスターしてるしなぁ……。
あ、善逸達はまだだったか